法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: ヨーロッパ

ナチスから図書館を守った人たち

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ディヴィッド・F・フィッシュマン 、 出版  原書房
リトアニアのユダヤ人・ゲットーでユダヤ人の図書を守った人たちの話です。
メンバーは「紙部隊」と呼ばれ、本や書類を胴体に巻きつけて検問所にいるドイツ軍警備兵の前を通過して、ゲットーにひそかに持ち込んだ。万一見つかったら、銃殺隊によって処刑される状況下でのこと。
ヴィルナはドイツ軍から解放されたあと、生き残った紙部隊は、隠し場所から文化的財産を回収した。ところが、次にヴィルナを支配したソ連当局はユダヤ文化に敵意を抱いていた。そこで、再び宝物を救い出し、本や書類を国外にこっそり運び出すことになった。
ユダヤ人の生活では、本が至高の価値をもっている。
ゲットー図書館は、もっとも残虐な行為のあった1941年10月、図書館への登録者は1492人から1739人に増え、7806冊の本を貸し出した。1日平均325冊のほんが借り出された。すなわち、つらいパラドックスがあった。大量検挙があると、図書の貸し出し数が急増したのだ。読書は、現実に対処し、平静さを取り戻す手段だった。
なるほど、しばし頭の中だけは別世界に生きることができますからね・・・。
読書は麻薬であり、一種の中毒で、考えることを回避するための手段でもあった。子どもたちは、図書館の熱心な利用者であり、他の年代よりも一人あたりの読書量は多かった。
閲覧室にやってくるのは、本を借りる人よりもエリート層が多かった。多くは学者と教育者で、図書館は、その仕事場になった。閲覧室は、静寂、休息、威厳を必要とする人々にとって、避難所だった。
ヴィルナのゲットーで読書が盛んな理由は・・・。
読書は生存のために闘うときの道具だ。緊張した神経をやわらげ、心理的な安全弁として働き、精神的肉体的に崩壊することを防ぐ。小説を読み、架空の英雄たちを自分に重ねあわせることで、人は精神的に高揚し、生き生きしてくる。
紙部隊のメンバーたちは、もうじき死ぬにちがいないと信じていたので、残りの人生を本当に大切なものに捧げることを選んだ。
本は少年時代に犯罪と絶望の人生から救ってくれたものだったから、今度は恩返しとして、本を救う番だ。
1943年7月半ば、ドイツ軍はゲットーのパルチザン連合組織FPDの存在を知った。とらえられたポーランド人共産主義者が拷問によって口を割ったのだ。ドイツ軍はFPDの司令官を知り、ユダヤ人評議会に対して引き渡しを求めた。さもないと2万人のゲットー住民全員を処刑すると脅した。1人の命か2万人の命かと選択を迫られ、FDPのヴィテンベルク司令官はドイツ軍に投降し、とらわれの身のうちに自殺した(らしい)。幻想だったわけです。
ゲットーの住人たちは、すぐに殺されるとは考えてなかったので、蜂起することを拒否した。強制労働収容所に移送されても生きのびられると期待していた。
ユダヤ民族の文化を守り、次世代への継承していこうと必死の覚悟で奮闘した人々の姿を知り、頭の下がる思いでした。やっぱり紙の本も大切なのですよね・・・。
(2019年2月刊。2500円+税)

