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カテゴリー: アメリカ

検証・チリ鉱山の69日、33人の生還

カテゴリー:アメリカ

著者  名波 正晴 、 出版   平凡社
 2010年8月5日、チリ鉱山の落盤事故によって坑底に閉じ込められた33人の鉱夫が
17日後、その全員の生還が確認され、69日後の10月13日に全員が地中から救出された。
 この感動的な出来事は忘れることができません。この事故の関係で読んだ本の3冊目になります。
 世界一の生産量を誇る銅鉱山分野で、政府とコデルコは一糸乱れぬタッグを組んだ。劇場さながらの舞台で涙の再開を実現し、これを全世界に生中継するという巨額を投じた演出が仕組まれた。
 鉱山では何が起きるか分からない。ヤマは生き物だ。
 33人で飛び込んだ地下700メートルの避難所の周辺は不衛生なサウナのようだった。しかし、空気は循環し、坑道には空気が流れていた。避難所周辺では2,6キロほど自由に身動きがとれた。ただし、ケータイ電話の電波は圏外だった。
意思決定は33人の総意で決める。33人は誰もが対等な発言力をもった。絶対的なリーダーはいなかった。
幸いにも33人の多くが太っていた。体脂肪を分解させることで、3週間程度の生存は可能とみられていた。
誰も独りにさせてはいけない。坑道に独りで向かう者がいたら、数人が同行した。自ら命を絶つことがないように。自殺者を出すことは、「生き抜く」という共通の目的をもった共同体の帰属意識を揺るがし、組織が互解する。共同体が崩壊し、後に続く者も出るだろう。一人だけの死ですむはずがない。
 このころ、チリのビニエラ大統領は政治的な行き詰まりを打開する策を手探りしていた。ビニエラ大統領は、政治的な得点を上げられないなかで、サンホセ鉱山の落盤事故への対応を迫られた。ビニエラ大統領は勝負に出た。鉱山の所有企業から管理権を剥奪し、政府の支配下に置いて国が矢面に立つことを選択した。なによりビニエラ大統領をサンホセ鉱山に向かわせたのは、大統領の有権者との連帯感の薄さ、自身の政治資産の乏しさだった。33人の生存が確認された8月22日以降は、チリ政府が表舞台に立ち、鉱山国家の威信をかけた救出作戦の準備と助走が始まった。
 要点は、救出計画の立案と技術的な調整、それに33人の心身の健康管理だ。失敗は許されない。昼夜の区別をつけるよう、発光ダイオード(LED)の照明装置が地下に送り届けられた。間違った希望を与えるな。救出時期についての楽観的な見通しは禁句となった。救出時期は一度たりとも先延ばしされることなく、常に前倒しされていった。
33人を3つのグループに分けて、8時間ごとの労働を割りふった。ビニエラ大統領は、異なった技術を用いて、複数の救出戦略を立案するよう注文した。常にバックアップを用意せよということ、最終的に3つの縦穴を掘ることが決まった。完成まで3~4ヶ月かかる。
 政府は当初から相当なサバを読んでいた。水増しして日程に余裕を持たせていた。これは救出日程が遅れた場合に備えた保険だった。
救出用カプセルは引き上げる過程で左右に揺れて10回以上は回転する。めまいや血圧上昇を防ぐため、救出の6時間前から食事は流動食に切り替え、ビタミン剤が投与された。33人は連日20分以上のエアロビクスで体調を整えるよう指示された。
 カプセルで救出された作業員がテレビの前で体調不良を訴え吐しゃ物にまみれてしまうのではないかと当局は本気で心配していた。それでは生中継のショーが台なしになるからなのです。
 結局、救出費用は総額16億円(2000万ドル)作業員一人あたり60万ドルかかった。
 政府、とりわけビニエラ大統領の大きな政治宣伝につかわれたというわけです。それでも、33人が無事に救出されて本当に良かったと思います。地上に出てから、今も大変な思いをしている人が少なくないようですね。元気に過ごしてほしいものです。
(2011年8月刊。1900円+税)

