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カテゴリー: アメリカ

教皇フランシスコの挑戦

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  ポール・バレリー 、 出版  春秋社
 アルゼンチン出身の司祭が全世界のカトリック教会を率いる266代教皇になった。アメリカ大陸出身で初めて、南半球出身で初めて、イエズス会士で初めて、そしてフランシスコの名を冠した初めての教皇。
 イタリア人の家系で、スペイン、アイルランド、ドイツで学んだラテンアメリカ人。教区司祭だが、修道会士でもある。神学の教師だが、親しみやすい司祭だ。謙遜と活力が合わさっている。
ベルグリオ(フランシスコ教皇)は神学的には伝統主義者だが、教会のあり方については改革支持者だ。急進主義者だが、自由主義者ではない。ほかの人に権限を与えようと努めるが、権威主義の痕跡も残している。保守的だが、アルゼンチンの反動的な司教会議のなかでは、はるかに左の立場にいた。宗教的な単純さと、政治的な狡猾さをあわせ持っており、進歩的で開放的だが、飾り気がなく、厳しい。
 父親は、イタリアでは公認会計士だったが、アルゼンチンでは資格が通用せず、靴下工場の帳簿係だった。ベルグリオは、13歳のとき、働き始めた。そこで、働くことは人々に尊厳を与えることを学んだ。
 失業している人は、自分が存在していない感じを抱かされる。尊厳は働くことによってこそ、もたらされる。そして、仕事と生活のバランスをとることも大切だ。
 ベルグリオは、10代のころ、共産主義思想に好奇心をもち、共産党の雑誌等を熱心に読んだ。しかし、共産主義者にはならなかった。むしろ、右派のペロン主義者になった。
 アルゼンチンでは、1976年、軍部独裁政権が始まり、何万人もの人々が誘拐され、拷問を受け、殺害されて姿を消していった。その犠牲者のなかには150人ものカトリック司祭、何百人もの修道女や一般信徒の伝道師がふくまれていた。当時のアルゼンチンには、推定6000人の政治犯、2万人の行方不明者がいた。拷問と暗殺が行われている証拠があった。  
『行方不明者』はヘリコプターなどに乗せられ、大西洋に落とされた。
アメリカのCIAは、アルゼンチンのカトリック教会と共同行動をとり、巨額の資金を協力する司教や司祭に提供し、何百人もの急進的な司祭や修道女に関する情報も提供した。彼らは、そのために、軍事独裁政権の犠牲になった。
 元独裁者のビデラは、カトリック教会の上層部と協力関係にあったと証言した。では、ベルグリオはどうしたのか・・・。それが、問題です。
ベルグリオは、軍事独裁債権の暴力から人々を守ろうと多くのことをしたのは疑う余地がない。しかし、拉致・殺害自体を止めるために、どれだけ行動したのかというと・・・。
「教会政治家」ベルグリオは、すべてを通じて、極めて慎重な道を選んだ。
ベルグリオの「成長」の重要な部分は、貧しい人々が必要としているのは、「施し」ではなく「正義」だということ。ベルグリオは、大多数の国民が甚大な打撃を受けている最中も、自分たちの特権的な地位を守ろうとしている富裕階級の強欲さを糾弾した。
ベルグリオは、新自由主義の経済政策を強く批判した。
教皇フランシスコは、政治に関与することは、キリスト教徒のつとめですと話した。それは、隣人愛の至高の表現の一つなのだ。
ベルグリオは、115人の選挙人のうち90票の支持を得て教皇に選出された。
 これまでの教皇の名前の使用頻度は、ヨハネが23回、グレゴリウスとベネディクトがそれぞれ16回、クレメンス14回、レオ13回、ピオ12回、ステファヌス9回、ボニファティウスとアレクサンデル、ウルバヌスがそれぞれ8回。
 日本は、2009年12月に白柳誠一・枢機卿が亡くなってから、空席のままとなっている。韓国とフィリピンでは2人目の枢機卿が選ばれているのに・・・。
最新の教皇の活動状況をふくめて、カトリック教会の課題を少し知ることができました。
(2014年10月刊。2800円+税)
「殿、利息でござる」をみました。実話ですので、圧倒されます。江戸時代の人々が精神的に豊だったこと、そして、町民が10人集まって町のために3億円をつくることが出来たほどの資産をもっていたことなど、江戸時代を根本的に見直させる、とてもいい映画です。映画の原作「無私の日本人」は、このコーナーで先に紹介しましたが、泣けてくる本です。まだ読んでいない人は、ぜひ映画とあわせて、お読みください。
 昨日、ベトナム戦争のときに戦死した若い女医さんの日記を本にした「トゥイーの日記」が映画になったとのことで、DVDを送っていただきました。まだみていませんが、楽しみです。ありがとうございました。