候補者ジェレミー・コービン

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 アレックス・ナンズ 、 出版  岩波書店
アメリカでサンダース上院議員が民主的社会主義者としてアメリカの若者たちに大きく支えられて躍進しているのと同じ現象がイギリスでも起きていることを知り、大変うれしく思いました。労働党の党首となったコービンの実像に迫った本です。
コービンを党首に押しあげたのは、一つの政治運動の流れであり、それがコービンの周囲に結集し、奔流となったのだ。三つの流れがコービンを支えたが、もっとも強い流れは緊縮財政に反対する運動だった。
コービンを2つの巨大組合ユナイトとユニゾンが支援した。これがコービン指示に正統性をもたらした。労働党では、2015年に1人の議員の票も一般党員の票と同じ価値をもつように変更された。そして、3ポンド払えば労働党の党首選に参加できるように変わった。
人々はコービンが勝つ可能性があるように見えたから加わった。そして、集まった人々が生みだした弾(はず)みがコービンの勝利を確実にした。
国の政治を実際に変えられる貴重なチャンスがあるという高揚感には伝染性があった。
いつもの顔ぶれの枠をこえて、ウィルスのように爆発的に広がり、初めて政治にかかわる若者、学生、アーティスト、反体制の運動家、オンライン署名者へと広がった。
新しい政治運動が誕生した。コービン運動だ。そこで際立っていたのは、自ら歴史をつくろうとする願いだった。運動は行動を望んだ。ボランティアに名乗り出る。メッセージを発信して説得する。電話で聞きとり調査する。友だちを勧誘する。イベントに参加する。政策を提案する。投票する。変化を求める勢力を築く。観察政治に嫌気がさしていた人々の集まりだった。これが、コービンとその選挙キャンペーンのもつ参加の精神と実践に共鳴した。
この運動には、前の世代にはなかった強力なツールがあった。ソーシャルメディアだ。
コービンは、キリスト教社会主義者、ただし、キリスト教抜き倫理的社会主義者。
コービンにはトニー・ベンのような人を鼓舞する演説の深さがあるわけではなく、トニー・ブレアの目端(めはし)が利いて人をそらさない表現力もない。しかし、心に深く抱いている共通の価値観を明確に表明して聴衆との結びつきを生む希有の能力がある。誠実さ、原則を守る姿勢、倫理的な力、コービンは一つの模範だ。そして、縁の下で助力を惜しまない。
ジェレミー・コービンは、何年もかかってつくられた大きな歴史的潮流によって労働党の党首へと押し上げられた。だが、必然は一つもなかった。労働党に投票した人の3分の2は国民投票でEU残留を支持し、3分の1はEU離脱に投票した。
コービンは宣言した。私たちは億万長者のための党ではない。企業エリートの党でもない。人びとのための党である。
若者の投票率が飛躍的に伸びた。18~24歳は52%が65%へ飛躍した。25~34歳は52%から63%へ上昇した。若者たちが労働党へ投票したのだ。
日本でも同じように若者に希望を与えること、世の中は変えられることを目に見える形で示すことが大切です。私は、最近つくづくそう思います。
私が20歳のころ、「未来は青年のもの」というスローガンに心がおどりました。東京・神奈川・京都・大阪と革新首長が次々に誕生していき、日本は変わる、変えられるという成功体験が今の私を根底で支えています。「アベ一強」の嘘つき放題のデタラメ政治が野放しにされていて、あきらめきっている若者に、そんなことはないよと呼びかけたいものです。
もりもり元気の湧いてくる本です。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2019年4月刊。3700円+税)

