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カテゴリー: アメリカ

戦地の図書館

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  モリー・グプティル・マニング   出版  東京創元社
 いい本です。読書は人に欠かせないもの、本を読むと人間は楽しくなる、そんなことを実感させてくれます。
根っからの活字中毒症である私にとって、我が意を得たりの思いで、満足感もありました。ナチスドイツは大学生に本を読むなと言って、禁書を燃やす「祭典」をしました。なんと野蛮なことでしょう。アメリカは、その反対に戦地にいる兵士へどんどん本を送り届けました。
そのなかにはボストンで禁書とされたような本まで含まれていました。そして、そのために国民の本の供出を呼びかけ、さらには軽いペーパーバックの兵隊文庫まで大量生産したのです。そして、戦場で傷ついた兵士から、本を読んだ感想文が作家のもとに届きます。
戦友が死んでいくのを見た日から、ぼくは世の中が嫌になり、冷笑的になった。
何も愛せず、誰も愛せなくなった。心は死んで、動かなくなり、感情を失った。
ところが、本を読んでいるうちに感情が湧いてきた。心が生き返った。自信まで湧きあがり、人生は努力次第でどうにでもなるんだと思えるようになった。
兵隊文庫には、すばらしい物語がある。軽くて携行に便利なペーパーバックで、手に入れやすかった。兵隊文庫をもっていない兵士はほとんどいなくて、みな尻ポケットに入れている。
ナチスドイツが葬り去った本は1億冊。アメリカは1億2千万冊の兵隊文庫を兵士に無料で提供した。
アメリカが戦争に勝ったのは物量の差だけではなかったのですね、初めて知りました。
兵隊文庫の本に入った作家は、多くの兵士と文通友だちになった。兵隊文庫は数知れぬ兵士の心を動かした。精神面で勝利すれば、戦場で勝利できるだろう。戦場で負傷した多くの兵士が、本を読むことで癒され、希望をもち、立ち直った。読書には心身の傷を癒す効果があることが証明された。
1939年に販売されたペーパーバックは20万冊。それが1943年には400万冊をこえた。
あれこれ迷うな。一冊つかめ、ジョー。そして前へ進め。あとで交換すればいいんだから。
これは兵士たちへの呼びかけ。人気の本は兵士たちに徹夜で読まれ、他の兵士へまわされた。
日本軍との死闘がくり広げられたサイパン島には、海兵隊の先発隊が上陸して4日後に兵隊文庫を満載した船が到着し、その3日後には、図書館が建設された。
これでは日本軍が負けるのは、ごくごくあたりまえ、必然ですよね・・・。
戦争前には読書週間のなかったアメリカの青年が読書好きとなり、アメリカは世界最高の読書軍団を擁することになった。だから、戦後、復員した元アメリカ兵は大学に入って勉学にいそしむのです。その年齢制限も徹廃されたのでした。
戦争の実相についても、いろんなことを教えてくれる本でした。
(2016年5月刊。2500円+税)

