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カテゴリー: アメリカ

社会主義都市ニューヨークの誕生

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)

著者 矢作 弘 、 出版 学芸出版社

 素晴らしい本です。わずか180頁ほどの本ですが、中身がぎっしり詰まっていて、読み進めるほどに勇気と確信が湧いてきました。 被疑者国選弁護人として、警察の留置場前の廊下で、前の弁護士2人の面会が終わるのを待ちながら読みふけり、自宅に持ち帰って読了しました。すっきりしました。爽快な気分になりました。

 アメリカのトランプ大統領が、ベネズエラに続いてイランを攻撃して、国際法を平然と破っているのに、日本の高市首相は批判もしない。同じ日本人として恥ずかしい限りです。でも、今や諸悪の根源はアメリカ、そしてトランプです。プーチンのウクライナ侵攻を非難する日本政府がトランプのベネズエラとイラン攻撃を批判できないなんて、許せません。

ところが、そんなアメリカにも希望はあるのです。34歳のイスラム教徒で、両親がインド系である青年がニューヨーク市長になるなんて、トランプが毛嫌いしたのも当然です。でも、マムダニ市長は当選してまもなく、ホワイトハウスを訪れ、トランプに会って、政策実現への協力を少なくとも表面上、取りつけました。トランプはマムダニ市長と会見したあと、なんと、「素晴らしい市長になるだろう」と言って協力を約束したのでした。それを言わせるほどの素晴らしい人柄だということですよね、きっと。

 この本を読むと、マムダニが市長選挙で公約したことは、彼が初めて言い出したことではないことがよく分かります。それは、ニューヨークの家賃の凍結、市内を走るバスの無料化、保育料の無料化などです。ニューヨークは家賃がべらぼうに高いのですね。収入の半分を家賃の支払いにあてている夫婦が少なくないのです。家賃が30万円もしたら、それはそうでしょうね。東京も都心だと同じでしょう。

 そこで、マムダニは家賃を統制できるアパートの大量建設を打ち出しました。これもなかなか大変と思います。そして、バス運賃の無償化。バス会社の収入減は、ニューヨーク市の財源から補填(ほてん)するのです。さらに、高い保育料を払えないため、若い夫婦はニューヨークに住めない。そこで、保育費を無償化する。財源は金持ちに課する税率を引き上げる。

 そんなことをしたら、金持ちはニューヨークを逃げ出してしまい、結局、税収増にならないという批判があった。しかし、現実には少しの税率アップで逃げ出すような金持ちはいなかった。やはり、ニューヨーク市のほうが教育・文化施設が充実していて、似た境遇の共同体も存在するので、そこから離脱はできないのだ。

 マムダニ市長について、日本のマスコミは「急進派左派市長」と決めつけるが、その実体はヨーロッパの社会民主主義レベルのリベラルである。

若いリベラルな市長は、ニューヨークだけでなく、シアトル、ボストン、シカゴ、アルバカーキ、デトロイトなどにもいるようです。地方からアメリカは変わりつつあると言えるようです。頼もしい限りです。日本でも、かつて、革新自治体が全国に続出したことを思い出します。

 マムダニは、古い6階建の家賃管理アパート(賃料が月2300ドル。これは平均より安い)に住んでいる。車を持たず、地下鉄とバスで移動する。

マムダニの父親はコロンビア大学の教授で、息子にこう言った。「私はウガンダ(アフリカ)ではインド人だった。インドではウガンダ人だった。アメリカでは、その両方。でもマイノリティだからこそ見える世界がある」

母親はインドに生まれ、ヒンズー教徒で、映像作家として著名。

市長選挙では10万人ものボランティアが、160万戸以上を戸別訪問し、200万回以上の電話作戦を繰り広げた。もちろん、SNSも駆使した。

 マムダニの公約の一つに公営のグローサリーストア(食料雑貨店)をつくることもある。買物難民のニーズにこたえ、価格を抑える店。

 日本でも共産党が「タックス・ザ・リッチ」を訴えましたけれど、残念ながら時の話題になりませんでした。でも、スーパーリッチに対する課税を強化して、そこから増えた税収を庶民一般のために使う政策は、日本でもすぐにやってほしいことです。「103万円の壁」なんてことより、よほど役に立つ政策です。

 大変勉強になりました。いまの日本で、高市首相の嘘とごまかし、軍事最優先のトランプの言いなり政治に真向から闘いたい人の心をきっと励ましてくれる本として、強く一読をおすすめします。

