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カテゴリー: ヨーロッパ

パパの電話を待ちながら

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ジャンニ・ロダーリ 、 出版 講談社文庫
イタリアの宮沢賢治と言われているロダーリの物語世界です。こんな作家がイタリアにいただなんて、ちっとも知りませんでした。オビの言葉がイメージを伝えてくれます。
おてんばな小指サイズの女の子、バター人に宇宙ヒヨコ。虹をつくる機械、そして壊すために作られた建物。びっくりキャラクターや場所がいくつも登場。シュールな展開に吹き出し、平和の尊さに涙する。珠玉のショートショート。
そうなんです。SF作家の星新一のショートショートを思わず連想してしまいます。
父親はイタリア中を動きまわって薬を売るセールスマン。月曜の朝に自宅を出て、日曜日に戻ります。家には幼い娘がいます。そこで毎晩9時になると、自宅に電話をかけて、娘にひとつ話を聞かせるのです。そんな父親が娘に語った話が紹介されている本なのです。
クリスタルのジャコモの話を紹介します。あるとき透明な男の子が生まれた。男の子が嘘をつくと、頭に火の玉のようなものが現れた。正直に本当のことを言うと、火の玉は消えた。それから男の子は決して嘘をつかなかった。男の子が大人になってもそれは変わらなかった。冷酷な独裁者が国を治めるようになった。ジャコモはどうにもガマンできなかった。独裁者はジャコモを一番暗い牢獄に放り込むよう命じた。
ところが、ジャコモの入れられた独房の壁が透明に変わった。それどころか、刑務所全体が透けて見えるようになり、ジャコモが椅子に座っているのが人々から見えた。夜になると、刑務所からは光がこうこうと放たれた。独裁者は明かりをさえぎろうとしてカーテンを全部閉めた。それでも明るすぎて、眠れなかった。ジャコモは、鎖でつながれても、考えることをやめなかった。真実は何より強い。昼間の光よりも明るいのだ。
イタリアの学校の図書室には、ロダーリの本が必ずあるとのこと。子どもが初めて自力で一冊読破する本。
腕まくりして、一生懸命に働く。
戦争は、ひどく愚劣なこと。未来をたとえば宇宙を見つめよう。
間違いや、人と違うということをとがめない。
奇想天外なショート・ストーリーの連続です。
私も息子が保育園児のころ、「長靴をはいたネコ」をアレンジして適当な物語をデッチ上げて毎晩かたり聞かせていました。「それから、それから」とせがまれるので必死で、ない頭をしぼりました。そんな子育ての楽しさを思いださせてくれるショート・ショートです。
(2020年3月刊。税込880円)

フランス人の私が日本のアニメで育ったらこうなった

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 エルザ・ブランツ 、 出版 Du Books
久しくフランに行っていませんが、10年前までは、毎年夏になるとフランスに1~2週間は行っていました。最大40日間(40代初め)、そして還暦前祝いで2週間、南仏めぐりをしました。そのとき驚いたのは、パリではなく地方の都市にマンガ本専門の店があることです。マンガ本というのは、まさしく日本のマンガ本です。もちろんセリフはフランス語です。ワインのうんちくを傾けた有名なマンガ本(名前をド忘れしてしまいました)は、私にとってフランス語の勉強になりますので、すぐに購入しました。
最近、NHKラジオのフランス語教室(応用編)でドロテという女性が日本のマンガ、アニメを紹介していると放送していましたが、この本にもドロテが登場するのです。
この本の著者はフランス人女性のマンガ家です。なるほど絵はまったく日本のマンガそのもので、何の違和感もありません。著者の夫もマンガ家だそうです。とてもカッコ良く描かれています(もちろん、本人も…)。
好きなマンガ家は高橋留美子だとのことです。フランスで人気ナンバーワンといいますが、私は読んだ覚えがありません。
著者は、まったく日本のマンガに毒されてしまった、夢見る乙女だったようです。13歳のとき、すでに将来はマンガ家になると親に宣言したというのです。それを実現したのですから、すごいです。
フランスのコミック市場は、2018年に600億円。日本は4414億円。フランスの年間総売上部数4400万部のうち1700万部は日本マンガ。フランスで売られるコミックの4割近くは日本のマンガ。
いまフランスで人気があるのは、「ワンピース」や「進撃の巨人」など。少年向けのコミックが人気。そして著者のように、フランスで日本流のマンガを描く人も数多く出ている。
著者は池田理代子の「ベルサイユのバラ」にもはまったようです。そして、この「ベルバラ」は、なんと実写映画化されているんですね…。知りませんでした。
著者の娘12歳も息子9歳も、マンガやゲームに夢中のようです。
「こねこのチー」(こなみかなた)がフランスの子どもに大人気なんだそうです。これまた、知りませんでした。どんなストーリー展開なのでしょうか…。フランスって、日本に次いでアニメ・マンガ大好きな国なんですね。たしかに日本のマンガの質が高いことは認めます。
「家裁の人」や「ナニワ金融道」などは弁護士にとっても必読文献だと、私は本気で真面目に考え、若い人にすすめています。
フランスを知ることにもなる面白いマンガ本でもあります。
(2019年12月刊。税込1320円)

