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カテゴリー: アメリカ

無罪

カテゴリー:アメリカ / 司法

著者  スコット・トゥロー 、 出版  文芸春秋
うまいですね、読ませますね。こんな小説を私も一度は書いてみたいものです。
 『推定無罪』の続編の名に恥じないとオビ裏に書かれていますが、まさしく、そのとおりです。そのストーリー展開に圧倒され、無言のまますばやく頁をめくっていきます。次の展開がどうなるのか知りたくてたまりませんから・・・・。
 推理小説ですし、ネタバレしてしまうのは、これからの読み手の楽しみを奪いますので、内容(ストーリー)は書きません。
 一般的に言うと、被告人は証言するほうがいい。無罪判決の70%は被告人が証言席に着いて自分を弁護したときに出ている。
 アメリカの刑事裁判では、被告人の本人尋問の機会がとても少ないような印象を受けます。日本では、被告人本人の尋問をしないなんて、まず考えられないところです。
 この本では、アメリカの裁判官が国会議員と同じように選挙で選ばれること、そして、選挙民の評判を落とさないため、自分が離婚したことが知られないようにすることが前提になっています。
 主人公は、妻と離婚したどころか、「妻殺し」として起訴されてしまうのですが、時間的にズレがあって、州の最高裁判事には当選するのです。
 しかし、かねてから主人公を面白く思っていない検察官たちは、「妻殺し」を立証できる証拠集め、ついに起訴に持ち込むのでした。つまり、検察官が裁判官を殺人罪で起訴するのです。
 しかも、この裁判官は20年前にも殺人罪で起訴され、無罪となったのです(『推定無罪』)。ですから、検察官の汚名を挽回すべくなされたのが今回の起訴だったのです。
 話は裁判官の情況証拠がきわめて疑わしいところで推移していきます。
 この裁判官は、実は不倫していた。その相手は部下だった。そして。そのことを「殺された妻」も知っていたのでは・・・。とてもよく出来た推理小説でした。
(2012年9月刊。2200円+税)