CIAの秘密戦争

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  マーク・マゼッティ 、 出版  早川書房
監訳者(小谷賢・防衛省主任研究官)の解説を紹介します。
冷戦後のCIAは、何とか生きのびているような状況だった。ところが、2001年の9.11のあと、政権から熱い眼差しを浴び、潤沢な予算と過大ともいえる調査権限が与えられた。
9.11のテロによって、CIAは組織の絶頂をむかえた。CIAは、予算と権限を与えられ、政権の命じるままに世界中でテロリストやその関係者を捕まえ、情報を集めた。その手法は、怪しい人物がいたら、とりあえず拘束して収監するというもので、ほとんど誘拐に近い。
誘拐とは言わず、「囚人特例引渡し」という。拷問とは言わず、「特殊強化尋問(EIT)」という。暗殺とは言わず、「標的殺害」という。
 CIAが軍事作戦までやると、ペンタゴンを中心とするアメリカ軍と軋轢を生じさせた。情報機関が戦争し、軍事組織が現地のインテリジェンスを収集しようとする。
アメリカ政府がテロとの戦いの莫大な資金を投じたことで、戦争は一大産業へと発展していく。アメリカの民間企業だけではく、外国の企業までもが、この恩恵に浴するため、戦争の片棒を担いだ。もはや戦争の最前線では、アメリカ軍、CIAに加え、民間企業の社員が代理戦争を行う時代となった。
CIAのドローン作戦は、「テロリスト」を殺害するだけでなく、巻き込まれた民間人にも犠牲者を出している。パキスタンだけでも400回以上のドローン攻撃があり、数千人が死亡している。一般市民の巻き添えも1000人を下まわらない。先日も、アフガニスタンで、国境なき医師団の病院が誤爆された。
ウサマ・ビンラディンの殺害状況を描いたアメリカ映画「ゼロ・ダークサーティ」は、私もみましたが、このとき居所特定に関与したパキスタン人医師についても、この本では触れられています。この殺害作戦では、CIAがパキスタン政府に事前通告していなかったため、CIAとパキスタン情報機関は関係が悪化し、この医師は逮捕された。
以上が解説です。深刻な状況の一端がよく分かりました。
CIAは、もはや外国政府の秘密を盗むことに専念する伝統的な謀報機関ではなく、人間狩りに入れあげる暗殺マシーンのような存在になっている。CIAは、スパイ活動と暗殺活動の両方を行うようになり、軍事・情報複合体となって、アメリカの新しい戦争を主導している。
オバマ大統領は、CIAによる秘密戦争を活用すれば、政府の転覆やアメリカ軍による長期的な占領政策が必要で、泥沼化しやすく、莫大なコストもかかる従来の戦争は不要になると考えた。しかし、現実には、そうはならなかった。刃物の使い手は、敵を消す一方で、新たな敵をつくり出していった。
アメリカ人は、パキスタンで大地震が起きたとき、人道支援の名目で現地に入り込み、さまざまな職業の民間人を装ってスパイ活動をした。
失敗した自爆犯の例が紹介されています。爆弾製造の技術者は、弟の直腸にニペリット(PEFN)を使ったプラスチック爆弾を差し込んだ。そして、服の下に手を差し入れて爆弾を起爆させようとしたところ、早まってしまい、道連れすべき対象を巻き込むことが出来なかった。それでも、タイル張りの床に、煙の漂う穴が開いたほどの威力があった。
アメリカの汚い戦争は今も続いています。もちろん、テロ行為は絶対に許せません。しかし、それをドローンなど、武力で軍事に制圧しようとしても、決してうまくいくはずがありません。アメリカ人も、早くそのことに気がついてほしいものです。心からのお願いです。
        (2016年2月刊。2200円+税)

