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カテゴリー: アフリカ

もうひとつのスーダン

カテゴリー:アフリカ

川原 尚行・内藤 順司 著者 、主婦の友社 出版 
 福岡の出身で九大医学部を卒業した医師がアフリカの地、それも内戦まっただなかのスーダンでがんばっています。アフガニスタンでがんばっているペシャワール会の中村 哲医師と年齢こそ違いますが、あまりに共通点があるのに驚かされます。
 大判の写真集なのですが、スーダンの実情が表情豊かによく撮られています。どことなく物悲しさの感じられる少女の顔がアップでうつっています。この子たちの将来を奪ってはいけないと思わせます。
 川原医師は、初め日本外務省の職員として大使館勤めの医師でした。ところが、外務省を辞めて、スーダンでボランティアの医師として働いているのです。そして、日本に支援組織をたち上げました。まるでペシャワール会と同じです。川原医師を支える会はNPO法人ロシナンテスと言います。そうです、あのドン・キホーテの乗っていたロバの名前からとったものです。
 川原医師たちは、劣悪な水事情が下痢を招き、子どもたちの生命・健康を願っていることを憂えて老朽化がすすみ、水漏れがひどかった給水設備をリニューアルしました。良質な地下水が利用できるようになって、病気抑制の基となる水が確保されたのです。少女たちの喜ぶ笑顔が素晴らしい。村に学校をつくります。女の子が通える学校もつくりました。そして、母子保健に取り組みます。
 さらに、サッカーボールを日本から持ち込み、子どもたちにサッカーを教えます。日本人コーチを引っ張ってもきました。なんと、女子サッカーチームまでつくったのです。子どもたちに夢と希望を与えるって素晴らしいことですよね。
 子どもたちのはじける笑顔は、写真を眺めているほうの心まで幸せにしてくれます。子どもの笑顔は世界遺産に匹敵するほどの宝です。
 私もロシナンテスを応援します。この本を買って読むだけでも応援になるのです。あなたも、ぜひ買って読んで、眺めてみて下さい。
 
(2010年4月刊。2857円+税)

民主主義がアフリカ経済を殺す

カテゴリー:アフリカ

著者 ポール・コリアー、 出版 日経BP社
 アフリカの現実は今もってなかなか厳しいようです。どうして光明が見えてこないのか、不思議でなりません。一刻も早く、南アメリカのような大きなうなりのなかで、人々の安定した生活が平和のうちに確立されることを願います。
 この本は、アメリカの国々のかかえる現実を冷静に分析し、その対処法について考えています。
 1945年以降、全世界で成功したクーデターは、357件。その陰には、多くのクーデター未遂がある。アフリカでは、成功したクーデターは826件。未遂は109件。未然防止が145件もあった。アフリカでは一つの国で7件の「外科手術」が試みられたことになる。
 民主主義は貧しくない社会では安全を強化するが、貧しい社会をいっそう危険に陥れる。その分かれ目は、一人当たり年2700ドル、1日7ドルの所得ラインだ。最底辺の10億人の住む国の所得は、すべてこれを下回っている。民主主義は、これらの国では暴力の危険性を高める。
 これらの国では、有権者は自分たちの目の前にある選択肢について、ほとんど情報を持っていない。得られる情報が杜撰なうえ、有権者は民族的アイデンティティーによって支持するかどうかを決める。有権者は、民族的忠誠の殻に閉じこもり、候補者がたとえ犯罪者でも支持する。このとき、犯罪者だけが腐敗という機会を活用する。
 シエラレオネは安定している。これは、常駐するイギリス軍兵士はわずか80人にすぎないが、何か問題が発生したらイギリス本土から一夜にして部隊が飛来するという10年協定が結ばれていることによる。
 国際的な援助のうち11%が軍事費に流れている。そして、軍事費は暴力の抑止力になっていない。むしろ、紛争後の政府による高額の軍事費は逆に暴力を誘発している。
 正規軍が使用するために購入された銃が、反政府勢力に流れている。
 政府軍の兵士の給料が低いので、兵士たちは武器庫から盗んで売ろうとする。安価に手に入る銃が内戦リスクを高めている。
 最底辺の10億人の国々の全体の軍事費は、合計90億ドルだが、そのうち最高40%が援助金によって賄われている。そして、越境が容易な地域では、一国の政府が購入した大量の銃が徐々に近隣諸国の闇市場に漏出している。闇市場で取引される安価な銃が内戦リスクを高めている。紛争後の国はたいてい軍事費大国になるか、軍は逆効果をもたらしており、抑止力になるどころか、まさにリスクを誘発している。軍事費は過剰であるばかりか、援助費がそれを支えている。
 若い男性は非常に危険だ。全人口に対する若い男性の割合が倍増すると、内戦リスクは5年間で5%から20%まで増える。ただし、エリトリア人民解放戦線の3分の1は女性だった。
 最底辺の10億人の国々の大半では、公共監視システムはその最上階から解体されている。その結果である巨大な腐敗は、公的資金を浪費したばかりか、政治的詐欺師たちに力を与えた。こうした国では、横領によって資金を調達する利権政治が権力維持の標準的な手法だった。
 いやはや、アフリカの再生にはまだまだかなりの時間を必要としているようです。残念です。暴力によらない再生を目指す人々の集団がうまれ、その集団がうねりを起こしていってほしいものです。
 