勝てないアメリカ

カテゴリー:アメリカ

著者  大治 朋子 、 出版  岩波新書
世界中で戦争を仕掛けてまわっているアメリカは、同時に多くのアメリカ人をダメにしています。残酷な現実です。多くの戦死者を出すだけでなく、普通の日常生活を過ごせなくなった青年をたくさんかかえています。日本の自衛隊を「国防軍」にしてしまったら、アメリカのように日本もなってしまうでしょう。恐ろしいことです。
「世界最強」のアメリカ軍がこんなに長く戦い続けても勝利宣言をできないのはなぜか?ちゃちな兵器しかもたない武装勢力のゲリラ的な闘いに、圧倒的な戦力を誇る超ハイテク集団のアメリカ軍が勝てないのはなぜなのか?
 日本は、そんなアメリカの戦争に対して、2012年から5年間のうちに2400億円(130億ドル)の支援を表明している。ええーっ、ウソでしょ、そんなお金があるんだったら、福祉、年金のほうにまわしてよ、こう叫びたくなります。
 イラクやアフガニスタンでアメリカ軍を脅かしているのは、わずか10ドルでつくられる手製の路肩爆弾だ。手製爆弾はアメリカ兵の死亡(3100人)の原因の3分の2を占めている。そこで、ペンタゴン(アメリカ国防総省)は過去4年間で100億ドルを投入して対策の研究を続けている。しかし、有効な対策は見つかっていない。
アメリカの帰還兵にみられる軽度のTBI(外傷性脳損傷)の典型的な症状は、記憶障害や反応力の低下だ。
 IED(路肩爆弾)の爆発で生じる超音速(秒速340メートル以上)の爆風にあおられ、目には見えないが、脳は何らかの損傷を受けている。昔なら命を落とした爆弾攻撃でも、今の戦争では生き延びる。その結果、新たな傷病、この「見えない傷」が生まれている。
 イラクでは負傷兵の9割以上が命を取り留めるようになり、生き残る比率が高まった。
アメリカ兵は、戦場で1年に200回ほどのパトロールを行い、その過程で平均15回ほどの爆弾攻撃を受ける。そして、イラクとアフガニスタンで負傷したアメリカ兵は3万3千人ほど。そのうち4分の1、累計で2万人以上が軽度のTBIを発症した。アメリカ国防総省は、イラク・アフガニスタンでの戦争に従軍したアメリカ兵200万人のうち14万人が軽度のTBIと診断されたと発表した。
 これは莫大な治療費の負担増をアメリカ社会にもたらした。退役軍人省が2002年から2010年までに兵士の治療につかった費用は総額4700億円(60億ドル)で、2010年の1年間だけで1570億円(20億ドル)。
 路上に仕掛けられたIEDの攻撃から兵士を守るため、アメリカ軍は車体の底部が爆弾の衝撃を逃す特殊な構造の大型装甲車を開発した。2兆円近くの費用をかけて、イラクに1万台、アフガニスタンに2千台を配備した。ただ、重量が7~22トンとあまりに重く、機動性に欠けるため、地形の険しいアフガニスタンでは使えない地域が多い。
 アメリカ兵の自殺率は10万人あたり、20.2人に達している。
 戦場では、自分が「有益な人間」だと感じられるが、一般社会ではその経験は役に立たず、突然、「無益な人間」に成り下がったような感覚にとらわれる。そして、負傷して失業すると、さらに自信喪失が強くなり、家族との不和も増す。そのうえ、兵士は武器や痛みに慣れているから、一線を越えやすい。
 経済不振の続くアメリカでは、軍隊という就職口は、収入や医療保障、大学への進学補助などで大きな魅力だ。これって、日本でも同じようになってきましたね・・・。
帰還後の学費や医療費の補助を得るため、入隊する貧困家族の若者が少なくない。繰り返し戦場に行き、負傷し退役後は仕事を失う。離婚してホームレスになってしまうことも少なくない。
民間軍需会社、たとえばKBRはアメリカ軍と10年契約を結び、総額2兆7000億円を得る。イラクとアフガニスタンのアメリカ軍基地に働く民間軍需会社の民間人は計15万5千人。Kこれはアメリカ兵14万5千人を1万人も上回る。
同時に、オバマ政権は、無人航空機を活用する戦争のロボット化もすすめている。
 アメリカ政府は、イラク・アフガニスタン戦争のため仁総額307兆円(4兆ドル)を負担している。これには医療費、障害給付金をふくむ。そして、アメリカの累積債務は、2001年の5兆8千億ドルから、15兆5千億ドルにまで拡大した。
アメリカ兵と両国治安部隊の死者は3万人、戦闘による死者は25万人以上になっている。
テロ事件はなお続き、多くの市民が犠牲になっている。やはり、力ずくで抑えこもうとしても治安回復は難しいのです。武器さえあれば解決できるなんて単純な発想から一刻も早く脱却したいものです。
 それにしても、アメリカって野蛮な国ですよね。そんなアメリカの言うままにいつだって動かされている日本政府では困ります。日米安保条約のくびきから一刻も早く脱出したいものです。
(2012年9月刊。820円+税)

エリア51

カテゴリー:アメリカ

著者   アニー・ジェイコブセン 、 出版    太田出版 
 アメリカの宇宙飛行士が実は月面に降りていなかったというという本があります。それを読んで前に紹介したことがありました。とんでもないデッチ上げの本でしたから、すぐに注意があり、訂正しました。
 その本は、月世界ではなくこの秘密基地で写真を撮ったというものでした。実際、この秘密基地(エリア51)月世界と似ているので、宇宙飛行士の訓練場ではあったようです。
ネヴァダ核実験場は核爆発によるクレーターがつきのクレーターにそっくりだった。だから、宇宙飛行士は月面歩行の感覚を体感するため実際にこの核クレーターを歩いていた。また、この秘密基地・エリア51から飛び立ったU-2偵察機はUFOとしばしば間違えられた。
 民間機が3000~6000メートル高度で飛行しているとき、U-2は2万1000メートルの高さを飛行した。翼の長さが胴体の2倍近くもあり、そのためU-2は空飛ぶ炎の十字架のように見え、よくUFOに見間違えられたのだ。
 1957年の夏、原爆実験によって閉鎖され、それ以来、休業状態にあったエリア51は1960年1月に再開し、活気を取り戻した。
 1960年5月、パワーズ飛行士の乗るU-2はソ連上空に出てスパイ偵察飛行中に撃墜された。ソ連上空での飛行はU-2によるものだけで24回、カーチス・ルメイ将軍による爆撃機での飛行はさらに数百回もあった。
 カーチス・ルメイ空軍参謀総長は1962年8月のキューバ危機のとき、キューバへの先制攻撃を仕掛けるように求めていた。こんな危険な戦争屋(ルメイ将軍)に日本政府は最高の勲章を授与しているのです。日本人として情けない限りです。
 アメリカの危険な秘密基地の実相が暴かれている本です。
(2012年7月刊。2400円+税)