フランスの小さな村を旅してみよう

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 木蓮 、 出版 東海教育研究所
フランスに久しく行っていません。本当は、この夏にドイツからフランスをめぐる予定でした。娘がドイツに住んでいるので、娘に会うついでにフランスまで足をのばすつもりでした。コロナ禍のおかげで、早々に断念してしまいました。
毎日フランス語を勉強していますので、その割にはちっとも上達しませんが、旅行するのはなんとかなります。よそに行って困るのは、今どきスマホをもたないことくらいです。
この本はフランスに住む、日本人女性がフランス中を旅してまわっているなかで、55の小さな村を写真つきで紹介しています。
フランスでは「美しい村」として159村が認定されています。私もそのうちのいくつかを訪問したことがあります。不思議なことに、住民はいるものの、日本だったらどこにでもある野外広告の看板などを見かけませんでした。もちろん自動販売機があちこちにあるなんてことはまったくありません。
なので、昔ながらの村の風景がそのまま残っている感じなのです。とてもいい感じです。もっとも、旅行者にはいいのですが、住んでいる村人にとってはどうなのでしょうか…。
この本のなかに、たった一つだけ行ったことのある村が紹介されています。私が行ったのは、映画『ショコラ』の撮影地にもなったフラヴィニー・シュル・オズランです。ここは、アニス・キャンディーが名物です。交通の便はとても悪くて、列車でどこかの駅でおりてからタクシーに乗っていったと思います。
そうなんです。小さな村とか美しい村というのは、たいていとんでもなく不便な土地にあるのです。まあ、それだけの苦労して行くだけの甲斐はあるわけですが…。
日本と違って、フランスでは、昔の建物はなるべく外観はそのまま残すのが当然だという国民感情があるようです。日本だと、辺ぴな山奥に行ってもツーバイフォーで建てた近代的な家があっても驚くことではありませんよね…。
コロナ禍が早くおさまって、フランスにまた行ってみたいと思っていますが、今のところは、こうやって写真集を眺めるだけでガマンガマンです。
(2020年10月刊。2300円+税)

古代メソポタミア全史

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 小林 登志子 、 出版 中公新書
古代メソポタミアは、今のイラクにあたる。紀元前、3500年の都市文明のはじまりから、前539年の新バビロニア王国の滅亡までの3000年間の歴史。これは、日本でいうと縄文時代にあたる。
なのに、すでに文字があり、成文としての法典(法律)があったというのですから、驚かされます。
開けた土地ですから、常に異民族が侵入し、政権の担い手がしばしば交代した。それでも、戦争するだけでなく、成文法を整え、口約束ではなく、契約を文字にした。
メソポタミアは、北部のアッシリアと南部のバビロニアの二つの地域から成る。
現代イラクでは、北部はスンニー派、南部はシーア派という対立構造が昔からあったことにもなる。
なんといっても有名なのは「ハンムラビ法典」。これは1901年にフランス隊がスーサで碑文を発見したことによる。高さ2メートル25センチの玄武岩から成る碑はルーブル美術館に現物がある。
紀元前1750年まで、ハンムラビ王は43年間もの長きにわたってバビロン王朝を支配した。その治世晩年に「ハンムラビ法典」を制定し、裁判の手引書としたという。282条の条文と序文等から成り、同害復讐法として有名。
くさび形文字は解読されているのですね。たいしたものです。ただ、同害復讐法の適用があるのは、被害者も加害者も自由人の場合であって、被害者が半自由人や奴隷だったら、賠償となる。また、実際の裁判の場では、裁判官の自由裁量の余地が認められていたので、自由人同士であっても、必ずしも同害復讐法で処罰されたとは考えられない。
ところが、この「ハンムラビ法典」よりずっと前、紀元前、2100年ころにつくられたシュメル人のウル第三王朝のウルナンム王が制定した「ウルナンム法典」では、同害復讐法の考え方をとっていない。「やられても、やりかえさない」という考え方だった。傷害罪は賠償で償われるべき、銀を量って支払うと定められていた。
刑法だけでなく、民法も扱っていて、結婚や離婚についての条文もある。離婚となれば慰謝料が問題となり、妻が再婚のときには、初婚の妻の半分とされた。契約書のない内縁関係のときには慰謝料なしと明記されている。
ええっ、紀元前2000年前にそんなことを明記した条文があったなんて、信じられません。今から4000年も前の話なんですからね…。
団塊世代の学者の恐るべき威力を痛感させられた新書です。
(2020年11月刊。1000円+税)

