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カテゴリー: アメリカ

歌え、葬られぬ者たちよ、歌え

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ジェスミン・ウォード 、 出版 作品社
先日のアメリカでの白人警官による黒人男性殺害事件は、あまりの残虐さに私も息が詰まる思いがしました。
動画をみましたが、白人警官は膝を黒人男性の首に押しあて、息が出来ないといっているのにまったく動揺することなく平然として首を圧迫し続けています。それは黒人男性を自分と同じように息をする人間と考えていないことが明らかな映像でした。黒人差別そのもので、アメリカの野蛮さを改めて見せつけられ、悲しくなります。
そんな黒人差別をトランプ大統領は問題とすることなく、抗議に立ち上がった人々を頭から暴徒視するばかりです。こんなトランプ大統領にへいこらこびへうらうばかりのわが日本の安倍首相にも、ほとほと愛想が尽きました。
この本は、全米図書館賞を受賞したということですが、13歳黒人少年の一家を取り巻く厳しい社会状況がこれでもか、これでもかと細かく描写されていきます。
少年も妹も、これから無事に大人になれるのだろうか、やがて事故や薬物中毒などで生命を落としてしまうのではないか…。そして、その前例は身近にごろごろしているのです。
少年の母は、少年を愛情もって育てることなく、育児放棄してしまいます。
父親はパーチマンと呼ばれる刑務所に入っています。5万エーカーの広さもある畑で、2千人もの男たちが班に分かれて農場の仕事に従事します。ところが、そこから脱走しようという人間も出てくるのです。
もちろん、脱走が簡単に成功するはずはありません。何か事件が起きるストーリーというより、家族それぞれの心理描写が細かくて、家族の状況とそれを取り巻く人々の動きが詳細に描写されている絵となっています。
ぜひ、あなたもまずは本書を読み、それからアメリカの黒人差別を取りあげた映画「ハリエット」などをみてみてください。アメリカという国の本質がつかめることと思います。
(2020年3月刊。2600円+税)