(2026年1月刊。2420円)

福音派

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)

著者 加藤喜之 、 出版 中公新書

 終末論に引き裂かれるアメリカ社会。こんなサブタイトルがついています。メインテーマに入る前に、高名な「宗教者」にもインチキな人間が多いという衝撃的な事実をまず紹介したいと思います。

全国福音派教会の代表をつとめたテッド・ハガードはメガチャーチの牧師として福音派の立場からしばしば同性愛を批判していて、ドキュメンタリー映画にも登場して同性愛について否定的な態度を示していた。ところが、ハガード自身が3年ものあいだ男娼と関係をもっていたこと、ドラッグを使用した性行為をしていたことが暴露された。

 FBI長官として長年にわたって「闇の帝王」のように君臨してきたフーバー長官も、表ではゲイを徹底して批判していましたが、実はずっと部下の男性と性的関係にあったことが明らかにされています。カトリック教会でも高位の司祭・司教たちによるセックス・スキャンダルは昔から無数に起きています。

 表の顔と裏の顔がまったく違うというのは、ある意味で、よくあることですが、宗教家がそうだと、「おまえもか…」と慨嘆したくなります。

 さて、本論です。

 アメリカ人の4分の1近くを占める福音派のうち、その6割は、世界は終わりつつあると信じている。そして、終末に向かう世界においては善と悪の戦いとして、現代の政治的・社会的な対立があると考えている。

アメリカは、そもそもからして対立の国だ。今なお、人種差別はすさまじい。中絶を認めようとしない。

 福音派は、イスラエルを祝福する者は神によって祝福され、イスラエルを呪う者は神によって呪われると考える。『創世記』にある約束に従った考えだ。

アメリカ人の半分近くは、今も進化論を否定し、万物は偉大なる創造主によってつくられたと考えている。

 「ゴッド・ギャップ」とは、定期的に協会に通う人は共和党を支持し、あまり通わない、あるいはまったく通わない人は民主党を支持するという一般的な傾向のこと。

 オバマ大統領は、オバマ・ケアとして、妥協しながらも国民の健康保険加入を促進しました。ところが、このオバマ・ケアについて、福音派は共産主義思想だと攻撃しました。連邦政府による個人の選択の領域への不当な干渉だというのです。

日本は崩壊寸前ですが、今なお国民皆保険で国民は守られていますし、ヨーロッパはもっと進んでいて、病院の窓口で医療費を支払う必要がありません。すると、ヨーロッパは、イギリスもフランスも、福音派のいう「共産主義の国」になってしまいます。そんなことを言われたら、ヨーロッパの人々は「違う、違う」と大憤慨することでしょう。

 黒人の成年が白昼、何もしていないのに警察官から不当に逮捕・拘束されて死亡するという事件が相次ぎ、「黒人のいのちは大事だ」というBLMの運動が大きく盛り上がりました。そのとき福音派は「すべてのいのちは大事だ」という対抗スローガンを掲げたのです。人種差別という構造的な不正義が目の前にあるにもかかわらず、福音派の大部分はそれを認めようとしないし、BLMの運動は決して支持しない。

 今、アメリカでも協会離れが進んでいて、多くの人が「非宗教者」になっている。ただし、非宗教はただちに無神論というわけではない。

福音派のイメージは悪くなっている。モルモン教徒(25%)、無神論者(24%)、ムスリム(22%)よりも高い27%が、福音派を「好ましくない」としている。アメリカ社会における福音派の影響力は、数の減少以上に、構造的な事件で持続している。トランプ支持者と重なるところがあるということですね。

アメリカ社会の暗黒面だと思いながら読みすすめました。

(2025年11月刊。1320円)

「死線をゆく」

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)

著者 ナサニエル・フィック 、 出版 KADOKAWA

 アメリカ海兵隊の現場リーダーとして、アフガニスタンそしてイラクの最前線で活動した体験を振り返る本です。みすみす部下を死地に追いやるような作戦を最前線で指揮する中隊長に対して、明らさまに反抗した驚くべき経験も紹介されています。

 フェランド中佐は傲慢で、部下のことより我が身の出世を考えて部下を任務に行かせている。隊員たちはそう思っていた。中隊長は仕事熱心で人のいい男だが、戦術面では無能。指揮関係は信頼の上に築かれる。中隊長の判断は、あまりにお粗末で、海兵隊員が当然のこととして教えこまれる上官への信頼は、ことごとく打ち砕かれた。中隊長の命令に背いたのは、従えば誰かが何の理由もなく死ぬことになってしまう。戦闘指揮官としては最悪だ。