白い骨片

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 クリストフ・コニェ 、 出版 白水社
ナチスの強制(絶滅)収容所内の様子を撮った写真をこれほどたくさん見たのは初めてです。収容所内部でも抵抗運動している人たち(グループ)がいて、外の世界へ収容所の実情を知らせるため、カメラで写真をとっていたのです、まさに生命がけの取り組みでした。
カメラをどうやって収容所内に持ち込んだのか、とったフィルムをどうやって外へ持ち出していたのか、カメラは収容所内のどんなところに隠していたのか…、次々に疑問が湧いてきます。この本のなかで、そのすべてが解明されているわけではありません。
たとえば、カメラは外部から協力者によって持ち込まれたという説と、収容所に連れてこられたユダヤ人の所持品のなかから見つかったものが、こっそり抵抗グループに渡されたという説があり、どちらか決着はついていないようです。カメラは、ピント合わせの必要のない簡単な素人向けカメラだったという説もあります。
そして、カメラを向けて死体焼却の現場を取るというのは、まさしく生命かけでした。
女性たちが丸裸になってガス室へ追いたてられている写真もあります。シャワー室だと騙されていたのです。
収容所に写真部があり、そこには13人の囚人が配置されていたというのにも驚きました。でも、収容所には到着早々にガス室に送られた囚人だけではなく、政治犯やジプシーなど、いろんな人がいましたし、収容所では写真つきで囚人を管理していたのですから、写真部があるのも考えてみれば当然のことです。
写真部は、フランス人のジョルジュのほか、12人の囚人は全員ドイツ人で、共産主義者、エホバの証人、組合活動家、反ファシズム主義者だった、とのこと。
5つの強制収容所で、1943年春から1944年秋までに、隠し取りに成功していた。ダッハウ収容所で50枚以上(チェコの囚人であるルドルフ・ツィサルと、ベルギーの囚人ジャン・ブリショ)、ブーヘンヴァルト収容所で7枚(チェコの囚人3人)と、11枚(フランス人ジョルジュ・アンジェリ)、ラーヴェンスブリュックで収容所で5枚(ポーランド人のヨアンナ・シトゥオフスカ)、ビルケナウ収容所で4枚(ギリシアのアルベルト・エレラ)。
このほかソビブル絶滅収容所の写真が361枚もある。このなかには、SS将校の子孫が49枚の写真を提供したものが含まれている。
収容所内には、映画館があり、売春宿もあったとのこと。これも初耳でした。
ホールでは、見世物やコンサートもあって、ロシア人は音楽を演奏し、囚人がかの有名なコサック・ダンスを披露したのでした。
そして、収容所内に秘密のラジオがあった。受信機と送信機を設置・導入した人もいたのです。チェコの抵抗家ヤン・ハルプカといいます。逮捕され拷問を受けても仲間を明かさず、処刑された。
収容所内で20人ほどの男性がカメラに向かってポーズをとっている写真まであるのには驚かされます。カメラがあるのを問題にしている様子はありません。これは、いったいどういうことでしょうか…。
肖像写真は、この人の家族やレジスタンス組織網に提供して、ダッハウ収容所に存在していることを知らせるためのものだった。つまり、外部と連絡がとれていたというわけです。
レジスタンスに参加して捕まった若いポーランド人女性たちがウサギ(病気感染実験のモルモット)にされていました。彼女らの太腿(ふともも)の筋肉に切り込みを入れて病原菌を埋め込む実験の材料とされたのです。写真は、そんな彼女らの太ももを写したものまであります。よくぞ収容所内でこんな写真がとれたものです。そして、ウサギとされた女性の多くはあとで殺害されてしまいましたが、生きのびた人もいました。そのなかには、こんなひどい実験に対して刑務所当局へ抗議しに行った人たちもいるというのですから、まさしくびっくりです。黙って殺された人たちだけではなかったのですね…。
もっともっと、たくさんの写真を紹介してほしいと思いました。そして、その写真を撮った人、写っている人、どうやって写真がナチスの手と目を逃れて外の世界へ伝えられたのか、知りたいです。ともかく、まさしくおどろきの本です。収容所内にも「日常生活」があったことを写真によってイメージがつかめました。タイトルの「白い骨片」とは、もちろん収容所で殺されたユダヤ人など無数の遺体の骨片のことです。焼いたあと、ゾンダーコマンド(特別班の囚人)が骨を粉々にしたのですが、それでも骨片としては残ります。いま、沖縄で辺野古の埋立に骨片の入った山砂を使うなという運動が起きていますが、同じようなものです。大量殺害の事実を風化させては、忘れ去ってはいけません。少し高価な本ですので、ぜひ図書館に注文して読んでみてください。
(2020年12月刊。7000円+税)

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