ハーレム・チルドレンズ・ゾーンの挑戦

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ポール・タフ 、 出版 みすず書房
いとこも、おじも、父親も、みんな刑務所に入ってるようなコミュニティで育つ子どもは、刑務所に行くなんてたいしたことじゃない、そう思って育つだろう。出会った大人がみんな刑務所に行ったことがあるようなら、大勢に子どもを失うことになる。子どもたちはそんな大人を尊敬し、いとも同じ環境に吸いこまれてしまう。
反対し、もし大学に入った子どもが何百人もいたら、少なくともハーレム地区で貧困のうちに大人になるのとは違う見通しが得られる。
このプログラムの目標は、子どもの学力をトップレベルまで引き上げることではなく、10代の若者をほどほどの成功へと誘導すること。つまり、犯罪から遠ざけ、何かを達成させ、高等教育のプログラムを受けさせること。
この本は、ハーレムに住む子どもたちを全体として大学に行けるようにすることを目指す苦難の取り組みを紹介しています。こうやって成功しました、という単純なストーリーではありませんが、着実に成果は上がっているようです。大学に入った子どもが150人いたとか284人もいたという数字も紹介されているのです。刑務所に行ったり、途中で殺されたりするより、大学に入ることは、よほどましなことですし、次に続く子どもたちに良き手本となるに違いありません。
でも、このプロジェクトのためには人材とお金が必要です。幸い、アメリカは懐(ふところ)が深い人がいて、投資家などの大金持ちが相応の寄付をしてくれるようです。でも、そのためには当然のことですが目に見える成果もあげないければいけません。
そのとき、出来る子どもをさらに伸ばすというのは容易でしょうが、成績が底辺にあって、親の協力も難しい子どもたちを全体として底上げするというのは、それを聞いただけでもきわめて困難な課題だということがよく分かります。でも、そこに果敢に挑戦していくのです。
アメリカにも、こんな人々がたくさんいて、だからこそオバマ大統領は誕生したんだな、サンダースもがんばれたんだな、そう思わせる取り組みです。
アメリカの主流である中産階級の一員として、立派に社会的役割を果たせる大人に成長してほしい。そのためには、思春期を生き延びて高校を卒業し、大学に入学して、きちんと卒業する。このためには何をなすべきなのか…。
支援プログラムへの参加率が10%くらいだと、参加者が近隣住民に与える影響はほとんどない。ところが、参加率が60%になると、プログラムに参加するのがあたりまえになり、同時に周囲の価値観も変わってくる。
ハーレムの一区画に3000人の子どもが暮らしていて、その60%は貧困ラインより下の生活水準で、4分の3は読解力と算数の試験でいつも全国平均下まわっていた。
アメリカの刑務所を運営している人物は、3年生に注目している。毎年、3年生の試験の成績をみて、20年後にどれだけの監房が必要になるのかを予測する。
この話は、ほかの本でも同じことを読みましたので、本当だと思います。小学校の成績(勉強の到達度)が大人になってからの犯罪者数を予測できるなんて、実に恐ろしいことです。
マンハッタンで暮らす、5歳未満の子どものいる白人家庭の平均年収は28万4千ドル。ところが、同じ条件の黒人家庭の平均年収は3万1千ドル。これでは、とても子どもたちは同じスタート地点に立っているとは思えない。
ハーレムの若者の平均寿命はバングラデシュの若者の平均寿命より短い(1990年)。
ハーレム地区の殺人による死亡率は、ニューヨーク市全体の14倍。
1991年、銃撃による死亡はアメリカの15歳から19歳までの黒人男性の死因の第一位で、全死亡者数の半数。ハーレムでは銃と麻薬が問題だ。
プログラムの一環として、日常生活のあらゆる場面で子どもにたくさん話しかけることを親たちに促した。
勤勉と品行方正の二つを子どもたちに守らせる。そのため親と生徒に契約書にサインさせる。できなければ退学。こんな方法もありますが、この本では、そうではない手法で進めようとしています。当然、大変な困難にぶつかります。
「腐ったリンゴ」を排除していくやり方は本当に正しいのか、それで当の本人も、周囲の子どもたちも救われるのか、果たして解決になるのか…、難しいところですよね。
里親に養育されている子ども、離婚した両親が親権を争っている子ども、兄弟が刑務所にいる子ども、夜眠るにも静かな場所のない子ども、怒りを抱えていたり、抑圧されていたり、ただ悲しみに暮れている子ども、いろんな子どもがいる。
子どものころ言葉のシャワーを浴びることが脳の発達にいかに強烈な影響を与えることか…。子どもが印刷された単語を読む能力のレベルは親の収入のレベルとほぼ一致する。
幼少期に読解が得意だった子どもは、長じてすばらしい読みになる。
アメリカはニューヨークのハーレム地区における素晴らしい教育実践のレポートです。
私は、この本を読んで、アメリカもまだまだ捨てたもんじゃないと思いました。少し高価ですので、ぜひ図書館に注文して借りて読んでみてください。
(2020年5月刊。4500円+税)