イレナの子供たち

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ティラー・J・マッツェオ 、 出版  東京創元社
ナチスの占領下のワルシャワのユダヤ人を収容するゲットーから2500人ものユダヤ人の子どもたちを救出したポーランド人女性の話です。
1935年秋、イレナは25歳。身長150センチの小柄な大学生だった。しかし、確固とした政治的意見をもっていた。
1939年10月。戦争はまもなく終わると周囲の人々は言っていた。
1939年のワルシャワは、世界でも指折りの活力にあふれた多様性のある都市だった。人口100万人のうち、3分の1はユダヤ人だった。
ナチスによる占領・支配が始まったとき、ワルシャワのユダヤ人は、ひどいことが起きても、おそらく限度があるだろうと推測していた。というのも、はじめのうちナチス・ドイツ軍は、組織的な粛清はユダヤ人ではなく、ポーランド人を対象としていた。占領から1年か2年のうち、ワルシャワでは、ユダヤ人が1人殺されたのに対して、ポーランド人は10人が殺された。
1940年秋ころ、イレナの福祉窓口のチームは、ワルシャワの何千人ものユダヤ人に対する公的な福祉支援を支えていた。
ゲットーの内部で、50万人ほどのユダヤ人たちが飢えで弱っている一方、ゲットー貴族たちは、ゆとりある生活をしていた。裕福な実業家、ユダヤ人評議会のリーダーたち、ユダヤ人警察の幹部、不当な利益を得ている密輸業者、ナイトクラブの経営者、そして高級娼婦たち・・・。ゲットーには61軒ものカフェとナイトクラブがあり、「乱痴気騒ぎのパーティーをしたい放題」だった。カフェではシャンパンが注がれ、サーモンのオードブルが出てくる。
ゲットーの出入りには無数のルートができ、イレナはそれを利用してユダヤ人の子どもたちをゲットーの外に連れ出すようになった。それはワルシャワ社会福祉局の仕事の「延長」だった。
金髪だったり、青い目の健康な子どもたち、ユダヤ人とは見えない子どもたちは、傷のしかるべき書類とともに孤児院で生活することができた。子どもたちは、作業員が肩からぶら下げた南京袋に入って孤児院に運ばれた。洗濯物がじゃがいものように裏口に届けられるのだった。
1942年の夏、コルチャック先生は、子どもたちだけを行かせることを断固として拒否した。
列を先導するSS隊員は笑って、コルチャック先生に「お望みなら、いっしょに来てもいい」と言った。バイオリンをもっている12歳の少年に演奏するように頼み、子どもたちは孤児院から歌いながらコルチャック先生と一緒に出発した。 祝日用のよそ行きの服を着た子どもたちは、お行儀よく、4人1列になって行進していった。そして、子どもたちは両手で人形を抱えていた。これは、イレナたちが孤児院に持ち込んだものだった。子どもたちは、「旅に出る」にあたって、ひとつだけ何かをもっていいと言われて、その人形を選んだのだった。小さな両手で、人形を握りしめ、胸に押しつけてるように抱きしめて、最後の行進をしていった。
コルチャック先生は、最後に貸車に入った。両方の腕に、それぞれ疲れきった5歳の子どもを抱えていた。貨物列車には窓がなく、床には、生石灰がまかれていて、そのうち熱を発する。そして、貨車のドアは閉められ、有刺鉄線で固く縛りつけられた・・・。
こんな状況を正視できますか。この文章を読むだけで、私は、目と鼻からほとばしるものがありました・・・。
イレナたちが救出したユダヤ人の子どもたちは「カトリック教徒の子」として育てられた。これに異をとなえるユダヤ人ももちろんいた。では、いったい、どうしたらいいというのでしょうか・・・。
孤児院で子どもたちはゲームをして遊んだ。ユダヤ人を追うドイツ人の役、隠れているユダヤ人のふりをする子、ユダヤ人の子どもたちにとって、そんなゲームは、あまりにも現実的だった。
ワルシャワのユダヤ人ゲットー内の動きも知ることができる本でした。
(2019年2月刊。2800円+税)

言葉の国、イランと私

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 岡田 恵美子 、 出版  平凡社
イランという国は、私にとってまったくなじみのない国です。この本を読んで、少しだけ国と人々のイメージをつかむことができました。
著者は1932年生まれですから、今や86歳。26歳のときにイランの言葉に魅かれて当時の国王に手紙を出したところ、その目にとまって国費留学生としてイランに渡って勉強しました。実に勇敢な女性です。
イランとは、アーリアを意味する。ペルシアは、かつて力を持った一地方の名。
イランの中東一の核開発力をもつ国。イランは原油・天然ガスの産出は世界第2位。国土は日本のほぼ4倍。海に面した部分もあり、北部では農産物を豊富に産出している。
イラン人の誇る美徳は、寛容・勇気そして雄弁。古くからさまざま人々と交流してきたイランでは、弁舌は大切な能力なのだ。
イラン人の泣きところは、我慢強くないこと。
ペルシア語でも、書き言葉と話し言葉では、文章の語尾や単語の発音が微妙に違う。
イランで女性に選挙権が認められたのは、1963年のこと。
イランでは、「おまえのおやじは火葬された、というのは最大級に罵倒する言葉。
死者は一般に土葬にする。なぜなら、人は死後、土中に横たわり、最後の審判を受けるときに起き上がって真の審判を受ける。火葬にされたら、審判を受けるとき、魂が入る身体がないことになるから。
食事に招待するのは、普通、昼食。夜の食事は、ごく軽い。
イラン人は暗記の得意な国民である。
イランでは離婚が多く、「バツイチ」などという言葉はない。
イラン人はプライドの高い国民である。自分の置かれた地位にプライドを持っている。性別や年齢、職業、学歴などによるコンプレックスを持たない。
イラン人にとって、自然とは戦う相手。だから人工こそ安心できる空間。シンメトリーな構図の庭でこそイラン人は安心して憩える。
イラン人は教訓、箴言(しんげん)の好きな国民だ。
心は憎しみを生まない。憎しみを生むのはいつも言葉だ。知は力なり。知によって老いの心も若返る。
心から心へは道がある。
イラン人のイメージがつかめた気にさせる本でした。
(2019年3月刊。2500円+税)

アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ジェームズ・ブラッドワース 、 出版  光文社
イギリスでは、階級差が日本と違って、はっきりと目に見えるようです。
そして、サッチャーが炭鉱労働者の戦闘的な組合を壊滅させたことにより、労働者は頼るべき拠りどころをなくしてしまったようです。それは、日本でスト権ストの敗北後に労働組合の力が衰退していったのと同じだと思えます。
著者は実際にアマゾンの倉庫で働き、ウーバーのタクシー運転手、そしてコールセンターでも働いていて、その体験レポートでもあります。
イギリスで労働者になるということは、軽蔑されるか、あるいは生きることがぎりぎり許されるレベルの人間になるということ。現代のイギリスで貧困に陥るのは、いとも簡単であり、どんな選択をしたとしも誰にでも起こりえることだ。
アマゾンの倉庫は4つのフロアに分れ、従業員も4つのグループに分かれている。運ばれてきた商品を受けとって確認し、開封するグループ、商品を棚に補充するグループ、注文された商品をピックアップするグループ、商品を箱に詰めて発送するグループ。
アマゾンは、イギリス国内だけで8000人を雇用する巨大企業だ。一人の従業員は、国際物流のための大きな機械の小さな歯車でしかない。従業員の7割は1日に16キロ以上歩いている。
アマゾンの倉庫での仕事は、肉体的にきついだけでなく、精神的にもうんざりするものだ。この仕事には、感情のための緩和剤が必要だ。そのため脂っこいポテトチップスを買う。
労働者は、ジャンクフードと油と砂糖をたらふく食べる。単純労働による身体感情的な消耗を何かで補う必要に迫られる。それが、タバコ、酒、ジャンクフードなのだ。これが残された数少ない喜びになっている。そのため、肥満率が圧倒的に高い。
現在、イギリス全土で100万人以上がコールセンターで働いている。ウェールズには、200ヶ所以上のコールセンターがあり、3万人の雇用そして6億5千万ポンドの経済効果を生み出ている。
しかし、コールセンターの仕事は、退屈だ。そして雇用は常に不安定だ。コールセンターでは、従業員の監視システムがすすんでいて、従業員のすべての行動が監視・追跡・記録されている。
ロンドンの民間タクシーの運転手は過去7年間で倍増し、11万7千人となった。ウーバーを利用する乗客は2012年に5千人だったのが、今や170万人に増えた。ウーバーの運転手は、ピーという通知音が鳴ったら、15秒以内に仕事を受けるか、ほかのドライバーに任せるかを判断しなければならない。運転手が3回連続で乗車リクエストを拒否すると、外されてしまう。
運転手は、受けた仕事の件数、種類、キャンセルの有無が厳重に監視されている。
利用する料金が安いことから、乗客は運転手に対して敬意を払わない。
サッチャーが炭鉱夫の労働組合を攻撃したとき、多くの人は自分に関係ないことと、屁とも思わなかった。けれども、結局、この国で働くすべての人にその影響が及んだ。そして、その影響は今日までずっと続いている。
先日、イギリス労働党のコービン党首への圧倒的支持の高まりを分析した本を読みましたが、この本と通底するところがありました。要するに、希望を失ってはいけないということです。
(2019年4月刊。1800円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.