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カテゴリー: アメリカ

逃亡者の社会学

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 アリス・ゴッフマン 、 出版 亜紀書房
 アメリカの大都市の一つ、フィラデルフィアの黒人居住区に白人(ユダヤ人)の若い女性(社会学者)が入りこんで6年ものあいだ黒人家庭の生態を観察したという大変貴重な記録です。司法の裏で、闇の商売が成り立っているというのには、まさかと驚きました。
 刑務所の看守のなかには、職業上の立場を活用して、お金を工面できるよう被告人たちに対して特別な免除・恩恵を与えている。たとえば、ケータイを売る。薬物やナイフを売っている。また、女性とのプライベートな時間、セックスする時間を15分で100ドルで売っている。
 保護観察所で面談のとき尿検査される。その尿が売られている。買った尿を内股にテープで貼り付けておいて、採尿用のコップに入れる。運転免許証の偽造もある。1000ドルで売られている。
 警察の捜査官は、ケータイの位置情報を追跡して、指名手配犯をリアルタイムで追っている。
 黒人居住区に生活する若者は、まず初めに警察官に対して強く意識する。どんな姿で、どのように移動し、いつどこに現れそうか…。覆面パトカーの車種、警察官たちの体型や髪形、その巡回するタイミングと場所を覚える。そして、予測不能な日常を心がける。
 指紋をとられないように留置場で、鉄格子に指先の皮膚をこすりとってしまう。
 2000年代半ばから、パトカーにはID照会用のコンピューターが装備されている。偽造IDの使用は困難だし、偽名も警察には通用しない。黒人居住区に住み、指名手配中の若者はIDを使っての買物はしない。何の書類も求められない店を探す。
 警察が逃亡中の男性の妻に対する尋問のなかでは、子どもを取り上げるぞという脅しが一番効果ある。指名手配中の夫は居場所を教えないと、児童保護サービスに通報する必要がある…、と言うと、たいていの母親は口を割る。育児放棄と、不適切な生活環境に現存しているから。
 この黒人居住区に暮らす多くの家族にとって、拘置所や刑務所などは多くの親戚がいる場所にすぎない。
黒人居住区の若者たちは、文字どおりフェンスを乗りこえ、徒歩や車で彼らを追跡する警察から逃げている。ところが、別の場所で成功するための資金やスキルをほとんど持っていないため、この地区にとどまる。彼らを匿(かくま)い、生きのびるのを助けてくれる、家族と隣人たちの寛容さに頼る。
徹底的な取り締まりと、それが統制しようとする犯罪は、互いを補強しあう。犯罪厳罰化政策の皮肉の一つは、それが家族や友情、そしてコミュニティの絆(きずな)にとって、きわめて破壊的であるため、誰もが警察や裁判所そして刑務所が不当でありすぎて、違法性の風土の一員だ。
州刑務所で黒人男性に面会に来る女性の多くは白人だ。
著者は、すごく勇気のある女性です。私には、とてもマネできません。社会学者としてのレポートとしては難があるという批判もあるそうですが、ともかく黒人居住区の実際が活字になってレポートされているのはすごいことです。
(2021年4月刊。税込2970円)

