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カテゴリー: アフリカ

荒野に果実が実るまで

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 田畑 勇樹 、 出版 集英社新書
 いやあ、見直しました。日本人の若い男性が、新卒23歳でアフリカに渡り、ウガンダの荒れ果てた原野に池をつくってトマトやトウモロコシなどの野菜畑につくりかえるという大きな成果をあげた体験記です。まるで、アフガニスタンの砂漠を導水路をつくることによって肥沃(ひよく)な農地につくりかえた、あの中村哲医師のような壮挙です。
 中村医師も、この新書の著者(以下、ユーキ氏)も、決してモノやカネを援助して貧困を救済するというのではなく、自らの力で農業で生きていけるように注力したという共通項があります。著者は、大学生のころ(19歳)アフリカを一人旅したこともあるようです。そこから違いますね。冒険心の乏しい私なんか発想も出来ないことです。
 ロシアのウクライナ侵略戦争がアフリカ諸国に深刻な影響を与えていることを初めて知りました。小麦やトウモロコシなどの食料価格が大幅に値上がりして、もとから貧困に苦しんでいるアフリカの民衆の生活を直撃しているのです。
 ユーキ氏たちのNGOは、荒野に巨大な貯水池を掘り、すぐ横の荒地を開墾して住民の共同農場をつくる計画の実現に取り組みました。深さ5メートル、サッカーコート1面ほどの貯水池です。
 初めは地元の行政に協力してもらうつもりでしたが、全然動こうとしません。そこで、民間企業に貯水池建設を依頼します。ところが、工事はなかなか進捗(しんちょく)しません。
 工事現場では、無断欠勤、不正、横領があたり前のように繰り返されるのです。
 治安の関係で、仕事は朝早くから始めて、昼過ぎには撤収しなければいけない。そうしないと、窃盗団から襲撃される心配がある。警察や軍隊に警備を依頼すれば、タカりの対象となってしまう恐れがある。
 スタッフを雇うにしても大変な苦労を伴う。地元有力者が「困っているように見えて、困っていない人々」を押しつけてくる。そんな人を排除して、スタッフの人選を進める。
 ユーキ氏たちが飢えをなくすために取り組んでいるカラモジャ地区について、ウガンダ政府の本心は、ここが混乱しているほうが、兵力増強の絶好の口実として利用できるというもの。援助は怪物。人々に依存心を植えつけ、かえって自立心を喪わせるもの。
 ウガンダ現地の人々は、長いあいだNGOの援助を受けているので、NGOを「金のなる木」としか思っていない人々も多い。ウガンダの人々は、一般的に、「与えてもらえる」というシステムに慣れ親しんできたので、すっかり依存文化が形成され、定着した。
 ところが、ウガンダの人々は怠け者で働かないとして定評があったのに、自前の野菜畑をつくることになると、実に生き生きと、よく働いた。日当がなければ成功しないのではない。日当があるからうまくいかないのだ。まったく、そのとおりなんですね…。
 信頼していた現地スタッフに二面性があって、現地の人々に対しては威嚇的だということも判明し、ユーキ氏は、「追放」処分を決断するのです。大変な状況でした。
 住民の声に耳を傾けない、ひとりよがりの開発プロジェクトは絶対に成功しない。住民のなかには、援助してくれるNPOなどの団体に従っておいたらいいという考えが、現場では支配的。住民は援助団体から指示されたとおりに動こうとする。それはユーキ氏たちの本意ではない。
 そして、ついにゴマを大量収穫し、続いてトマトやトウモロコシがとれた。現地の人々、とくに女性たちは弾けるような笑顔がまぶしい。写真でも紹介されています。本当にうれしそうです。
 命令せず、強制せず、対価を提供もしていないのに、なぜ現地の農民たちが自主的に参加しているのが不思議でならないと言われたそうです。
 なお、タネは在来種のものにユーキ氏たちNPOはこだわりました。アメリカの企業が開発したタネを使えば、初めは良くても、結局は、アメリカの企業に隷属する関係になってしまうからです。ユーキ氏は東大農学部の出身です。さすがです。
 250頁の新書で、たくさんの写真があって、実にすばらしいことだと思わず涙がこぼれそうになりました。一読を強くおすすめします。
(2025年6月刊。1130円+税)