パークアヴェニューの妻たち

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  ウェンズデー・マーティン 、 出版  講談社
 ニューヨークはマンハッタン島に住むセレブ族の女性の生態が著者の体験を通じて明らかにされています。いやはや、大変なところです。
 マンハッタンのアッパー・イーストサイド、70丁目台のパークアヴェニューに住み、子どもたちのためにママ教室に通い、子守と言い争い、他のママとお茶をして、富裕層向けの音楽レッスンに願書を出し、保育園の審査を受けた。
 マンハッタン島のなかには、母親という別のシマがある。アッパー・イーストサイドの母親たちは、一般人とは違う特殊な種族だった。彼女たちの社会は、ある種の秘密社会で、独自のルールや儀式、制服や移動パターンが行きわたっている。
 アッパー・イーストサイドの子どもの日常は、誰の目から見ても尋常ではない。専属運転手、子守、ハンプトンズまでの自家用ヘリ。2歳児のための「まっとうな」音楽教室。幼稚園の入園試験と面接に合格するための3歳からの家庭教師。4歳になったら遊びの約束のコンサルタント。そして、子どもの送迎にふさわしい服を母親たちにアドバイスしてくれるワードロープ・コンサルタントもいる。
ここのママたちの日常は、まさしく奇怪と言える。彼女らは愛情あふれる母親であると同時に、勝ち組になる、ひいては勝ち組の子どもの母になることを固く決意した、企業家なみの野心をもった君主でもある。
あちこちのアパートメントのロビーで、おしゃれバトルが繰り広げられる。女性たちが、来る日も来る日も、服装を競いあうのだ。ブルネロクチネリやロロ・ピアーナを着てめかしこんだ女性が、西部劇の決闘場面さながらに明け方に一堂に会する。
そして、服とともにバッグがことさら重要なのだ。バッグは、甲冑(かっちゅう)であり、武器であり、旗であり、さらにはそれ以上のものらしい。攻撃する女性は、みな高級バッグを持っていて、標的にそれをこすりつけるのを喜んでいるようだ。
バーキンのバッグ。1年に2500個しかつくられない。8千ドル(80万円)とか、15万ドル(1500万円)のバッグ・・・。マンハッタンの誰もがバーキンを欲しがる。なぜか・・・。バーキンは、とりわけ高いステイタスシンボルであり、女性にとっては究極のシンボルといってよい。憧れの的であると同時に、希少なバーキンは女性同士の敵対心を、マンハッタンの女性たちのあいだであまりにも頻繁にみられる接触や視線のなかに潜在する女性の執着心を引き出す。
マンハッタンの女性のヒエラルキーで上の位置する女性が美容にかける1年分の費用は、最低でも9万5千ドル(950万円)かかる。靴は600ドル(6万円)とか1200ドル(12万円)。
たとえば、ハイヒールを一晩中はくためには、足に注射しておく。足の一部の神経を麻痺させておくのだ。
体裁を取つくろって、体面を保つ。それが、この地域の掟であり、生き方なのだ。
 セレブ女性たちの生態は恐ろしすぎて、とても近寄れません・・・。
(2016年4月刊。1600円+税)

スポットライト

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  ボストン・グローブ紙 、 出版  竹書房
 映画をみに行こうと思っていたら、上映期間が短くて見逃してしまいました。
 宗教国家アメリカの恥部を暴いた映画として、必見だと考えていましたから、残念です。
 「カトリック教会の大罪」というのが、本のサブタイトルについているように、カトリック教会の司祭たちが信者の子どもたちに性的虐待を加えていて、それをカトリック教会が長いあいだ見て見ぬふりをして許していた、助長していたという事件です。ですから、訳者は、「決して楽しいお話ではありません。覚悟して読んでください」と、訳者あとがきに記しています。
 いま、全米6700万人のカトリック教徒のうち、4人に1人しか毎週のミサに参加しない。2015年、アメリカの司祭3万8千人は、1967年のピーク時の64%にすぎない。
 カトリック教会の長年の怠慢は、財政的な代償を払わされた。二つの教会が保険会社から見捨てられ、破産の瀬戸際にある。過去20年間で、聖職者の餌食になった人々への訴訟和解金は13億ドルにのぼる。
 ボストン教区のゲーガン司祭の被害者は、小・中学生にあたる年頃の少年たちだった。虐待行為の数々の証拠にもかかわらず、カトリックの司教や枢機卿は、問題の司祭たちを雇い、昇進させ、ねぎらった。
 虐待に関与したとされて職を解かれた司祭は、2002年はじめの4ヶ月で176人にのぼった。ゲーガン司祭は、救いがたい小児性愛者だった。2002年までに200人もの子どもたちがゲーガンにレイプされ、また触られた。そして、教会当局は、ゲーガン司祭の小児性愛癖を承知していた。
 絶望し、問題をかかえた若者が助けを求めて訪れる教区のカウンセリング・ルームで、シャンリー司祭は、権力と地位をつかって、彼らを餌食にし、性的虐待とレイプを続けた。
司祭が子どもにいたずらをするという考えは、当時も今も信者にもちろんない。だから被害にあった子どもは両親には言えなかった。誰も信じてくれない。司祭は万能の存在だった・・・。
 このような状況をボストンの地方紙が暴いていったわけです。すごいですね・・・。それにしても、教会って、そんなところなんですね。まったく呆れてしまいました。
 ゲーガン元司祭は、服役中の刑務所で白人至上主義の死刑囚に絞殺されたとのこと。68歳でした。
 宗教国家アメリカの恥部、そして民主主義の担い手のいるアメリカ。両面を知ることができる本です。
 