アフガニスタン・ペーパーズ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 クレイグ・ウィッロック 、 出版 岩波書店
 アフガニスタンを軍事的に支配しようとして、アメリカは完全に失敗してしまいました。ソ連(ロシア)の手痛い失敗をアメリカもそのまま繰り返したのです。
 アメリカはオサマ・ビン・ラディンの無法な暗殺には成功しましたが、アフガニスタンという国との関わりにおいて失敗の連続でした。要は、軍事力とそれをバックとしたお金の力では国民を長く治めることはできないということです。ソ連の失敗がそれを証明していたのに、自分ならもっと軍事的にうまくやれるとアメリカは考えていたようです。でも、まったくそのアテは外れてしまいました。
 そこで、アメリカはどうしたか。徹底的に真相を隠し、国民に嘘をつき続け、多くのマスコミもそれに加担したのです。本当に残念な状況がアフガニスタンでは続いています。
 アメリカは20年以上のあいだに77万5千人以上のアメリカ軍兵士をアフガニスタンに配置した。そのうち2300人以上が現地で死亡し、2万1千人が負傷して帰還した。この戦争費用は公表されていないが、1兆ドルを超えているとみられている。
 著者はアフガニスタンに派遣された退役兵士600人以上にインタビューして、その成果をこの本にまとめました。
 当初のアメリカ軍は予測以上に勝利した。ところが、やがて、「終わりの見えない展開」に陥った。2001年12月の時点では、アフガニスタンにいるアメリカ軍兵士は、わずか2500人だけだった。アメリカは、誰と戦っているのかはっきししない(させない)まま、戦争に飛びこんだ。
 アメリカ軍はアフガニスタン現地で、一般のアフガニスタン人と悪者を区別するのに苦労した。だから、住民に向かって無差別銃撃も出来た(した)のですね。恐ろしいです。
 タリバーンの関心は完全に地元にあった。タリバーンの支持者のほとんどは、アフガニスタン南部と東部に住むパシュトゥン人に属している。
 アメリカがタリバーンの活動と呼んでいるものは、実際には部族的なもの、抗争、古くからの確執だった。
 アフガニスタンでの戦争がこんなに長引いた理由の一つは、何が敵に戦う動機を与えているのかを、アメリカは本当の意味でまったく理解していなかった。
 アメリカは、アフガニスタンにおいても、7万人から成る軍隊を創設しようと試みた。ところが、このプロジェクトは、その見かけとは真逆に、最初から失敗していた。
 アフガニスタン人の新兵は、数十年にわたる混乱のなかで基礎教育が受けられなかった。8割近くが読み書きできず、数を数えられなかったり、色が分からなかったりする。単純なコミュニケーションですら、支障をきたした。アフガニスタン人兵士には、基本的な戦闘スキルがなく、絶えず再訓練が必要だった。
 アメリカは、35万2千人のアフガニスタン治安部隊を訓練・維持し、22万7千人を軍隊に入れ、12万5千人を国家警察に所属させた。そのための資金を提供した。
 アフガニスタン軍を訓練するのは難しかったが、国家警察を創設する試みは、さらに大きく失敗した。その給料が少なかったこともあり、多くの警察官は、保護するはずの人々から賄賂を強要する、ゆすり屋になった。
 タリバーンには3種類ある。その一は、過激なテロリスト。その二は、自分たちだけのために参加している。その三は、他の二つのグループの影響を受けた貧しい無知な人々。
 かなりの数のアフガニスタン人は、タリバーンを軍閥と比較してよりましなほうだと認めた。
 ケシの根絶作戦は、政治的つながりや賄賂を支払うお金をもたない貧しい農民に打撃を与えた。疎外された極貧の人々はタリバーンの新兵になっていた。
 タリバーンの弟がアメリカのプロジェクトを爆破し、それから、何も知らないアメリカ人は兄にお金を支払って再建させる。
 アフガニスタンにおける腐敗の唯一最大の発生源は、アメリカ軍の広大な供給網。資金の18%がタリバーンと他の反乱勢力に渡っている。
 2009年から2011年のあいだに、アメリカ軍がアフガニスタンに増派されると、民間人の年間死亡者数は2412人から3133人に増加した。殺害された民間人は5年間で53%も急増している。アメリカと同盟国は、ひどく負けたのだ。
 アメリカ軍は、実のところ、敵を訓練しているようなものだった。ブッシュ・オバマと同じく、トランプはアフガニスタンで勝つという約束を果たすことができなかった。
それにつけても思い出されるのは中村哲医師とペシャワール会の偉業です。鉄砲や戦車ではなく、スコップとシャベル、そしてユンボなどの平和産業こそが国を再建する手助けになるということだと思います。
(2022年6月刊。税込3960円)