ルポ・アメリカの医療破綻

カテゴリー:アメリカ

著者   ジョナサン・コーン 、 出版   東洋経済新報社
 世界一の高度医療を受けられるアメリカは、その便益は金持ちだけで、平均的な国民は病気になったとき満足な治療を受けられる保証がないことを鋭く告発している本です。
 1990年代初め、ビル・クリントンは医療保険改革法案を議会に提出した。この法案が成立していれば、国民皆保険が実現し、医療保険業界が大きく姿を変えるはずだった。しかし、クリントンの試みは失敗に終わった。これについて大きな責任を負うべきは、どっちつかずの態度に終始した国民自身である。
 マスコミのキャンペーンの恐ろしさはアメリカも日本も同じことです。アメリカで国民皆保険を主張すると、社会主義者、アカだというレッテルを貼られるというのです。信じられません。それなら、日本もヨーロッパも、みんな社会主義国、アカの国ですよね。それでいいじゃないですか。アメリカの人は何を恐れているのでしょうね。
 医療費債務は、アメリカでは破産原因の2位になっている。破産に陥ったアメリカ人の相当数は無保険者だった。たった一度の緊急治療、あるいは入院して集中治療を受ける必要が生じたために、数万ドルから数十万ドルの医療費を請求され破産に追い込まれた。保険会社は、もっとも深刻な症状をかかえた人々を厄介払いする傾向がある。任意の医療保険を扱う会社は、既に病気を抱えた人は扱わないし、病気治療についても「厳格に」査定して、「必要のない」治療に保険を適用としないのです。結局、そこで泣かされるのは患者であり、家族です。ロサンゼルスは、もっとも深刻で、無保険者は全米一、200万人もいる。
 このような現実があるにもかかわらず、アメリカの世論は、医療保険については、おおむねクリントンの医療保険改革が挫折したころと同じように曖昧なままである。むしろ、当時より混迷の度は深まっている。大半の国民は、今も医療保険に加入しており、まずまず満足している。無保険者がいることは知っていても、その大半が失業者だと多くのアメリカ人は思い込んでいる。そして、必要なときには無保険者も医療を受けることができると思っている。人口の16%、4600万人のアメリカ人は医療保険にまったく加入していない。2013年には、無保険者は5600万人に達すると予測されている。そして、保険に加入していても、医療費の支払いに四苦八苦している人は少なくない。ブッシュとブッシュを支援する勢力は、規制は保険業界の自由な活動を妨げるからよくない、政府が管理する高齢者向け処方薬給付は医療品業界の利益を損なうからよくない。公的保険プログラムは財源を税金に頼り、否応なしに富裕層が大企業が最大の負担を負うからよくない。このように考えている。
 アメリカの保守派は、自分の生命は自分で守るのが人間としての当然の誇りというカウボーイ文化がある。彼らは自分の甲斐性がなく、家族の健康保険に加入できないような人間の分まで、どうして自分が負担しなくてはならないのかが分からないのだ。
しかし、日本にもアメリカを笑えない現実があります。国民健康保険料を滞納しているのは461万世帯(2006年、19%)、実質的な無保険者が35万人(2007年)に達している。
 病気になったとき、安心して治療を受けられる世の中であってほしいものです。絶対にアメリカのような国に日本はなってほしくないと改めてしみじみ思ったことでした。
(2011年9月刊。2000円+税)
 フランス語検定試験(準1級)の結果が分かりました。合格です。基準点71点のところ、得点73点でした。自己採点では76点でしたので、3点だけ甘い評価だったということです。1月に口頭試験を受けます。今から緊張しています。いまパリに留学中の娘と、ネットで話すときにはいつもお互いフランス語で話すようにしています。カルチェラタンのガレット屋さんでアルバイトをしています。とても日本人客の多い店のようです。ぜひ行ってやってください。丸い顔をした女の子がいたら、私の娘です。

