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カテゴリー: アメリカ

「勝ち組」異聞

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 深沢 正雪 、 出版  無明舎出版
戦後のブラジルで日系人同士が殺しあったとされる事件の真相に迫る本です。
終戦直後のブラジル人日系社会の7割以上が勝ち組だったとされているのに、「私は勝ち組だった」と言える雰囲気は、70年たった今もない。それだけ、「勝ち組」抗争に関するトラウマは深く、今もって癒えていない。終わっていない。つまり、この勝ち負け問題は過去の話ではなく、今も続いている。
「勝ち負け抗争」とは、終戦直後のブラジル人日系社会において、日本の敗戦を認めたくない移民大衆が「勝ち組」となり、ブラジル政府と組んで力づくで日系人に敗戦を認識させようとした「負け組」とが血みどろの争いを演じたという特異な事件である。
日本人同士が争い、20数人の死者、数十人の負傷者を出した。終結するまでに10年近い歳月が必要だった。
日本からのブラジル移住が本格化したのは、1923年9月1日の関東大震災が大きなきっかけとなった。1924年にアメリカが排日移民法を制定して、日本人を受け入れなくなったことにもよる。
1925年からの10年間で、全ブラジル移民25万人の半数以上の13万人がブラジルに渡った。
戦前のブラジル移民の最大の特徴は、20万人の85%が「デカセギ」のつもりで渡っていて、5年か10年、ブラジルでお金を稼いだら、日本に帰るつもりだったこと。
日本人移民は、ブラジルで差別され、馬鹿にされた。「今にみておれ。日本はきっと戦争に勝って、ブラジルに迎えに来てくれる」と思い込み、心の支えとした。
戦争中、ブラジル政府に対して恨み骨髄になっていた日本移民にとって、日本が戦争に勝ってブラジルまで来てくれることが唯一の救いとして期待が高まっていた。
「負け組」、日本が戦争に負けたことを認識する人々は、戦争中にブラジル官憲から資産凍結・監禁や拷問にあった層だった。負け組は、官憲からの弾圧を恐れていた。つまり、ブラジル日系人の勝ち負け抗争の本当の原因は、戦前戦中からの日本人差別にあった。
戦前移民20万人の85%は日本へ帰国したかったのに、大半(93%)がブラジルに残った。イタリア移民で定着したのは13%、ドイツ移民は25%なのに比べて、日本移民の93%は圧倒的に多い。
勝ち負け抗争が終結したあと、ブラジルに骨を埋めようと思い直した勝ち組は、サンパウロ州立総合大学(USP)を「ブラジルの東大」と呼んで、子どもを入学させようとした。人口比では1%もいない日系人がUSP入学生10%を占めるようになったのは、圧倒的多数の勝ち組が、思いの矛先を帰国から永住に切り替えたことによる。勝ち組の親たちが、心を入れ替えて、身を粉にして働いて子どもを大学に入れた。だからこそ、ブラジル社会から信頼される現在の日系社会が形成された。
「勝ち組」を単なる狂信者なテロリストであるかのように決めつけてはいけないと思ったことでした。
(2017年3月刊。1800円+税)

