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カテゴリー: アメリカ

強欲の帝国

カテゴリー:アメリカ

著者  チャールズ・ファーガソン 、 出版  早川書房
 アメリカやヨーロッパの大手銀行は、金融危機を招いた行動に加えて、エンロンをはじめとする大企業の不正の幇助、麻薬カルテルやイラン軍のための資金洗浄(マネー・ロンダリング)、脱税幇助、腐敗した独裁者の資産の隠匿、談合による価格決定、さまざまな形での金融詐欺を行っていたことが暴き出されている。アメリカの金融部門が、過去30年間で、ならず者産業になり下がった証拠は、今では明白だ。
 世界経済を危険にさらす重大な不正を行ったら刑務所に行くこと、そして不正に得た富は没収されることになれば不正は小さくなるだろうが、そのようにはならなかった。
アメリカのホームレスは人口は明らかに急増している。2011年には、アメリカ全土で200万軒以上の住宅が差押えされた。フードスタンプの利用者数は1800万人増加した。70%の増加率だ。
 今やアメリカの上意中流階級に確実に入るためには、エリート大学の学士号はもちろん、修士号や博士号も必要となる。しかし、こうしたエリート大学に行ける学生の圧倒的多数は、アメリカの最富裕層の家庭の子どもだ。高等教育機関の学費は大幅に上昇しており、高等教育を受ける機会は著しく不平等になっている。
 アメリカの二大政党は、どちらも、現実に存在する経済・社会・教育問題を無視したり、ごまかしたり、利用したりしている。
 アメリカの富と企業と政治を支配している上位1%の人々の経済利益は、過去30年のあいだに、他のアメリカ人の経済的利益から完全に分離してしまった。
 アメリカの金融サービス産業は、ニュー・エリートたちの非道徳性や破壊性、強欲さがこれほどむき出しにされてきた産業はほかにない。
 1980年代のS&L事件では、アメリカの金融部門の数千人の幹部が刑事訴追され、数百人が、刑務所に送られた。
 200年代のサブプライム融資の多くは、持ち家率の向上とは、まったく関係のないものだった。ウォール街や貸付機関は、不正によってポンジ・スキームを生み出し、あおり、利用していた。何百万人ものアメリカは、単にだまされただけだった。家を売ろうとしたとき、初めて気がついた。住宅の価値が3分の1も下がっているため、家を売ることが出来ず、長年かけて貯めたおカネを失ってしまったことに気がついた。
 サブプライム・ローン貸付業は、バブルのあいだに犯罪の蔓延する産業になっていた。
 不法移民は、警察に行くことを恐れていたので、とくにカモにされやすかった。
バブル期には、ウォール街の多くの幹部が自分のまわりに現実から遊離した小世界を築いていた。一般社員の立入を禁止する空間、リムジン・カー、専用エレベーター、ジェット機、ヘリコプター、高級レストランで過ごした。取締役会は、すべて言いなりだった。
ニューヨークの投資銀行家たちは、ナイトクラブやストリップ・クラブで年間10億ドルのお金を使い、会社に対して接待費として会社に請求している。
 それでも彼らについて刑事訴追が行われなかったことから、非倫理的で犯罪的な行動を文化的に容認する姿勢が金融部門の奥深くに埋め込まれた。第二に、個人は刑事罰を受けずにすむという感覚が生まれた。犯罪行為をもくろむ銀行家が刑事訴追という脅威によって抑止されることが、もはやなくなった。
 大手の金融機関がやってきたこと、やっていることは法の下で加えられるべきだったのです。これは、ちょうど、3.11のあと東京電力の会長・社長以下、誰も刑事責任を問われていないことと同じです。無責任集団が出来あがっています。それでも、それを容認したらまずいです。銀行と証券会社がのさばる社会は、やっぱり異常なのですよね。彼らは、何も富を生産しているわけではないのですから・・・。
 大学教授たちは、民事と刑事の双方の金融詐欺訴訟において、大金をもらったうえで、被告らのために証言した。そしてこのとき、1時間の議会証言だけで25万ドルももらう。
 大学教授に大金を支払って特定の政策を擁護させるという現状は、経済・法学の分野だけでなく、政治学や外交政策の分野まで広がりはじめている。
学者の腐敗は、今まではきわめて深く根を張っている。学問の独立性が金融産業をはじめとする有力産業によって、徐々に破壊されている。
 政治家のウソに対するメディアの監視が弱まっている。この点は、日本でも残念ながら同じですね。最近のマスコミ、とりわけNHKのひどさといったら、目もあてられません・・・。
アメリカの刑務所には、常時200万人もの受刑者がいる。1000万人以上のアメリカ人が重罪の前科をもち、交通事故以外の犯罪で服役したことがある。数百万人が何年間も失業したままである。
 アメリカン・ドリームは死にかけている。アメリカの子どもの人生展望は、親の富にますます左右される。
今のアメリカには、三つの教育制度が併存している。その一つは、上位5%の富裕層を対象とするエリート主義で、きわめて質の高い、法外な費用のかかる私立学校制度。二つ目は、しっかりした公立校の学区に住み、子どもを大学にやるゆとりがある中流階級の専門職のためのかなり良質な制度。三つ目は、残りみんなのための、本当にひどい制度である。
アメリカ、とりわけ金融産業のおぞましい実情を厳しく糾弾した本です。日本も一刻も早く他山の石とすべきです。
(2014年4月刊。2700円+税)

