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カテゴリー: アメリカ

アメリカ・ロースクールの凋落

カテゴリー:アメリカ

著者  ブライアン・タマナハ 、 出版  花伝社
日本がモデルとしたアメリカのロースクールの現状を紹介した本です。アメリカのロースクール生の借金漬けの現実には驚かされますが、日本でも既に似たような状況が生まれています。決して他人事(ひとごと)ではありません。それでは、ロースクールにはまったく良いところはないのか、その点は体験していない者として、まだよく分からないところがあります。司法試験の合格者を私たちのときのような500人から3倍の1500人に増やした点は良かったと思います。ただし、給費制をなくしたのは間違いですし、司法研修所での2年間の修習をなくしたのも誤りだったと言えるでしょう。それに代わるものとしてのロースクールは全否定すべきものなのでしょうか・・・。
 アメリカのロースクールの年間授業料は5万ドルをこえている。これに生活費を加えると、ロースクールで学位を取るのにコストが20万ドルを要する。9%近くのロースクール生が借金する平均額は10万ドルに達する。そして、2010年のロースクール卒業生の初任給の中央値は6万3000ドルだ。これでは借金返済は大変になる。その結果、アメリカのロースクールは、もはや凋落社会になりつつある。
ロースクール教授の引き抜きでしのぎを削っていて、20万ドルというのも珍しくない。
 ロースクールの志願者は1991年に10万人というのがピークで1998年には7万人にまで落ち込んだ。2004年には10万人に戻った。
 ロースクール生は、社会経済的に裕福な層に過度に集中しており、エリート校で顕著である。上位10校は社会経済上の上位10%の家庭出身の学生の集中度がもっとも高く(57%)、上位100校では、それがもっとも低かったロースクール生は、金持ちと上位の中産階級の白人の子どもたちで占められていくだろう。
10万ドルの借金をかかえたロースクール生にとって、それは企業法務に就職せよと言う強い経済的圧力となる。アメリカでは、学生がロースクールに背を向けはじめている。志願者数は、長期低落傾向にある。
皮肉なことに、アメリカには中・下層階級の大衆が法律上の援助を受けられないでいるが、そのときロースクール卒業生の過剰供給がある。
 法律問題をかかえた低所得者の5人に1人が弁護士の支援を受けられない。ニュー・ハンプシャーでは、地裁事件の85%、高裁事件の48%が本人訴訟であり、DV事件の97%が一方当事者は弁護士なしである。
 カリフォルニア州の明渡事件の9%が弁護士なし。マサチューセッツでは10万件の民事事件が本人訴訟であり、ワシントンDCでは認知事件被告の98%、住宅関係訴訟の被告の97%に弁護士がついていない。
 このように、法律家の援助を受けられない相当数の法律需要と、仕事を見つけることのできない法律家とがアメリカには同居している。これは悲劇としか言いようがありません。
 全国の多くのロースクールの教授たちは、身近な人には勧めない学位を自分たちの学生に売りつけている。
 この日本で、40年ほど弁護士をしてきて、依然として弁護士はもっともっと求められていると実感しています。ただし、自律して生きていけるためには人間力、つまりコミュニケーション能力をみがく必要があります。それがなくてもやっていけると誤解(錯覚)している人が少なくないのも現実です。その点の見きわめをつけたら、やっぱり弁護士はもっともっと必要だと思うのです。その意味で「一発勝負の方がよほど望ましい」という訳者の意見に私は同調できません。
 さらに、「市民の弁護士へのアクセス障害は存在しないが、極めて小さいものだった」と書いてあるのには目を疑いました。日本のどこを見て、そんなことが言えるのでしょうか、信じられません。
 それはともかく、アメリカのロースクールの現実を知る本として、一読をおすすめします。
(2013年4月刊。2200円+税)

