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カテゴリー: アメリカ

奇妙な死刑囚

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 アンソニー・レイ・ヒントン 、 出版  海と月社
アメリカの司法の野蛮さには、恐れおののきます。でも、理性と良心にしたがって行動する人もほんの少しだけいて、救われます。
著者は2015年4月3日、アラバマ州の死刑囚監房から釈放された。実に30年近く死刑囚として刑務所のなかで過ごしてきた。
事件が起きたのは1985年のこと。強盗殺人事件で死刑にされたが、著者には明白なアリバイがあり、使ったとされる拳銃も犯行時に使われたものではなかった。ところが、白人の裁判長も検察官も頭から著者を犯人と決めつけ、まったく動揺しなかった。そして、弁護人はまったくやる気がない。
著者は貧しい家庭に育った黒人青年だったが、いわゆる前科はなかった。
30年の刑務所生活のなかで、著者は54人もの死刑囚を処刑室へ見送った。
著者自身は、ずっと幼な友だちが面会に来てくれ、周囲の死刑囚と積極的に関わり、刑務所内の図書室で読書会を主宰したこともあった。刑務官たちも自分の悩みを著者に相談し、助言を求めていた。
弁護士面会のとき、著者はよく声をあげて笑った。気持ちのいい快活さがあり、並々ならぬパワーをもっていた。長いあいだ、裁判で失望と抵抗を味わってきたというのに、信じられないと弁護人は感じた。
著者の犯した唯一の罪は、アラバマ州で黒人として生まれたこと。
法廷に並んでいたのは、白人の顔ばかり。警察と検事と判事にとって、そして弁護人にとっても、著者は生まれながらにして有罪だった。
国選弁護人は、著者にこう言った。
「ボランティアをするために、ロースクールに行ったわけじゃない」
著者の家にあった拳銃が犯行に使用されたものとは違うことを証明するための専門家の鑑定費用は1万5000ドル必要と言われた。そんなお金は著者の家にはなかった。
有罪(死刑)になった直後、著者は、刑務所を脱獄して、マクレガー検事を殺してやるとばかり考えていた。
死刑囚監房には、本物の笑い声などない。夢のなかで悲鳴をあげる者、悪態をつく者がいる。はじめの数ヶ月、いや数年間、連続して15分以上も眠れたことはなかった。眠れないと人間の頭はおかしくなる。すると、なんの光も、希望も、夢も、救いもなくなる。影、悪魔、死、報復しか見えなくなり、自分が殺される前に誰かを殺すことを考えるようになる。いたるところに、死と幽霊の姿があった。
死刑執行の前の2ヶ月間、予行演習がある。処刑チーム、死の部隊は総勢12人。整列して、死刑囚監房の通路を厳粛に行進する。
死刑執行日が近くなると、毎日、好きな時に面会人と会うことを認められる。面会人と抱きあい、手を握ることも認められる。これらは、ふだんの面会では許されていない。
刑務所では、時間の流れ方が違う。刑務所での時間は、奇妙なまでに流動的に不安定だが、死刑囚監房の時間の流れは、もっと歪んでいる。
著者は独房の小型テレビで、サンドラが出演した映画『評決のとき』を観ていたし、ジョン・グリシャムの原作小説も読んでいた。
そんな著者が、死刑囚監房から出たあと、どう考えたか・・・。
私はアラバマを愛している。だが、アラバマ州は愛していない。無罪放免になったあと、有罪判決に関わった人間は、誰ひとり、検事も州司法長官も、謝罪していない。今後、謝罪するとも思えない。それでも、私は彼らを赦す。赦すことができなければ、もう喜びを感じられなくなる。そんなことになれば、残りの人生まで、彼らに奪われることになる。これからの人生は、私のものだ。アラバマ州は30年もの歳月を奪った。それでもう十分だ。
私は死刑制度を終わらせたい。自分の身に起こったことが、誰かの身に二度と起こらないようにしたい。
死刑囚監房で学んだこと。それは、どう生きるか、それが肝心なのだ。愛することを選ぶのか、憎むことを選ぶのか。助けるのか、傷つけるのか・・・。
著者と同じ死刑囚監房にいた白人青年は、黒人差別主義者の両親の下で育ち、罪なき黒人青年を虐殺したのでした。ところが、著者と交流するなかで自分の間違いを自覚したのです。それでも、白人青年は処刑されてしまいました。
ずっしり重たい本でしたが、それでも明るさが感じられるのが救いです。アメリカの司法制度、そして死刑制度の存否について大いに認識を深めることのできる本でした。
(2019年8月刊。1800円+税)

