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カテゴリー: アメリカ

アウトロー・オーシャン(上)

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 イアン・アービナ 、 出版 白水社
タイの遠洋漁業の漁船の乗組員は、まさしく奴隷。ひんぱんに暴行され、ときには殺害されてしまう。この本は、こんな記述から始まります。驚きました。洋上でのんびり釣りをしている光景とはほど遠い悲惨な状況があるのです。
違法操業船「サンダー」の乗組員40人の大半はインドネシア人。幹部船員はスペイン人が多く、船長はチリ人。スペインの犯罪組織は、魚の密漁にも手を染めている。
水産物の違法取引は年間取引額が1600億ドルと推定され、今やビジネスとしてグローバル化している。それにはテクノロジーの向上が背景にある。高性能のレーダー、漁網の大型化、漁船の高速化により、水産資源を驚くほど効率的に略奪できるようになった。
1970年代初頭にグリーンピースが結成され、海の環境保護活動を始めた。そして、そのなかからシーシェパードという過激で攻撃的な組織が生まれた。
公海を定期的に巡礼して違法行為を取り締まる組織は、グリーンピースとシーシェパード以外にはいない。彼らは、目的は手段を正当化すると考えている。
シーシェパードは、5隻の大型船と数艘の高速硬式ゴムボート、ドローン2機、24ヶ国から集まった最大120人の即時対応可能な乗組員をかかえている。その活動資金は著名人たちの寄付に頼っている。年間予算は400万ドル。
シーシェパードは、世界中の海洋生物を守るためなら、法律のあやなど気にせず、「直接行動」する。日本の捕鯨船などへの体当たり攻撃も繰り返している。
シーシェパードの船上生活は厳格に管理されている。午前7時にミーティング、そのあと、各自が割り当てられた雑用(トイレ掃除など)をこなす。水の節約のため、シャワーは1日3分以内。すべてのメールは、船のメインサーバーを介して行われる。海賊の襲撃を招きかねないからだ。酒とタバコは禁止。トレーニングルームがある。夜には読書会。
乗組員の半数は女性で、ほぼ全員が大卒以上の学歴をもつ20歳から35歳までの若者。洋上での労働時間は、人並み以上。
海洋資源は無尽蔵だという思い込みのもとに、水産物の乱獲がすすんでいる。
海では、法の力は及ばない。海事法では、その船舶が船籍登録している国の法律のみが適用される。海の上では、法律は船舶の乗組員ではなく、その積み荷の保護に重きを置いている。積み荷を重視し、乗組員を軽視する傾向は、会場で共通している。
保険金詐欺も横行している。悪徳運搬会社が船を沖合に出させ、そこで故障して航行不能になったので、自沈させたという「事故」を起こす。もちろん、実際には沈めない。そして得た保険金を運搬会社と整備しで折半する。そして沈めたはずの船は船名を変え、掲げる国旗も変えて、別の船に生まれ変わる。
海の世界では、ギリシアは超大国だ。ギリシアの著名な海運王一族のほぼ半数が、幅7キロの海峡を挟んでトルコと向かいあうヒオス島の出身だ。
フィリピンほど多くの船員を世界の海に送り出している国はない。フィリピンの人口が世界人口に占める割合は1.2%ほどなのに、商用船舶の乗組員でみると25%になる。2016年の時点で、40万人のフィリピン人が幹部船員や甲板員、漁船乗組員、クルーズ船の船員などとして働いている。
世界の海が今どうなっているのか、知らないことだけで、大変勉強になりました。
(2021年7月刊。税込2640円)