「私たちが声をあげるとき」

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 吉原 真理 ・ 三牧 聖子 ・ 土屋 和子 ほか 、 出版 集英社新書
 アメリカを変えた10の問い。これがサブタイトルの新書です。マンスプレイニングというコトバを初めて知りました。女性に対して何かと講釈をたれる男性の言動を指した最近の造語だそうです。
 トップバッターはテニスの大坂なおみです。最近、ちょっと不調のようですが、まだまだ若いので、ぜひ回復してほしいです。
 「私はアスリートである前に、一人の黒人女性です。黒人女性として、私のテニスを見てもらうよりも、今すぐに注目してもらわなくてはならない、ずっと大事で切迫してことがあると感じています」
 これって、実にすばらしい声明でしたよね。テニス試合が延期されるなかで、大坂なおみは、はっきり意思表示したのです。
 大坂なおみは日本人なのか、アメリカ人なのか…。日本で生まれ、アメリカ育ちの大坂なおみは、2019年まで二重国籍だった。そして、日本国籍を選択した。大坂なおみが「日本人」として認められてきたのは、片言の日本語や「黒人の女の子」という外見にもかかわらず、内向的な性格と控えめな言動によるところが大きかった。
 「私はアジア人で、黒人で、そして女性です」
 これをそのまま受け入れようとしない日本人が少なくないのが残念です。
 アレクサンドリア・オカシオ=コルテスは2018年に29歳でアメリカ下院議員に当選した。プエルトリコ系アメリカ人で、バーニー・サンダース上院議員と同じく民主社会主義者を自認している。マンハッタンでバーテンダーとして働いていた。といっても、ボストン大学を上位4番で卒業している。アメリカにも、こんな人たちが活躍できる基盤があるわけです。日本も負けていられませんよね。
 アメリカ南部のアラバマ州でバスの中の白人専用席に座ったローザ・パークスも登場します。行動を起こした1955年に42歳でした。2005年10月に92歳で亡くなっています。
 2013年2月、オバマ大統領はアメリカ連邦議会議事堂内にローザ・パークス像が据えつけられたときに、祝辞を述べています。
 このころ、アメリカでは選挙民として登録するのに読み書きテストに合格する必要がありました。パークスはなんと2回も「不合格」となったのです。
 日本でも女性ががんばっているとはいえ、世界的にみたら、まだまだです。そんな状況を変えたいと願うすべての人々に勇気を与えてくれる新書です。
(2022年6月刊。税込1100円)

キャッチ・アンド・キル

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ローナン・ファロー 、 出版 文芸春秋
 #MeToo運動は、この一冊から始まった。
 ハリウッドの大御所プロデューサーだったハーヴェイ・ワインスタインの性的虐待疑惑を追いかける若手テレビ記者の調査を、メディア界・政界・司法界の「悪の三位一体」が激しく妨害する様子が生々しく描かれていて、胸が痛みます。というか、セクハラ加害者による執拗きわまりない、えげつない攻撃の数々に胸つぶれる思いです。
 そして、大手メディアが裏切り、またイスラエル仕込みのスパイたちも暗躍して、いったい、この世はどうなっているのか、つい嘆息してしまいました。
被害を受けたと訴えても、その女性が自分のところに戻ってきたらレイプではない。ワインスタインは、こう繰り返し主張した。だが、職場や家庭で避けられない相手から性的暴行を受けたとき、女性が戻ってくることは珍しくないし、むしろ、そのほうがフツーだ。
 トラウマによる心の傷、報復の恐れ、性的暴行の被害者に対する世間の烙印。ワインスタインがメディアを支配していたため、誰を信用していいか分からなくなってしまう。
イスラエル企業(「ブラックキューブ」)は、これまでと違う企業スパイの手法を売り込んだ。その手法のひとつが「なりすまし」。つまり、ブラックキューブの工作員が、別人を装ってターゲットに近づく。
ブラックキューブは、設立当初からイスラエルの秘密諜報機関とイスラエル軍の上層部と深く関わっていた。ブラックキューブの工作員は100人以上、30ヶ国語を操る。ロンドンとパリに事務所を構え、本部はテルアビグの中心にあるガラス張りの高層ビルに置く。そこは、ほとんどの扉に指紋認証機がついていて、社員の机には、20台ものケータイが並んでいる。それぞれが別人格用でナンバーも違う。社員は全員、定期的にウソ発見器にかけられる。
ブラックキューブは、法を平気で破ることで有名だ。ブラックキューブは、オバマ政権の幹部を尾け回し、汚点を探し、イランのロビイストと手を組んで賄賂を受けとっているとデッチあげたり、不倫しているという噂を流したりした。
ワインスタインは、報道機関を動かし、告発者の信用をおとしめる活動を展開した。金持ちの権力者がこれほど大掛かりに人々を脅迫し、監視し、秘密を隠しとおせるなんて、とんでもないことだ。
まったくそのとおりです。背筋が氷ってしまいます。お金があれば何だって、できるのですね…。でも、その社員から著者に内部告発の匿名メールが届きます。性的加害を隠すのに加担したのが恥ずかしいという良心の呵責(かしゃく)からの通報でした。世の中には、やはり良心を捨てきれない人が時に厳然としているのですよね。それが人間社会の面白さです。誰でも、みんながお金に目がくらんで良心を捨てるというのではないのです。
結局、ハーヴェイ・ワインスタインは2018年5月25日、逮捕された。といっても、アメリカでは、その日のうちに100万ドルの保証金を積んで釈放。足首に監視装置をつけられて出所。弁護団は次々と入れ替わり、とうとう23年の懲役刑が宣告され、重犯罪者向け厳重警備施設(ウェンデ矯正刑務所)に収容された。
性暴力の被害者は、被害にあったのに、自分のせいだと感じてしまう。もし自分がもっと強い女だったら、男のタマをけ飛ばして逃げていたはず。でも、そうしなかった。だから自分のせいだと感じていた。彼の前では自分が小さくて、バカで弱い人間になった気がした。レイプのあとは彼が勝った。
今の世の中では、被害者は聖人であることを求められ、聖人でなければ罪人扱いされてしまう。でも、声をあげた女性たちは聖人ではない、ただの人間だった。
ワインスタインにとって、女性を食い物にすることが仕事の一部になっていた。若い女性とのミーティングのはじめだけ女性を同席させ、待ち合わせの時間が昼間から夜に移され、場所もホテルのロビーから部屋に移された。
被害者と示談し、秘密保持契約で練る。しかし、こんな秘密保持契約って、いったい刑事犯罪が成立しても守らなければならないものなのか…。
告発者バッシングにメディアが加担するというのは日本でもありますよね。そして、今度、アベ銃撃事件で責任をとって辞任した中村警察庁長官は準強姦被疑者の逮捕状の執行を差止めた男でした。首相秘書官を5年半もつとめていて、まさに政界の闇を知り抜いた男が、部下のヘマで辞任を余儀なくされたわけです。因果はめぐるということなんでしょうね。
(2022年4月刊。税込2530円)