誰が中流を殺すのか

カテゴリー:アメリカ

著者   アリアナ・ハフィントン 、 出版   阪急コミュニケーションズ 
 この本のサブタイトルは、アメリカが第三世界に堕ちる日、というものです。アメリカン・ドリームなんて過ぎ去った遠い日話です。弱肉強食、留めるものはますます富んでいく一方なのに、今なお多くのアメリカ人は過去の栄光にしがみつき、現実を直視していないように思えてなりません。
 アメリカが危険な道を歩みはじめたことを何より明確に示すのは、中流層の哀れな状況だ。アメリカの中流層は、今や「絶滅危惧種」と呼んでも誇張ではない。
 アメリカの5人に1人が失業中か不完全雇用の状態にある。9世帯に1世帯がクレジットカードの最低支払額を払えない。住宅ローンの8分の1が延滞か差押えされ、アメリカ人の8人に1人が低所得向けのフードスタンプを支給されている。
毎月12万以上の世帯が破産し、金融危機によって5兆ドルもの年金や投資が消えた。
年収が15万ドル以上だった層の失業率はわずか3%。中所得層では9%。所得が下から10%の層では、失業率は実に31%。
トリクルタウン経済とは、留めるものが富めば、乏しいものにも自然に冨が浸透(トリクルタウン)するという理論。高所得層の低い失業率が、所得の少ない層の雇用に結びついているようには見えない。
 アメリカが第三世界の国への道を歩んでいるように見える予兆は、不要な戦争を戦い、さらに強力な武器をつくるために膨大な予算を使いつづけていること。ローマ帝国の時代から、国力の衰退があらわれるサインのひとつは、ほかに優先事項があるのに、国防費を増やすこと。文明は何かに殺されるのではなく、たいてい自死する。
 2010年だけで、アフガニスタンとイラクの戦争に投じた1610億ドルを、国内でたたかいを強いられているアメリカ人のために使うべきだったのではないのか。でも、ワシントンで、そんな声はほとんど聞こえてこない。
 大学の学費を出せないために多くの才能ある若者がアメリカン・ドリームを追い求められない一方で、アメリカは古くて不要な国防プログラムに大金を使いつづけている。
 アメリカでは、今なお成人の過半数(53%)が自分を中流とみなしている。ええっ、本当でしょうか・・・。日本人は、かつてあった総中流意識はとっくに幻想だと気づいていますよね。
 2000年から2007年に、中流層の平均収入は1175ドル減り、支出は4655ドルも増えた。同じ時期に収入の上位1%の層は、ブッシュ時代の貸金上昇分の65%を手にしていた。
 中流層は、おおむねルールを守り、やがて職を失う。
アメリカの多国籍企業が外国で稼いだ収入は7000億ドルで、それに対して支払った税金は160億ドル、税率は2.3%だった。
 自己破産申立する人の56%が35歳~44歳の層。そして、その圧倒的多数が、失業したために月々の支払いが出来なかったり、高い医療費に困っている中流層だ。自己破産の62%は医療費が原因となっている。すなわち、140万人の破産者のうち、90万人が医療費によるもの。そして、その78%は医療保険に入っていた。医療保険は医療費の高騰をカバーできていない。
 アメリカには、家のない子どもが150万人いる。50人に1人の子どもに家がない。家のない子どもは、病気になるリスクが4倍も高く、学習・発達の面で問題をかかえる可能性が2倍も高い。
 この20年間に、アメリカの刑務所にかかる資金は大幅に増えた。刑務所のなかで暮らす人は200万人をこえ、20年前の3倍になっている。そして、刑務所のなかに15万人もの子どもがいる。中退率の高まりに伴って、アメリカの多くの高校が大学ではなく、刑務所に入るための準備機関になった。
アメリカン・ドリームは、今ではアメリカン・ナイトメア(悪夢)に成り果てている。
いやはや、すさまじい現実です。日本をアメリカのようにしてはいけません。
(2011年11月刊。2000円+税)