(2016年4月刊。1500円+税)
投票日の日曜日、夕方から小雨の合間を縫って庭の手入れをしました。このところ雨が続いていたので、雑草が伸び放題だったのです。
 草刈りバサミを使いすぎて、しまいには両腕が痛くなってしまいました。
 アジサイの花が終わり、カンナとヘメロカリスの花が咲いています。どちらも黄色の花です。
 今年はブルーベリーが豊作でした。夕食のデザートとして美味しくいただきました。

米軍基地がやってきたこと

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  デイヴィット・ヴァイン 、 出版  原書房
 米軍基地は世界中に展開する超大型フランチャイズだ。アメリカ国内には独立した外国の基地はひとつもないのに、外国には米軍基地が800近くもあり、何十万人もの米兵が駐留している。
 米国国防総省(ペンタゴン)によると、戦後70年たった現在でも、ドイツに174、日本に13、韓国に83の米軍基地が存在する。世界の70ヶ国以上に米軍基地はある。
アメリカ以外の国々のもつ在外基地は30。それに対してアメリカは800。
海外で暮らす50万人以上のアメリカ人が基地関係者だ。日本やドイツのように受け入れ国が費用を一部負担していても、アメリカの納税者の負担は、国内にいる兵士と比べて年間平均で4万ドルも増える。在外基地や軍の駐留を維持する費用総額は少なくとも年間718億ドルにのぼる。
 アフガニスタンやイラクにおける基地と兵士にかかる経費をふくめると、総額では1700億ドルをこえてしまう。
 在外基地を維持するためには、アメリカは好ましくない相手と手を組むこともいとわない。イタリアでは、米軍とマフィアが癒着している。
基地の存在が受け入れ国の安全を実際にどこまで高めているのかは疑問である。
輸送技術が進歩した現在、アメリカが海外に軍を駐留させておくメリットは、実は、ほとんどない。アメリカ本土やハワイから軍を配備するのにかかる時間は、海外にある多くの基地とほぼ変わらなくなっている。
 外国の基地は、危険な地域を安定させるどころか、軍事的緊張を高め、紛争の外交的解決を妨げることが多い。
米軍は、アフガニスタンから正式に撤退したあとも、少なくとも9つもの大規模な基地を残している。イラクから撤退したあと58か所の持続的な基地を保持しようとして失敗したが、要塞のような大使館は基地のような存在であり、アメリカの民間軍事会社の大規模部隊も残っている。そして、ISとの新しい戦争が始まると、何千人もの米兵がイラクにある5つの基地に戻っている。
 1980年代に起きた大虐殺で、ニカラグアでは5万人、エルサルバドルでは7万5千人、グアテマラでは240万人が死亡あるいは行方不明となっている。犠牲者の大部分は、貧しい一般市民だった。そして何十万人もの難民が近隣の国々やアメリカに殺到した。その原因は、アメリカ政府が供与した銃弾にある。
 1980年代、アメリカ政府は麻薬取引に関与する残忍なコントラや、ホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルの圧倒的な政権を支援し、中米の汚い戦争をあおった。その戦争によって何十万人もの人々が殺傷され、社会的関係がずたずたに壊された結果、貧困と危険、麻薬密売が蔓延し、かなりの人々がアメリカなどへの移住を強いられた。
在外米軍基地からは、すさまじい量のゴミが出る。平均的な沖縄住民の出すごみの量は年間270キロであるのに対して、米軍兵士はその3倍近い年間680キロものゴミを出す。
基地の外で女性を搾取するように若い兵士にけしかけておきながら、その舌の根も乾かないうちに、軍の女性を仲間のひとりとして扱えなどといっても、それは無理な注文だ。
 米軍の女性兵士は、敵の兵士に殺されるよりも、軍の仲間であるはずの男性兵によってレイプされることのほうが多かった。人間の社会では、ある種の条件でレイプや性的暴行が起きやすくなる。そうした条件がそろっているのが米軍であり、世界にある在外基地だ。そこでは、女性が男性より劣った存在とみなされる。ポルノやショーで女性はセックスの対象でしかない。男性は男らしさを発揮するよう教え込まれ、そそのかされる。その男らしさの概念の中心を占めるのは自分より弱く劣っていて、支配されてもしかたのない人間に対しては、いくら力と権力をふるってもかまわないという思想なのだ。
 沖縄にいる海兵隊は、緊急時に重要な活動に参加するための輸送手段をもたない。沖縄から単独で、迅速に作戦行動がとれないということは、この地域に海兵隊がいても抑止力があると言えるのか、疑問だ。海兵隊が沖縄に配属されるのは、訓練に絶好の場所だからだ。 
この本は、アメリカ軍の海外基地が日本にとっても有害無益であることを実証しているといって過言ではありません。
(2016年4月刊。2800円+税)

