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カテゴリー: ヨーロッパ

パリ警視庁迷宮捜査班

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ソフィー・エナフ 、 出版  早川書房
いかにもフランスらしいエスプリのきいた警察小説です。フランスで15万部も売れた人気ミステリというのですが、なるほど、と思いました。
もう50年以上もフランス語を勉強している割には、ちっともうまく話せませんが、ともかく毎日、フランス語の勉強だけは続けています。毎朝のNHKラジオ講座と週1回の日仏学館通い、そして年に2回の仏検受験です。このところフランスに行っていませんが、フランスに行っていませんが、フランスには何回も行きました。駅やホテルそしてレストランで通用するくらいのフランス語は心配ありません。先日、東京でフランスの弁護士会との交流会があったようですが、そこで会話できる自信はまったくないのが残念です。
カぺスタン警視正は過剰発砲で停職6ヶ月となり、復職したばかりの女性。その下にとんでもない札付きの警察官が集められた。大酒飲み、ギャンブル狂、スピード狂、そして脚本家など・・・。その任務は長く迷宮入りとなっていた事件の再捜査。
部下たちは警察官といっても警部や警部補が多い。癖あるベテラン刑事たち。一見すると、無能であり、やる気のなさそうな、そして人づきあいの悪そうな警察官たちが、なんと、すこしずつ重要な手がかりを得て、一歩一歩、疑惑を解明して、真相へ迫っていきます。
フランスの警察署の雰囲気って、こんなものなのかな、きっと日本とは違うんだろうな・・・、そう思いながら、フランス式捜査の歩みを堪能できる警察小説でした。
(2019年5月刊。1800円+税)

三つ編み

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 レティシア・コロンバニ 、 出版  早川書房
すごい本です。圧倒されました。電車のなかで頁をめくっていきながら、この本に登場してくる女性たちは、いったい、このあとどうなるんだろう・・・と、もどかしい思いでした。
 フランス人の女性作家の本ですが、舞台は、なんと、インド、イタリアそしてカナダなのです。そして、主人公の女性は、いずれも深刻な悩み・問題を抱えて苦悩しています。でも、少しずつ行動に移していきます。それが、三つの大陸の全然別の世界で生きているにもかかわらず、たった一つだけ結びつくものがあるのです。それが何なのかは、この本を読んでのお楽しみにします。
インドの女性スミタはダリット、不可触民です。仕事は他人の便所の汲みとり。裸足で歩き、素手で便を扱う。ダリット以外の人とは話もしないし、触っても、見てもいけない。ところが、触っていけないはずなのに、強姦はされるのです。まったくいい加減な差別です。でも笑えません。強姦されたあと、殺されてしまう可能性も強いのです。被害者が被害を申告するなど考えられもしません。
ただ、この本にも触れられていますが、そんなダリットのなかから突出した経営者や政治家がたまに出てきます。これまた不思議です。
イタリアの女性ジュリアの一家は毛髪を生業(家業)としている。でも、ジュリアは図書館で本を静かに読むのが好き。そして、シク教徒の男性に心が惹かれるようになった。
サラは、カナダのローファームで働く女性弁護士。アソシエイトにのぼりつめた初めての女性だ。裁判所は闘争の場、縄張り、闘技場だ。そこにいるとサラは、女戦士、情け容赦のない女闘士となる。口頭弁論のときには、ふだんの声と微妙に異なる、低い厳かな声をつかう。表現は簡潔で鋭く、切れ味抜群のアッパーカットのよう。敵の論点のわずかな隙や弱みをすかさず、突いて、ノックアウトする。担当案件はすべて頭に入っていて、嘘をつかれたり、恥をかかされることはない。
ええっ、ウ、ウソでしょ・・・。つい、そう私は叫びたくなりました。
そんなサラが乳ガンだと宣告されるのです。それで抗ガン剤なんか投与されたら、せっかくのアソシエイトの地位が一瞬のうちにフイになってしまう・・・。
ダリットのスミタは、村を出る、娘を連れて村を出て都会に行くことにした。夫は懸命にとめようとするが、スミタの決意は揺るがない。娘にまで、こんな生活をさせたくない。学校に行かせて、ちゃんと勉強して、この境遇から抜け出せるようにするのが親のつとめだ。スミタは、来世まで待つ気なんかない。大事なのは、今のこの人生。自分と娘ラリータの人生なのだ。
サラは抗ガン剤をつかいはじめた。しかし、弁護士は、いつだって颯爽とし、有能で積極的でなければならない。弁護士は頼もしく、説得力があり、好意を味方につけなければならない。
難しいけれど、これは本当のこと、大切なことです。
3人とも不運や試練に見舞われながら、それを乗りこえようと奮闘します。本書は、たたかう女性を描くフェミニズム小説だと訳者は解説しています。
いやあ、すごい本でした。ぜひ、あなたも読んでみてください。
(2019年4月刊。1600円+税)

ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ブレディみかこ 、 出版  新潮社
面白い本です。イギリスに住む日本人女性の息子(11歳、中学生)をめぐる話です。
イギリスでは階級差が固定しているし、はっきり目に見えるようです。さすがに日本でも、「一億、総中流」なんてという幻想は聞こえなくなりましたが、階級差は見えにくいままです。
イギリスの中学校にはフリー・ミール制度があって、生活保護や失業保険など政府からの補助を受けているような低所得家庭は給食費が無料になる。小学校は給食制なので、同じ食事を食べるが、中学校は学食制なので、生徒が好きな食事やスナック、飲みものを選ぶ。現金は使わず、プリペイド方式で、フリー・ミール制度対象の子どもには使用限度額がある。
中学校の正門には校長が立っていて、登校している生徒一人ひとりと毎朝、握手する。
労働党政権は、イギリスから子どもの貧困をなくすと宣言し、実際、1998年度に340万人だった貧困層の子どもが2010年には230万人と、順調に減少していった。ところが、2010年に保守党政権になって緊縮財政を進めると、平均収入の60%以下の所得の家庭で暮らす子どもが410万人に増えた。これはイギリスの子どもの総人口の3分の1にあたる。
制服が買えない子どもがいる。生理用品を大量に買って女生徒に配る女性教員がいる。私服を持っていないので、私服参加の学校行事のときには必ず休む生徒がいる。
イギリスでは、子どもが学校を欠席すると、親が地方自治体に罰金を払わされる制度がある。父母それぞれに60ポンドずつ請求される。21日以内に払わないと120ポンドに上がり、それでも払わないと最高2500ポンドの罰金、そして最長3ヶ月の禁固刑に処せられることがある。ひえーっ、これには驚きました。
イギリスの公立中学校には、さまざまな国から来た子どもたちがいて、子どもたちは、お互いに差別や貧困と格闘しなければいけないようです。日本より人種や貧困がはっきり見えるのです。
アイルランド人男性と日本人女性のあいだに生まれた著者の一人息子は、いかにもたくましく育っているようです。ヘイトスピーチを受けても母親がまったく動じないのが、思春期に差しかかった11歳の息子に何よりの精神安定剤になっているという印象を受けました。
イギリスの現実、そして厳しい社会環境のなかでのたくましい子育てを学ぶことができました。あなたにも一読をおすすめします。
(2019年8月刊。1350円+税)

王家の遺伝子

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 石浦 章一 、 出版  講談社ブルーバックス新書
シェイクスピアが『ヘンリー6世』や『リチャード3世』のなかで身体は不具、そして極悪非道な王として描いたリチャード3世の遺骨が、なんと最近イングランド中部の都市であるレスター市内の駐車場の地下から発見された。
そのDNAによってリチャード3世にまちがいないとされた遺骨には、いくつも刃傷の傷跡があった。頭蓋骨、骨盤そして上顎骨に外傷があり、全身の傷は11ヶ所にものぼっていた。要するにバラ戦争で敗北したときの傷跡が遺骨に残っていたのだ。
いやあ、すごい発見ですね。それにしてもDNA鑑定とは恐るべきものです。
DNAって、人体の部所によって異ならないものかと疑問に思いますが、そんなことはないといいます。
人間の身体のDNAは、どこから採っても同じ。どれもみな同じDNAが検出される。
これも不思議ですよね・・・。
エジプト人は、東方から来た人々の子孫がいた時期もあれば、西のほうから連れてこられた何百万人もの奴隷の子孫の影響も受けているそうです。
では、日本人は・・・。第一段階は、4万年前から4千年前までにヨーロッパと東ユーラシアの中間あたりの民族が北から南から、あるいは朝鮮半島を経由して流入してきた。
第二段階は、4000年から3000年前に朝鮮半島から別の民族が入ってきた。そして、第三段階は3000年前ころ、朝鮮半島から稲作農民が渡ってきた。
現在、アイヌの人々や琉球列島の人々の遺伝子には縄文人の遺伝子が色濃く残っている。
みんな自分のルーツを知りたいですよね。そのときに武器となるのがDNA鑑定だということが改めて良く分かりました。
(2019年7月刊。1000円+税)