死刑囚弁護人

カテゴリー:アメリカ

著者   デイヴィッド・ダウ 、 出版   河出書房新社 
 なんでもありのアメリカです。でも、死刑囚の弁護を専門にしている弁護士がいるなんて・・・。驚きます。いったい、それで食べていけるのでしょうか?
 著者は、1980年代後半から、テキサス州で死刑囚の弁護に従事しています。死刑囚の処刑を中止させるため処刑時間のギリギリまで粘って、裁判所に書類を提出するのです。でも、やがて、最高裁の書記官から電話が入る。「追加の書類は不要です。訴えは棄却されました」。そして、すぐに死亡宣告の連絡が入るのです。
 なんとなんと、こんなことが日常生活に起きるなんて、すごいストレスですよね。信じられません。
 1989年3月9日、木曜日、夜12時37分。デリック・レイモンドの処刑を著者は2人の地元記者などと一緒に見守った。いやはや依頼者が死に至る状況まで見守るとは・・・。
 死刑囚と話すとき、とにかく相手に希望のかけらも感じさせたくない。余計な希望をもたれると困る。本人が、「最後は、きっと勝てる」と思っているところに、「だめだった」と電話するなんて・・・。かすかな希望すら打ち消しておきたかった。まもなく死ぬ相手に、死ぬ覚悟ができているほうが、はるかに楽なのだ。
 たいていの殺人犯は、中肉中背。どこをとっても普通。殺人するような人間は怪物のような顔をしているはずだと思いたい。しかし、現実には、会ってみると、しごく普通の顔をしている。
 死刑囚の監房には、自動販売機が数台置かれていて、ジャンクフードやソーダ類が売られている。面会に来た人は誰でも買うことができる。小銭を入れ、ボタンを押す。商品を看守に取り出してもらい、そのまま死刑囚に届ける仕組みだ。紙幣を刑務所に持ちこむのは禁じられている。
死刑執行日が決まったことを電話や手紙で連絡しないようにしている。死ぬ日を電話で知らされるか、直接言われるか、何か違いがあるかと問われたら、たぶんない。しかし、その点にこだわる。
通常、死刑がからむ事件で上訴弁護人が最初にすることは、徹底的に調べ直すこと。
死刑囚の生活について、快適だという人がいる。午前中は、ウエイトトレーニングをして、夜はテレビを見て、1日3回ちゃんとした食事が出て、コンピュータの利用も読書もできて、いいことずくめだと。しかし、それは間違いだ。死刑囚監房は、ただの狭い檻みたいなものだ。
心に留めるべきことは、死刑囚は必ず、その残された短い時間のある時点で、心のなかまでも檻に囲まれてしまうということ。そうなってしまったら、思いもよらない刺激にも反応する。音のないミュージカルを見るようなものだ。気が狂いそうになるだろう。
死刑囚の多くは、子どものときに、自分の家族から隔離されるべきだった。だが、そうはならなかった。誰からも、一切関心をもたれず、誰からも関心をもたれなかったために、危険な人物となる。そのときになってようやく、社会は彼らに目を向けるのだ。もし、誰かがもっと早く気がついて関心を払っていれば、彼らの命は救われたかもしれない。
 刑務所の職員は、死刑囚と弁護人以外の来訪者と面会をひそかに録音している。弁護士との面会は録音しないことになっているが、やっていないはずはない。
死刑囚は三種の薬物のカクテルで処刑される。一つ目の薬物はバルビソール剤で、これにより死刑囚は意識を失う。二つ目の薬物で身体が麻痺し、最後の薬物で心臓が停止する。二つ目の薬物は、立会人のためのもの。もし死刑囚が麻痺状態にないと、三つ目の薬物で心臓が止まるとき、水揚げされた魚のように、のたうつことになる。一つ目の薬物は死刑囚のためのもの。もし、それが十分でないと、二つめの薬物で横隔膜が麻痺するとき、窒息死の苦しみを味わう。三つ目の薬物は、激しい痛みを伴う。傷口に塩酸を注ぐようなものだ。
人を絞首台に送る陪審員や裁判官は、自らの下した判決をきちんと見るべきであり、死刑の執行に立ち会うべきだ。死刑を支持する控訴裁判所の裁判官は一人残らず死刑囚監房を訪れ、自らのその知らせを伝えるべきだ。死刑の執行延期を拒む最高裁判所の裁判官も、死刑執行室まで陰湿な廊下をはさんで8歩の待機房で死刑囚に自ら伝えるべきだ。助手をつかって、その死刑囚弁護人に電話で伝えるのはやめるべきだ。
この社会において処刑を継続するのなら、それが無慈悲かつ無責任に他人の命を奪った人間にたいする妥当な刑罰と考えるなら、執行を止める権力を有する人間は、その刑罰を科す責任、少なくとも、その刑罰を否定しないことの責任を負うべきである。
 他者の決断により、他者が手を下すのなら、人を死に追いやるのは容易だ。現在の死刑制度は卑怯な精神をよりどころにして機能している。
大変重たい指摘だと受けとめました。死刑の存廃をめぐってはもっと大いに議論すべきです。何となく死刑賛成の日本人が多い気がしてなりません。ぜひ、あなたも一読してください。
(2012年8刊。1900円+税)

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