法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: アメリカ

奇跡の会社

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 クリステン・ハディード 、 出版  ダイヤモンド社
アメリカはフロリダ州のある清掃サービス会社の若き女性社長が苦闘の日々を語っています。
会社を起こした女性社長はフロリダ大学の学生。仕事は寮や個人住宅の清掃サービス。社員は、すべて大学生。しかも、一定以上の成績を保持していることが条件。低賃金なのに、離職率は一般だと75%なのに、この会社はとても低い。
どうして、そんなことが可能になったのか・・・。成功談というより、失敗談を語ることによって、会社を運営することの意義と手法が明らかにされていきます。
なぜ社員は大学生に限るのか、しかも、一定以上の成績上位者だけを求めるのか・・・。
ど素人といってよいレベルの大学生が、清掃業界という、あまりうま味のない業界で、知恵もカネも後ろ盾もなく、行きあたりばったりで起業、そこからもがいてはい上がり、キラリと輝く会社をつくっていったのでした。
起業したてのこと。アパート数百室の清掃を請け負い、大学生60人が清掃にとりかかった。ところが、始まって数時間、そのうち45人が集まって、こんな仕事はしたくないので、会社をやめると言い出した・・・。当然、女性社長はパニックになります。いったい、どうしたら請負った契約目的を達成できるのか・・・。
この大学生たちはミレ二アル世代。下積みに興味はなく、すぐにトップに駆け上がれると考えている。顔を見て話そうとせず、小説のように長いメールを送る。批判されるとすねるから、上司は慎重に言葉を選ばなければならない。自分がインパクトを与えていると感じられない仕事はさっさと辞めるくせに、どういうインパクトを与えたいのか、具体的に説明できない。
清掃会社の粗利率は15%でしかない。しかし、人を信じて大きな責任を託し、失敗する余地を残しておき、自分のミスは自分で取り戻す機会を与えれば、彼らはそこから学ぶ。
子どもが可愛いあまりに過干渉になるヘリコプターペアレンツの努力は逆効果になる。親があれこれ世話を焼いた結果、間違えることを恐れて自分で決断できない若者が育ってしまう。親が子どものためと思って何でもしてやることは、図らずも子どもに自信をつける機会を奪い、リーダーシップを身につける機会を奪っている。
新人研修では、掃除のしかたよりも、問題解決のアプローチを教えることを重視するようにした。すると、学生たちは自分で判断を下せるようになった。リーダーは、部下が問題を解決しようと苦悩する姿を見守る一方で、介入して代わりに解決するタイミングを見きわめる必要がある。そのバランスをとるため、自分が失敗をどこまで許容できるのか、知っておく必要がある。
成績のいい大学生から成る清掃サービス会社という発想がすばらしいです。
(2019年2月刊。1600円+税)

マルコムX(下)

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 マニング・マラブル 、 出版  白水社
ついにマルコムXが暗殺される瞬間が近づいてきます。
予兆はいくつもありました。マルコムXの信奉者たちがネイション・オブ・イスラムの信者たちから集団で襲撃され、あるいは殺害されます。そして、ついにマルコムXの自宅が焼き打ちされるのです。ところが、自宅焼き打ちについて、世間の注目をひくための自作自演だというデマを飛ばす人がいて、世間でもそれを信じる人が少なくなかったのです。それは、マルコムXが、いつも大ボラを吹いているという偏見にもとづく誤解でもありました。
警察はマルコムXの暗殺計画がすすんでいることを察知しながら、それを防ぐための手立てを何も講じませんでした。といっても、マルコムXの暗殺犯たちにFBIや警察が手を貸したということではないようです。
マルコムXは暗殺を恐れていなかったとのことです。それは考えが甘かったというより、殉教師になるのも一つの道ではないかという達観から来ていました。決してあきらめの境地にあったのではありません。
1965年初めには、マルコムXの側近たちは、そのほとんどが、このままでは、そのうちマルコムXは殺されると思っていた。だから、どうしたらマルコムXを救うことができるかと考えていた。
マルコムXは、当時、あらゆるものに追い詰められていたが、もともと心の内をなかなか明かさない人間だったので、このときも思っていることを話していない。
今から考えると、マルコムXは、死を避けたり逃れたりはしまいと決めていた。死を望んでいたわけではないが、それを自分の宿命から外すことのできないものとして、受け入れる覚悟があったようだ。
演説会場に入るとき、参加者が銃器をもっていないか調べることをマルコムXは禁じた。そして、自分の警備員(ガードマン)には一人を除いて武器をもたせなかった。銃撃戦になったとき、暗殺犯は、おそらく丸腰のガードマンを撃たないだろう。誰かが死ななければならないのなら、それは自分でいい。マルコムXはそんな結論に達していたのではないか・・・。
FBIもニューヨーク市警も、マルコムXの運命への介入について、同じくらい消極的でマルコムXの生命が脅かされても、捜査せずに身を引き、犯罪が起きるのを待っていた。結局、暗殺犯たちは演説会場に銃をもって立ち入り、ちょっとした騒動を起こして、演壇にいるマルコムXを銃撃し、殺害してしまったのです。それは、ネイション・オブ・イスラムの組織した暗殺集団でした。
暗殺班の構成員は、みなイライジャ・ムハマドの熱心な信奉者であり、マルコムXを殺すためには自分の命を犠牲にする用意があった。暗殺を企てる者が死をいとわないのなら、誰でも殺すことができる。これって、自爆犯と同じだということですよね。
こうやってマルコムXの暗殺の瞬間が解明されていますが、この本は同時に、マルコムXがメッカ巡礼し、アフリカ諸国をめぐったことによる思想的転換を具体的にあとづけています。そこが大変興味深いところでした。とはいっても、当時のアフリカは独立の英雄が独裁者に転化しつつあったり、各国とも政情は単純ではありませんでした。
本書の結論で書かれていることを紹介します。
黒人の人間性に対する深い尊敬と確信が、革命的な理想家マルコムXの信念の中心にあった。そして、マルコムXの思い描く理想の社会に異なる民族意識や人種意識をもつ人々も含まれていくにつれ、マルコムXの穏やかなヒューマニズムと反人種主義の姿勢は、新種のラディカルで世界規模の民族政治の基盤となっていたかもしれない。
マルコムXは希望、そして人間の尊厳の象徴になるべきである。
この最後のくだりを、なるほどと読んで思えるほど、マルコムXの思想的遍歴が忠実に再現できていて、改めて素晴らしい本だと思いました。
(2019年2月刊。4800円+税)

