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カテゴリー: ヨーロッパ

特捜部Q

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ユッシ・エーズラ・オールスン 、 出版 早川書房
 デンマークの警察小説。過去の未解決の事件を扱うという警察小説は、前にも読んだことがあります。迷宮入りしていた事件を、刑事部の「お荷物刑事」が助手の力を借りながら、少しずつ謎を解き明かして、ようやく犯人にたどり着くというストーリーです。
 ネタバレはしたくありませんが、ストーリー展開は復讐小説という体裁をとっています。
 どこの国の警察にも「ハグレ刑事」のような一匹狼的な刑事がいて、上司はもてあましたあげく、「一人部署」を創設までして、そこに閉じ込めようとしたのでした。
 ところが敵もさるもの、ひっかくものということで、デンマーク語もろくに話せないような、シリア系の変人が、謎解きで、奇抜なアイデアの持ち主だったという突拍子もないアイデアが生き生きと語られます。それで、また話がふくらみ、次回作品への期待が高らむのでした。
 警察小説は、あくまで殺人事件が重要なファクターであり、その登場人物の性格や部署の設置、脇役(人種的)配置、事件捜査、物語の構成、脇筋のからませ方などについて、細かい配慮を工夫、創造に解説者(池上冬樹)は感心していますが、まったく同感です。
 570頁もの文庫本の警察小説なので、いったい次はどういう展開になるのか、目が離せない思いで一気に読みすすめました。この「特捜部Q」は少なくとも5冊シリーズになっています。その想像力と描写力に驚嘆してしまいます。
(2018年9月刊。税込1210円)

13枚のピンぼけ写真

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 キアラ・カルミナ―ティ 、 出版 岩波書店
ところは北イタリア、ときは第一次世界大戦のころ。平和な村に戦争が急に押し寄せてきた。オーストリア・ハンガリー帝国がセルビアに対して宣戦布告した。1914年7月のこと。
オーストリアに出稼ぎに来ていたイタリア人一家は急に帰国を迫られた。最初に一家が失ったのは仕事だった。男だろうが、女だろうが、おかまいなしに…。
出稼ぎに行っていた大勢の村人がいっぺんに帰郷したから、北イタリアの村は、お祭りさわぎになった。みんなと再会できて、毎日が村祭りのようだった。
だけど男たちには仕事がなかった。何週間かたつと、戦争が恐ろしいかぎ爪をむき出しで、家々の戸を引っかき、村から男たちを連れ去った。
そして、教会の司祭は人々に説教した。
「祖国は今、人民の忠誠心と勇気を必要としていて、誇りとともに祖国を守り抜く必要がある。戦争は、それほど長くは続かないだろう。祖国のために死ぬことを恐れてはならない。それにより、永遠の英雄になれるのだから…」
しかし、こんなことを言う司祭の声は、どこか変だった。いつもなら、自分の言葉でしっかり伝えようとするのに、今日の言葉は、なんだか自分でも心の底では信じていないみたいだ…。主人公の女の子は、おかしいと思った。
主人公の母親はオーストリアに味方するんだろ、とわざわざ文句を言いにくる者がいた。まず長男が軍隊にとられ、次に父親も軍隊にとられた。こちらは戦士ではなく、工兵として働かされる。村には、女性と子ども、そして老人だけが遺された。すぐに終わるはずの戦争は、長く続いた。
主人公は13歳の少女イオランダ。イタリアの村に戻りますが、やがて父も兄たちも軍隊にとられ、少女に恋する少年まで軍隊に入ります。そして村はオーストリア軍が占領して、逃げ出し、母と絶縁した祖母のもとへ…。
戦争は、男の人たちがはじめるものなのに、それによって多くを失うのは女の人たちなの…。
ロシアがウクライナへ軍事侵攻して4ヶ月になります。大勢の市民が殺され、傷ついています。そして、双方とも何万人もの若い兵士たちが死んでいったようです。戦争は、本当はむごいものです。
ドローンが上空から撮った動画によって戦車が爆撃され、焼失していく映像を見るたびに、この戦車には4人か5人の若者たちが乗っていたんだよね…、と悲しみを抑えられません。
戦争の不合理さを少女の眼からじんわりと伝えてくれる小説です。
タイトルからは、とても内容が想像できません…。いいのでしょうか…。
(2022年3月刊。税込1870円)