そして、ぼくは旅に出た

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 大竹 英洋 、 出版  あすなろ書房
面白い旅行記です。いつのまにか、自分も一緒になってシーカヤックを漕いでカナダの湖をすすんでいる気分になってきます。
若いって、いいですよね。見たこともない土地へ行って、憧れの写真家へ弟子入りしようと押しかけるのです。そこはカナダの辺ぴな湖のほとりです。車がなければ、湖をカヤックかカヌーで漕いでいくしかありません。それで、押しかけた先で即座に弟子入りを断られたら、どうしましょう。いいえ、そのときは、そのとき。それから考えれば、いいんだ。ともかく、行ってみよう。すごいですね、若者の特権ですね。変に分別のついた大人には、とても真似できません。
車があれば一日で行けるところをシーカヤックを漕ぎ、陸路はカヤックをかついで進むこと8日間もかけてたどり着きます。いえ、この8日間も、たっぷり道草を食うのです。なにしろ目ざすは写真家なのですから、シャッターチャンス優先です。珍しい鳥が産卵のために巣で卵を温めている光景を見つけたら、その写真を撮るのが優先なのです。
カナダのこの地方には危険な動物はあまりいないようです。でも、蚊とアブにたかられて困りました。
東京で育った著者は一橋大学ではワンゲル部に入り、虚弱な身体を鍛えました。そして、カヤックを漕いだこともないのに、キャンプした経験だけはワンゲル部でたくさんあるのを武器として、カナダの「ノーズウッズ」に挑んだのでした。
「ノーズウッズ」とは、北アメリカ大陸の中央北部に広がる湖水地方を指す。そこには数え切れないほど多くの湖が存在する。緯度が高いので、冬の寒さは厳しく、マイナス30度はあたりまえ、1年の半分は雪と氷に閉ざされ、ときにはマイナス50度にもなる。
著者は、1999年以来、この地に通い続けている。
この本は、その最初のときを刻明に再現しています。よくもまあ詳細に描き出したものです。写真家としてだけでなく、文才のほうも相当なものです。メモ魔を自称する私も顔負けです。
著者がスノーウッズに足を初めて踏み入れたのは24歳のときです。3ヶ月間そこにいて、人生観を大きく変え、自信をつけたのです。いやあ、うらやましい限りです。
この本に登場してくるのは、ジム・ブランデンバーグ、オオカミの写真で世界的に知られる自然写真家、そして極地探検家のウィル・スティーガーの二人です。この二人に、8日間のカヤックの旅でやってきた日本人だということで、歓待されたのです。努力が報われました。 
そして、そのきっかけは、著者のみた夢だったのです。夢って、あだやおろそかには出来ませんね。カヌーどころか、東京になる井の頭公園の貸しボートを漕いだことがあるくらいという著者の言葉には、つい笑ってしまいました。私も、大学生のとき、彼女とデートしたときボートを漕いだことを思い出しました。
400頁をこす部厚い本ですが、私は半日かけて夢見心地で読み通しました。わあ、こんなところがあるのか・・・。行ってみたいな。そう思いました。東京のディズニーランド(一度も行ったことはありません。行く気もありません)より、よほどことらのほうが面白そうです。とはいっても、一人で森の中でキャンプする勇気と技術を身につけていなくてはいけません。その若さをうしなってしまったのが残念です。その思いを、この本を読んで少し満たすことにしたのです。
このころちょっと疲れたな、そんなときには旅に出ましょう。そして、この本を一緒に持っていけば最高ですよ、きっと・・・。素敵な本をありがとうございました。
(2017年3月刊。1900円+税)