無人の兵団

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ポール・シャーレ 、 出版  早川書房
ドローンが空を勝手に飛びはじめたら恐ろしいばかりです。飛んでいる途中で故障して落下。空中から狙われて物を落とされる。空中から四六時中、監視される。ああ、いやだ、いやだ。考えてみただけでも身震いしてしまいます。
戦場に無人戦車が出現し、あたりかまわず無差別に射撃する。この無人戦車は遠隔操作するのではなく、自律型兵器として、誰かれかまわず砲撃し、「敵」をせん滅してしまう。非戦闘員だろうが、おかまいなし・・・。
著者はアメリカ軍のレンジャー部隊出身。イラクにもアフガニスタンにも出征した経験があります。イラクの山中で発見した一人の羊飼いの青年が「敵」のスパイなのかどうか判断に迷ったという経験も紹介されています。青年は何かを話しているようです。無線で位置情報を発信しているのか・・・。実は、単に一人で歌っていただけなのでした。危く無実の青年を殺すところだったのです。
イラクではタリバン勢力から襲われて反撃していると、実は「敵」と思い込んだのは味方であり、味方が同士射ちしていた。人家の民衆しているところだったので、二手に分かれたどちらも、相互に「敵」と思い込んで撃ちあったのだ。
自律型兵器は、このようなこみ入った複雑な状況に対応できない。できるはずがない。にもかかわらず、射撃だけは止めないだろう。いったい、そのとき誰が責任をとるのか・・・。
武装ドローンが進化している。ベネズエラのマドゥラ大統領の暗殺未遂事件も武装ドローンだった。武装ロボットも、陸上と海上で拡散している。
イスラエルは武装無人艇プロテクターを開発し、海岸線をパトロールさせている。
ロシアは、ウラン9という無人の自動戦車を開発し、大量に配置している。人間が乗っていないので、装甲は弱くてすむし、なにより安価だ。
兵器がAIをつかって進化している実情をレポートしている怖い本です。目をそむけたくなりますが、軍需産業はこのような人殺し機械を開発してもうけているのですね。嫌ですね。
安倍政権の果てしない軍拡路線は、このような無人殺人兵器に行きつくのでしょう。怖いことです。消費税10%は5兆円をこす軍事予算を支えるのです。とんでもないです。それより、年金ふやせ、授業料をタダにしろと叫びたいです。
(2019年7月刊。3700円+税)

食の実験場、アメリカ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 鈴木 透 、 出版  中公新書
私はアメリカ流のファースト・フードはなるべく食べないようにしています。マックもケンタも30年以上、口にしたことがありません。いかにも口当たりの良すぎる人工食料というイメージが私の脳にすっかり定着しています。肥満を心配している身には毒でしかありません。
アメリカ大陸に入植した白人たちは、食生活においては先住インディアンや黒人奴隷に依存していたし、依存せざるをえなかった。
黒人たちは、アフリカで米をつくっていた経験があり、黒人とともに西インド諸島には米作がもたらされた。
トウモロコシは先住インディアンの主食だった。
アメリカの黒人社会では、フライドチキンはご馳走として、教会に行ったあと日曜日に食べるものだった。
オクラはアフリカ原産で、黒人たちがアフリカから持ち込んだ食材だった。
安全な飲料水が確保できていないなかで、アルコール飲料が大量に消費された。アルコールへの免疫がなかった先住インディアンたちのなかに、アルコール依存症が増えた。
ラム酒の生産はイギリスに利するだけなので、アメリカの白人たちはラム酒からの脱却を心がけて、バーボンとビールを愛好した。
コカ・コーラは当初は、薬用として好まれた。コカインも少量ながら使われていた。
マクドナルドは、全店舗への支配力を、日々、トレーニングしながら強化している。
フランチャイズ化は、食事が規格化され、同一の外観を守るという原則の上に成り立っている。
コカ・コーラも私はのみません。なんだか、その成分は怪しいですよね・・・。
食生活の点では、日本はアメリカのようになるのではなく、アメリカを反面教師として対局にあるようにすべき、つまり農薬や遺伝子組み換えなどによらない食生活を重視すべきだと思いました。
(2019年4月刊。880円+税)

