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カテゴリー: アメリカ

3つの戦争

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ボブ・ウッドワード 、 出版 日本経済新聞出版
 トランプは絶え間なく演技をしている。トランプは勇ましくて、強い人間に見られることだけを気にしている。トランプは、自分がつきあうのは、ビジネス関連の人たちだけと高言する。トランプは忠誠心をものすごく重んじる。
 トランプの性格は、勝つこと、戦うこと、生き延びることに集中している。弱そうだと見られたら、付け狙われる。すべてがプレゼンテーションなのだ。自分の見せ方になる。
トランプが大統領選挙に敗北した2021年1月6日に、アメリカの国会議事堂に突入した人間は2千人を超える。そのうち5人が亡くなり、警官172人が負傷し、500人以上が逮捕された。トランプが支持者に対して「うちに帰れ」とツイートしたのは、3時間たってから。
 ロシアのプーチン大統領の主な性格は、怒りっぽい、不安感が極めて強い、サディスティックであること。
ロシアは4400発以上の核弾頭を備えている、世界最大の核兵器保有国。
 トランプはプーチンを偶像視していて、そのせいで、プーチンから極度に操られやすくなっている。アメリカの大統領として、これは致命的な欠陥だ。
 2020年のアメリカの大統領選挙において、トランプは7400万票を得た。これに対してバイデンは8100万票を獲得して当選した。
 プーチンのロシアがウクライナに侵攻したとき、ウクライナ全土を支配下に置き、ゼレンスキー大統領を抹殺し、首都キーウを占領するというのが、ロシアの戦争計画だった。
 ウクライナはアメリカのテキサス州とほぼ同じ面積で、ヨーロッパではロシアに次ぐ広さの国。人口は4400万人で、テキサスより1400万人も多い。
 プーチンは不安感と自信とが、コインの表と裏の関係にある。
 トランプは記者に対して、「プーチンは私を尊敬している。私もプーチンを尊敬している。プーチンは私を好きだと思う。私もたぶんプーチンが好きだ」。
 ロシア軍の部隊は、ベラルーシの国境地帯をまっすぐ通過してキーウの奪取を図り、ゼレンスキー大統領の政権を打ち倒して、親ロシア政府を樹立するだろう。
 ウクライナに侵攻してきたロシア軍の車輌部隊は食料と飲料水を3日分しか積んでいなかった。しかも、勝利を祝うパレード用の軍服を持参していた。
 ロシア軍将兵は、ウクライナに侵攻したら、すぐに勝敗がついて、勝利のパレードをする計画だったというのです。ええっ、ま、まさか…。
 ロシア軍はトップダウンで、動く仕組みになっている。佐官級の現場指揮官には自発的に行動する権限がない。ロシア軍は、戦場に順応して即興で行動することはなかった。
2022年当時、ロシアは戦術核兵器をアメリカの10倍、2000発も保有していた。現在の核兵器には、ひとりで使用できるような小型の弾頭もあれば、潜水艦、爆撃機、ICBMで投入しなければならないような大型のものまできわめて種類が多い。
 ウクライナは、1ヶ月間に10万発前後の砲弾を消費した。1日3000発になる。それをまかなうだけの在庫は、さすがのアメリカでも持っていない。2023年6月、ウクライナ軍は、1日に最大1万発の155ミリ砲弾をつかっていた。
 トランプほど、どこの国にとっても危険な人物は、いまだかつていなかった。ホント、まったくそのとおりです。
 10月7日のハマスによるイスラエルへの攻撃は驚きだった。
 アメリカはイスラエルに対して、毎年30億ドル以上の軍事支援をし、国防総省はイスラエルの周辺5.6ヶ所に兵器と弾薬を備蓄している。
 ハマスは概念だ。概念を滅ぼすことはできない。
 トランプは、アメリカを何度も戦争の瀬戸際に押しやった。トランプの主張は、例によってとんでもない誇張、誤った考え、ウソを混ぜあわせたものだった。さかんに相手方を攻撃したが、それは活気があり、堂々としているという印象(イメージ)を与えた。トランプは大統領として不適切な人物であるだけでなく、国を率いるのに適していない。トランプは犯罪者だったニクソン大統領よりもずっとひどい。
 トランプは恐怖と怒りによって統治する。そのうえ、大衆と国益に無関心。トランプはアメリカ史上最悪の無謀で衝撃的な大統領である。
 ああ、それなのに、トランプはアメリカの大統領なんですよね…。
(2025年2月刊。2750円)

