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カテゴリー: ヨーロッパ

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  エリ・ヴィーゼル 、 出版  みすず書房
 過去は拭い消され、忘却へ送り去られた。
 日本が戦争中にしたことはすべて忘却すべしというのが自虐史観です。現実から目をそらせというのです。そんな人と国に未来はありません。
ドイツや反ユダヤ主義者のうちには、殺害された600万人ものユダヤ人の物語というのは、すっかり伝説にすぎないと語っている者がいる。そして、世界は、愚かにも、今日すぐにとは言われないが、明日か明後日になったら、そのことを本気にするだろう。昨日黙った人たちは、明日も黙るだろう。
証人であろうと願う生き残りにとって、その義務は死者たちのためにも、同じく生存者たちのためにも、そして、とりわけ未来の諸世代のためにも語ることなのである。
過去は共通の記憶に属しているから、私たちには未来世代から過去を奪い去る権利はない。忘れようものなら、危険と侮辱とを意味することとなろう。死者たちを忘れようものなら、彼らを二度重ねて殺すこととなろう。彼らの最初の死に責任はなくても、第二の死については責任がある。
15歳のとき、ユダヤ人少年として父と一緒にナチスの強制収容所に入れられ、奇跡的に助かった著者の手記です。
ユダヤ人虐殺が始まったというのに、そこから幸運に逃れてきた人の話に誰も耳を貸そうとはしなかった。
「あの男ときたら、私たちに自分の境遇を哀れがらせようとしているのだ。なんという想像力だろう・・・」
人々は重い現実には目を向けたくないのです。
ハンガリーにユダヤ人を収容するゲットーが出来た。このとき、戦争が終わるまで、赤軍が到着するまで、ゲットー内に留まることになる。そのあとは何もかも元に戻るだろう・・・。そんな幻想が支配していた。
アウシュヴィッツでは「特別作業班」(ゾンダー・コマンド)に入れられた。先日の映画『サウルの息子』の主人公と同じです。
入れられたら、数秒間のうちに人間であることをやめていた。もはや、日々の一皿のスープ、一きれの饐えたパン以外は関心を向けなくなっていた。パンとスープ、これが生活のすべてだった。一個の肉体だった。一個の飢えた胃だった。ただ、胃だけが、時がたつのを感じていた。看守は次のように言った。
「おまえたちはアウシュヴィッツは予後療養所ではない。強制収容所だ。ここでは働かないといかん。さもないと、まっすぐ煙突行きになる。焼却所へ行くか、働くか。その選択しかない」
何度か絞首刑を見た。死刑囚のたったひとりでも涙を流すことはない。枯れきった肉体は、とうに涙の味わいを忘れていた。
強制収容所では、めいめいが自分自身のためにたたかわなくてはいけない。他人のことを考えてはならない。自分の父親のことさえも。ここでは、父親のことだって構ってはおれない。兄弟だって、友人だって。めいめいが、生きるのも死んでいくのも自分ひとりのためだけなんだ・・・。
強制収容所に送られたハンガリーのユダヤ人は47万5000人。事前にパレスチナなど逃げられたのは、わずか1684人にすぎない。ユダヤ人名士がアイヒマンなどに協力したため、これだけ大勢の犠牲者が出た。
15歳の少年は、戦後、アメリカに渡り、新聞記者として活躍したようです。
絶望的な状況のなかで、よくも生きのびたものだと驚嘆します。
(2010年2月刊。2800円+税)