フェア・ゲーム

カテゴリー:アメリカ

著者  ヴァレリー・プレイム・ウィルソン  、 出版  ブックマン社   
 映画もみましたが、アメリカ政府の卑劣さを改めて思い知らされる本です。
 そして、CIA検閲済となっているだけに、本のあちらこちらが黒塗りとなっているという異様な本でもあります。訳者は黒塗り前の文章を読んだのでしょうか・・・・。
 イラク戦争が、実は、何の根拠もないアメリカによる侵略戦争であることは、今や明々白々です。ところが、そのことがあまり問題になっていないのは、既成事実と大きな力の前にひれ伏す人間の悲しい習性によるものなのでしょうね。
 サダム・フセインのイラク政府が大量破壊兵器をつくったり、所持していた事実はないことをCIAは察知し、アメリカ政府トップに報告していました。しかし、それでは侵略の口実がなくなって困るブッシュ政府はその情報を握りつぶしてしまったのです。そして、アフリカまで調査に行った元大使が告発すると、逆に政府は元大使の妻はCIAのエージェントだと暴露して、マスコミの目がそちらに向くように操作・誘導しました。
 フェア・ゲームというから公正なゲームという意味かと思うと、さにあらず、格好の餌食だという、からかいの言葉なのです。
CIAの使命に忠実だった著者は、民主主義制度を信じ、真実が勝つと信じていた。しかし、ワシントンにおいては、真実だけでは十分だとは限らないことを知らされた。
ウォーターゲート事件で記者として名を上げたボブ・ウッドワードも厳しく批判されています。たしかに今では、ウッドワードの本を読んでも、かつての迫力は感じられません。
 同じく、日本によく来るアーミテージも分別のない政府高官とされています。要するに、自己保身ばかりを考えている、つまらない人物だということです。多くの日本人は今もアーミテージを大物として、あがめたてまつっていますけれど・・・・。
 映画をみて、黒塗りだらけの本を読むと、アメリカの民主主義も底が割れてしまいます。TPPにしても、アメリカの企業の権益擁護のためのものでしかありませんよね。アメリカって本当に偉ぶっているばかりいる、嫌味な国です。
(2011年11月刊。1714円+税)

TPPの仮面を剥ぐ

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著者   ジェーン・ケルシー   、 出版   農文協  
 ニュージーランド・オーストラリアにTPPが導入されてどうなったのか、ニュージーランドの大学教授が怒りを込めて告発しています。
 TPPは通常の自由貿易交渉ではない。TPP交渉は例外的なものだ。自由な世界市場というものが馬鹿げたものであることを率直に非難してきた当の政治指導者によって、10年間でもっとも野心的な自由貿易のプロジェクトが促進され、矛盾がいっそう増加している。
 バラク・オバマは大統領になる前(2008年8月)、市場モデルの非人間性を次のようにこきおろした。
 「20年以上にわたって、共和党員はもっとも金持ちの人間にもっともっと与えよ、そして繁栄が他のあらゆる人々に滴り落ちることを期待しようという、古い、信用の失われた共和党の哲学に賛同してきた。あなたは自分自身に頼れ、という。健康保険がない?市場がそれを決める。自分のことは自分で。貧困に生まれた?たとえ頼るべきつまみ革がなくても、自分自身の努力によって脱出を図れ。自分で自分の失敗を背負うべきだ。我々がアメリカを変えるべきときだ。それが私がアメリカ大統領に立候補した理由だ」
 オバマは本当にいいことを言っていましたね。ところが、どうでしょう。大統領になったら、持てる「1%」の方にぐんぐんすり寄っていってしまった気がしてなりません。
 TPPには、たった一つ確実なことがある。アメリカの貿易戦略と交渉上の要求が、交渉の形態と最終的な合意の見通しを決定する。アメリカとの自由貿易交渉の歴史は次のことを明らかに示している。つまり、どんな美辞麗句を並べようとも、アメリカは交渉のなかでアメリカ市場を猛烈に保護する一方で、アメリカに対する譲歩を引き出す手段とみなしている。
 外国からの直接投資を利用した農産物輸出は、やり方が良くないと農村社会の荒廃を招き、農村の貧困と不平等を固定してしまう可能性がある。貧しい農民は農場を追われ、農場所有権の著しい集中を引き起こした。かつての小農地所有者たちは、地方に残って厳しい条件で働く新たな無産階級となったか、それとも都会に移住して、さらなる大きな苦労を負った。
 新たな輸出志向地域の経済基盤の変化は、しばしば単一栽培(モノカルチャー)の拡大を招き、経済的および環境的な危険と犠牲を伴った。
 オバマ政権がサービス輸出の3倍増を目ざしていることは、TPPに対する商業的アプローチを示唆している。アメリカが自由に対して残っている「障壁」を標的にしようと試みていることは、各国政府が時刻のもっともセンシティブなサービスを規制する権限を保護するような各種の壁を、将来的に除去するようにプレッシャーをかけてくるということ。
 TPPは、ほんの手始めに過ぎないだろう。これらの協定には約束を延長し、規則を見直すために契約前から定期的な交渉の新ラウンドが含まれるのが常である。それは、サービス市場を支配する大規模企業(有力なアメリカ企業)によって設計された、そのような企業のためのハイリスク戦略である。これは、民主的支配にとって受け入れがたいコストとなり、社会的な義務の合法的な追及を危うくする。
この本は、このようにTPPの危険性をニュージーランドなどで現実化した問題をふまえて実証的に鋭く告発している本です。とりあえず交渉の場にのぞみ、不利になったら撤退すればいいという考え方があります。しかし、これはごまかしですし、危険です。アメリカの言いなりになって良いことはひとつもありません。
(2011年11月刊。2600円+税)