カナダ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 山野内 勘二 、 出版 中公新書
 カナダには、かなり前のことですが、2回行っています。2回とも、ナイアガラの滝を見物しました。滝の内側にも見学路があって、レインコートを着ての見物でした。
トランプ大統領がカナダを見下した態度をとっていますが、カナダはアメリカと違って、とても治安が良く、安心して暮らせる街だと実感しました。
カナダは現代AI開発では世界最先端を行っている。
 カナダは移民・難民に対して寛容で、人口増加率はG7の国では最大。カナダの人口4100万人(2024年)だが、今世紀末には1億人を突破する見込み。
カナダの食料自給率は230%。フライドポテト生産で世界最大は、カナダのマッケイン・フーズ社。世界の4分の1のシェアを誇っている。カナダは、キャノーラ(採種。なたね)油の生産量で世界最大。日本もカナダからナタネの80%を輸入している。
 カナダは豚肉と豚肉製品を輸出する世界第3位の国。日本は輸出額で、トップ。
カナダの、とりわけアルバータ州は恐竜の化石の最大の発見(発掘)地。私も、ぜひ行ってみたいところです。
カナダは、ソ連、アメリカに次いで世界で3番目に人工衛星を設計・製造して、軌道に乗せた。
 カナダは、AI開発でトップを行き、この分野でノーベル賞も受賞している。
 カナダは量子技術の分野でも世界の最先進地。同じく光量子コンピューターも世界最先端にある。先に冷却は不要。光の周波数は高いので大量の情報を乗せて、高速処理ができる。
 糖尿病治療薬のインスリンを発見したのは、トロント大学医学部の教授。
 カナダのサーカス「シルク・ドゥ・ソレイユ」(太陽のサーカス)は世界的に有名だ。
 カナダ人の4人に1人は、外国生まれ。カナダにいる留学生は105万人(2023年)。日本にいる留学生は、その4分の1の24万人。カナダ国内には、インド系カナダ人が180万人もいる。
 日本とカナダは、もっと親密な関係になっていいものだと強く思いました。著者は、元駐カナダ大使です。
(2024年12月刊。960円+税)

