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カテゴリー: ヨーロッパ

イスラエル諜報機関暗殺作戦全史(下)

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ロネン・バーグマン 、 出版 早川書房
イスラエルに敵対するパレスチナ人の組織のトップたちの暗殺作戦が公開されていて、背筋が寒くなる本です。
イスラエルの暗殺作戦というのは、ほとんどときのイスラエル首相の承認のもとでやられていることを知りました。国として暗殺作戦をすすめているわけです。それは、自爆テロへの対抗手段であるわけですが、本当に暗殺によって自爆テロは減っているとは、とても思えません。
自爆テロの志願者は後を絶たないというのは現実です。天国に行けるし、天国に行った71人もの美女とセックス望み放題だというのです。そのうえ、残された家族への給付金もあるとのこと。
イスラエルは、自爆テロ犯人を操っている人物を割り出し、せいぜい300人から500人なので、一つひとつ、つぶして(暗殺)していくのです。すると、リーダーはどんどん若返っていき、ついには組織の運営ができなくなるというのです。
うひゃあ、そんな発想があったのですね…。
パレスチナ人を暗殺するときに欠かせないのが、ドローン。リアルタイムで空軍司令部に情報を提供する。ドローンの改良は年々すすみ、次第に搭載できる燃料が増え、カメラの性能も向上した。1990年にレーザーが整備され、停止したターゲットをビームで戦闘機に指示することもできるようになった。ドローンはサポートの役割から、直接攻撃の手段へと進化している。
暗殺は少人数の人員でやるのではない。大規模な殺人機関として、数千人が暗殺に加担していることになる。イスラエル軍の8200部隊が非公式に暗殺される人間を決めていた。そして、暗殺計画をシャロン首相が承認していた。民間人を殺すことになる命令は明らかに違法だ。
暗殺せよという「アネモネ摘み作戦」は、事前に想定されていたほどの成果をあげなかった。
自爆テロの志願者、つまり殉教者(シャビート)になろうという人間(若者)にことを欠くことはなかった。自爆テロに21歳の、2人の子どもをもつ女性が志願して、認められた。これで「闘争」は新たな段階に入った。若い女性で、しかも2人の幼児をかかえた母親が自爆テロ犯だなんて、信じられません…。2004年1月4日に自ら爆死し、4人を死なせたのでした。
イスラエルの諜報機関は、大勢のテロ工作員を殺害し、テロ指導者を暗殺したこと、暗殺システムの合理化により、自爆テロの抑止に成功した。本当でしょうか…。
暗殺には大きな代償を伴う。罪のないパレスチナ人が巻き添をくらう。テロとは無関係の人々が多数殺されている。
イスラエル国防軍の法務官が、暗殺をユダヤ教の教えにかなった、合法的で隠すことのない行為だと判断した。ええっ、そんなバカな…。
岩にカモフラージュした巨大な爆破装置がリモート操作で作動し、爆破する運転席のドアを開けると、近くにいた見張りの遠隔操作によって、ドアの内部に隠してあった爆弾が爆発した。スペアタイヤのカバーに爆弾を仕込み、車のドアを開けたときに爆発させる。ルームサービスの飲み物に毒物を混入させる。超音波を使って、肌を傷つけずに薬剤を注入する。呼吸に使う筋肉の動きが止まるため、窒息する。
ドローンをつって、飛行機からミサイルをターゲットのいるビル目がけてターゲットのいるビル目がけて打ち込むなど、ともかく暗殺技法はますます高度に発達しているようです。その最新の手口がいくつも公開されています。
ところが、イスラエルの情報機関による暗殺は、みごとな戦闘的成功をおさめているが、戦略的には悲惨な失敗を重ねている。イスラエルの指導者の大半は幻想を抱いている。秘密工作が、単なる戦術的手段から、戦略的手段になりうるという幻想を…。
でもでも、いくら暗殺を重ねたところで、究極の平和を遠くに追いやるだけなのではないかと、つくづく思いました。
決して読みたい本ではありませんが、こんな世の中の現実があるのだと思いつつ、読みすすめました。
(2020年6月刊。3200円+税)