(2010年3月刊。2200円+税)

現代アフリカの紛争と国家

カテゴリー:アフリカ

著者 武内 進一、 出版 明石書店
 アフリカの紛争をすべて「部族対立」で説明する単純な議論は、基本的に間違っている。万の単位で犠牲者を出し、国際社会の介入が議論されているような現代アフリカの紛争は、いずれも何らかの形で国家が関与し、国際関係の力学のなかで生じている。
 1990年代のアフリカの紛争を特徴づけるのは、単なる発生件数ではなく、その人的・物的被害の甚大さである。そして、膨大な数の民間人が紛争に「関わる」ことが近年の顕著な特徴である。
まず第一に、民間人犠牲者が増加している。第二に、暴力行為に民間人の関与が目立つ。犠牲者としてであれ、加害者としてであれ、民間人が紛争に深くかかわるようになっている。多数の民間人が紛争に参加する(紛争の大衆化)、政府側が国軍以外の暴力行使主体に依存する(紛争の民営化)、紛争に関与する主体が多様化するという特質がある。
 独立以降のアフリカ諸国においては、合理的な法体系による統治の体裁をとっていても、実体としては支配者を頂点とする恣意的な統治体制が構築されていた。国家統治における権威がフォーマルな法・制度ではなく個人に置かれ、支配者は「国父」として国民の上に君臨する。
 支配者は個人的忠誠にもとづくパトロン・クライアント関係に立脚して国家機能を運営し、その資源を私物化(家産化)してクライアントに分配する。クライアントもまた、与えられた地位を利用して蓄財し、自分のクライアントに資源を分配する。こうしたパトロン・クライアント関係の連鎖が国家を内的に支えている。
 大統領は出身部族を全体として優遇するわけではない。実際に恩恵を被っているのは、大統領と親密な関係にある少数の人々だけである。
 アフリカでは、1950年代に独立を勝ち取った国々が、独立直後は多党制を採用していた国が多いが、1960年代末ごろから、一党制を採用する国が次第に増加し、1980年代には、それがもっとも一般的な政治体制となった。
 ルワンダのジェノサイドも深く突っ込んで分析しています。現代アフリカを認識できる、460頁もの労作です。
(2009年2月刊。6500円+税)