フランスの美しい村を歩く

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  寺田 直子 、 出版  東海教育研究所
見るだけでも楽しい、フランスの美しい村を紹介する写真集です。
フランスには「もっとも美しい村」協会に加盟する155の村があります。
そこへ、旅行作家の著者が訪問して、写真と文章で生き生きと紹介しています。ながくフランス語を勉強していますので、現地で困らない程度に会話は出来ますから、私もぜひ「美しい村」には行きたいと思っていました。前にもこのコーナーで紹介しましたが、この本に紹介されている「美しい村」で私が行ったのは、唯一、フラヴィニー・シュル・オズランがあります。
ここは、百年戦争、あのジャンヌ・ダルクが登場する14世紀の世界です。このとき、イギリスに占領されたのだそうです。ブルゴーニュにある小さな村です。私は、ディジョンからタクシーで行きました。映画『ショコラ』の舞台ともなった古い教会があります。人口300人という、ごくごく小さな村です。それでもレストランがあり、カフェーがあります。美味しい昼食をとり、カフェーで赤ワインを一杯やって、しばし休憩しました。
フランスの美しい村には、日本のようなコンビニがないのはもちろんのこと、昔ながらの建物が少なくとも外観はそっくりそのまま残っています。近代的なビルとか、どこの国の建物なのか惑わせるような建築様式のものは一切ありません。14世紀の村にタイムスリップしたと思わせてくれるのです。
それは、南仏のエズ村でもそうでした。ノルマンディーのオン・フルールでも、外観は昔ながらで、内装は近代的というホテルに泊まりました。そうやって昔のままの外観が観光客を呼び込んでいるのです。
ゆったりした時間の流れる「美しい村」に、またぜひ行ってみたいと思います。
(2016年2月刊。1850円+税)

フランス人の新しい孤独

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  マリー・フランス・イリゴエン 、 出版  縁風出版
 山田洋次監督の映画『家族はつらいよ』を見ました。天神の映画館は、ほぼ満員で、笑いが絶えませんでした。でも、テーマはシリアスです。だって、老後になって妻から「離婚したい」と告げられるのですから・・・。
 1999年、フランスの一人暮らしは720万人で、全世帯の30%。これは10年前より25%も増えている。5人に1人は、日常的に話す相手がいない。友人がいない、一番身近な人を失ったため、病気のため・・・。2004年には830万人、全人口の14%が一人住まいをしている。 フランスでは、出会いを求める5行広告と結婚相談が増加している。今日では、出会い系サイトが主流を占める。多くの出会いがウェブ上でなされているが、それは幻想を与えるための餌にすぎない。つまり、存在的孤独をごまかすための仮面にすぎない。
 離婚申出は女性からのものが増えていて、今や70%近くが女性によるものとなっている。保護される必要のない強い女性の前に、男性は動揺する。
 僕は何のためにあるのか・・・。女にとって、ベッドで男を求めるというのは、最悪の生活を覚悟しなくてはいけない。経済的な面で拘束されるばかりか、自由そのものがなくなってしまう。だったら、セックスなしのほうが、よほどまし・・・。
 今日、男であることは、そう簡単なことではない。男らしさという基準が変化したからだ。人類学者によれば、女性は妊娠し、子どもを産めるという特権を持っているのに対し、男性は女性のお腹を支配し、子どもを占有するために常に女性を従属させておく必要があるという。性的快楽と出産が別のものになることによって、女性の性的自立が可能になったのに対して、多くの男性は自分の男らしさに確信をもてなくなっている。多くの男性は、愛情と独占力を混同している。今日の女性は、もはや男性に従属したくはない。
 離婚は日常茶飯事になっている。そして、離婚は、前よりも早くやってくる。
 今では、ウェブは、巨大なセックスショップになっている。しかし、バーチャルは誰かと関係をもてる幻想を与えるけれど、実際には孤立化を深めるだけのこと。
人間にとって、セックスというものは大切なものです。でも、それを上回るものがあるというのも事実です。それは各人によって異なるものなのでしょう・・・。
 考えさせる分析の多い、フランス人の生活でした。
(2015年12月刊。2200円+税)