世界最凶のスパイウェア・ペガサス

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ローラン・リシャール、サンドリーヌ・リゴー 、 出版 早川書房
 イスラエルのNSOが誇るサイバー監視ソフトウェア・ペガサスは、暗号化を含むセキュリティを破って相手のスマートフォンに不正侵入し、スパイウェアの存在を知られることなく、端末をほぼ意のままにできる。スマートフォンを使って送受信したあらゆるテキスト、通話内容、位置情報、写真、動画、メモ、閲覧履歴だけではない。ユーザーに感づかれることなく、カメラとマイクロフォンも起動できる。ボタンを押すだけで、遠隔操作による完璧な個人監視が可能になる。
 これは、顧客にとって危険な魅力を放ち、NSOには莫大な利益、2020年の売上げは2億5千万ドルをもたらした。
 今やスマートフォンは、地図、郵便局、電話、メモ帳、カメラとして、秘密を打ち明けられる親しい友人として機能している。そのすべてが知らないうちに盗みとられているとしたら…。
ペガサスは政府機関としかライセンスを結ばず、相手の運用状況には決して関与しない。
 NSOの最初の大口クライアントは、メキシコの国防省だった。メキシコ国防省は、NSOに1500万ドル以上を支払ったが、ペガサスは高価な欠陥品に終わった。2013年8月、ペガサスは、潤沢なオイルマネーを抱えるアラブ首長国連邦政府と契約した。
 ペガサスのシステムはエンドユーザーを追跡不可能にする。メッセージは世界中のサーバーをいくつも経由して送られる。たとえば、まず中国へ、そして中国からオーストラリア、オーストラリアからアムステルダム、アムステルダムからパナマへ、そしてパナマを経由して、標的に届く。
 2021年当時、世界中で2億人をこえるユーザーがいたトゥルーコーラーは国際的なデジタル電話帳に相当する。人権活動家。反体制派、ジャーナリストが自分のデバイスがスパイウェアに感染していないかどうかをみずから確かめられるツールを2014年にクラウディオが開発し、公開した。
 イスラエルの若者から、17歳か18歳で選出され、イスラエル国防軍のサイバー諜報部隊に送り込まれる。この、精鋭中の精鋭は、ヘブライ語で、ロシュ・ガドル(大きな頭脳)と呼ばれる。彼らは、この部隊で兵役義務を果たす。戦闘の危険はない分野だ。
 毎年1000人のロシュ・ガドルが兵役を終えて、民間部門に就職する。すぐに高額の給与が保証され、ハイテクの仕事につくことになる。イスラエルのサイバー・スペシャリストは、国家の誇りだ。
 イスラエル国防軍は、国家精鋭の頭脳を8200部隊と呼ばれるエリート諜報部隊に投入してきた。この極秘部隊では、メンバーは、その名前を外部に話してはならず、自分の任務を家族にも漏らしてはいけない。8200部隊で、とりわけ重視されるのはイノベーション。アイデアは階級に優先する。
 2013年から2017年に、イスラエル国内のサイバーセキュリティ企業の数は171社から420社に急増し、民間投資は6倍にはね上がり、8億ドルを突破した。
 ペガサス・システムはスマートフォンに不正侵入して乗っ取り、端末の所有者を監視するために設計された。これは軍用グレードの攻撃型兵器である。
イスラエル軍は、テクノロジーを誰とも共有しない。だが、モサドは次善のテクノロジーを提供できた。それがペガサスだ。NSOの経営幹部は非常に秘密主義だ。
世界にはスパイウェアの民間企業が多数存在する。
 サイバー監視業界は、実質的にガードレールなしの運営を続けている。
 アップルは、そのスマートフォンの防衛対策のための研究開発部門の施設をイスラエルに建設した。しかし、イスラエル軍の8200部隊出身のNSOのエンジニアたちはアップルのスマートフォンの脆弱性を研究していた。
 いやはや、スマートフォンの情報がスパイウェアによってつつ抜け、つまり私たちは丸裸の状態で生きているというわけです。怖いですね。ちなみに私はガラケー派です。スマートフォンを持っていませんが、何も不便は感じていません。
(2025年1月刊。3300円)

ヒトラーのオリンピックに挑め(上)