私が愛する世界

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ソニア・ソトマイヨール 、 出版 亜紀書房
アメリカ初のヒスパニック系女性で最高裁判事である著者が自分の半生を振り返った本です。
アメリカの連邦最高裁判所の判事って、たった9人しかいなくて、しかも終身制なんですね。著者は2009年にオバマ大統領から任命されました。
著者はプエルトリコ出身です。1954年生まれで、8歳のとき糖尿病と診断され、ずっと毎日インスリン注射を1本うってきました。ときに意識不明になることがあり、そのときはケーキか何か甘いものを補給しなくてはいけません。大変な生活ですよね。
父親はアルコール依存症となり、42歳の若さで死亡。著者が9歳のときのこと。
著者はテレビの『ペリー・メイスン』をみて、弁護士を志した。しかし、同時に判事のほうが常識的な仕事だと思った。
弁護士(または判事)になろうとするのなら、説得力ある、確信をもって言い方を学ばなければならないことに気がついた。
たしかに、自信のない言い方では説得できませんよね…。
著者はよほど頭がいいようです。ニューヨーク州の高校在学中に統一試験(リージェント試験)で100点満点をとり、教師からカンニングしたのではないかと疑われたほどです。
プエルトリコ人に手を使わずに話せだなんて、鳥に飛ぶなというようなものだ。
こんなたとえが出てきます。身ぶり手ぶりつきで話すのがプエルトリコ人なのですね、きっと…。
何かを論証しようとするときには、自分の感情をわきまえるのと同じく、聞き手の感情も考慮する必要がある。要するに、聞いてくれる耳をもってくれないと会話は成り立たないのです。
ハーバード大学でもイエール大学でもなく、著者はプリンストン大学に入りました。すごいですね…。そして、ロースクールはイェール大学に入ります。学生が180人しかいない少人数制が気にいったようです。
そして、地区検事助手を振り出しに、検察官となり、弁護士事務所に入り、ついに念願の連邦地裁判事になったのでした。検察官のときは、逮捕現場にも行っていたようです。
そのころの写真を見ると、バイタリティーあふれた顔つきで、正直いって怖いほどです。
著者は夢をあきらめない人。意思が強くて楽観主義者。物事の真相を見きわめる理性的なまなざしをもつ。
共和党に誘われたが、断って無党派のままでいた。そして、プエルトリコ人のための協会で活動もしたが、それが連邦裁判所の裁判官になるのに障害にならないようにしてくれる人脈があった。
決して自慢話のオンパレードではないのですが、あまりにも頭が良いからでしょうか、どれほどの努力をしたのか、そのやり方などをもっと語ってほしかった…、という思いが残りました。
さて、日本でも女性の最高裁判事は何人も出ています。大牟田の高校(北高)を出て九大から官僚になり最高裁判事になった人もいましたが、総じて日本の女性裁判官は印象が薄いですね。残念です。
(2019年10月刊。2600円+税)

アメリカン・プリズン

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 シェーン・バウアー 、 出版 東京創元社
アメリカでは刑務所までが民営化され、私企業による金もうけビジネスの場となっていることは知っていましたが、実はその歴史は大変古いものだったのでした。そして、勇敢なジャーナリストが民営刑務所の職員に志願して潜入したのです。
民営化刑務所では、当然に金もうけ優先なので、なすべきことをせずに経費節約として人件費等をバッサリ切り捨てていった。すると、当然のことながら、刑務所内部は荒廃していった。矯正教育どころではない。時給わずか9ドルの刑務官が丸腰で1人あたり176人の受刑者を監視するという、とんでもない状態が生まれた。
受刑者が荒れたら、刑務官のほうもストレスがたまる。みんな長続きしないので、刑務所を運営する会社はどんどん求人する…。
平均して刑務官の3分の1がPTSD(心的外傷ストレス障害)に悩まされている。これは、イラクやアフガニスタンからの帰還兵士よりも多い。刑務所内のあちこちに、職員向けの自殺防止ホットラインのポスターが貼られている。刑務官の自殺率は平均すると一般市民の2.5倍。そして、刑務官の寿命は短い。自殺しながった者も、平均寿命よりも10年も早く死んでいる。刑務官の仕事は、とにかく危険すぎる。敵をおおぜいつくったことをよく覚えていたほうがいい。
受刑者の3分の1は精神的な問題をかかえていて、4分の1はIQが70未満だ。
刑務所が人を更生させるって、よく言われるけれど、人を更生させるのは刑務所ではない。自分で自分を更生させるしかない。
アメリカの大部分の刑務所には、はっきりした人種の溝がある。アーリアン・ブラザーフッドやメキシカン・マフィアなどの人種別の刑務所ギャングによる所内政治が存在する。
刑務所の収容者の75%が黒人、25%が白人の刑務所では、異なる人種どうしが一緒に食堂のテーブルを囲み、運動場にたむろし、大部屋で眠る。
一般的な刑務所は人件費に次いで多いのは医療費。ルイジアナ州の刑務所は、平均して予算の9%を医療費に充てている。州によってはさらに高く、カリフォルニア州のある刑務所では予算の31%を医療費が占めている。
ほとんどの受刑者には、弁護士を雇う余裕はないので、裁判に勝つのはほぼ不可能になる。それでも、CCAは2008年までの10年間で600件の裁判で和解している。
現金がなければ刑務所で生きていくのは、ほぼ不可能。一般国民が合法的にお金をつくる唯一の方法は血を売ることだった。また、新薬の治験者も割が良かった。
アメリカの刑務所人口は増え続けている。10年間で、26万3千人から54万7千人に倍増した。そして、2009年のピーク時には州刑務所と連邦刑務所をあわせて160万人に達した。刑務所は利益を生むどころか、州と国のあわせて年間800億ドルの費用を要するようになった。
民営刑務所は公営刑務所より受刑者同士の傷害事件が28%多く、民営刑務所の受刑者は公益刑務所の受刑者の2倍近くの武器を持っている。
移民収容所は、民営刑務所の足をひっぱっている。民営化された監視塔に人員を置かなくなったのと同じころに、作業プログラムも削られた。職業訓練プログラムの多くが廃止され、工房は物置になってしまった・・・。
日本もアメリカにならって、刑務所の民営化をすすめていますが、いったい民営刑務所の真実の姿を私たちは、どれだけ知っているでしょうか…。アメリカの民営刑務所内に突撃したジャーナリストの勇敢さをたたえます。
(2020年4月刊。2100円+税)