酒を主食とする人々

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 高野 秀行 、 出版 本の雑誌社
 アフリカに酒を主食とする人々がいると聞いて、著者はテレビ局に企画を持ちかけ、「クレイジージャーニー」として実現させました。そこで、ロケハンなしのぶっつけ本番の取材に出かけるのです。はてさて、本当にそんな人々がいるのでしょうか…。
 しかし、実際に、酒を主食とする人々がエチオピアにいたのでした。信じられませんが、この本を読むとその事実を受け入れざるをえません。
まずは、マチヤロ村に住むコンソの人々。ここでは、お母さんも13歳の女の子も一緒に楽しく酒を飲む。穀物やイモを原料としてつくるチャガのつくり方はわりと簡単で、手間も少ない。
 コンソの女性は、水を一切飲まない。朝にコーヒー茶を500mlほど飲むだけで、あとは酒で水分を補給している。その理由の一つは、水そのものが貴重だから。女性の主要な仕事の一つが水汲み。ここは、水不足の厳しい土地。
 食事に固形物は少なく、モリンガと豆とソルガム団子だけ。肉も油もゼロ。あとは、チャガをまるでお茶のように飲む。すると、満腹にもならない代わりに空腹にもならない。常に腹五、六分目くらい。それで身体の調子がいい。体が軽い。
 チャガは濁り酒。韓国のマッコリのよう。いや、もっとどろっとしている。穀物の殻のようなものがノドに引っかかる感じもある。そんなにグイグイとノドを通らない。そして、想像以上に胃がもたれる。
次は、デラシャ。13万人のデラシャ人が住んでいる。デラシャのお酒はパルショータ。チャガはわずか3日で出来るのに、パルショータは、つくるのに1ヶ月以上もかかる。2回、発酵されてつくる。
デラシャでは7歳の子どもが丸一日、ビールと同じくらいの度数の酒を500ml缶を4~5本も飲んでいる。しかも、他に何も食べてないし、水も飲まない。
 いやいや、まさか、まさかでしょう…。この現実を自分の眼で見て著者は「幻の酒飲み民族は実在した」と実感したのでした。
パルショータは、食事と水を兼ね備えた、スーパードリンク。パルショータは濁り酒なので、一度にそれほどたくさんは飲めない。そこそこ飲むと、満腹ではないけれど、「満足」してしまう。デラシャの人たちは、1人で5リットルは飲んでいる(らしい)。
 デラシャの人々が、大人ばかりでなく、子どもの一部も、酒を主食としているのは間違いない。驚くべきことに、毎日、朝から晩まで酒を飲んでいても、生活はちゃんとまわっていく。
 デラシャ地区にある病院へ行って、酒と人々の健康との関係を尋ねてみると…。
 「デラシャ人の健康状態は、他よりも良好で、何も問題ない」
 「体格はいいし、筋肉量も多い」
 「デラシャ人に病気が多いということはない」
 「デラシャでは子どもの栄養失調はきわめて少ない」
 パルショータは、イネ科トウモロコシ属のソルガムという穀物からつくられる濁り酒。ソルガムは日本ではトウモロコシとかコーリャンと呼ばれる。アルコール度数は3~4%ほど。ソルガムはアフリカでは主食として広い地域で食されている。それで、稲、小麦、大麦、トウモロコシと並んでいて世界五大穀物の一つ。普通は粉にしたものを煮たり、ふかしたりして、柔らかい団子か餅みたいな形態(練り粥、ねりがゆ)にして食べる。それだけだとデンプン質ばかりで栄養が足りないけれど、発酵させて酒にすると、タンパク質を構成するための必須アミノ酸などが生じ、人間が生きるに十分な栄養をまかなえるようになる(と言われている)。
 パルショータは食事。気晴らしや娯楽のために飲んでいるのではない。病院に入院している患者もパルショータを飲んでいるし、妊婦も同じく飲んでいる。つまり、デラシャ人は生まれる前からお酒(パルショータ)を飲んでいる。
 たくさんのカラー写真があるので、イメージも湧いてきます。ともかく、世の中には、とても信じられないような生活をしている人々が実在することを知りました。面白い本です。どうぞ読んでみてください。
(2025年2月刊。1980円)