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ダニエル・ジェイムズ・ブラウン 、 出版 早川書房
 アメリカで220万部を売り上げたベストセラーだそうです。大学のボート部が、ヒトラー・ナチスの主宰したオリンピック競技に出場するという話です。この上巻では、まだオリンピック競技にまではたどり着きません。ボート部の訓練の様子、そして、ボート競争では何が求められるかというのが、選手たちの心理に至るまで刻明に明らかにされていきます。
戦前のアメリカではボート競技というのはハイクラスの学生が関わるものだったようです。それでも、民衆の関心を惹く競技でもありました。
 ボートは、筋力だけの勝負ではない。筋力の勝負であると同時に、それは一種の芸術であり、肉体的な強さと同じほど、鋭い知性が必要になる。
ボートは、恐らく、どんなスポーツよりも苛酷な競技だ。ひとたびレースが始まったら、タイムアウトも選手交代もない。漕手には、限界まで耐え抜く力が必要だ。
コーチは教え子に、心と頭、そして体で苦難を耐え抜く秘密を伝授しなければならない。
 ボート競技の根本的な難しさのひとつは、漕手がひとりでもスランプになると、クルー全体がスランプに陥ってしまうこと。ボートは、シェル艇に乗ったすべての漕手が完璧にオールをひと漕ぎひと漕ぎしなければ、勝利をおさめられないスポーツだ。すべての漕手の動きは、密に連携しあい、ぴったりシンクロしなくてはならない。メンバーが、ひとりでもミスをしたり、不完全な動きをしたりすれば、リズムが断たれ、ボートはバランスを崩す。漕手は自分の前にいる漕手の動きと、指示を出すコックスの声に全神経を集中させなければならない。
 ボート競争において、こちらにまだ力が残っていることを相手がまだ知らなければ、その力を見せたとき、相手は必ず動揺する。そして、動揺した相手は、ここ一番でミスを犯すはずだ。ボート競技で勝利をおさめるには、自信も必要だが、自分の心を把握するのも、また重要だ。
まず、長さ18メートル以上ある真っ直ぐなI型鋼をビームとして使って、トウヒやトネリコ材で精密な骨組みをつくる。それから骨組の肋材(ろくざい)にスペインスギを長く挽(ひ)いた外板を何千もの真ちゅう釘やネジで注意深くとめつけていく。釘やネジの出っ張りには、ひとつひとつ根気良くヤスリをかけ、それが終わったら、船舶用のワンスをかけてコーティングする。板を釘で骨組みに固定するこの作業は、全体のなかでもことに難しく、神経を使う。ほんのすこしノミがすべったり、槌(つち)を不注意に振りおろしたりすれば、何日分もの仕事が台無しになってしまう。
 ボートは手づくりしていた時代なんですね…。
 ベイスギは、驚きの樹木だ。内部の密度が低いため、ノミでもカンナでも手鋸でも楽に形づくることができる。連続気泡構造のせいで、軽くて浮力がある。
 8本のオールがぴったり同じタイミングで水に入ったり、出たりするというだけの話ではない。8人の漕手の16本の腕はいっせいにオールを引き、16の膝はいっせいに曲がったり伸びたりしなくてはならない。8つの胴体は、いっせいに同じタイミングで前へ後ろへと傾き、8つの背中は同じタイミングで曲がったり、伸びたりしなくてはならない。
ほんのわずかな動作、たとえば手首の微妙な返しに至るまで、漕手全員が互いを鏡にうつしたように完全に同調し、端から端まで一糸乱れぬ動きが出来たとき、ボートはまるで解き放たれたように、優美に、すべるように進む。その瞬間、初めてボートは漕手たちの一部となり、それ自体が意思をもつかのように動きはじめる。苦痛は歓喜に変わり、オールのひと漕ぎひと漕ぎは、一連の完璧な言語になる。すばらしいウィングは、詩のようにさえ感じられる。
 スピードは漕手にとって究極の目的であると同時に、最大の敵でもある。美しくて効果的なストロークは過酷なストロークなのだ。
 すぐれた漕手には、巨大な自信や強烈な自我、すさまじい意志の力、そしてフラストレーションをものともしない強い力がなくてはいけない。自分の力を深く信じることのできない者、困難に耐え苦境を乗りこえる能力が己にあると信じられない者は、ボート競技の最高峰を目ざすことすらできまい。
 ボートという競技は、選手の体をさんざんに痛めつける苦しいスポーツであると同時に容易には栄光をもたらさないスポーツだ。栄光を手にできるのは、何があっても自己をたのむ気持ちを失わず、目標に向かい続けることのできる一握りの選手だけ。
ボート選手には、自我を捨てることも必要になる。並み外れた才能と力の持ち主だが、そこにはスターはいない。重要なのはチームワーク。個々人や自我ではない。筋肉とオールとボートと水が織りなす動きがメンバー同士、一分の狂いもなく同調し、個々のクルーがひとつに結ばれ、全体が美しいシンフォニーのようになることが何より重要だ。
 つまり漕手は、自立心や自己をたのむ気持ちを人一倍強く持つと同時に、自身の漕手としての個性や能力を、そして人間性を正しく把握しなければいけない。
 レースに勝つのは、クローンではない。肉体的な能力と精神的な資質の両面が全体として絶妙にバランスのとれたクルーが勝負に勝つ。クルーの利益のために、自分の漕ぎ方をうまく調節する準備がなくてはいけないのだ。
ボートのクルーの話ではありますが、ここまで極端でなくとも、仕事を立派にやり遂げるにはチームワークこそ必要なことだと思いました。それを文章化していて、すごいすごいと驚嘆しながら読み進めていった文庫本です。あなたにも一読をおすすめします。
(2016年7月刊。980円+税)