核時計・零時1分前

カテゴリー:アメリカ

著者  マイケル・ドブズ 、 出版  NHK出版
背筋の凍る怖いドキュメントです。核戦争が勃発する寸前だったのですね、キューバ危機って・・・。
 ときは1962年10月。アメリカはケネディ大統領、ソ連はフルシチョク首相です。どちらもトップは核戦争回避の道を真剣に探ります。しかし、部下たち、とりわけ軍人たちは「敵は叩け」と声高に言いつのります。日本を空襲して焼野原にし、ベトナム戦争でも空爆によってベトナムを石器時代に戻すと叫んでいたカーチス・ルメイ大将(空軍参謀総長)がタカ派の先頭にいます。あんな、ちっぽけ島(キューバ)なんか「島ごとフライにしろ」、つまり燃やし尽くしてしまえばいいという怖い考えにこり固まっています。このルメイ将軍は日本列島を焼け野原にした張本人ですが、戦後、日本政府は勲章を授与しています。日本の支配層の卑屈さには呆れます。
 部下たちの暴走は、いったい止められるのか。既成事実が次々に危ない展開を見せていき、トップ集団は方針をまとめることができません。怖いですね・・・。なにしろ、キューバに持ち込まれていたソ連の核弾頭は半端な数ではありません。そして、アメリカだって核爆弾を飛行機に積み、船に積み、ミサイルに装着していたのです。よくぞ、こんな動きが寸前に回避できたものです。
 ケネディ大統領にとって戦争とは、軍部が常に何もかも台無しにする場であった。
 要するに、軍部を信用してはいけないということです。
 マクナマラ国防長官はキューバに配備されたソ連軍に配備されたソ連軍の兵力を6000~8000と見積もった。しかし、実際には4万人のソ連軍がキューバにいて、うち1万人は精鋭の将兵だった。
 キューバ駐留のソ連軍はアメリカ軍の侵攻には抵抗せよと命じられたが、核兵器の使用は禁じられた。フルシチョフは、核弾頭の使用についての決定権は誰にも渡さないと決めていた。キューバに運び込まれたソ連の核兵器(核弾頭)は90発だった。
ソ連からの「要注意船」は10月24日の前日に既に引き返しはじめていた。その点、『13日間』は事実に反したことを書いている。
 アメリカの戦略空軍総司令官のパワー大将は既に空中にあり、15分以内に使用可能な核兵器を2962基も指揮下においていた。爆撃機1479機、空中給油機1003機、弾道ミサイル182機が「即応兵力」を形成していた。そして、その優先攻撃目標として、ソ連国内の220地点が選ばれていた。パワー大将は、ソ連との戦いが終わったとき、アメリカ人2人とロシア人1人が生き残っていれば、我々の勝ちだと考えていた。
 うひゃあ、これはなんとも恐ろしいことです・・・。
 キューバにいるソ連軍は、ワシントンだけでなく、ニューヨークも核弾頭の標的として想定していた。ソ連はキューバにFKR聯隊を2個配備した。いずれの聯隊も、核弾頭を40発と、巡航ミサイル発射機を8基そなえていた。キューバにあるアメリカ軍のグアンタナモ海軍基地にも核ミサイルをうち込む計画だった。
ケネディが学んだ教訓は、政治家たるもの、わが子を戦争に送り出すときは、よくよく考えた末にしたほうがよいということだ。
 10月27日(土)、事態はケネディそしてフルシチョフにも制御できないスピードで進行していた。キューバ上空では、アメリカの偵察機が撃墜された。ソ連領空には、別の一機が迷い込んだ。
 ケネディは、自分のアメリカの軍隊さえ完全に掌握できていなかった。フルシチョフにとって、ソ連が最初に核兵器を使う案は、どんなに脅されようと、怒鳴られようと、絶対に受け入れられない。カストロと違って、フルシチョフはソ連がアメリカに核戦争で勝てるなど思ってもいなかった。
 この当時、核戦争が勃発してもアメリカ政府が確実に生きのびられるように秘密計画が作成され、そのための精鋭ヘリコプター部隊が待機していた。大統領は、閣僚、最高裁判事、そして数千人の高官とともにワシントンから80キロ離れたウェザー山に避難する。そこには、緊急放送網、放射能除汚室、病院、緊急発電所、火葬場などが完備されていた。腰痛に悩むケネディ大統領のための15メートルプールもあった。ところが、そのとき家族を連れて行くことは許されていなかったのです。夫が妻子を残して、自分だけ助かるというのです。みんな、そうするでしょうか・・・。
 地位の高い者ほど、今の聞きが平和的に解決されることについて悲観的だった。軍人に任せると戦争が現実化してしまうことがよく分かります。口先だけで勇ましいことを言う石原慎太郎のような人物ですね。自分と家族は後方の安全なところにひっこんでいて、兵隊には「突撃!」と叫ぶような連中です。
「キューバ危機」って、本当に笑えない綱渡りの連続だったことがよく分かる本です。その圧倒的迫力は『13日間』をしのぎます。
(2010年1月刊。3100円+税)