国家機密と良心

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ダニエル・エルズバーグ 、 出版  岩波ブックレット
ダニエル・エルズバーグというと、ペンタゴン・ペーパーズです。それはアメリカのベトナム侵略戦争の実態をアメリカ政府がひそかに調査してつくりあげた秘密報告書です。ペンタゴンとはアメリカの国防総省のことです。
1967年6月というと、私が東京で大学1年生としてまだまだ元気一杯、18歳のころです。
アメリカのマクナマラ国防長官は、ベトナム戦争には問題があるのではないかと疑って40人の調査チームをつくって調査研究させた。1年半後にできあがった報告書は47巻7000頁に及ぶ大部なものだった。
ベトナム戦争では、ベトナム人200万人が亡くなり、世界最強のはずのアメリカ軍も5万7千人という戦死者を出しました。韓国軍もベトナムへ出兵し、5千人近い戦死者を出しています。その見返りに韓国はアメリカから経済援助を受けました。日本は憲法9条のおかげで出兵を免れ、ベトナム特需でうるおいました。
ペンタゴン・ペーパーズは、要するに、アメリカのベトナムにおける戦争に大義はなく、敗戦必至ということを明らかにしたものです。ですから、ジョンソン大統領のひきいるアメリカ政府は公表できませんでした。それを、逮捕・失職そして投獄を覚悟してエルズバーグはマスコミに資料を渡して公表したのです。映画にもなりましたが、アメリカのマスコミも骨がある人たちがいたのです。
エルズバーグは、もともと誰もが知る反共主義者でした。マクナマラ国防長官の顧問に就任し、ソ連・中国を対象とする核戦争についての公式ガイダンスを立案していました。核戦争になれば、ソ連と中国だけで3億2500万人が死亡し、全世界で6億人が死亡するという計画。そして、この予想には、ソ連軍が反撃したときの死傷者数は入っていない。すなわち、核戦争は、地球に人類が住めなくなるという結果につながるのです。
日本には、岩国の沖合にアメリカの艦船が停泊していたが、それに核兵器が搭載されていた。そして、沖縄の嘉手納には核兵器が貯蔵されていて、有事の際には、日本本土の基地へ核を移送する計画をもっていた。
核戦争をひき起こしてはならない。日本の憲法9条は大きな意義をもっていると考える著者は核兵器のもたらす害悪を国民がみな等しく認識し、その根源を踏まえて運動をすすめようと呼びかけています。まったく同感です。
(2019年4月刊。740円+税)

監視文化の誕生

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 デイヴィッド・ライアン 、 出版  青土社
私はガラケーしかもちませんし、ラインもしません。カードは乗り物用だけですし、クレジットカードも飛行機とホテルでしか使いません。
私の行動履歴が他人に知られるのが本能的に嫌なのです。スタバなどに入ってカフェラテを飲むときも、映画館に入るときも、すべて現金です。ポイントカードが貯まります、なんて言われても、その代わりに私の好みや行動が筒抜けになるんでしょ、そんなの嫌ですよ・・・。
「隠すことがないなら、恐れることもない」
「上品な市民は何も恐れるべきではない」
「無実」なら、いかに政府の監視システムが強化されようとも、生活に影響はない。政府は、そう信じさせようとしている。
しかし、新たな監視技術によって、「隠すことがないなら、畏れることもない」という前提は、システムとして掘り崩されつつある。今では、合理的な根拠がなくても、たとえ本人が隠しごとをしていなくても権力によって、ある日、突然に容疑者にされることがある。
監視によって利益を得る人はごく一部だが不利益を受ける人は、おおむね経済状態、民族、ジェンダーなどの点で既に不利な立場に置かれている人々。そして、どんな人でも不利をこうむる可能性がある。
顔認識技術は、写真のネットワーク化や、個人のデジタル映像の整理によく利用されている。しかし、この技術は、同時に警察や公安組織からも大いに利用されている。フェイスブックも、国土安全保障省(アメリカの公安組織)が積極的に捜査のために活用している。
フェイスブックやラインで個人情報を大胆にオープンにしていると、それをのぞいている組織があり、情報を集約しているというのです。恐ろしい時代になりました。
ガラケー人間は、どこまで、いつまで、その存在が許容されるのでしょうか・・・。人体実験が進行中です。
(2019年5月刊。2600円+税)

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