きみは特別じゃない

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  デビッド・マカルー・ジュニア 、 出版  ダイヤモンド社
 アメリカにも、こんなにいい教師がいるんですね、感激しました。
 世界中を戦争に巻き込んで大勢の人々を苦しめているアメリカですが、善良で、真面目に人生とは何かを考えている人も少なくないことを知ると、少しだけ救われる気がします。民主党のサンダース候補も、そんな尊敬すべき一人だと私は考えています。
 アメリカは東部ボストン郊外にある名門の公立ハイスクールの卒業式で語られたスピーチが本になっています。こんなに長いスピーチをしたのかしらん・・・、と不思議な気がします。
いつも本は読んでほしい。人生に不可欠な栄養分として本は読むこと。全力で、大切な人を大切にし、大切なものを大切にする。切迫感をもって、時計の針がカチカチ言うたびに、残りが少なくなっているという気持ちを持ってほしい。始まりのときがあるように、終りのときも来る。その日の午後は、どんなに天気が良くても、きみ自身は、その究極の儀式を味わえる体ではなくなっている。充実した人生、ひと味ちがう人生、意味のある人生というのは、自分で築きあげるもので、自分がいい人だからとか、お母さんが出前を注文してくれたからといった理由で転がり込んでくるものではない。結局のところ、きみが「自分とは何か」を考えるから、自分がいる。きみが考えなければ、きみの「自分」はない。容赦なく、立ち止まることなく、秒針は進んでいく。「いま」だと思った瞬間はもう過ぎて、次の瞬間になっている。そして、その「次の瞬間」も、たちどころにまた過去になっていく。
人の一生は際限なくサイコロを転がしていくようなものだ。予想は、そのつど裏切られ、まるでハムレットのように変転を繰り返す。
人類の財産とも言える本は思考を広げ、よりよいものにするのを助けてくれる。だから、本を読むと、より広く、よりよい思考ができるようになる。何より大切なのは、発見があることだ。本を読むことは、他人の目で体験を積むことだ。読書は自分を大きくする。
教師が成功するか否かで、わたしたち人類の未来が決まる。ほかに、そんなことを言える職業がどこにあるだろうか・・・。教師は、子どもを一人ずつ育てて、未来を積み上げている。
学ぶことは、正解にたどり着くことではない場合のほうが多い。ほんとうの意味での勉強は、理解を広げること、知を深めることだ。それは、楽しいことであり、わくわくするものである。
自分が楽しいと思うこと、いいと思うことに没頭し、その結果や評価は成り行きにまかせること。今という時間を大切にし、先のことは何とかなると信じることだ。
大学は、とても楽しいところ、元気いっぱいの通過儀礼だ。ちょっと背伸びをして、初めて味わう独立した気分を楽しみ、何度かためになる失敗もして、強い友情の絆を結び、何か面白そうなものを発見したり、探検したりして集中し、打ち込む能力を養い、技を磨き、卒業証書をもらったら、さっさと残りの人生へと向かい、一人前のいろんなことのできる人間を目ざす。大学時代の友情は、死ぬまで続く。その場所を大切に思う気持ちは、時間がたてばたつほど募っていく。
 私にとって高校までは苦痛の時代でしたが、大学に入って、ようやく人間になれたと思いました。それは「大学紛争」(東大闘争)もありましたが、3年あまりの学生セツルメント活動がすべてのような気がします。このときの友情と思い出こそ、今日の私をつくっています。もし、今の大学生がそんな思いが出来ないとしたら、本当にお気の毒だと言うしかありません。ちなみに、私もアルバイトは家庭教師など週に2~3回はしていました。オカムラ家具の運びという軽作業もやっていました。それでも、アルバイトによる拘束は現在のほうが圧倒的に強いとのこと。看過できない現状です。
 私のときには授業料が月1000円、そして寮費(もちろん食費は別です)も月1000円でした。今のような40万円も50万円もかかる授業料なんて、国の政策は間違っています。それで、「一億活躍」だなんて、チャンチャラ笑わせます。もっと大学生も国民も怒るべきです。
(2016年2月刊。1600円+税)