ブランデンブルグ隊員の手記

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ヒンリヒボーイ・クリスティアンゼン 、 出版 並木書房
ブランデンブルグ部隊とは、第二次大戦中にドイツに存在した特殊部隊のこと。
少数精鋭の将兵により、敵の急所に痛打を与え、作戦的・戦略的な効果を上げることを目的とする特殊部隊。1939年9月、対ポーランド戦を見すえてドイツ国防軍最高司令部の外国・防護局によって創設された。
私服あるいは敵の軍服を着用し、主力部隊に先んじて敵地深くに潜行し、橋梁やトンネルなどの作戦・戦術上の要点を押さえていく部隊。はじめの大隊規模から連隊へ、さらには師団規模の兵力を擁した。決死隊の性格を帯びていたため、ブランデンブルグ隊員の死傷率は通常部隊をはるかに超えていた。
1949年2月、ソ連軍との戦闘において、著者たちの部隊は、偽装作戦、つまりソ連軍を制服を着用して作戦に従事した。指揮をとるのは、ロシア語を流暢に話す上等兵だった。
戦場に住む村人たちは、永年にわたって培われた生き残り術によって、はしっこくなっていた。戦場の住民は、単純ながら天才的なアイデアを思いついた。兵隊は、どこの国も常に空腹で喉も渇いている。そこで、村の両端にパン、肉、自家製のウォッカとたっぷり置いておき、しかも接近してきた両軍部隊に、それぞれ敵はいないと見せかけ、大いにもてなした。両軍の兵士は、腹を満たして満足し、安いウォッカを飲んだあと、さらなる任務を中止して、「敵影なし」との報告をかかえて戻っていった。
なーるほど、戦場となった村人たちの生き残るための必死の作戦ですね。
あと、どれだけ生きられるか分からないという極限の状況の中に置かれた人間は、乾いたワラの上で身を丸めて眠れるときに満たされる動物的幸福感というものは、自らそれを体験したものでなければ理解不能だろう。
著者はドイツ敗戦のあと、ソ連に抑留され、10年ものあいだ、「戦犯」としてソ連の刑務所や労働収容所に入れられ、幸いにして生きてドイツに戻ることができたのでした。
こんな特殊部隊がドイツ軍に存在していたことを初めて知りました。ドイツ軍にはユダヤ人絶滅を主任務の一つとした特別部隊がありましたが、それとは別のようです。
(2022年4月刊。税込2640円)

英語の階級

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 新井 潤美 、 出版 講談社選書メチエ
イギリスで生活するって、大変なことなんじゃないかなと、つい思ってしまいました。なにしろ、最初に話した一言を聞いて、相手は、「あ、この人は、このくらいの階級だ」と無意識のうちに考えてしまうというのです。
なので、1922年にBBCがラジオ放送をはじめたとき、アナウンサーがどんな英語を話すべきかが問題になった。誰からも反感をもたれない英語は何かということです。だから、「アッパー・クラス」(上流階級)英語ではいけないのでした。もちろん「コックニー」英語でもいけません。「コックニー」とは、ロンドンの人間というより、ロンドン人のなかでもワーキング・クラスのロンドンっ子が話す独特の発音と表現のこと。
RP(標準英語)を普及させるのは大変だったようです。
著者が寄宿舎仕込みのRPを話すと、相手は、「だいじょうぶ、お嬢ちゃん?」と話していたのが、「どうぞ、奥様」と、がらりと態度を変えるのだそうです。すごいですね、これって…。
イギリスには、「アッパー・クラス」、「アッパー・ミドル・クラス」、「ロウワー・ミドル・クラス」、「ロウワー・クラス」、「ワーキング・クラス」が現存している。
「礼儀正しい」英語を話す人は、必ずしも「アッパー・クラス」ではない。
小説や演劇では語り手が使う単語や、表現・文法などによって、語り手の階級や社会的地位がはっきり示される。
自分の社会的地位に対する自信のなさから「上品さ」を目ざすのが「ロウアー・ミドル・クラス」だ。
イギリスでは、言葉のなまりは、話者の出身地という地理的な要素だけでなく、話者の出身階級をも表す。
「アッパー・クラス」と「アッパー・ミドル・クラス」の人は、どの土地に住んでいようと、どこの出身であろうと、地方のなまりのない、「標準英語」を話す。
イギリスでは、ある階級以上の人間は、どの地域にいても、同じ種類の英語を話す。それは、子どもたちが学んだ私立の寄宿学校・パブリックスクールで身につけることによる。
イギリスの一断面を知ることができる、面白い本でした。
(2022年5月刊。税込1705円)