アフリカ系アメリカ人という困難

カテゴリー:アメリカ

著者  大森 一輝 、 出版  彩流社
 オバマ大統領が誕生したことは、アメリカにおける黒人差別が解消したことのシンボルだとは、とても言えないようです。
オバマは、「黒人大統領」ではない。逆に、「黒人」であることを封印された大統領である。自分が人種差別主義者であるとは夢にも思わない白人たちによって、オバマの手足は固く縛られている。オバマ大統領の口から「人種」という言葉が出るのを許さないという圧力は強烈だ。
 白人国民は、人種主義が見えないが、見えるつもりもない。人種を見ないことにすれば問題は解決するのだという「カラー・ブラインド」論が横行している。
 「黒人」というカテゴリーは、異郷で生きることを余儀なくされたアフリカ諸民族に、共通の経験をもたらし、共通の心性を育んだ。「黒人であること」の屈辱と誇りを、苦悩と喜び、絶望と祈りこそが、「アメリカ黒人」を新たな民族に鍛え上げた。
 南北戦争後のボストンに住む黒人エリートたちは、能力主義(メリトクラシー)が徹底されたら、人種主義は克服されると信じた。これらの黒人エリートたちは、黒人生活の実態を見ようとしなかった。
 1917年にアメリカが第一次世界大戦に参戦すると、黒人は人口比に相当する以上に徴兵に協力したにもかかわらず、軍内部でさまざまな差別を受けた。両人種は厳格に分離されており、黒人兵のほとんどは勇気を疑われ、戦闘部隊ではなく、補給その他の雑役に回された。
 そして、戦争が終わって「母国」アメリカに帰った黒人兵士たちを待ち受けていたのは、人種暴動とリンチだった。1919年末までに、30県の暴動が起こり、80人がリンチで殺された。そのうち14人が火あぶりにされたが、うち11人は、征服を着た元兵士だった。
 現代アメリカにおいてリーダーたるべき黒人知識人の多くは自縄自縛に陥る。人種差別はたしかにある。しかし、だからといって、黒人への特別な配慮や対策を要求したり、黒人が団結して抵抗してしまえば、本来あってはならない人種という区分を許すどころか強調することになる。今やるべきなのは、人種カテゴリーの解体なのだから、差別は個人の努力と才覚によって乗りこえるほかないのだ・・・。
 人種主義から逃げるのではなく、それを直視し、正面から受けとめるべきだという声は同時代の黒人からも上がった。
 現実に対して「ブラインド」になる、つまり目をつぶっていては何もできないのだということを、ボストンの黒人は長い時間をかけて学んだ。自分たちの人生を変えるためには、人種による格差に目を向け、人種差別のない未来を創り出していくしかない。
 アメリカにおける黒人差別の解消は、今なお容易ならざる課題であることを痛感させられました。
(2014年3月刊。2500円+税)