「仮面の日米同盟」

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  春名 幹男 、 出版  文春新書
 安倍首相は、こう言います。
 日本が集団的自衛権を行使することによって、日米同盟は完全に機能する。そして、抑止力はさらに高まり、日本が攻撃を受ける可能性は一層なくなっていく。つまり、アメリカ軍は日本を守ってくれているから、日本に平和がある。
果たして、そう言えるものでしょうか・・・。
 日本を防衛するために、アメリカの若者が皿を流したり、命をかけたりするほどの関与をアメリカが約束したなどと、新ガイドラインのどこにも書かれていない。日本が攻撃を受けたとき、真っ先に血を流す可能性が大きいのは、日本防衛に「主たる責任」を追う自衛隊員だ。アメリカ軍は、それを「支援」するだけだし、その「支援」も具体性に欠ける。在日アメリカ軍は日本本土を防衛するために日本に駐留しているわけではない。それは日本自身の責任である。在日アメリカ軍は、韓国、台湾そして東南アジアの戦略的防衛のために駐留している。
 日本国内およびその周辺に配備されたアメリカ軍部隊は、アジアにおけるアメリカの他の防衛公約を満たすのが第一の目的であり、日本防衛のためではない。日本にいるアメリカ軍には、守るための装備はない。攻撃用の装備しかない。そもそも任務(ミッション)が違う。
日本の自衛隊は日本防衛を任務としているが、アメリカ軍は日本の外に出ていくのをミッション(任務)としている。
 日本にあるアメリカ軍の基地は沖縄をふくめて、ほとんどすべてがアメリカ軍の兵站(へいたん)の目的のためにある。アメリカは、日本に対して「嫌だったら、日本から撤退するぞ」と脅してきた。しかし、本当のところアメリカ側には日本から撤退する気は、さらさらない。
 戦後の日米関係において、日本の政権が独自外交路線をとり、アメリカを排除した東アジア共同体のようなグループ形成に動くと、アメリカ政府は、そんな日本の政権を可能な限り相手にせず、徹底的に冷淡な対応をしてきた。そのため民主党・鳩山政権は倒れてしまったのです。
 アメリカは、在日米軍基地を維持するために沖縄返還交渉に応じた。佐藤首相とニクソン大統領の密約の内容は、「沖縄返還時に、アメリカはすべての核兵器を撤去するが、有事の際には、核兵器を沖縄に再び持ち込むことを認める」というもの。これは長く秘密にしてこられた。この点、少なくない日本人が誤解していますよね。日本にいるアメリカ軍は、日本人を助けるために日本にいるって・・・。もちろん、それはまったくの幻想です。
 アメリカとは日本にとって何なのか、なぜ、日本人はこんなにアメリカを「好き」なのでしょうか・・・。その一つに、テレビがあります。テレビでアメリカがいかに優しい国であり、強大な軍事力を持つ国なのか、絶えず見せつけられるなかで、かつての栄光(積極的な)面を示されています。でも、そのアメリカでもサンダース旋風が起きているということは、弱者が目覚めて立ち上がりつつあるということですよね。いつまでたってもアメリカの軍事力に頼っているわけにはいきません。
ご一読をおすすめしたい本です。
(2015年11月刊。800円+税)

戦場の掟

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  スティーヴ・ファイナル 、 出版  早川書房
 アメリカの若者が、はるかに離れたイラクなどで大勢が死んでいることを鋭く告発した本です。
アメリカの民間軍事会社では、リーダーになると日給600ドル(6万円)、月2万ドル(200万円)を稼いでいる。アメリカ兵は統一軍事裁判法の下で活動している。しかし、傭兵にはそういう規制をまったく受けない。世界で通用している法律が、この「傭兵」は適用されない。
イラクは軍事会社の戦争だった。傭兵ばかりではなく、管理人、コック、トラック運転手、爆弾処理の専門家もいた。2008年には推定19万人がイラクにいた。これはアメリカ軍の3万人をはるかに上回る。
イラク戦争の開始以来、民間企業に支払ったアメリカ政府の額は850億ドルに及ぶ。
アメリカ軍工兵隊は、6社以上、数千人の武装傭兵と契約し、580億ドルをかけて、復興しているイラクの工事現場の警備に派遣している。
傭兵の仕事は三つに分類できる。場所をまもる固定警備、個人警護そして、コンボイ護衛だ。なかでもコンボイ護衛は、死の罠である。動きの鈍い大型トラックのようなものは、待ち伏せ攻撃とIEDの格好のターゲットだ。
アメリカ軍は、工兵隊の復興工事を警備させるために、2社だけで550億円もつかった。
アメリカの前途あるはずの青年がまったく無意味に死んでいき、傷つき、自死に至っているという現実は、あまりに悲惨です。日本だってアベ首相の下で、いつ、そうならないとも限りません。そうならないためには、武力に頼る政治を早くやめることしかありません。
(2015年9月刊。900円+税)

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