カマラ・ハリス

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 カマラ・ハリス 、 出版 光文社
アメリカの副大統領の自伝です。女性初、黒人初、アジア系初という女性です。
アメリカは軍事力に頼ってばかりのマッチョな国という側面も強いのですが、こうやって女性の副大統領が誕生するという面もあわせ持っている不思議な国です。残念ながら、日本では女性首相の誕生はまだまだ先のようです。
カマラ・ハリスは移民の娘として生まれ、カリフォルニア州のオークランドで育った。父親はジャマイカ出身の経済学者、母はインド出身のがん研究者。両親は、カリフォルニア大学バークレー校の大学院生のとき、公民権運動を通じて出会った。やがて離婚し、カマラ・ハリスは母親に育てられた。
カマラ・ハリスは、ロースクールを出て地方検事補になり、サンフランシスコ地方検事に選ばれ、その後、カリフォルニア州司法長官に選出された。さらに上院議員となり、今や副大統領。カマラ・ハリスがカリフォルニア州で上院議員になるのは、黒人女性としては初めて、アメリカでも史上2人目だった。
カマラ・ハリスは、名門の黒人大学として有名なハワード大学に入学した。1年生のときには、学生自治会の1学年代表に立候補し、当選した。
ハワード大学を卒業してオークランドに戻り、UCヘイスティングス・ロースクールに入学。そこでは2年生のとき、黒人法学生協会の会長に選ばれた。
カマラ・ハリスは司法試験には一度、不合格になってショックを受けました。努力家で、完璧主義者なので、ショックは大きかったようです。それでも、二度目に合格し、地方検事局での仕事を続けました。
カマラ・ハリスがロースクールを出て検察官になったのは、刑事司法改革の最前線に立ちたい、弱い人たちを守りたいという思いから。
アメリカには、検察官の権力を不正の手段として悪用してきた、深くて暗い歴史がある。
性暴力の被害者は、すさまじい痛みと苦しみを抱えている。この心的外傷に耐えて、法廷で証言するには、並大抵でない勇気と心の強さが必要だ。
サンフランシスコ検事局は、惨憺たるありさまだった。放置され、捜査がなされず、起訴されていない未処理案件が山ほどあった。職員の士気は地に墜(お)ちていた。
カマラ・ハリスがサンフランシスコ検事局に2年間つとめていたあいだに性的に搾取されている多くの人を救った。家出した多数の少年少女を救い、市内にある35軒の売春宿を検挙した。これはすごいですね。
アメリカという国全体がそうであるように、サンフランシスコは、多様でありながら、人種差別が根強く残っている。「人種のるつぼ」というより、「寄せ集め」といったほうがよい。
カマラ・ハリスは刑事司法改革に取り組んだ。地方検事として2期、州司法長官として2期近くをそのために捧げ、上院議員となって1ヶ月半で刑事司法改革法案を提出した。
アメリカは刑務所の収監人数が世界で一番多い国。2018年、州と連邦刑務所の収監者数は合計で210万人以上。この数より人口が少ない州が15もある。大勢の人たちが麻薬戦争によって、その中に引きずり込まれた。
アメリカの保釈金の中央値は1万ドル。ところが所得が4万5千ドルの世帯の預金残高の中央値は2530ドル。つまり、勾留される10人のうち9人は保釈金を支払う余裕がない。
刑務所の収監者の95%は裁判を待つ人々。出廷までのあいだ刑務所に収容するのに、1日3800万ドルのコストがかかっている。黒人男性の保釈金は、同じ犯罪で捕まった白人男性より35%高い。ラテンアメリカ系の男性だと20%高い。これらは偶然の結果ではない。2001~2010年のあいだに700万人以上が大麻所持だけで逮捕された。そのうち、黒人とラテンアメリカ系の人数が不釣りあいに多い。2018年の初め3ヶ月間にニューヨーク市警が大麻所持で逮捕した人の93%は有色人種だった。黒人男性の麻薬使用者の割合は白人男性と同じだが、逮捕されるのは黒人が白人の2倍。しかも、黒人男性の支払う保釈金は白人より30%高い。黒人男性は白人男性より6倍も収監される可能性が高い。有罪判決を受けたとき、黒人男性の刑期は白人男性より20%も長い。
リーマン・ショックによって、840万人が仕事を失った。2ヶ月以上も住宅ローンの支払いが遅れているマイホーム所有者は500万人。うち250万件の差押が進んだ。そこで、カマラ・ハリスは銀行と果敢にたたかい、銀行から200億ドルもの補償金を勝ちとった。当初の呈示額は20~40億ドルだった。それでも、大勢の人が家を喪った…。いやあ、本人の自慢話とはいえ、よくぞがんばったものです。
アメリカは、全国をカバーする公的医療制度がない。収入の多い少ないで、受けられる医療のレベルが異なるというのがアメリカの医療の実際。なので、もっとも裕福な層の女性と最貧困層の女性とでは、平均寿命に10年もの差がある。アメリカ人が負担している薬代は、とんでもなく高額。なので、医薬品の処方を受けている人の4人に1人は、薬代を捻出するのに苦労している。アメリカの製薬業界は、現在の制度を維持するためのロビー活動に10年間に250億ドルも投下している。
大変な差別と不平等が今もまかり通っているアメリカですが、この本に書かれている方向で、カマラ・ハリスががんばってくれることを心から願います。読んで元気の出る本でした。
(2021年6月刊。税込2200円)