命を危険にさらして

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 マリーヌ・ジャックマンほか 、 出版 創元社
5人のフランス人女性戦場ジャーナリストの証言です。
彼女らはフランス最大のテレビ局TF1で働いています。戦場での現場での映像取材ですから、まさに生命がけの危険な仕事です。実際に、爆撃されて生命を落とした仲間もいます。
なので、一番大切なのは、取材を終えて、無事に戻ってくること。恐怖をコントロールし、情に流されずに冷静さを保ち、一瞬で判断をくだし、ジャーナリストとして自分がやるべきことに集中する。
戦場に行く前にフランス軍の主催する数日間の研修、特殊部隊の訓練を受ける。銃撃戦に巻き込まれたときに車から脱出する方法。パニックになって弾丸が飛んでくる方向のドアを開けてしまう可能性がある。また、銃で狙われているとき、部屋の隅には避難しない。弾がはねかえってくる危険がある。銃撃を受けたとき、身を守るためには車のエンジンブロックのうしろに隠れる。木のうしろはダメ。
人質にとられたときの模擬訓練では、目隠しをされた状態で、自分のいる空間を把握し、時間の感覚を失わない方法を学ぶ。体力を温存し、肉体的にも精神的にもできるだけ長いあいだもちこたえられるようにする方法も教わる。
子どもの写真を財布に入れておかない。これは感情的な弱みを握られないため。
恐怖を感じない人はいない。出発前に恐怖を感じるには耳を傾ける。恐怖は誠実な友人のようなもので、実際の危険や想像上の危険を知らせてくれる。一度認めたら、その恐怖と距離を置いて、忘れるようにする。
戦場ジャーナリストは、戦争によるアドレナリンが麻薬のようになってしまうことが多い。兵士も戦場の経験が病みつきになる人がいるのと同じですね…。
戦場ジャーナリストの仕事は、学校や教科書で学ぶことはできない。現場で習得する。経験だけが、これほど特殊な仕事について教えてくれる。それは、もっとも基礎的なものから、もっとも複雑なものまで、さまざまな状況から救い出してくれる。
フランス特有の専門職である映像ジャーナリストは、カメラで撮影するのが仕事だが、ジャーナリストとしての教育も受けている。
実際、彼女らはフランスの超エリート校である政治学院(シアンスポ)を卒業したりしています。彼女らは、シリアに行き、リビアに行き、ルワンダに行って、死体の山々を現地でみて、カメラで映像としてとらえているのです。
日本のNHKにも、そんなカメラマンがほしいところですよね…。「アベさま(今はスガさま)のNHK」ではなく、国民のためのNHKであってほしいものですが…。
それにしても、フランスの女性もすごいです。戦場に行ってもドライヤーは必携だし、化粧道具も欠かせません。自らの顔を出した映像を送るからには、きちんと化粧しておくのは視聴者への敬意のあらわれだというのです。そのプロ根性には頭が下がります。
(2020年1月刊。1600円+税)

モニカとポーランド語の小さな辞書

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 足達 和子 、 出版 書肆アルス
ポーランドという国には行ったことがありません。「連帯」のワレサ大統領、アウシュヴィッツ、アンジェイ・ワイダ監督、ワルシャワ蜂起などを連想しますが…。
そのポーランドに留学し、生活して、ついには日本語とポーランド語の辞書をつくった日本人女性の心温まる話が展開します。
モニカは、ポーランドの少女の名前です。モニカは、両親を失って2歳になる前に、ワルシャワ大学に留学していた著者の下宿にやってきたのです。
著者がつくった『日ポ・ポ日小辞典』は、なんと初版3万部だったとのこと。すごい部数です。それは、当時(1982年2月)のポーランド軍の将校の指示によるものでした。その後も増刷されて、なんと5万部ほどになったというのです。見出し語1万2千の小さな辞書が、ポーランドで28年間、唯一の日本語の辞書だったというのですから、たいしたものです。その功績から、遅ればせながら2015年に著者はポーランドの大統領よりカバレルスキ十字勲章を授与されています。
さらに、著者は、日本の詩をポーランド語で紹介しています。
この本は、2歳になる前に両親から「捨てられた」モニカが著者を母親のように慕い、しがみついて離れなかったこと、日本に戻った著者がモニカとはずっと交流していたこと、そして、モニカは立派な「親」にひきとられて小学校から大学に行き、社会人となり、ついに結婚して、二人の子をもうけたこと、夫と別れたモニカのその後がずっと紹介されているのが、心に響きます。子どもたちを愛情もって育てたら、本当に無限の可能性が生まれてくるんだなと思わせてくれ、心が温まる本でした。
ところで、著者はいくつなのかなと思って、うしろの略歴をみると、なんと私より年長でした。50代までは、ずい分若くみられていて、いやだったとのこと。私も同じですが、今ではいつまでも若く見られたいという気持ちで一杯です。
(2020年10月刊。1300円+税)