国境なき医師が行く

カテゴリー:アフリカ

著者 久留宮 隆、 出版 岩波ジュニア新書
 すごいです。偉いです。勇気があります。感嘆しました。40代の日本人男性医師が国境なき医師団(MSF)に加わり、アフリカに渡ったのです。この本では、アフリカ西海岸にあるリベリアの首都モンロビアに3カ月間あまり滞在したときの体験記がつづられています。いやはや、すごい体験記です。勇気のない私にはとてもまねできそうもありません。
 アフリカに渡ると、まもなく(著者は5日目)下痢するとのこと。すると同僚の医師に笑顔で「アフリカへようこそ!」と告げられたそうです。やっぱり、水が合わないのでしょうね。そして、仕事の疲れからか、脱水症状になり、危うく死にかけたのでした。
 もちろん、仕事をきちんとこなしています。日本にいるときには、手術は週に3日か4日、そして1日に2例か3例。ところが、リベリアでは、1日に5例か6例、それを週のうち5日間ぶっ通しでこなすのです。門外漢の私にも、そのハードさはなんとなく想像できます。はっきりいって、体力の限界に挑戦しているようなものでしょう。夜に産科の緊急手術が入ることがあるので、昼休みの1時間は貴重な睡眠時間だったというのですから、そのすさまじさが伝わってきます。
 そして、英語が十分に話せず、手術器具や薬品も十分ではないなかで、仕事に追いまくられるのですから、それはそれは大変です。
 そのうえ、医療チーム内には不協和音が生じます。アメリカやらフランスやら、いろんな国の人々が善意で参加しているのですから、そのまとまりをつくるのにも一苦労だったようです。そんな困難に耐えて、何カ月もよくぞがんばっていただきました。心から声援の拍手を送ります。パチパチパチ……。著者の次の言葉には、思わず襟を正されました。
 外科手術そのものに関しては、20年のキャリアを持っているから、どんなケースであっても集中し、あるレベルの精神状態にもっていく訓練はできているつもりだった。高校生のときからずっと剣道をやってきて、現在、五段。手術室に向かう心持ちは、剣道の試合にのぞむときのそれに通じるところがある。
 剣道の試合では、いかに自分の気持ちを落ち着かせるかが肝心だ。起こりうるさまざまな場面を想定し、どんな状況にあってもあわてふためくことのないよう、自分の中でシミュレーションして向かう。
 手術も同じで、どのような症例に臨んでも、気持ちを落ち着けて精神を集中することが必要だ。
 なるほど、なるほど、よくわかります。形こそ違いますが、弁護士にしても同じようなことが言えます。
 アフリカで診察したほとんどすべての患者に共通して言えることは、大変たくましいというか、苦悩すべき状況に対して受容する心の準備がとてもよく出来ているという印象を受ける。彼らの経験してきた戦争の悲惨さから比べれば、病気やけがなどは大したことではないのかもしれない。それでも、その気構えは、大したものだと言わざるを得ない。
 日本人の男性にも、こんなに勇気のある人がいて、しかも20年ものキャリアを持つ医師がアフリカに飛び込んで行ったというのです。心から敬意を表します。
 日本の若者のなかに、続いてくれる人が出ることを願います。
 
(2009年9月刊。740円+税)