海と路地のリズム、女たち

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 松井 梓 、 出版 春風社
 アフリカの小さなモザンビーク島に住み込んで、人々の日常生活を細やかに調べあげ、分析している、面白い本です。
 モザンビーク島は、かつてはポルトガル領東アフリカの中心拠点として栄えた、せわしい島だった。今では、時間も現金も、漁業を中心にゆっくりとまわっている。
 居住地区は一見スラムのように過密なのに、どこよりも治安がいい。夜中に女性一人で歩いても少しも不安を感じない。小さな島の居住地区に人々は稠密(ちゅうみつ)に住まい、女性たちは友人や隣人どうし親密につきあう。身体を近づけあって相手に触れて親しさを確認し、秘密を打ち明けることで心を近づけあう。近隣の家を頻繁に行き来し、半開きの勝手口から声をかけて入っていっては、その家の女性とおしゃべりやゴシップに興じつつ隣人たちの台所事情ものぞいていく。そこで相手に食べるものがないとみれば、自分がつくった料理を皿に盛って相手の家に届けたりもする。
 まあ、ここまでは、なんとなく理解できます。驚くのは、この親密な関係が実は永続性がないことがしばしばだということです。その大きな原因の一つがゴシップです。あけすけなゴシップが行きかい、当の本人の耳にも入ります。そして疎遠な関係になります。ただ、徒党を組んで、誰かが孤立させられるというのはなさそうです。すると、どうなるのか…、また、女性たちはどうするのか、気になります。
 彼女たちは、目の前を濃密に飛びかうゴシップの渦中で、関係を悪化させすぎずに、しかし緊密に共在するのです。
 モザンビーク島で繰り広げられるゴシップは、その真偽を問わないままに他者の評判を流布する極めていい加減な社交であり、他者への応答をあるべき態度とする共生の倫理からすると、限りなく非倫理的な行為だろう。著者は、このように評しています。日本では考えられないと思います。
 著者が居住し、分析の対象とした人々の地区は島の南側の中流・下流層の人々が住む「バイロ」と呼ばれる地域。北側は、「シダーテ」という富裕層が多く住む地域。バイロの住民の大半はムスリム。バイロの女性は、夫の稼ぎをあてにせず、みずからも稼ぐ、堂々と振るまう「強い」女性たちが住んでいる。
 バイロの人たちは、必ずしも安いとはいえない鮮魚を毎日食べて暮らしている。それは島外から流入する現金があるため。
バイロでは、日々、隣人とのあいだで、皿に盛った調理ずみの料理を交換するやり取りが見られる。バイロでは、頼母子講(シティキ)が盛んにおこなわれている。
 島の離婚率の高さ、一夫多妻制のため、女性は夫と離別したあと、みずからの親族のもとに出戻ることが多い。
相手の家族が生活に困っているとみると、子どもの食事の分は助けるが、それは決して一家全員の分まではない。一定の距離を保つように線が引かれている。
 二つの家族のあいだで、相手の家族がひもじそうだとみてとると、孫の分のみ料理を分け与えるが、家族全員の分までは与えない。それは、お返しがあることを前提として、相手の生計の過度な負担とならないようにする配慮になっている。両者の関係性が負担になりすぎない距離感で保たせられている。これは、日本の昔の長屋であった共生、扶助関係とも違うのでしょうね。
 バイロの近所づきあいは、2~3日のうちに料理のお返しが求められている。共在を可能にする委ねすぎない身構え。そして、ゴシップの渦中で共在する。当初から、相手に過度に期待し、依頼でいばることをしないからこそ、深刻な裏切りも不信も生まれない。
 女性たちには、隣人たちと日々密に接し、相手とつながろうとしてしまう一方で、最後のところで相互に心理的な結びつきや連帯を求めすぎたり、みずからを相手に委ねすぎたりしてしまわない身構えがある。うむむ、そうなんですか…。大変興味深い社会生活の実情と分析でした。
 指導教官として小川さやか教授(「チョンキンマンションのボスは知っている」という面白い本の著者)の名前があげられているのを知って、同じような手法の調査だと納得しました。それにしても、男性、そして子どもたちが全然登場してこないのには、いささか欲求不満が残りました。
(2024年3月刊。5500円)