アウトロー・オーシャン(下)

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 イアン・アービナ 、 出版 白水社
「ニューヨーク・タイムズ」紙の記者が世界の海を駆けめぐって、海の「無法地帯」を暴いています。それはそれは、すさまじい犯罪のオンパレードです。
下巻でとくに印象深かったのは、豪華クルーズ船にかかわる犯罪です。
クルーズ客船稼業は、もうかるビジネスだ。なにしろ100万人をこえる乗組員が働く450隻以上もの大型客船が世界の海を駆けめぐり、年間で500万人超の客を乗せ、1170億ドルも稼ぎ出している。この産業も違法行為と無縁ではない。
クルーズ客船で起きている犯罪は、まず廃油や廃水の不法投棄。何千人もの乗客を収容する巨大クルーズ客船は小さな町の下水処理場ならキャパオーバーになりそうなほどの生活排水を海に流している。クルーズ客船は汚染物質をたっぷり含んだバンカー重油を燃料としている。この処理にはそれなりの費用がかかるので、生活排水と混ぜてたれ流している。
なにしろ、海は広大で、フツーの人には見えませんからね…・。
そして、乗客や乗組員への性的暴力。また、売春が横行している。クルーズ客船で働く100万人もの人々は、自分たちの職場は、天国と地獄とが共存する世界だと知っている。
次は、漁船における、すさまじい奴隷労働。タイの漁船で船員として働いているのは、不法就労者か、人身売買の結果としての奴隷労働。
タイの巻き網漁船の中の寝室にハンモックがある。床にはネズミがうじゃうじゃいるからだ。
タイの港の近くにあるカラオケバー兼売春宿の写真があります。人買いたちは、こんな店を経営し、国外からの出稼ぎ労働者に眼をつけて漁船で働かせる。売春させられる女たちも、漁船で働かされる男たちも、どちらも借金でしばりつけられる。
大半は人身売買で国外から連れてこられた女たちは、やはり人買いに連れて店にやってきた男たちに性サービスを提供して罠(わな)にかけ、最終的に漁船送りにする道具として使われている。
「海の奴隷」(強制労働)は、海に長期間とどまる漁船ほど、より顕著に見られる。
今のやり方で漁業を続けていれば、水産資源は遠からず枯渇してしまうだろう。海洋科学者たちは口をそろえて訴えている。
減量産業。年間2500万トンもの天然魚を魚油やサプリメントそして家畜用肥料の魚粉に加工している巨大産業。このサプリメントは健康にいいとされているが、実際には、それほどの効果が認められていない。しかし、依然として大人気だ。
海は広大だ。広大なため、違法操業船は、やすやすと政府が設定した漁獲割当量をごまかしたり、操業禁止区海域に侵入したり、海洋保護区の魚介類を略奪できる。
アメリカに輸入される天然魚介類のうち、違法操業でとられたものが20%をこえている。
日本のクジラとり大型漁船とシーシェパードのたたかいも紹介されていて、公海での違法操業は日本人とも密接な関わりのある問題だと痛感させられました。
(2021年7月刊。税込2640円)