アメリカン・コミュニティ

カテゴリー:アメリカ

著者  渡辺 靖 、 出版  新潮選書
現代アメリカの背筋がぞくぞくするような現実が紹介されている本です。日本がこんなアメリカになってはいけないと思いつつ、実はアメリカ型の超格差社会に近づいていることに思い至ると愕然とします。
 テキサス州には刑務所が106ある。カリフォルニア州に次いで、全米第2位。そして、その急増ぶりは史上例のない速さ。テキサス州の収監者は16万人。日本は6万人ほど。なので、3倍近い。アメリカはロシア、南アフリカよりも多い。そしてテキサス州の民営刑務所は全米一多い。
 テキサス州最古のウォールス刑務所では、11日に1人の割合で死刑が執行されている。死刑執行は電気椅子ではなく、(1964年まで)、薬物の静脈注射による。午前6時10分に注射を始め、6時20分に死亡を確認する。わずか10分あまりで執行が終了する。ちなみにアメリカでも、死刑判決は減少傾向にある。1990年代には年間300件だったが、2006年には114件となった。
 アメリカ全体の収監者は220万人。中国の収監者数より50万人も多い。刑務所関連の仕事に従事するアメリカ人は230万人もいる。
 収監者の70%は非白人。アフリカ系アメリカ人が全体の人口比では13%にすぎないのに、49%を占める。アメリカのホームレスは75万人。
カリフォルニア州にゲーテッド・コミュニティがある。住民からの招待状がない限り、住民以外の人間は入れない。20平方キロメートルのタウンだから、東京都港区と同じ広さ。東京ドームの400倍。縦10キロ、横2キロと細長い。そこに4つのゲートがある。コミュニティには、コンビニくらいの大きさの日用雑貨店が一軒しかない。白人85%、アジア系5%、黒人は0.7%。平均年齢は35歳、平均世帯収入は1500万円。アメリカ全土にあるゲーテッド・コミュニティの住民人口は、1995年に400万人だったが、2001年には1600万人(全米世帯数の6%近い)になっている。
 実は、ゲーテッド・コミュニティは決して安全ではない。そのうえ、人付きあいがとても希薄になる。
 子どもを無菌培養することなんてできません。結局、ゲーテッド・コミュニティで自分の家族だけは守ろうという発想では、社会全体の安全性は保証されませんので、自分の家族だって安全に生活できなくなるのです・・・。いやな発想ですよね。檻のなかに閉じこもって身の安全を確保しようなんて。
(2013年4月刊。1300円+税)
 月曜日、恒例の一泊ドックに入りました。
 日頃はなかなか読めない分厚い本を持ち込み、一心不乱に読書に集中します。
 今回はアメリカのイラク戦争そして、キューバ危機の内情を再現した本が印象に残りました。いずれ、どちらも紹介したいと思いますが、アメリカの支配層も決して一枚岩ではなく、激しい内部抗争が続いていることを再認識させられる本でした。
 健康診断の結果は、やがて送られてきますが、少しばかりダイエットの成果があがり、久々に体重が65キロとなりました。やれやれです。

誰もやめない会社

カテゴリー:アメリカ

著者  片瀬京子・蓬田宏樹 、 出版  日経BP社
従業員を大切にする会社なら日本にはたくさんありますよね。今度はどこの会社を紹介してくれるのかなと思うと、なんとアメリカの会社でした。しかも、シリコンバレーにある会社なんです。驚きました。やはり、会社は従業員あって成り立つものですよね。法律事務所にしても、事務員の下支えがなければ成り立ちませんし、まわっていきません。
 アメリカのシリコンバレーで、どんな会社が従業員を大切にしているかと思うと、アナログの半導体部品を専門とする開発・設計会社です。そして、日本のメーカーもお得意先なのです。業績が良くて、報酬もまた良い会社です。ですから、従業員が辞めません。でも、それだけではありません。
 東京スカイツリーのLED照明の安定運用に欠かせない部品をこの会社が提供している。トヨタのプリウスにも同じく・・・・。ええーっ、そうなんですか・・・。
 会社の名前はリニアテクノロジー。従業員は4400人。操業は1981年。営業利益率は50%をこえる。そして、この利益率を20年も維持している。
 リニアテクノロジーは、創業以来、企業買収や合併をほとんどしていない。
一度販売した製品は基本的に製造を中止しない。今でも、30年前の創業当時に発売した製品をコツコツと売り続けている。うっそー、と思いました。
 一度入社した社員はほとんど辞めない。退職の95%以上は定年退職による。
 コンシューマ製品市場とは距離を置いている。価格競争が激しく、収益があがらないから。そんな低収益の市場で、貴重なエンジニアのリリースを消耗させるわけにはいかない。すごい見識ですね。見上げたものです。
 平均年収は15万ドルを上回る。1500万円ですよね。そして、年収の50%以上のボーナスを会社員に提供することもあった。さらに、ストック・オプションもある。
 すべてがデジタルになるわけではない。アナログは必ず生き残る。先見の明がありましたね。30年前のアナログIC市場は世界で20億ドルほどだった。今や、世界のアナログ市場は20倍の420億ドルにまで拡大している。
 営業マンは、製品価値を下げるような値引きをしてはならない。従業員が辞めないのは、仕事が楽しいからだ。そして、エンジニアも常に利益のことを考えている。エンジニアの仕事は回路を設計し、社会の会議のもとへ足を運び、顧客の要求を聞き、本当に求められているのは、どの製品なのかを探し出す。値引き合戦という悪循環にはまらないよう、高い顧客価値を提供する努力をしている。
 弁護士も安かろう、悪かろうではいけません。私も値引きはせずに一生懸命に仕事をすることで弁護士としての販路を拡大したいと考えて頑張っています。
(2012年11月刊。1650円+税)