リセットを押せ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ジェイソン・シュライアー 、 出版 グローバリゼーションデザイン研究所
 ニューヨークタイムズがアメリカのベストセラーとして紹介したゲーム業界の栄枯盛衰の話です。私は今なおスマホは持たずガラケー、メールは見るだけで自ら発信することもない、もちろん、ゲームなんて、かのインベーダーゲーム以来、とんととんと無縁に生きてきました。
 ゲームの面白さを知らずして人生を語るな。こう言われてしまいそうですが、私に言わせてもらえば、他人(ひと)の手の平(ひら)の上で踊って(踊らされて)何が面白いの…、ということです。それでも、かくもたくさんの人々を惹きつけてやまないゲーム業界とはいったいどんな状況なのかは知りたいのです。なので、ざっとざっと読んでみました。
 ゲーム業界とは、どんなところなのか…。この業界で一番嫌いなところは、開発者たちの生き血をすすり、骨までしゃぶってから捨てる。
 ビデオゲーム業界に安定という言葉はない。確実なものは何もないのだ。ビデオゲーム業界で30年以上も働いたという人は、あまり多くない。
 ビデオゲーム業界で働いていて、一番辛(つら)いのは、友人ができても突然引き裂かれる可能性があること。
 ビデオゲームは楽しんでもらえることを目指して作られる。ところが、実際は、企業の冷酷な論理の下で製作されている。
 ビデオゲーム制作会社の社員たちは、自分の時間も家族との時間もあきらめて完成にまでこぎ着ける。その犠牲の代償が失業、だとしたら、あまりにも不条理なのではないか…。
 いやあ、ホント、本当ですよね。
 ビデオゲーム制作会社での不安定な労働環境はあたり前になっている。従業員は、5年間にフルタイム勤務で2.2社、フリーランスで3.6社つとめている。それほど雇用の不安定は際立っている。しかも、収入は良くても、燃え尽きてしまう。アパートの1室で1日16時間も働くという生活は、明らかに持続不可能だ。ときには休息が必要なのだ。
 年収10万ドルの高給取りでさえ、物価の高いサンフランシスコでは生活に苦労する。悪くない収入を得ていても、裕福というほどではなく、生きるのに精一杯というのが実際だ。
 ビデオゲームの開発は、2つの段階に分けられる。ゲームを設計するプリプロダクションと、実際に制作するプロダクションだ。ただし、2つのあいだに明確な境界線はない。時間と予算に応じて、短くなったり、長くなったりする。
 たかがビデオゲームをつくるのに、何日間も徹夜するなんて、まったく信じられません…。
 若さにかまけて、そんなことしていたら、年齢(とし)をとって、身体中が内臓をふくめてガタガタ、病気もちの身になってしまいますよ。気をつけてください。
(2022年6月刊。税込2420円)

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