正義の行方

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 プリート・バララ 、 出版 早川書房
インド系のニューヨーク連邦検事の見たアメリカの司法の現実です。
司法権の独立を守るためトランプ大統領とたたかって連邦検事を罷免されたとのことですが、その点の詳細は語られていません(見落としたかな…)。
著者は2017年3月11日、トランプ大統領によって、突如として連邦検事を罷免された。
ときに裁判官は正義の追及を忘れ、自己保身のための行動をとることがある。
この点は、日本もアメリカも同じだということですね…。
裁判官がつねに公平無私な判断をできるとはかぎらない。裁判官は、ただ事実に法律を適用して、ボールとストライクを判定しているわけではない。裁判官は、すべてを超越した存在などではない。裁判官をふくめたすべての人々は、戦略や戦術を利用しようとする。裁判官は、ときに安易な物々交換に手を出してしまう。上級裁判所による逆転判決をやけに気にする裁判官の気質を理解している検察官は、抜群のタイミングでレバーを押すことができる。大切なのは気づきだ。
裁判官の背中を押すものは何か…。潜在的な自己利益、うぬぼれ、偏見の影響力を弱めるには、何が必要なのか…。
孤立した部屋に追いやられた裁判官たちは、自ら落ち度はなくても、悪い癖や居丈高な態度を保ったまま法廷に出つづけることが多い。このような傾向は、正義に対する認識に悪い影響を与えかねない。
被告人をひとりの人間として敬意と尊厳に値する人物として扱う裁判官はたしかにいる。しかし、法廷にいる私たちは、みなそれを忘れがちになる。
法廷で、いちばん重要なことは何か…。もちろん、準備、専門的技術、雄弁士も大切だ。しかし、法廷でなにより重要なのは信憑性だ。信憑性があれば、あなたの物語は、より信用してもらえる。譲歩は、弱さではなく、強さの証だ。なぜなら、譲歩は、あなたの信憑性を高めてくれるからだ。
法律はたんなる楽器であり、人間のかかわりがなければ、ケースにしまわれたままのバイオリンのごとく無意味で、無力なものでしかない。
人間によって正義が果たされることもあれば、逆に阻(はば)まれることもある。人間によって寛大な措置が施されることもあれば、拒否されることもある。
密告者…。裏切り者の存在は、多くの犯罪捜査にとって欠かせない。崩壊は決まって内部から始まる。しかし、検察との協力(協力したとの疑い)のため、数えきれない人が、この世から葬り去られた。
誰かを協力者として寝返らせるための戦略は、賢い尋問のための戦略とそれほど変わらない。大げさな感情表現や芝居など必要なく、むしろ逆効果でしかない。優秀な捜査官や検察官は、相手を脅したり威嚇したりせず、きっぱりした事務的な口調で話す。
協力するかどうかという判断は、いわば費用対効果の分析だ。見返りもなしに何かを与えるような人を説得するのは難しい。これは実利的な取引であり、正義をまっとうするための手段でもあるのだ。
長く司法界にいただけあって、アメリカと日本とでは制度は異なっても、共通するところが大きいと実感しながら興味深く読みすすめました。
(2020年3月刊。2900円+税)

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