ジャニー・オブ・ホープ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 坂上 香 、 出版 岩波現代文庫
 1999年1月に刊行された本を、新たに最新の状況を紹介する末尾の文章を付加して出来ている本です。
 世界では死刑廃止が圧倒的で、EU加盟の条件にもなっています。アメリカですら死刑廃止へ動きつつあります。日本は完全に遅れています。そのなかで弁護士会は死刑廃止を求める声を上げています。
 アメリカでは年間100人近くが処刑されていましたが、今では激減しています。既に死刑廃止を決めた州は11州から23州へと増え、さらに6州では知事が執行を停止しています。これに対して日本では今も100人近い死刑囚がいて、処刑の日を日々、恐れながら過ごしています。
私は長い弁護士生活のなかで1回だけ死刑判決を受けた事件の弁護人だったことがあります。まったく気持ちのいい判決ではありません。そして、死刑(処刑)に従事する拘置所の職員や立会検察官の心労はすさまじいものがあると考えています。私は国家が人を殺していいとは考えられません。
 アメリカでは、死刑囚は黒人に偏っている。そして、死刑囚の多くは、幼少期に深刻かつ複数の虐待を常態的に体験している。学校でも深刻な問題行動を起こしていた。
 カリフォルニア州では、州知事が死刑の刑場そして死刑囚監房を閉鎖して、一般受刑者と同様に処遇されることになったようです。私も、これはいいことだと思います。生きてる限りは、人間ですから、なるべく平等に、差別なく処遇したいものです。
 日本の無期懲役は、建て前では刑務所から出て祝い事に参加できたりはしませんが、実際には満期になる前に出獄できることがありました。でも、今ではかなり難しくなっていて、平均の拘禁日数は30年以上になっています。
 犯罪を犯す人は、人生のある時点では、みな、被害者だった。
 アメリカの「ジャーニー・オブ・ホープ」は死刑囚の家族と被害者の遺族が一緒になって、50人前後の参加者が全米各地を車で移動しながら、一般市民に向けて、自らの体験を語って歩くという運動。日本では、とても考えられない運動です。
 アメリカでは、1973年から1997年までの24年間に、6000人に死刑判決が下されたが、そのうち69人が、あとで「無罪」になって釈放された。死刑と無罪とでは、天と地ほどの違いがありますよね。死刑判決が出て、処刑されたあと、形だけ無罪になっても、「時、すでに遅し」です。死んだ(殺された)人がこの世に戻ってくることはありません。
アメリカの死刑執行は電気椅子によるのではなく、致死薬注射によるもの。まず硝酸ナトリウムで眠らせ、そのあと臭化パンクロニウムによって息を止め、さらに塩化カリウムで心臓を停止させるというもの。
あらかじめ処刑の日時は公表され、被害者の家族(遺族)は希望すると身近に立会ことができる。また、このとき、死刑支持者は、刑務所の外で「お祭り騒ぎ」を起こす。
 2000年ころ、アメリカでは年間2万件ほどの殺人事件が発生していた。いやあ、怖い国ですね。なので、護身用ピストルを持つという人がインテリ層にもいるわけです。
遺族が死刑執行に立ち会って満足するかというと、必ずしもそうではない。むしろ、「加害者は苦しまずにいとも簡単に死んでしまった」と不満を募らせたりもする。そして、その後は生きる目的を見失ってしまう人が出てくる。うむむ、なるほど、難しいのですね…。
 アメリカでは胎児性アルコール症候群(FAS)というのが問題になっているそうです。毎年5千人をこえる乳児がFASをもって生まれている。そして、それは知能障害・発育障害などとしてあらわれ、思春期になると問題行動を起こし始めるのです。母親がアルコール依存症で、妊娠中に大量のアルコールを摂取していたことによる病気です。日本でも同様なことが起きているのでしょうか…。
 なんでも死刑にしろと簡単に叫ぶ人がいますが、世の中はそんなに簡単なものではないと50年以上も弁護士をしている私は思います。幼少期に人間として大切に育てられた体験のない人は社会に対して復讐を始めるのです。もっと優しい社会にしないと、結局は、みんなが安心して生活できる社会にはなりません。大いに目を開かせてくれる本でした。
(2024年12月刊。1430円+税)

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