スウェーデン・モデル

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  岡澤 憲芙・斉藤弥生 、 出版  彩流社
 今の日本人がスウェーデンを見習うべき最大のものは、なんといってもスウェーデンの投票率の高さです。なんと、86%近くもあります。そして、国会議員の選挙は完全比例代表制です。なので、死票が出ません。それで、一党独裁はなく、多党連立政権があたりまえなのです。日本のように国民のなかでの支持率は3分の1しかないのに、3分の2をはるかに超える国会議員がいて、政権与党の暴走を誰も止められない、なんていうことはありません。
 風通しのよい社会だと、投票所に行こうという気にさせますよね。選挙はお祭りのように楽しく、にぎやかなもののようです。戸別訪問を禁止して、萎縮させるということはありません。
 日本は、こんなところから変えなくてはいけません。
そして、国会議員も大臣も若い。20代の国会議員は珍しくないし、女性の大臣の比率も高いのです。住みやすい国だと思います。
 スウェーデンは、かつてヨーロッパでもっとも貧しい農業国家だった。それが短期間に世界でもっとも豊かな福祉・工業国家へ変身した。
 スウェーデンが生みだした「世界で最初」は、テトラパック、シートベルト、レーザーメス、ペースメーカー、コンピューターのマウス、イケア、H&M・・・。
 スウェーデンは、1814年以来、この200年間戦争していない、平和の伝統がある。
スウェーデンの政治は、この100年間、ほとんどが相対多数の単独政権か、2~4党の連合政権だった。
国会議員の45%は女性であり、大臣も2人に1人は女性。男も女も働いて、自分の財布をもった消費者になり、納税者になる。そして、男も女も出産・育児・家事に参加する。
スウェーデンは、2013年に5万人、2014年に8万人の難民を受け入れた。
スウェーデン語教育は無料で受けられる。
 パルメ首相は家族で映画をみた帰りに地下鉄の駅付近で暗殺された。首相も大臣も国王も気楽に街を歩き、地下鉄に乗っている。
 スウェーデンという国に学ぶべきとこおrは大きいと思ったことでした。
(2016年1月刊。2200円+税)

古代ギリシャのリアル

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  藤村 シシン 、 出版  実業之日本社
 古代ギリシャって、こんなにも自由奔放な、極彩色なところだったのですね・・・。真っ白な、どっしりと落ち着いた神殿のある国とばかり思い込んでいました。
 古代ギリシャに関する現代日本人の勝手な思い込みを軽く一掃してしまう画期的な本です。ギリシャに少しでも関心のある人には必読の本だと思いました。
 ギリシャには昔から白亜のパルテノン神殿があるなんて、とんでもない幻想だ。古代ギリシャの神殿は極彩色で彩色されていた。
 中国・西安に埋もれていた兵馬俑もそうなんですよね。極彩色なんです。これには大英博物館のスキャンダル(1939年)がからんでいたとのことです。うへーっ、知りませんでした・・・。
 古代ギリシャ人は、いちど完全に滅んでいるため、現代ギリシャ人とは血のつながりとか歴史のつながりはない。
 古代ギリシャ人は、古代ローマの中に吸収されてしまった。古代ギリシャ人は、もともとは海を知らない地方に住んでいた民族だった。
パルテノン神殿は紀元前5世紀に建てられているが、つくられた当初は、百足(ヘカトンペドス)と呼ばれていた。神殿の内部にあり、100歩(30メートル)で歩けるから・・・。
 パルテノン神殿は、もしものときに備えて金を備蓄するための倉庫だった。だから、祭壇がない。そして、パルテノン神殿は聖母マリア教会となり、イスラム教のモスクとなり、オスマン帝国は要塞化して、弾薬貯蔵庫とした。そのため、17世紀に爆発炎上してしまった・・・。
 この本が面白いのは、ギリシャ神話をじっくり解説しているところです。なあんだ、そういうことだったのか、と驚嘆してしまいました。
 有名なテミストウレス将軍は、ギリシャで一番強いのは俺様ではなくて、カミさんだ。いや、そのカミさんだって息子のいいなりなんだから、息子が全ギリシャで最強なんだ。そう言ったそうです。本当の話なんでしょうか・・・。出来すぎています。
 古代ギリシャの神々がいかにも浮気者ぞろいということもよく分かりました。これって、日本も同じようなものですよね・・・。40年以上も日本で弁護士をしていて、日本人の女性が昔から弱いなんて、ご冗談でしょうと思いますし、江戸時代の「女大学」なんて、実態にあわないものを押しつけようとしたもの、つまりウソ八百だと実感しています。日本は古代ギリシャ人と同じで、昔から性の解放はすすんでいたのです。
 ギリシャという国に少しでも関心のある人には強く一読をおすすめします。
(2016年2月刊。1500円+税)

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