ソーニャ、ゾルゲが愛した工作員

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ベン・マッキンタイアー 、 出版 中央公論新社
第二次大戦後、イギリスの田園地帯に住む平凡な「主婦」が、実はソ連赤軍の大佐であり、受勲歴もあるスパイだった。この女性はソ連のスパイ養成学校で厳しい訓練を受けたあと、中国、ポーランド、スイスでスパイとして活動し、東西冷戦下では、原爆情報をソ連に提供するスパイ網のリーダーだった。彼女の名前はウルズラ・クチンスキー。ドイツ系ユダヤ人。彼女の子ども3人は、全員、父親が違っている。彼女は無線技師であり、秘密文書の運び屋であり、爆弾製造者でもあった。彼女の暗号名は、ソーニャ。彼女の父親はベルリンに住む裕福なユダヤ人であり、もっとも著名な人口統計学者だった。母親は、同じくユダヤ人不動産開発業者の娘。
ウルズラは中国に行き、上海で活動するようになった。そして、そこで憧れのアグネス・スメドレーに出会った。ウルズラは『女一人大地を行く』を読んでいた。スメドレーは共産党に入らない共産主義者であり、ソ連のスパイだった。そして、上海で、ウルズラはリヒャルト・ゾルゲに出会った。ゾルゲは日本に来る前は中国・上海でスパイとして活動していたのですね…。
ゾルゲは第一次大戦時の戦闘で負傷していて足を引きずって歩き、左手は指が3本、欠けていた。ゾルゲは、上海にいるなかでは、もっとも高位のソ連側スパイであり、赤軍情報部の将校だった。同時に、経験豊富なプレイボーイでもあった。ゾルゲはドイツ人の父とロシア人の母とのあいだに、ソ連のアゼルバイジャンのバクーで1895年に生まれた。
女性の暗号名のソーニャは、動物のヤマネ、「眠たがり屋」、そして、上海では「ロシア人売春婦」を意味していた。上海で、ウルズラはゾルゲの愛人となり、ゾルゲのスパイグループの活動に場所を提供し、見張りをし、また、文書を届け、武器をかくした。ウルズラは、安全と安定のある生活には物足りなく、スパイ活動に心が惹かれた。スパイ活動は依存性が高い。秘密の力という薬物は、一度でも味わったら断つのが難しい。
ウルズラにとって、スパイ活動は経済的報酬を得ることではなかったようです。そして、共産主義の実現を目ざすというのでもなかったようです。それは、家族との関係もあり、彼女自身の欲求にこたえたものだったということです。つまり、彼女の心の中に潜んでいた野心とロマンと冒険心が入り混じった並々ならぬ気持に突き動かされたものというのです。
ウルズラは中国に戻り、満州の奉天に住むようになった。日本軍が支配し、隣にはドイツ人の武器商人、ナチ党員が住んだ。そして、ウルズラは、赤軍将校として、現地の中国共産党の軍事破壊活動に爆弾を提供するなどして援助した。そして、中国、奉天から次はポーランドに活動の舞台を移した。どこも危険と隣りあわせの生活だった。
このころ、スターリンの大粛清が進行していて、ウルズラの上司や同僚たちが、次々に消されていった。なにしろ、スターリンはNKVDの「第4局全体がドイツ側の手に落ちている」と言っていた(1937年5月)のですから、どうしようもありません。ゾルゲも召還対象になったが、日本から戻るのを拒否したので、助かった。その上司たちは、次々に粛清されていった。
ウルズラが助かったのは、ウルズラに、「相手を誠実にさせるという稀有な能力があった」からだと著者はみています。スターリンの犠牲になった誰一人としてウルズラの名をあげなかったというのです。まことにまれにみる幸運の持ち主です。
ウルズラは、イギリスにいて、女性であり、母親であり、妊娠していて、表向きは単調な家庭生活を送っていることが、全体として完璧なカムフラージュになっていた。
ウルズラがイギリスにおける最大のスパイ網を運用しているのを見破ったのは、イギリスのMI5の女性、ミリセント・バゴットだった。
ウルズラは、2000年7月に93裁で死亡した。プーチン大統領は、亡くなったウルズラを「軍情報部のスーパー工作員」だと宣言し、友好勲章授与した。
よくぞここまで調べあげ、読みものにしたものだと驚嘆しながら、休日の一日、読みすすめました。
(2022年2月刊。税込3190円)

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