ハンター・キラー

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 T・マーク・マッカリー 、 出版 角川書店 
遠隔操作による無人機で「テロリスト」をいくら殺しても、何の解決も導かない。こんな単純な真理をなぜ賢いはずのアメリカ人が分からないのでしょうか・・・。凡人の私は不思議でなりません。
「テロリスト」を生み出した土壌(原因)をよくよく考察したら、たとえばペシャワール会の中村哲医師のような砂漠に水路を引いて農地をつくって農業を成り立たせることこそ、一見すると迂遠のようだけど、実は解決への早道だと思うのです。
それはともかくとして、この本はドローン(無人機)を遠隔操縦してきたアメリカ空軍中佐の体験記です。ですから反省の弁というより、いかに「テロリスト」発見と暗殺が大変なのか、苦労話を語っています。アメリカ軍の内情を知るという点で面白く読めます。
ジブチ共和国は、アメリカの対テロ作戦において最高の立地を誇る砦である。ええっ、ジブチって、日本の自衛隊が基地を設けているところですよね・・・。
プレデター(無人機)は、悪天候でも、標的の上空から高解像度の映像を送信できる。1機320万ドルと安価だ。F22ラプター(有人戦闘機)は1機2億ドルもかかる。
プレデターに初めて兵器が搭載されたのは、2001年。目標指示ポッドが改良され、標的へのロックオンが可能になった。
アル・ザルカウィは、唯一、「白い悪魔」、プレデターを恐れた。無言で忍び寄る殺人鬼だ。
最近はプレデターの生産が徐々に減らされ、リーバーのほうがよく活用されている。リーバーはプレデターよりも大きく、A-10攻撃機と同じサイズで搭載量も多い。ヘルファイア・ミサイル4つと、225キロ爆弾2つを搭載する。
プレデターの難点は、気候対策が出来ていないことに起因する。機体は、丸一日飛んで、任務が終わると、湿気の多い基地に着陸する。湿った空気が高空で冷え切った期待に触れると空気の中の水分が凝結することがある。
プレデターやリーバーを操作するのは本物の空軍パイロットたち。アメリカ本土そして、近くの基地に出向いて操縦している。シブチでは1年間にプレデターを4機も失った。
プレデターを操作する兵士は現場から1万キロ以上も離れているから殺傷行為から精神的にも距離を置けるので、ダメージが少ないというのは大変な誤解だ。むしろ、逆に距離が近すぎて、あまりにも多くのことを知ってしまううえ、敵を撃つ直前はズームインして相手をモニターに大きく映し出すから、その敵が殺される残像を頭にかかえたまま帰途につく。
自分たちは決して殺されることがないのに、相手の生存するチャンスはゼロ。冷酷な殺し方だが、決して感情抜きではない。「敵」の遂げた最期の残像が家に戻ってからも、頭からぬぐえない。
人を殺すことの重みなんでしょうね・・・。こんな戦争に日本が関わるなんて、とんでもありません。憲法違反の安保法制の廃止を求めます。
(2015年12月刊。2100円+税)

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