バッタを倒すぜアフリカで

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 前野ウルド浩太郎 、 出版 光文社新書
 前の本(「バッタを倒しにアフリカへ」)は、なんと25万部も売れたそうです。モノカキ志向の私には、なんとも妬(ねた)ましい部数です。その印税で、助手の男性にプレゼントをする話も登場して、泣かせます。
 この本は、前の本の続編ですが、新書版なのに、なんと600頁を超えていて、読みこなすのに一苦労しました。いえ、読みにくいというのではありません。著者の身近雑記が延々と語られていて、それはそれで面白いので、つい読みふけってしまうのです。
ともかく、バッタの婚活の研究をしている著者は、ネットその他を通じて本気で婚活しているのに、なぜかゴールインしないというのです。ええっ、いったいどういうことなんでしょうか…。ひょっとして選り好みが意外に激しかったりして…。
 それにしても好きでバッタ博士になったはずの著者が、バッタアレルギーにかかっているとは、悲劇ですよね…。
著者がアフリカでバッタ研究を始めて、もう13年になるそうです。アフリカの西岸にあるモーリタニアの砂漠にすむ、サバクトビバッタの繁殖行動をずっと研究しています。
バッタは移動能力が高い。バッタは暑さに強い。
 バッタは、フェロモンを利用した独特の交尾システムを有している。
 バッタは多同交尾し、最後に交尾したオスの精子が受精に使われる。
バッタの産卵期間は脆弱(ぜいじゃく)である。
 サバクトビバッタのメスは、オスと交尾しなくても単為生殖でも産卵し、子孫を残せる。ただし、うまれてくる幼虫はすべてメスであり、ふ化率は低い。
 著者は、長く長く粘り続けたおかげで、その論文がなんとか、ようやく高級な雑誌に掲載され、ついに学者の仲間入りができたのでした。
 それを著者は、がんばり、運が良ければ、どんな良いことが待ち受けているのか…と、表現しています。それまでの長く、苦しい研究がついに結実したのでした。2021年10月のことです。
 著者は、今やFBに60万人ものフォロワーがいるとのこと。たいしたものです。「ありえないほどの超有名人」になったのです。
 この本には、ロシアの女性(農民)が27回の出産で69人を出産したという、嘘のような本当の話が紹介されています。双子を16回も産み、また三つ子まで7回、さらに四つ子も4回産んだというのです。とても信じられない話です。
 ちょっとボリュームがあり過ぎて、読みくたびれてしまいましたが、語り口の面白さにぐいぐいと最後まで読み通してしまいました。さすが、5万部も売れている新書です。
(2024年6月刊。1500円+税)

エチオピアの季節

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 ヴァンサン・ドゥフェ 、 カリム・ルブール 、 出版 花伝社
 マンガ(レオ・トリニダード絵)によってエチオピアの現実、その光と影がよく分かります。
 国境なき記者団による報道の自由度において、エチオピアは180ヶ国のうち最下位の143位。日本もNHKの現状など、ひどいものだと思いますが…。
 中国はアフリカに大変な勢いで進出していて、エチオピアも例外ではない。中国はアフリカから原材料を運び出し、逆に中国製品を大量にアフリカに運び込んでいる。中国人はエチオピアの首都アジスアベバの街中に高速道路をつくった。
エチオピアは、ものすごいスピードで変わっている。
 エチオピアのメリットは、トラブルの多い地域のなかで、唯一安定していること。隣国のエリトリアはエチオピアと潜在的戦争状態にあり、アフリカ版「北朝鮮」とされている。
 エチオピア政権は、批判の封じ込めを経済発展にかけている。
 エチオピアの出稼ぎ労働者の大半は、中東かアフリカの他の国へ行く。そして若者はヨーロッパを目ざす。エチオピアのたくさんの人々が出国したがっているが、他方、アフリカの角から多くの難民を受け入れている。
 エチオピアは海に面していないので、たいていの輸入品は、ジブチから800キロ、トラックで運ばれてくる。
 2019年のノーベル平和賞はエチオピアのアビィ・アハメドが受賞した。エリトリアとの和平を実現したことによる。ところが、まもなくアビィ・アハメドは変身し、強硬策に転じた。2020年11月のこと。
 中国はエチオピアの借金の半分を握っている。中国はエチオピアを「伝存関係」に引きずり込んだとみられている。 「債務のわな」だ。それでも、中国経済の低迷もあって、中国のアフリカ全体への融資額は2016年にピークの285億ドルで、2022年には3割ほどの9億9千万ドルに激減した。
 2016年にエチオピアには13万人の中国人がいた。日本人はわずか200人。
 2000年から2010年までの10年間で100万人の中国人がアフリカに移住した。
 エチオピアの様子を初めて少し詳しく知りました。
(2024年3月刊。1800円+税)
 今年、わが家の庭はブルーベリーが大豊作です。梅の実はさっぱり採れませんでしたが、ブルーベリーは次から次に実が黒く色づきます。かの岩泉ヨーグルトにたっぷり入れて、美味しく味わっています。
 人間ドッグに入ったら、医師から「やせなさい」と3回も言われてしまいました。糖質制限しろというのです。野菜中心の食生活をしているつもりなのですが、もっと野菜を食べなくてはいけないようです。

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