ハーベン

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ハーベン・ギルマ 、 出版 明石書店
ハーバード大学ロースクールで初めての盲ろう女子学生だった著者は、今は障がい者問題を扱う弁護士として活躍しています。アフリカはエチオピア内のエリトリア出身です。表紙の著者の横顔からは、とても盲ろう女性とは思えません。大きく目を見開いて正面を見ているからです。
盲ろうとは、見えないし、耳が聴こえないということです。日本には東大の福島智教授がいます。このコーナーでも福島教授をめぐる本を紹介しています。
著者は途中からではなく、生まれつきの盲ろう者ですが、12歳のころまでは、部屋のソファーに誰が座っている輪部がぼんやりとは見えていました。今では、形ははっきりせず、色はまだらのようにしか見えません。聴覚のほうも、高周波の音はよく聞こえていたし、12歳のころまでは両親が隣に座ってはっきりゆっくり話すと声が聞こえていた。
今は、携帯型点字対応コンピューターに接続されたキーボードを使っている。
オバマ大統領とホワイトハウスで面会して、この携帯型点字対応コンピューターを介して会話したことが、写真つきで紹介されています。オバマ大統領は10本の指をつかってパソコンをたたいて著者と対話したようで、その状況の写真があります。
ただ、残念なことに、この特別コンピューターを盲ろう者がどうやって意思疎通できるのか、私には技術的なところが理解できませんでした。誰か教えてください。
盲ろうの著者にとって、通常の補聴器は役に立たない。難聴のタイプは通常のものとは違うから…。ただし、著者自身は、盲ろうの世界しか知らないので、居心地がよくて、なじみのある、この世界を気に入っている。ただ、著者は、その世界から出ていかないといけない。その努力をしないと、世の中とまじわることはできない。
盲導犬マキシーンとの出会い、そして訓練課程を経てマキシーンと一緒に行動するようになるまでは、いろいろありました。マキシーンが室内でオシッコしてしまったりするのです。それをなんとかクリアーするわけですが、盲ろう者なので、本当に大変だったことだろうと思います。そんな世話になったマキシーンもやがて死んで、今は二代目の盲導犬に著者はお世話になっているのでした。
盲導犬と歩くのは、すばらしい気持ちだ。マキシーンは流れにそって歩き、障害物もらくらくと避けてくれる。白杖をつかって障害物と避けるためには、まず白杖でそれを触ってみなければいけない。ハーネスを長いあいだ持っていても、白杖をもって歩くよりも腕は疲れなかった。
公益のために働く弁護士をしている著者の報酬は、一般のハーバード・ロースクール卒業の弁護士に比べると、ずっと低いものの、公益弁護士の収入は、視覚障害のあるアメリカ人の平均収入は上回っている。なにしろ70%の視覚障がい者は無職だから。公益弁護士でも、学生ローンの返済はできるように、ハーバード大学定収入保護制度を利用した。
アメリカには、障害をもつ人は5700万人以上いる。世界全体では13億人。企業が障がい者の存在を前提として、サービスや製品デザインを奇抜なものにすれば巨大な市場が開拓できる。そこで、著者は2016年に起業した。障がい者の権利のコンサルタントや文書作成、パブリックスピーキングなどのサービスを提供する会社だ。なーるほど、すごいですよね…。
著者は巻末に発信してはいけない否定的メッセージを列挙していて、参考になります。たとえば、障害のない人たちは、自分に障害のないことに感謝すべきであると発信すること。これでは、障害をもつ人たちが、いつまでたっても「のけもの」のままという結果を生んでしまう。
盲ろうというハンディキャップがあるにもかかわらず、すごく前向きな生き方に圧倒されました。
(2021年5月刊。税込2640円)