イエロー・バード

カテゴリー:アメリカ

著者  ケヴィン・パワーズ 、 出版  早川書房
 アメリカの若者がイラクへ派兵された。21歳の3年兵バートルは、18歳の初年兵マーフィーを無事に故郷に連れ帰ると約束していた。しかし、戦場の現実は苛酷だった・・・。
 この本を読みながら、どうしてアメリカ人がイラクでこんな苦しみを味わわなければいけないのか、つくづく疑問に思いました。
自分が通ったゲートの空いた席を霊たちが埋めていた。迫撃砲やロケットや弾丸や即製爆弾でやられた兵士たち。救急ヘリに担ぎ込もうとしたときには、皮膚が滑り落ち、四肢は本来の位置に辛うじてくっついているという状態だった。
 彼らはまだ若く、故郷には恋人がいて、人生を意味あるものにしてくれる夢を抱いていたのだろう。彼らは進路を間違ったのだ。死んだら、もう夢は見ない。
 自分は顔を背けた。打ちのめされて、くらくらした。体内に何も残らなくなるまで吐いた。それでもなお、胆汁が気味悪い黄色のリボンのようになって出てきた。それから、やっと上体を起こし、口のあたりを拭った。
 自分らは、ある角で止まった。ネズミの行列が破片の山を縫って、通りを横切っていった。ネズミは数の力で、死体に食らいついていたみすぼらしい犬を追いはらった。見まもるうちに、犬は切りさいなまれた腕をしっかりくわえて路地へ走りこんでいった。
 自分らは、沈黙のなかで、彼の人生最後の瞬間を脳裏に浮かべていた。彼が苦悶し、アラーに開放してくれるよう懇願しているのが見えた。だが、助けてもらえないと悟ったときには、のどを切られて首から血を噴いていた。そして、窒息して死んでいったのだ。
 その男は、自ら望みもしなかった武器に仕立てられた。敵は彼を捕らえて、殺し、内臓を抜き、腹腔に爆薬を詰め、こちらが彼に気づいたと思った瞬間に爆発させ、そして攻撃してきたのだった。
自分らは、もう自らの凶暴性に気づかなくなっていた。人を殴打したり、犬を蹴飛ばしたり、手荒い捜索をしたり、ゆく先々で発揮する残忍さに。行動の一つひとつが、機械的に実践される練習帳の一頁のようだった。だが、自分は気にもしなかった。
 イラクに兵士として派遣されて生活しているうちに、人間らしさをどんどん失い、感覚が鈍磨してく様子が生々しく語られています。恐ろしい現実です。そんな人々(若者です)をアメリカ社会は何十万人とかかえているのですね。まさしく、双方にとって不幸のきわみです。
 著者は17歳でアメリカ陸軍に入隊し、2004年から1年間、イラクに派遣され、機関銃士として転戦しました。その体験にもとづく小説ですので、迫力が違います。
 アメリカの野蛮さの原因を知ることのできる本でもあります。
 安倍首相の集団的自衛権の行使容認というのは、日本の青年をこのような状況に追い込もうということです。絶対にあってはならないことだと私は思います。
(2013年11月刊。2100円+税)

とらわれた二人

カテゴリー:アメリカ / 司法

著者  ジェニファー・トンプソン、ロナルド・コットンほか 、 出版  岩波書店
 レイプ犯として11年も刑務所に入っていた黒人がDNA鑑定と、それにもとづく真犯人の自白によって無罪となった話です。そして、もう一方でレイプ被害にあった白人女性の心の痛み、しかも、間違って無実の犯人と名指ししたことによる罪の呵責(かしゃく)をどう考えるのかという重いテーマもあります。実は、本書はこの二つの視点からスタートします。
 そして、この本は、その両者を結びつけ、冤罪の被害者とレイプの被害者とがついに手をとりあって和解したという感動的な実話なのです。
 それにしても、目撃証言というのは、本当にあてにならないもの、信用できないものなんですね・・・。
私は単なるレイプ事件の被害者ではなく、記憶力が最低のレイプ被害者で、そのため、ある人が11年間も無駄にしてしまった。どうして、私は、そんな愚かなことをしてしまったのだろう・・・。
 ロナルド・コットンが犯人だという思いに捕らわれ、過剰なほどの自信をもってしまった。あの夜の記憶は鮮明で、理屈というよりも直感的で、意のままに再生できるビデオテープのようなものではなかったのか。
ロナルド・コットンの顔を面通しで見て、さらに法廷で見ることは、つまり、次第に彼の顔が私を襲った犯人の元々の像にとって代わっていくことを意味した。法律の専門書で、それは「無意識の転移」と呼ばれる。要するに、私の記憶が歪められたということだ。私は自分を襲った人を30分も見たし、彼の顔は私と数インチしか離れていなかった。それなのに、私は完璧に間違ってしまった。
 無実の被告人を弁護した弁護士たちは、まったくの無報酬でがんばっていたのでした。これまた、すごいことです。そして、無罪になったときに言ったのは・・・。
 「我々の仕事に対しては、一切、報酬はいらない。ロン、ただ、君の自由を最大限活用してくれたらいい」
 「生産的な生き方をしてほしい。それが、我々の求める最良の報酬だ」
 すごいですね。アメリカにも、私たちと同じようにがんばる弁護士はいるのですね。うれしくなります。
刑務所で生きのびるためには、鍛えて強い身体を維持しなければならない。走ったり、腹筋運動や腕立て伏せしたり、あらゆる方法で身体を動かした。
 刑務所に収監された直後は、とても重要だ。戦いの勝敗が、そこになじめるかどうかを左右する。刑務所では、弱虫に見られないようにするのが大切だ。そうすれば利用されずにすむ。たとえ負けたとしても、やり返すことで、一目置かれるようになる。
 刑務所では、多くの者が身を守るために、自分を殺人を犯して服役しているという。そうすれば、たちの悪いやつに見えると思っているのだろう。ここでは、誰を信じていいのか、決して分からない。
 アメリカでは、DNA鑑定によって、300人以上の有罪判決がくつがえっているとのことです。これは、すばらしいことであると同時に、実に恐ろしいことです。そして、それは、被告人とされた無実の人だけでなく、被害者にも二重の苦しみを与えることになるわけです。よくぞ、本にしてくれたと思います。感謝します。
(2013年12月刊。2800円+税)