アメリカの国防政策

カテゴリー:アメリカ

著者  福田 毅 、 出版  昭和堂
アメリカの国防政策の継続性を考慮するうえで避けては通れないのが、ベトナム戦争の影響である。科学技術信仰や戦争の合理化といった傾向は、ベトナム戦争にも明確に見出すことができる、ベトナム戦争後には、二度と第三世界の泥沼の内戦には関与すべきではないという風潮が強まり、米軍は戦略の焦点をソ連との大規模通常戦争へと回帰させた。この結果、技術重視や非対称戦の忌避という傾向が助長された。冷戦後に顕著となった米兵死傷者に対するアメリカの敏感さも、ベトナム戦争の影響によるところが大きい。
 アメリカ軍は、アフガニスタとイラクでは迅速な「レジーム・チェンジ」(政権変更)に成功した。しかし、政権打倒後の治安維持には失敗し、軍事における革命(RMA)の限界が露呈された。
 冷戦後のアメリカの軍事的優越は、その経済力に大きく依存している。
 兵員1人あたりにして、アメリカはヨーロッパ装備庁(EDA)参加国の5倍の金額を装備調達と研究開発に費やしている。先端軍事技術の領域で、ヨーロッパ諸国がアメリカに太刀打ちできない一因はここにある。アメリカが兵士1人あたりに投入する資金の額は、年を追うごとに増大している。
アメリカ軍の最大の特徴は、遠隔地への兵力投射能力にある。
 アメリカ軍と他の軍隊との最大の相違点は、兵力を海外に無期限に展開し、作戦を継続する能力にある。この能力の核心は、戦闘部隊の迅速な展開能力、グローバルな基地ネットワーク、大量の物資を調達し前線部隊に輸送する兵站能力があげられる。
 「招かれた帝国」という言葉が示唆するように、アメリカ軍の前方展開を望んだのは、アメリカよりも、むしろヨーロッパ諸国や日本であった。
ベトナム戦争と異なり、1991年1月に始まったイラクとの湾岸戦争(砂漠の嵐作戦)は、典型的な正規戦であり、この戦いにアメリカ軍は圧倒的な兵力を投入して勝利した。アメリカ軍内に存在していた非正規戦や限定戦争を軽視あるいは嫌悪する風潮は、湾岸戦争後に強化された。そして、兵器のハイテク化の重要性が再確認された。
 湾岸戦争の成功によって、航空作戦の可能性に対する楽観的見解が広まった。アメリカは「世界の警察官になることはできない」が、唯一の大国として世界に関与し続けるとブッシュ政権は断言した。
 クリントン政権は、ソマリアでの失敗の責任を国連に転嫁しようとした。クリントンがブッシュと異なるのは、アメリカ軍の優位を維持しつつも、国防費をさらに削減することは可能だと主張した点にある。
 ワインバーガーもパウエルと同じく、アメリカ兵の命はきわめて重視していたが、他国民の命の保護を強調することはあまりなかった。
 1993年ハイチや1994年のルワンダで軍事介入をアメリカに躊躇させたのは、1993年のソマリアの記憶であった。ボスニアの内戦でも、アメリカは地上戦への関与を避けた。
 1990年代後半になると、アメリカ軍の海外展開能力が低下しつつあるのではないかとの懸念が広まった。主として二つの要因による。第一は、同盟国や友好国がアメリカ軍への基地提供を拒むケースが増加したこと。第二に敵対的勢力がアメリカ軍の接近を拒否する能力を向上させつつあること。
 アメリカ軍の位置づけの経過を系統的にたどることのできる本です。それにしても、戦後68年たってもアメリ軍基地が国内いたるところにあって、それを不思議と思わない日本人って変ですよね。これで本当に独立国なのでしょうか。そして、右翼・保守の人々がこんな日本国を愛せと押しつけるのって、何なんでしょうか。不思議でなりませんね。この本は大変な労作だと思いました。
(2011年6月刊。3800円+税)

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