ルポ・資源大陸アフリカ

カテゴリー:アフリカ

著者 白戸 圭一、 出版 東洋経済新報社
 南アフリカの2006年度の人口10万人あたりの殺人発生率は40.5件。これは日本の40倍。イギリスの28倍。あのアメリカと比べても7倍である。
 そんな南アフリカでサッカーW杯があるのですが、大丈夫でしょうか。ブラジルでオリンピックが開催されることになりましたが、犯罪の撲滅はよろしくお願いします。それのためには、なんといっても格差のこれ以上の拡大を食い止めることですよね。南アフリカも同じことですが、日本だって他人事(ひとごと)ではありません。
 日本では、このところ年に5000件の強盗事件が発生している。南アでは20万件。南アの人口は日本の3分の1にすぎないから、発生率は120倍となる。南アフリカでは、よほど社会的に注目される事件でもない限り、日常発生する強盗事件について、捜査自体がされない。うへーっ、これは恐ろしいことです。
 南アフリカでは、芝生の庭とかプールのある暮らしというのは、半ば要塞化した警備体制の上にかろうじて成り立っていることを意味している。南アのプロの強盗団にとって、警備会社による厳戒体制というのは、赤子の手をひねるようなもの。番犬にしても、毒をまぜた肉を庭に投げ込まれたら、おしまい。
南アフリカでは、アパルトヘイト時代以上の、いびつな格差社会になっている。富裕層上位20%の総所得は、貧困層下位20%の35%に達する。今の南アフリカでは、国民の11人に1人が1日1ドル以下で暮らしている。
 南アフリカの外国人犯罪者には、大まかなすみわけがある。ナイジェリア人は麻薬密売と旅券偽造・詐欺。ジンバブエ人は自動車強盗。エチオピア人とモザンビーク人は住宅襲撃。アフリカ系以外の犯罪組織として、中国人・ロシア人・パキスタン人のものがある。
 使用人の黒人は、みんな安い給料で働かされているから、お金を払うと主人を裏切ってこっそり情報を流してくれる人が少なくない。金持ちは貧乏人のことを何も知らないが、貧乏人は金持ちの生活のすべてを見ている。
 アフリカに日本のマスコミは記者を置いていない。毎日・朝日・読売の3社と共同通信は、特派員を各1人おいている。つまり、広大なアフリカに日本人記者は4人しかいないのである。
 アフリカに居住する日本人は7千人ほど。ニューヨークに5万人以上、上海に5万人近く住んでいるのと、すごく違う。
ヨハネスブルグ中心部のビル街には、黒人でない者が外を歩くのは、昼間でも事実上、不可能である。世界中をめぐってきた日本人のバックパッカーも、ここでは身ぐるみはがされ、泣いてしまう。
 南アフリカにナイジェリア人が10万人も滞在していて、犯罪組織が活発に動いている。ナイジェリアは、2004年から2006年まで、3年も連続して「最も危険な国」とされた。
 独立後のほとんどの期間を軍事政権に支配されたナイジェリアでは、石油産業によって国庫に入る多額の収入の行方をチェックする民主的制度の欠落により、政治腐敗が世界でも最悪に近い水準まですすんだ。石油は、ナイジェリアを不幸な国にした。
 コンゴでは、住民に恐怖心を植え付ける残虐行為は、混乱を持続させる重要な戦術の一つになっている。そのコンゴにはコルタンがある。埋蔵量では、コンゴが世界一。コルタンは鉱石の一種で、精錬すると、携帯電話やゲーム機のコンデンサに使われている粉末状タンネルを得ることができる。1980年代はじめ、日本のタンネル消費量は年間100トンに満たなかったが、今やハイテク製品の普及で、237トンにまで増えた。
 スーダンから日本は石油を輸入している。スーダンの輸出総額の82%は中国向けで、日本は8.4%であり、スーダンにとって第2の輸出国である。
 ソマリアでは、市街地の信号機が動いていない。そして、中央銀行がないのに通貨が運用されていて、アメリカドルとの交換レートも存在する。ソマリアの紙幣は、民間人が印刷している。中央銀行が「民営化」しているのだ。
 このところ、中国のアフリカ進出には目を見張るものがある。無政府国家のもっとも危険な町でも、ケータイ電話企業の技術指導を担当している。
 日本の記者が、アフリカで生命の危機にさらされながら書いた体当たりルポです。
 アフリカって、こんなに豊富な鉱物資源があるのですね。そして、悲しいことに、戦争・暴力・テロが日常化し過ぎています。そのとき、軍隊なんて、まったくあてにならないのですね。日本とアフリカの遠さと案外な近さを感じさせるいい本でした。
(2009年8月刊。1900円+税)

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