奇跡の地図を作った男

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 下山 晃 、 出版 大修館書店
今から200年以上も前のカナダを歩いて地図をつくりあげたディヴィッド・トンプソンの生涯をたどった本です。日本にも江戸時代に伊能忠敬が日本全国を歩いて日本の精密な地図をつくりあげましたが、トンプソンは、スケールが違います。
伊能忠敬は10年かけて日本全国を歩いたのが3万3700キロメートル。トンプソンは生涯に10万キロほどを、マイナス40度のカナダの酷寒の山岳・森林地帯のなか、カヌーと馬と犬ゾリ、そして徒歩で歩きまわった。しかも、そこにいた先住民に敬意を払い、その言葉を習得し、生活と文化を理解し、白人と先住民の混血の女性を妻として、ときに一緒に調査旅行に出かけた。
トンプソンは1770年4月、イギリスはロンドンの貧民街で生まれた。ベートーベンと同じ年の生まれ、日本では江戸時代の中期、田沼意次のころ。
トンプソンは貧乏ながら、イギリスの慈善学校に学び、とりわけ数学に優秀であったため、カナダのハドソン湾会社に入社することができた。
当時は、毛皮やフェルト帽が大流行していた。毛皮を扱う商売はボロもうけができた。ビーヴァーが乱獲されていた。黒人奴隷も金もうけのタネとして取引されていた時代だ。
トンプソンは14歳でカナダに渡り、見習い奉公人(サーバント)として、安い賃金で働かされた。
この当時のカナダは、人種差別の激しい国でもあった。
トンプソンは、カナダの先住民であるクリー族やビーガン族などの言葉と文化を積極的に学び、またフランス語も学習した。
蚊やダニが多く、悩まされる土地なので、蚊にかまれる部位を少しでも減らすため、髪の毛は先住民のように肩まで伸ばし、ツバ広の帽子をかぶった。
トンプソンは、17歳のときキャンプ地に送られ、そこで上司からいろんな知識やノウハウを叩きこまれた。毛皮獣の棲息分布の調査の仕方、毛皮取引に必要な知識、カヌーの漕ぎ方、つくり方、保存食としての鳥や獣の肉の塩漬け方法、薪割り、土起こし、毛皮の圧縮、帳簿付け、報告書の作成方法、運搬・交易ルートのたどり方。
また、現地先住民の言葉、気質、特質についても教示された。
先住民の社会は、バッファローの狩猟を基盤とした「民主的な」社会で、女性の役割も尊重されていた。
ところが、トンプソンは滑落事故により右脚を複雑骨折し、その生涯、右脚を引きずりつつ歩行することになった。また望遠鏡を熱心に見ているうちに太陽光をまともに受けて右目を失明してしまった。厳しい天候・気候のなか、川からカヌーを引き上げて別の川や湖まで抱えて運んだり、峻険な崖を登ったり、健常者でも体力の限界をふりしぼるような作業を連日ともなうのが測量の仕事。これをトンプソンは、やり遂げた。
ハドソン湾会社も競争相手の北西会社も、先住民との毛皮取引にあたって、アルコール漬け戦略を用いていた。先住民を酔いつぶして、莫大な利益をむさぼった。
ヨーロッパにもビーヴァー皮を送り届けると、1枚で40万円から80万円もした。毛皮はステイタスを誇示する「柔らかな宝石」であり、「森の黄金」だった。
トンプソンは、カナダ森林地帯の探索・測量を続けるとき、アルコール(うん酒)を悪用しないと強く決心していた。それは、先住民のその豊かな文化に対する深い敬慕の念にもとづくものだった。
トンプソンは現地での測量を引退したあと、家族とともに悠々自適の生活を送るはずでしたが、勤めていた会社が破産してしまい、晩年は貧窮の生活を余儀なくされてしまった。
また、その成果の測量図も、他人の成果として世に紹介され、「測量日誌」をまとめても生前に刊行されることなく死蔵されてしまった。しかし、死後、その日誌は発掘され、測量図がトンプソンによるものということが確認されたあと、ついにトンプソンの偉業は正しく評価されるようになった。
トンプソンは、争乱もつきまとうカナダの山岳地帯を、零下40度という極寒の冬場に周回するなど、長年にわたって、ほかにはまったく前例・同類のない異色の「夢追い人」だった。
伊能忠敬の伝記にも圧倒されましたが、このカナダの測量探検家の偉業には思わず息を呑み声も出ないほどでした。
(2021年8月刊。税込2640円)

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