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カテゴリー: アメリカ

超一極集中社会・アメリカの暴走

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 小林 由美 、 出版  新潮社
今の社会は、人々の格差が大きくなる一方です。これが絶望と社会不信を生み出しています。ある高校で、国政選挙で投票に行くかどうかを生徒にたずねたところ、忙しい、分からない、興味がないということで、誰も積極的に投票所に行くとは答えなかったそうです。ええっ、ウソでしょう、と思わず叫びたくなりました。
私はすべての選挙で棄権したことは一度もないことが自慢の一つです。選びたい人がいないときには、×印を書いて無効票を投じることにしています。
世界のビリオネア(1000億円以上の純資産をもつ人)が世界中に1810人いて、その人たちの有する純資産は、合計650兆円にもなる。日本のGDPは500兆円なので、日本の全国民が1年間働いて生み出した総所得を上回る額の純資産を2000人ほどの人々がもっていることになる。日本のビリオネアは27人。これは、世界で17位。
日本はGDPではアメリカ、中国に次いで、世界第3位だ。
アメリカでは、1980年代以降、上位0.1%の所得は増え続け、それ以下の世帯では、所得がほとんど増えていない。
アメリカのエリート大学に入る門は、ますます狭くなっている。エリート大学に入るためには、家族ぐるみの長年の努力が求められる。これは、ユダヤ系と中国系の家庭で顕著だ。
エリート大学に入るには、成績がトップクラスだというだけではなく、スポーツが得意なうえ、課外活動で得意なものがあったり、積極的なリーダーシップを発揮したという実績が求められる。だから、親は子どもが3歳か4歳のときから家庭教師をつけたり、クラブに参加させたりしている。年間300万円以上の授業料を支払って幼稚園から私立学校に通わせるのは、教師や教育内容・同級生そして家族の質に加えて、同窓会活動が活発なため、生徒の進学にも大いに役立つから。
大学4年間の教育費が30万ドル(3000万円)かかる。労働していたら得べかりし給料による所得をあわせると、大学4年間のコストを取り戻すためには10年以上かかる計算だ。アメリカでは、大学に進学する人の60%以上が学生ローンを借りていて、4300万人をこす。
アメリカの経常収支が改善したのは、石油の輸入が量・金額ともに大きく減ったことが最大の理由。
アメリカの上場企業の総数は1996年のピークに8090社だったのが、2015年に4381社と、ほぼ半減した。アメリカでの企業集中は異常に進んでいる。そして、巨大企業が、さらに巨大化している。
アメリカの医療システムは全体として救いがたい泥沼。請求書を受けとるまで、いくらの費用がかかるのか見当がつかない。とんでもない請求書が来ても払う以外に選択肢はない。病院は医療産業のなかで、もっとも立場が強いので、その価格付けは一方的。泥沼に陥らないためには、とにかく健康を維持して近寄らないようにするのが一番。あとは、たたかい、交渉する覚悟でのぞむしかない。
アメリカ国民は、富の集中や金権政治にうんざりしている。
アメリカの権力者もお金も、東海岸と西海岸を飛行機で往復するだけで、その空路の下にある大陸中央部は完全に無視され、馬鹿にされている。
絶望の先に行きのびるために・・・、とありますが、明るい未来はあまり見えてきません。ビッグデータを活用したらいいともありますが、私には無縁な話でしかありません。
アメリカの現状分析の一つとして読んでみました。
(2017年3月刊。1500円+税)

凛とした小国

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 伊藤 千尋 、 出版  新日本出版社
コスタリカ、キューバ、ウズベキスタン、ミャンマーの良さは日本も大いに学ぶべきだと思いました。とりわけ世界有数の自然環境保全国でもあるコスタリカの話は感動的です。心が揺さぶられます。
コスタリカは、「世界で一番、幸福な国」で1番にあげられている。日本は、51位でしかない。コスタリカは、1949年、日本に次いで世界で2番目に平和憲法をもった。日本と違うのは、本当に軍隊をなくしてしまったことです。それまで、軍事費が国の予算の3割を占めていたのを、そっくり教育費に充てました。教育も医療も無料。兵舎(参謀本部)は博物館になりました。軍艦も、戦闘機も戦車ももっていない。警察と国境警備隊はある。ただし、いざとなれば、自衛のための軍隊は結成できることになっている。
コスタリカは、周囲の国で内戦が続いたけれど、幸い平和な国であり続けた。「自分たちにとってもっとも良い防衛手段は、防衛手段をもたないこと」
私は、まさしく本当だと思います。決して「平和ボケ」のコトバではありません。
コスタリカでは、大統領選挙があると、小中学校はもちろん、幼稚園児も模擬投票する。
コスタリカでは、小学校に入ると、子どもたちは、「だれもが愛される権利をもっている。この
国に生まれた以上、あなたは政府や社会から愛される」と教えられるそうです。
日本でも道徳教育のときに、これを教えたらいいと私は思います。
そして、コスタリカでは憲法訴訟が1年間に2万件近く提起され、最終的に2割近くが違憲
だと判断されるといいます。これはともかくすごいことです。
 コスタリカは周辺国からの難民もすべて受け入れており、400万人だった人口が500万人になったそうです。信じられない数字です。
 コスタリカの人々は、幸せな社会を自分たちでつくりあげているという意識にみちているようです。すばらしいです。
 先日の国連における非核平和条約を制定する議会でもコスタリカの女性が委員長として大活躍していましたよね。日本も平和憲法、9条をさらに実現する運動が必要だと思います。
 ほかのキューバ、ウズベキスタン、ミャンマーについては、ぜひ、本書を読んでみて下さい。読んで決して損はしない本です。
(2017年5月刊。1600円+税)