追撃砲は、標的を観測できる誰かが着弾点の誤差を追撃砲に伝え、砲弾を命中させようとしているものに誘導しないかぎり効果がない。したがって、その観測手を見つけて殺害しなければ、こちらが殺(や)られてしまう。

物資の補給では、燃料と水と弾薬が優先。食料はあとまわし。

 歩兵にとって、戦車と一緒に行動するのは、頭上に攻撃機が控えていたり、深い戦闘壕の底に潜っているようなもので、とにかく気分がいい。

 100万ドルの負傷とは、命に別条なく、戦線離脱して帰国できる負傷。

 1980年代、ソ連軍との戦いでムジャヒディンが消耗していたところに、CIAがスティンガー・ミサイルを供給したことで、戦いの潮目(しおめ)が変わった。スティンガーはロバの背中にのせて運べるほど小さいミサイルで、航空機の排気熱を追尾する。

 新参者(新兵)には近づきたくない。自殺行為をやらかすから。

 海兵隊でもっともタフな部隊は、偵察部隊だ。

 戦場における強さとは、手に負えない状況にも冷静に立ち向かい、穏やかにほほ笑みかけ、とことんプロフェッショナルな誇りをもって敵に打ち勝つ能力だ。

 ムスリムの暗殺者たちの多くは、自分の死後、99人の処女と永遠に生きられることを信じている。 「そんなのウソでしょ」という人はいない。

 戦闘は一種のめまいだ。どんな訓練をしようと、自分の感覚が信じられなくなる。

著者は大尉になったあと、海兵隊を早期に退職した。戦いを好まない戦士に自分がなったことを認識して、海兵隊を辞めた。著者は裕福な家庭に育ち、アイビーリーグの名門大学を卒業した白人男性で、戦場に出て戦争とは何か、正義とは何か、現実を見聞きするなかで考え、変化していった。海兵隊を去ったあと、ハーバードの大学院でMBAとMPAの学位を取得した。

アメリカの「強さ」の内実は、案外もろいものだとも、本書を読みながら思ったことでした。

(2025年5月刊。38050円)