新しい日本外交を切り拓く

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 猿田 佐世 、 出版  集英社
著者はアメリカと日本を結ぶ若手の国際弁護士であり、美人弁護士としても有名です。そのバイタリティーあふれる行動力には、驚嘆せざるをえません。アメリカでロビー活動をし、沖縄でシンポジウムを開き、沖縄の翁長知事や稲嶺市長が訪米するときには、アポをとってアメリカの国会議員との面会のセッティングをこなします。そして、著者は日本の新しいシンクタンク「新外交イニシアティブ」を設立し、その事務局長として、運営するのです。
著者は若くして司法試験に合格したあと、アフリカのタンザニアに渡り、難民キャンプでの救援活動に従事した。大学生のときには、「アムネスティ日本」の会員として、10年以上ボランティア活動に従事している。そして、2002年から2007年まで、日本で弁護士をして、2007年にアメリカに渡り、2009年からワシントンに居住した。そして、ワシントンで、日米外交の偏ったシステムに強い疑問を抱き、それを克服することを目ざした。
アメリカの国務省の日本部長だったケビン・メアの言葉は忘れられません。
「沖縄の人は、ゴーヤもつくれない、なまけもの」
「沖縄は、基地をつかって東京からお金をもらう、ゆすりの名人だ」
とんでもない暴言です。日本語ペラペラの人ですが、まったく日本人を馬鹿にしきっています。
訪米団の企画・同行には、考えられる、すべての手段を駆使しながら、数週間、数ケ月間にわたるものなので、体力も精神力も消耗する厳しい作業となる。
日本政府は、アメリカのシンクタンクに対して、1億円をこす大金を提供し続けている。
そもそもは影響力のない存在であったとしても、日本のメディアや政府が繰り返し「アメリカの声」として取りあげることで、日本の国会をふくむ世論に大きな影響を与えるようになる。その結果、「神話」が現実化していく。
アメリカの対日外交に関する発言には、「日本の誰かがアメリカに言わせている」のと、「アメリカ自らが言っている」という両方の構図がある。
そんな状況で、本当の日本の声をアメリカの連邦議会にきちんと反映させようとする著者の努力は大いに評価されるべきものだと思います。
私も、ささやかながらNDI(新外交イニシアティブ)に賛同しています。
(2016年10月刊。1400円+税)

トランプ

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(霧山昴)
著者 ワシントンポスト取材班 、 出版  文芸春秋
アメリカという国は、今では理性で推測することが出来ない危険な国になってしまいました。ベルリンの壁と同じような国境障壁をつくるというのは、まさしくバカげています。そして、北朝鮮への先制攻撃をほのめかすなど、危険きわまりありません。どうして、こんなウソぱっかりの男がアメリカの大統領になれたのか、不思議でなりません。といっても、我が国の首相もアベといって、同じように危険な存在なのですが・・・。
トランプは、プライバシーを重視しない珍しいタイプの億万長者だ。
トランプは、いかに大金持ちかをアピールし、豪勢にお金をつかい、ゴシップ欄やビジネス欄としてスポーツ欄をにぎわせる。雑誌の表紙を飾り、常に自身をメディアにさらしている。
トランプは社会に出てまもないころから、自分をブランド化してきた。ブランド化のカギは、自分について書かれたあらゆる記事をじっくり研究することに始まる。トランプが朝一番にすることは、自分に関する記事の切り抜きを見ること。
トランプは若いころから、噂になるにはどうすればよいかを研究してきた。
トランプは自分の意見が正しいと信じて疑わない。自分の能力に絶対の自信をもつ。しかし、完全な知識があるわけではない。
トランプの娘イヴァンカは、正統派ユダヤ教徒と結婚するにあたって、ユダヤ教に改宗した。
トランプの顧問弁護士をつとめていたコーンは地方検事局時代に、ユダヤ人のローゼンバーグ夫妻をソ連のスパイとして死刑台に送り込んだ。コーンもユダヤ人だった。コーンが検事局に入り出世したのは、マフィアとつながっていたからだと本人が公言していた。コーンはゲイであり、のちにエイズにかかり、59歳の若さで亡くなった。
トランプはコーンを大いに活用した。トランプ・タワーを建設するときには、トランプはマフィアとのつながりを活用し、ボスの愛人のために特注の部屋を用意してやった。
トランプにとって女性は、プロジェクトや資産と同じく、成功の証だった。
トランプがつくりあげたイメージに、控え目なところは皆無だった。トランプは、自分とその暮らしぶりがどう見えるかにこだわり、慎重に「自画像」を組み立て、美しく彩り、その周囲には富の象徴としてデートの相手、愛人妻、子どもたちを配した。
公の場では、隣に必ず豪華な女性がいた。好みタイプは決まっていた。モデル、ミス・コンテストの優勝者、女優の卵。たいては典型的な美人で、脚が長く、グラマーでゴージャスな髪をしている。特権階級に生まれた女性はおらず、相手の女性は公の場では発言しない。トランプにとって、女性は常に狩りの獲物で、追い求める対象でしかない。
トランプは、常に結婚における上下関係をはっきりさせていた。
「結婚は人生で唯一、完璧でないものをオレが受け入れた領域だ」
大荒れの結婚生活にもかかわらず、元妻たちが離婚後に公然とトランプを批判することはなかった。トランプは、そうはさせなかったのだ。元妻たちに秘密保持契約にサインさせた。たとえば年間35万ドルの扶助料が打ち切られることになる。
トランプが32億ドルもの謝金をかかえたとき、銀行家は、トランプを殺すより、生かしておいたほうが良いと決断した。
トランプは、ヒラリー・クリントンへ10年ものあいだ政治献金をしていた。そして、トランプは2001年に民主党員になった。
1999年から2012年までに、トランプは、7回も所属する党を変えている。トランプは、立候補するつもりなら、友人をつくっておく必要があるからだと説明した。なんと節操のない男でしょうか・・・。最低の金持ちです。
トランプという恥知らずな金持ち男が、あたかも庶民の味方であるかのようなポーズで多くのアメリカ人を騙したツケをアメリカ人はこれから払わされることでしょうね。そのトバッチリが日本にまで来そうなのが怖いのですが・・・。
(2016年11月刊。2100円+税)