フィンランドの教育はなぜ世界一なのか

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(霧山昴)
著者 岩竹 美加子 、 出版  新潮新書
大学で法学部の人気が落ちて、経済学部の人気が上昇しているそうです。その有力な原因の一つが、学生の金もうけ志向にあるとのこと。
国(年金)が頼りにならず、なんでも自己責任の風潮が広まるなかで、多くの学生が金もうけに走っていると聞くと悲しいばかりです。
お金はそこそこあればいい。それよりも世のため、人のため。他人(ひと)に喜ばれる仕事をしたい。そんな学生が増えてくれることを願う毎日です。
著者は、フィンランドで実際に子育てした日本人女性(ヘルシンキ大学非常勤教授)。
フィンランド教育の良さは、何よりもそのシンプルさにある。入学式や始業式、終業式、運動会などの学校行事がない。授業時間は少なく、学力テストも受験も塾も偏差値もない。統一テストは、高校を卒業するときだけ。学校には、服装や髪形に関する規則もなければ、制服もない。部活も教員の長時間労働もない。
フィンランドには教育に関して地域という考えはなく、連絡協議会や青少年育成委員会など、学校をとりまく煩雑な組織はない。
フィンランドでは教育の無償化は徹底している。小学校から大学に至るまで教育費は無償。小中学校では、教科書やノート、教材等も無償で支給される。学級費その他の費用負担もない。給食は、保育園から高校まで無料。
教科書や鋼材は学校に置いていくので、重たいカバンをもって通学する子どもはいない。
学校からの連絡はメールなので、プリントや手紙もない。
17歳以上には、給付型奨学金、学習ローン、家賃補助など学習支援をする。学習ローンの保証人は国であって、親や親族ではない。
フィンランドには受験はなく、受験のための勉強もない。中学を卒業したら、高校と職業学校に進路が分かれ、普通、18歳で卒業する。大学には応用科学大学というものもある。
高校卒業の日には、親が親戚などを招いて大きなパーティーを開く。
一斉卒業、一斉就職という社会の仕組みはない。
フィンランドの小学校のクラスは20人から25人ほど。授業時間は、日本の半分ほど。
フィンランドでは性教育が重視されている。ところが、日本の義務教育では、性交を教えない。東京でフツーの性教育を実践した学校に対して自民党の都議が不適切だと攻撃した「事件」がたびたび起きています。教育現場を委縮させる政治の不当な教育介入です。
フィンランドには戸籍はなく、入籍という考え方もない。
フィンランドの教育は、何より子どもたちに考える力が身につくことを重視している。
これこそが今の日本の子どもたちに欠けていることではないでしょうか・・・。
アメリカから必要もない兵器を爆買いさせられて軍事予算だけは青天井で増加しつつあるのと反対に、大学の授業料は上昇する一方で、学生の奨学金も少ないうえに、有利子。日本の教育システムは、とんでもなく間違っています。司法修習生の給料を廃止したのも、その延長線上にありました。日本もフィンランドに学んで、教育費一切の無料化に踏み切るべきです。
大量人殺しのための戦闘機より子どもの笑顔あふれる教室を増やしてほしいものです。うらやましいタメ息とともに、チョッピリ勇気がもらえる新書でした。
(2019年7月刊。780円+税)

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