3つの戦争

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ボブ・ウッドワード 、 出版 日本経済新聞出版
 トランプは絶え間なく演技をしている。トランプは勇ましくて、強い人間に見られることだけを気にしている。トランプは、自分がつきあうのは、ビジネス関連の人たちだけと高言する。トランプは忠誠心をものすごく重んじる。
 トランプの性格は、勝つこと、戦うこと、生き延びることに集中している。弱そうだと見られたら、付け狙われる。すべてがプレゼンテーションなのだ。自分の見せ方になる。
トランプが大統領選挙に敗北した2021年1月6日に、アメリカの国会議事堂に突入した人間は2千人を超える。そのうち5人が亡くなり、警官172人が負傷し、500人以上が逮捕された。トランプが支持者に対して「うちに帰れ」とツイートしたのは、3時間たってから。
 ロシアのプーチン大統領の主な性格は、怒りっぽい、不安感が極めて強い、サディスティックであること。
ロシアは4400発以上の核弾頭を備えている、世界最大の核兵器保有国。
 トランプはプーチンを偶像視していて、そのせいで、プーチンから極度に操られやすくなっている。アメリカの大統領として、これは致命的な欠陥だ。
 2020年のアメリカの大統領選挙において、トランプは7400万票を得た。これに対してバイデンは8100万票を獲得して当選した。
 プーチンのロシアがウクライナに侵攻したとき、ウクライナ全土を支配下に置き、ゼレンスキー大統領を抹殺し、首都キーウを占領するというのが、ロシアの戦争計画だった。
 ウクライナはアメリカのテキサス州とほぼ同じ面積で、ヨーロッパではロシアに次ぐ広さの国。人口は4400万人で、テキサスより1400万人も多い。
 プーチンは不安感と自信とが、コインの表と裏の関係にある。
 トランプは記者に対して、「プーチンは私を尊敬している。私もプーチンを尊敬している。プーチンは私を好きだと思う。私もたぶんプーチンが好きだ」。
 ロシア軍の部隊は、ベラルーシの国境地帯をまっすぐ通過してキーウの奪取を図り、ゼレンスキー大統領の政権を打ち倒して、親ロシア政府を樹立するだろう。
 ウクライナに侵攻してきたロシア軍の車輌部隊は食料と飲料水を3日分しか積んでいなかった。しかも、勝利を祝うパレード用の軍服を持参していた。
 ロシア軍将兵は、ウクライナに侵攻したら、すぐに勝敗がついて、勝利のパレードをする計画だったというのです。ええっ、ま、まさか…。
 ロシア軍はトップダウンで、動く仕組みになっている。佐官級の現場指揮官には自発的に行動する権限がない。ロシア軍は、戦場に順応して即興で行動することはなかった。
2022年当時、ロシアは戦術核兵器をアメリカの10倍、2000発も保有していた。現在の核兵器には、ひとりで使用できるような小型の弾頭もあれば、潜水艦、爆撃機、ICBMで投入しなければならないような大型のものまできわめて種類が多い。
 ウクライナは、1ヶ月間に10万発前後の砲弾を消費した。1日3000発になる。それをまかなうだけの在庫は、さすがのアメリカでも持っていない。2023年6月、ウクライナ軍は、1日に最大1万発の155ミリ砲弾をつかっていた。
 トランプほど、どこの国にとっても危険な人物は、いまだかつていなかった。ホント、まったくそのとおりです。
 10月7日のハマスによるイスラエルへの攻撃は驚きだった。
 アメリカはイスラエルに対して、毎年30億ドル以上の軍事支援をし、国防総省はイスラエルの周辺5.6ヶ所に兵器と弾薬を備蓄している。
 ハマスは概念だ。概念を滅ぼすことはできない。
 トランプは、アメリカを何度も戦争の瀬戸際に押しやった。トランプの主張は、例によってとんでもない誇張、誤った考え、ウソを混ぜあわせたものだった。さかんに相手方を攻撃したが、それは活気があり、堂々としているという印象(イメージ)を与えた。トランプは大統領として不適切な人物であるだけでなく、国を率いるのに適していない。トランプは犯罪者だったニクソン大統領よりもずっとひどい。
 トランプは恐怖と怒りによって統治する。そのうえ、大衆と国益に無関心。トランプはアメリカ史上最悪の無謀で衝撃的な大統領である。
 ああ、それなのに、トランプはアメリカの大統領なんですよね…。
(2025年2月刊。2750円)

カナダ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 山野内 勘二 、 出版 中公新書
 カナダには、かなり前のことですが、2回行っています。2回とも、ナイアガラの滝を見物しました。滝の内側にも見学路があって、レインコートを着ての見物でした。
トランプ大統領がカナダを見下した態度をとっていますが、カナダはアメリカと違って、とても治安が良く、安心して暮らせる街だと実感しました。
カナダは現代AI開発では世界最先端を行っている。
 カナダは移民・難民に対して寛容で、人口増加率はG7の国では最大。カナダの人口4100万人(2024年)だが、今世紀末には1億人を突破する見込み。
カナダの食料自給率は230%。フライドポテト生産で世界最大は、カナダのマッケイン・フーズ社。世界の4分の1のシェアを誇っている。カナダは、キャノーラ(採種。なたね)油の生産量で世界最大。日本もカナダからナタネの80%を輸入している。
 カナダは豚肉と豚肉製品を輸出する世界第3位の国。日本は輸出額で、トップ。
カナダの、とりわけアルバータ州は恐竜の化石の最大の発見(発掘)地。私も、ぜひ行ってみたいところです。
カナダは、ソ連、アメリカに次いで世界で3番目に人工衛星を設計・製造して、軌道に乗せた。
 カナダは、AI開発でトップを行き、この分野でノーベル賞も受賞している。
 カナダは量子技術の分野でも世界の最先進地。同じく光量子コンピューターも世界最先端にある。先に冷却は不要。光の周波数は高いので大量の情報を乗せて、高速処理ができる。
 糖尿病治療薬のインスリンを発見したのは、トロント大学医学部の教授。
 カナダのサーカス「シルク・ドゥ・ソレイユ」(太陽のサーカス)は世界的に有名だ。
 カナダ人の4人に1人は、外国生まれ。カナダにいる留学生は105万人(2023年)。日本にいる留学生は、その4分の1の24万人。カナダ国内には、インド系カナダ人が180万人もいる。
 日本とカナダは、もっと親密な関係になっていいものだと強く思いました。著者は、元駐カナダ大使です。
(2024年12月刊。960円+税)

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