ルポ・トランプ王国

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(霧山昴)
著者 金成 隆一 、 出版  岩波新書
ヒラリー・クリントンが支配階級の一員だとして、アメリカ国民の庶民層からひどく嫌われていたことが、この本を読んでも、よく分かります。社会民主主義者を自称するサンダースが善戦したのも、そのためですよね。
それでも票数ではヒラリー・クリントンのほうがトランプを上回ったわけですが、これまで民主党を応援してきたブルーワーカー(労働者層)がトランプに幻想にとらわれて熱い期待をもっていたこともよく分かる本です。
自分たちはアメリカの特権階級から見捨てられた。ヒラリーは特権階級の一員だ。ところが、トランプは大金持ちだけど、特権階級の一員ではない。自分たちのやってやると言っている。それなら、トランプに賭けてみよう。そんな幻想に飛びついていったアメリカ人(とくに白人層に)が多かったようです。
「トランプを支持するのは、社会保障を削減しないと言ったからだ。選挙の前だけキスして、当選したら大口献金者の言いなりになる政治家(ヒラリーを指す)は信用できない」
「アメリカには不満をためこんだ人が多い。トランプにはカネがあり、普通の政治家と違って、特定の業界団体の献金をアテにせず、言いたいことを自由に言える。しかも、その声がでかい」
「昔は、民主党は勤労者を世話する政党だった。ところが、10年以上前から、民主党は勤労者から集めたカネを、本当は働けるのに働こうとしない連中に配る政党に変わっていった。勘定を労働者階級に払わせる政党になっていった」
「トランプはカネも豪邸も飛行機もゴルフ場も持っている。これ以上稼いでも意味がないから、愛国心からひと仕事をしようとしている」
クリントンは、金持ちの支持者を前にして、トランプの支持者の半数は、みじめな連中の集まりだと言ってしまった。そして、自分が「みじめな」状況にあると思いっている人々を敵にまわした。
クリントンには、エリート、傲慢、カネに汚いとのイメージが定着し、トランプは既得権を無視して庶民を代弁できるという期待が高まった。これこそ、まったくの幻想ですよね・・・。
トランプは、クリントンは「現状維持」、自分は「変化」の象徴だと一貫して主張した。「変化」ってオバマの「チェンジ」ですね。
トランプは選挙中も、そして大統領になってからも、平然とウソを繰り返している。事実が何であるかのこだわりも見せない。
これって怖いですよね。国の指導者が平気でウソを口にして、国内の隅々にまでウソが浸透してしまったら、国の行方を間違えてしまいます。アメリカ国民が一刻も早く間違った大統領を選んでしまったことに気がついて、違う選択をすることを心より願っています。先制攻撃なんて恐ろしすぎます・・・。
(2017年2月刊。860円+税)

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