マルコムX(上)

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 マニング・マラブル 、 出版  白水社
マルコムXが講演会場において衆人環視下で暗殺されたのは1965年(昭和40年)2月21日のこと。ということは、私がまだ高校1年生だったときのことになります。当時の私はマルコムXなんて知りませんでしたから、ケネディ大統領暗殺、こちらは私が中学生のときです。このときは、すごくショックで、いったい世界はこれからどうなるんだろうか、また戦争が始まってしまうのだろうかという暗い気持ちになったことを今でも覚えています。
マルコムXの暗殺は、ケネディ大統領やマーティン・ルーサー・キング博士の暗殺と同じ程度の衝撃を多くのアメリカ人に与えた。
マルコムXは、現代ゲットーの産物だった。マルコムXは、都市部の黒人のあいだに強い支持基盤を築いていた。都市部の黒人は、制度的な人種差別をなくすには受動的な抵抗では不十分であることを理解していたからだ。
マルコムXは、いくつもの名前をつかった。マルコム・リトル、ホーム・ボーイ、ジャック・カールトン、デトロイト・レッド、ビッグ・レッド、サタン、マラチ・シャパーズ、マリク・シャパーズ、エル・ハジ、マリク・エル・シャパーズ。どの一つの人格もマルコムを完全にとらえるものではなかった。
黒人アメリカ人にとって、マルコムXの魅力はどこにあるのか・・・。
マルコムXが真に唯一無二の存在だったのは、自分をアフリカ系アメリカ人の民族文化の中心に位置する二つの人物像、つまりハスラーであり、ペテン師、そして説教者であり牧師であるという像を同時に体現する者として自分を提示したことにある。
マルコムXは、世界を旅して、白人への非難と不寛容が正統派イスラムとは相容れないことを知った。そして、マルコムXは、真のイスラムの普遍主義と、人種を問わず、誰でもアラーの恵を見いだすことができるという考えをとり入れた。
FBIもニューヨーク市警察も、どちらもマルコムXの暗殺計画を知っていた。
マルコムXの語りには明快さ、ユーモア、そして切迫感があり、黒人の聴衆をわかせた。
子どものころのマルコムXは運動が苦手だった。踊り(ダンス)も下手だった。しかし、話がうまく聡明で、生まれつきのリーダーだった。
少年時代のマルコムXは窃盗・詐欺の常習犯だった。そして、刑務所に入って、マルコムXは、勉強をはじめた。小物の犯罪者で詐欺師だったマルコムXは、刑務所のなかで政治的知識人となり、ブラック・ムスリムに変身した。
マルコムXの実像に迫った本として興味深く読みすすめました。上巻だけで380頁もある部厚い本です。圧倒されながらも、ぐいぐいと本の世界、マルコムの生きていた世界の深奥をかい間見た思いがしました。
(2019年2月刊。4800円+税)