レオナルド・ダ・ヴィンチ

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 池上 英洋 、 出版 ちくまプリマ―新書
中世イタリアの生んだ天才画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの現存している絵画はわずか15点ほど。そして、その3分の1は未完成のまま。かの有名な「モナ・リザ」(ラ・ジョコンダ)も未完成作とのこと。これには驚きました。
「モナ・リザ」は、私もパリのルーブル美術館でみることができました。意外に小さな絵でした。幸いにも、それほど見物客がいなかったので、すぐそばで、じっくり鑑賞することができました。もう20年も前のことです。
イタリアは、なんと今も昔も文書の国で、人口の調査書や税の申告書類、裁判記録から教会の洗礼者名簿にいたるまで、大量の書類が作成されていて、律儀に保管されている。ええっ、日本と似ているのですね。江戸時代の庄屋文書が今に伝わっているのと同じことでしょうね…。
父親の名前は、セル・ピエロ。セルとは公証人をしていたことを意味する。母親は恐らく小作農の娘で、二人のあいだの階級差のため、正式な結婚はしていない。
「ダ・ヴィンチ」というのは、「ヴィンチ村の出身」という意味。
レオナルド・ダ・ヴィンチには、1人の実母と4人の継母、そして16人もの異弟妹がいた。レオナルドのような婚外子は、出世するのに大きなハンデを背負わされた。
レオナルドは、ラテン語を習わず、左利きなので、右利き用のアルファベットを左右反転させて書いた。これが有名な「鏡文字」だ。
レオナルドには「未完成癖」があったとしています。遅筆のうえにきちんと完成させなかったというのです。これって、当時の画家にとって致命的なことですよね。それでも、これだけ有名になるのですから、さすが天才です。
レオナルドの時代には、まだトマトは食べられていなかったし、コーヒーや紅茶もなかった。それでは、いったい、何を飲んでいたのでしょうか。まさか、ワインではないでしょうね…。
レオナルドは生涯、独身で過ごした。同性愛者には間違いない。
レオナルドには親友と呼べる存在が見あたらない。
「モナ・リザ」のモデルが、その夫からの注文絵画だとしたら、妻が指輪をしていないはずがない。
レオナルドは、若きフランス王フランソワ一世の招きでフランスに行き、67歳で亡くなります。私もレオナルドの墓のあるアンボワーズ城に行ったことがあります。まだ50代のときでしたから、ロアール河ぞいのシャトーを歴訪したのです。
たまには、こんな天才の絵をしっかり眺めてみるのもいいものですよね…。
(2020年5月刊。980円+税)

アーニャは、きっと来る

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 マイケル・モーパーゴ 、 出版 評論社
ナチス支配下のフランス。スペインとの国境に接するピレネー山脈のふもとの山村が舞台です。主人公はヒツジ飼いの13歳の少年ジョーです。
ジョーの父親はフランス軍に招集され、今ではドイツで捕虜生活をしています。一緒に住むのは母親とおじいちゃん、そして小さな妹という一家4人の暮らしです。
12月初めに天神の映画館でみていましたので、スト―リー展開は無理なく理解できます。
ヒツジたちを山へ追いまた帰ってこさせる風景がすばらしい。空にはワシやタカが飛び、ヒツジの番犬とともにヒツジの世話をしますが、どうしても眠たくなります。そんななか、ヒツジたちがクマに襲われます。あわててジョーは逃げだし、不思議な男性と山中で出会うのです。ユダヤ人でした。ピレネー山脈をこえてスペインに逃げ込もうというのです。しかも、子どもたちを連れて…。ところが、村にやってきたナチスの兵士たちは山中を見まわり、容易なことではありません。子どもたちは次第に増え、10人をこします。食料の確保が大変です。
ナチス兵の伍長が怪しみます。でもベルリン空襲で娘を亡くした伍長は自分たちは、ここで何をしているのか、何を目的としているのか、自問自答し、ジョーたちの行動を見て見ぬふりをしてくれたのです。
ついに子どもたちを全員ピレネー山脈からスペインへ逃がす行動が始まります。でも、いったい、どうやって…。
ここで謎ときはしません。
娘のアーニャがきっと来ると確信していた父親は逃亡に成功した…、かと思うと…。
戦後、ついにアーニャが村にやってきます。実話をもとに組み立てられた小説です。
同じ著者の『戦火の馬』はスピルバーグで映画化され、私も映画館でみました。本作と同じファンタジックなストーリーでした。
コロナ禍で息が詰まりそうな毎日です。たまには、こんな息抜きもしないとやっていけません。といっても主題は重たいのですが、村人が力をあわせてユダヤの少年少女たちをスペインへ送り出すのに成功するというストーリーは、心を癒してくれます。フランスが舞台ですからフランス語の勉強になるつもりで行ったら、英語だったので、残念でした。
(2020年3月刊。1400円+税)

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