ショック・ドリクトン(下)

カテゴリー:アメリカ

著者  ナオミ・クライン 、 出版  岩波書店
 ロシアに対しては、衝撃は大きすぎ、治療は不十分というのが、ショック療法についての大方の見方だった。西側諸国は、苦痛にみちた「改革」を容赦なくロシアに要求しながらも、その見返りとしてはあまりに貧弱な額の援助しか与えなかった。
 世界で共産主義が脅威だったときには、ケインズ主義によって生きのびるのが暗黙のルールだった。しかし、共産主義システムが崩壊すると、ケインズ主義的な折衷政策が一掃され、フリードマンの自由放任主義がやってきた。
 フリードマンは、すべてを市場にまかせるべきで、いかなる救済措置にも反対すると述べた。弱者は溺れるがままに放っておけという、金持ち視点の冷酷な見方を公然と述べたのです。いやなやつですね。自分と大金持ちさえよければいいなんて、そんなの学問と呼ぶに値しませんよ。
 IMFは、アジアの人々を失望させても、ウォール街を失望させることはなかった。10年たってもアジア危機は収束しなかった。わずか2年間で2400万人が職を失い、新たな絶望が根を張り、どの社会においても問題の収拾に苦労している。絶望は、その土地土地で違う形をとってあらわれる。インドネシアではイスラム過激派が台頭し、タイでは児童売春が激増した。
 ブッシュ政権の国防長官に就任したラムズフェルドは、戦争を物理的なものから心理的なものへと、肉体を駆使する戦闘から派手な見世物へ、そして、今までよりはるかにもうかるものへ変えていった。しかし、ペンタゴンの幹部たちは、ラムズフェルドの「軍隊空洞化」構想に強い敵意を抱いた。国防省の人件費をできるだけ削減し、膨大な公的資金を民間企業に直接送り込もうとした。つまり、ラムズフェルドは米軍に「市場理論」を適用しようとした。
 ラムズフェルドの子分だったディック・チェイニーも、現役部隊の規模を縮小し、民間委託契約を大幅に増やした。戦争を収益性の高いサービス経済の一部にしてもいいのではないか。にっこり笑って、軍事侵略を、というわけである。
 9.11のあと、表向きはテロリズムとの戦いを目標にかかげつつ、その実態は、惨事便乗型資本主義複合体、すなわち国土安全保障と戦争および災害復興事業の民営化を担う、本格的なニューエコノミーの構築にほかならなかった。
 ブッシュ政権になってから、国防総省の民間企業への委託契約金は、1370億ドル増の年2700億ドルになった。米諜報機関から情報活動の外注費として民間企業に支払われた金額も、1995年に比べて2倍以上の年間420億ドルになった。
 今や、セキュリティー産業とは、抑制のない警察権と抑制のない資本主義が、いわば秘密刑務所とショッピングモールが結び突くように合体した前代未聞の産業なのである。
 アメリカが支配したイラクにおいて、経済的ショック療法として、国家を大幅に縮小し、その資産を民営化することが実行された。略奪行為も、その一環となった。
 イラクでの「大失敗」は、歯止めのないシカゴ学派のイデオロギーを入念かつ忠実に適用しようとしたことによって起きたもの。これは資本主義が引き起こした惨事であり、戦争によって解き放たれて際限のない強欲の生み出した悪夢にほかならない。
 自由放任主義の原則をこれほど大規模な政権事業に適用した結果は、悲惨な失敗だった。アメリカの大手企業は、3年半後にすべて撤退した。何十億ドルというお金が費やされたにもかかわらず、膨大な仕事の大半は手つかずのままだった。イラクの混迷で、最大の利益を得たのは、ハリバートンだった。
政治家や企業人など、エリート層の多くが地球環境の変動に楽観的なのは、自分たちはお金の力で最悪の状況から脱出できると思っているからだ。自分たちだけは、プライベートヘリコプターによって空中に引き上げられ、聖なる安全圏に逃げ込めるというわけだ。
 アメリカ初のとんでもない「経済学説」が世界中を荒らしまわっていることがよく分かる本です。そして、日本でも、同じことが起きています。TPPも、その一つですよね。大変な力作です。
(2013年4月刊。2500円+税)

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