アメリカ侵略全史

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ウィリアム・ブルム 、 出版  作品社
著者は1933年生まれのアメリカのジャーナリストです。1960年代にはアメリカ国務省に勤務していたこともあり、反共派でしたが、その後はCIAの内幕をあばく本を出したり、チリに滞在してアジェンデ政権に対するアメリカの転覆作業を現地から告発しました。
そして、アメリカが日本の政治にいかに干渉してきたかも明らかにしています。CIAは日本の左派勢力の弱体化のために莫大な秘密資金を投入したのでした。
2段組みで700頁をこえる大書です。アメリカが支配・介入した国もアフリカ、南アメリカ、東南アジアだけでなく、ヨーロッパも含まれています。
たとえばイラクです。最後にはイラクへ攻め込んでフセインを絞首刑に追い込んだアメリカですが、イラン・イラク戦争のときには、フセインに膨大な量の武器と軍事訓練、衛星写真情報そして何十億ドルもの援助金を提供していた。そのころだって、フセインは残念な独裁者だった。
イランのホメイニにもアメリカ製の武器とイラクに関する情報を提供していた。
これは、イランとイラクが互いに最大限の打撃を与えあうよう、そして、その結果、どちらも中東の強国にならないようにするためだった。
アメリカはイラクを打撃するとき、スマート爆弾やレーザー誘導爆弾をつかって軍事的標的だけを狙って細心の注意を払ったと宣伝した。しかし、これは単なるプロパガンダであって、実際には非軍事的施設も標的にしていたし、イラクの敗残兵が投降しようとするのを大量虐殺し続けた。
アメリカは、拷問のテクニックを世界中からアメリカにやって来たエリート軍人たちに伝授した。その拷問のすさまじさは想像を絶するものです。
尋問哲学は芸術である。相手を軟化させるために、普通に殴りつけ侮辱する時間をもうける。その目的は、囚人を侮辱し、自分が救いようのない状況にあることを認識させ、現実から遮断することにある。質問はせず、殴打と侮辱だけを加える。それから黙って殴り続ける。尋問するのは、そのあと。拷問のあいだ、対象が希望を完全に失ってしまうことのないよう注意する。希望をすべて失うと、頑固な抵抗が始まる可能性がある。
つねに、相手に多少の希望を残しておく。遠くに見える光を・・・。
拷問法の一つとして、殺虫剤を注入したフードを対象の頭にかぶせる方法があった。電気ショックも使われた。性器に加えるのが、もっとも効果的だった。対象者の鼻と耳と性器を切り落とし、それから皮膚を一片一片そぎとる拷問、ゆっくりとした苦痛をともなう死を与える。
このような残忍な拷問を世界中に広めたのもアメリカ流民主主義だったことを改めて認識させられました。
読みたくない本、一読をおすすめしたくなんかない本です。ましてや3800円もする本を買って読んでほしいとは私も思いません。でも、少なくとも日本中の図書館に常備し、広く私たち日本人も読むべき本だと私は思いました。
(2018年12月刊。3800円+税)

動物園から未来を変える

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 川端 裕人、本田 公夫、 出版  亜紀書房
アメリカはニューヨークのブロンクス動物園で働いている日本人がいるのですね。その本田さんを川端さんが取材して一冊の本になっています。
私も旭山動物園には二回行きましたが、なるほど行動展示というのはこういうものなのかと感動しました。自然の生態系に近い場所に動物たちがいて、それを間近で観察しているという実感をもてるのです。
ニューヨーク市内に4つの動物園と1つの水族館があるそうです。すごいですね。いったい東京には、いくつの動物園と水族館があるのでしょうか・・・。この5施設は、野生生物保全協会(WCS)が運営しています。
いま、動物園は絶滅危惧種を保全するセンターになっている。いわば種の方舟(はこぶね)だ。しかし、野生動物を飼育しながら繁殖させるのは、家畜の繁殖とは根本的に異なる。まず何より、その発想が違っている。遺伝的な多様性をできるかぎり維持するのが動物園。家畜はなるべくたくさん繁殖してくれたらいい。動物園の目標は、100年ないし10世代以上にわたって遺伝的多様性を90%より高く維持すること。
「アフリカの草原」では、ライオンとウシ科の草食動物ニャラが同じ平原で共存しているのかのように見える。しかし、実は、見えないところに濠があって、ライオンはそれを飛び越せないようになっている。
いま、アフリカで密漁しているグループは、ハイテクの赤外線カメラやGPSをもって、マシンガンで武装している。その背後には、国際的犯罪組織、マフィアとかテロ組織がいる。麻薬や武器を扱っている組織がアフリカの野生生物を喰いものにしている。
欧米では、ゴリラは群れ飼育されているので、繁殖は普通のこと。しかし、日本の動物園ではゴリラ飼育は残念な結末をやがて迎えようとしている。日本のゴリラ個体数の減少に歯止めをかけようとしたときには、時すでに遅し、だった。
うひゃあ、そうなんですか、残念ですね。なんとかなりませんでしょうか・・・。
子どもが小さいときには、私も近くの動物園によく行きました。私自身にも楽しいひとときでした。子どもが大きくなって動物園には縁が遠くなりました。今では孫と一緒に動物園に行くのを楽しみにしています。
最近の動物園の意欲的なさまざまな取り組みを知って、動物園にまた行きたくなりました。そう言えば、大牟田の動物園をテーマとした映画がつくられていますよね。武田鉄矢も登場しているようです。ぜひ、みんなでみにいきましょう。
(2019年3月刊。2000円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.