FBI美術捜査官

カテゴリー:アメリカ

著者   ロバート・K・ウィットマン 、 出版   柏書房
 美術品泥棒は、美術犯罪の技量が盗み自体より売却にあるという事実にたちまち直面する。闇市場において、盗難美術品は公にされている価格10%で出回ることになる。作品が有名なほど売るのは難しい。時間が過ぎるにつれ、泥棒はしびれを切らし、早く厄介払いをしたいと思うようになる。そこで、7500万ドルの値のつく絵を75万ドルでの取引に応じたりする。
 美術品犯罪において、窃盗の9割は内部犯行である。
潜入捜査はチェスに似ている。対象について熟知し、常に相手の一手先二手先を読まなければいけない。最高の潜入捜査官が頼るのは、自分自身の直感にほかならない。こうした技倆は教えられて身につくものではない。天賦の才のない捜査官には潜入は無理だ。友になり、そして裏切るという仕事をこなすには、営業的かつ社交的な才覚に恵まれているか否かにかかわる。
 潜入捜査官には偽の身分が必要になる。ファーストネームはそのまま本名を使うのがベストだ。嘘はできるだけつかないというのが潜入調査の鉄則。嘘をつけば覚えるべきことが増える。覚えるべきことが少なければ、それだけ落ち着いて自然に振る舞える。ラストネームは、平凡でごくありふれていて、インターネットで調べても簡単には特定できないものがいい。
 潜入調査は多くの点で営業とよく似ている。要は、人間の本質を理解することであり、相手の信頼を勝ちとり、そこにつけ込む。友になり、そして裏切るのだ。
 5つのステップがある。ターゲットの見きわめ、自己紹介、ターゲットとの関係の構築、裏切り、帰宅。
 うひゃあ、こんなステップを淡々とこなすなんて、常人にはとてもできませんよね。少なくとも私には、とうてい無理です。
第一印象はきわめて重要だ。相手に対しては、最初から親しみやすい雰囲気をつくっておきたい。何より表情が大切だ。いやがる相手に近づくには、その人物の良い面を見つけて、そこに焦点をあてる。世の中に根っからの悪人はいない。
 潜入調査の最中に不安に感じたら動かないこと。悪党に車に乗るようにいわれて気後れを感じたら、とにかく言い訳を思いついて逃げる。何よりも自分自身が役のなかでくつろぐこと。ミスを犯せば死ぬことになる。
 潜入調査にかかる負担は肉体的にも精神的にも半端なものではない。常に気を張って、ときに事件をかけ持ちするなかで、複数の人格を切り換えるというのは、ストレスがたまる。動きがなく、ひたすら取引を待つ時間となると、なおさらだ。
 FBI捜査官はターゲットと親密になる過ぎないよう、感情をコントロールする訓練を受ける。その理屈は正しい。しかし、感情を抑えこんだり、教科書どおりのやり方では、まともな潜入捜査はできない。自分の本能に従い、人間らしくあること。これが難しく身も心も疲れ果ててしまうときがある。
 誰の手も触れていない原画なら表面は均一のくすんだ光を放つ。手を加えられた絵画は絵の具がむらのある光を放つ。
 前にマフィアに潜入したFBI捜査官の体験記を読みましたが、それこそ命がけでしたし、その潜入を許したマフィアの親分は発覚後すぐに消されてしまったのでした。
それにしても美術品の盗難事件って世界中でよく起きていますよね。
(2011年7月刊。2500円+税)

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