スパイの血脈

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ブライアン・デンソン 、 出版 早川書房
信じられない実話です。アメリカ軍の兵士がCIAに入り、アメリカという国を守って活動しているうちに、家族(子ども)を守るためと称して、お金のためにソ連(ロシア)にCIAの機密情報を売り渡し、それが発覚して刑務所に入ったあと、今度は、その息子が父親に頼まれて同じようにロシアに父親からの情報を流して大金をもらっていたというのです。この息子もアメリカ軍の兵士でした。いやはや、スパイが父親相伝することもあるのですね。信じがたい実話です。
父親のジム・ニコルソンは1980年にCIAに入ったあと、マニラ、バンコクそして東京で勤務したあと、ブカレスト支局長に昇進した。そして、1994年、クアラルンプール駐在時にロシアの情報部員に接触し、情報を売り渡すようになった。そのあと、CIAの訓練所の教官になり、監視のためCIA本部につとめていたところを1996年に逮捕され、翌1997年に懲役23年7ヶ月の判決を受けて刑務所に収容された。
ここで物語が終わらないところが本書の目新しさです。父親がスパイとして逮捕されたとき12歳だった息子のネイサンを、受刑して7年後に、父親は獄中からロシアに連絡することが出来たのです。それほど、父子の関係は親密でした。ちなみに妻(母)とは離婚して音信不通、他の姉兄は関わってはいません。
いったい、刑務所に入れられた元スパイのもたらす情報がいかほどの価値があるものなのか、門外漢には理解できないところですが、ロシアのほうは気前よく100万円単位で息子に報酬を支払っていました。つまり、スパイを摘発したときのCIAの人事・役割分担などについて知ることはロシアにとっても有益な情報だったということです。
それにしても、CIAにはロシアに情報を売るスパイがいて、ロシアのKGBにもアメリカへ情報を流すスパイがいたというのに改めて驚かされます。いずれも、イデオロギーより、金銭目当てのことが多いようです。
本書の主人公の父親も妻と離婚し、子育てにお金がかかり、新しい女性との交遊のためにもお金がほしかったようです。
父が、子どもたちを養うためにロシアのスパイになったと高言したとき、それを聞かされた当の息子はどのように受けとめるのでしょうか・・・。
息子のネイサンは実刑判決ではなく、5年間の保護観察と退役軍人省での100時間の社会貢献活動が命じられただけだった。
CIAとFBIの関係、そしてKGBとその後身の関係も興味深いものがあります。
スパイする人、その家族、その監視をする人、その家族、いずれもフツーの平凡な家庭生活は保障されていないのですね。大変な職業であり、仕事だと思いました。だって、対象者の会話を24時間ずっと盗聴して異変をつかむのが仕事だというのって、やり甲斐というか、生き甲斐を感じるのでしょうか・・・。私にはとても我慢できませんね・・・。
人間の本質を知ることのできる貴重な本だと私は思いました。
(2017年5月刊。2000円+税)

ヒルビリー・エレジー

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 J・D・ヴァンス 、 出版  光文社
なぜトランプ大統領が誕生したのか。アメリカという国の内実はいったいどうなっているのか・・・。そんな疑問を真正面から解き明かした本です。それも、外から観察したのではなくて、自ら体験した事実をもとにしていますので、説得力があります。
ヒルビリーって、私は何のことやらさっぱり見当もつきませんでした。要するに、田舎者ということのようです。社会の底辺にいる白人労働者のことを、ヒルビリー(田舎者)、レッドネック(首すじが赤く日焼けした白人労働者)、ホワイト・トラッシュ(白いゴミ)と呼ぶ。貧困は、代々伝わる伝統になっている。
オハイオ州で生まれ育った著者は、ラストベルト(さびついた工業地帯)と呼ばれる一帯に位置する鉄鋼業の町で、貧しい子ども時代を過ごした。母親は薬物依存症、父親は家を出ていって著者を捨てた。著者を愛情をもって育てた祖父母はどちらも高校も卒業していない。大学を出た親戚は誰もいない。将来に望みをかけない子どもとして、著者も育った。
アメリカでもっとも悲観主義傾向の強い社会集団は、白人労働者階級だ。社会階層間を移動する人は少ない。ここでは貧困、離婚、薬物依存症がはびこっている。
白人労働者の42%が親の世代よりも自分たちのほうが貧しくなっていると考えている。
努力が実を結ぶと分かっていればがんばれるが、やってもいい結果に結びつかいないと思っていたら、誰も努力しない。彼らは、敗者であるのは、自分の責任でなく、政府のせいだと考えている。白人の労働者階層は、自分たちの問題を政府や社会のせいにする傾向が強く、しかも、それは日増しに強まっている。
社会制度そのものに根強い不信感をもっている。仕事はない、何も信じられず、社会に貢献することもない。
彼らは報道機関をほとんど信用していない。白人保守層の3分の1は、オバマ前大統領について、イスラム教徒であり、外国生れであり、アメリカ人であることを疑っている。
オバマのようなエリート大学を卒業し、なまりのない美しいアクセントで英語を話す人間とは、共通点がまったくないと感じている。
ヒルビリーの家庭では、ののしりあって叫び散らし、ときに取っ組み合いのけんかをするのは日常茶飯事だった。しかし、それも慣れたら気にならなくなる。
著者にとって、子どものころに辛いことはたくさんあったが、きわめつけは父親役が次々に変わっていったこと。そのため、姉も著者も、男性とはどのように女性に接するべきものなのかを学ぶことが出来なかった。
どこの家庭も混沌をきわめている。子どもは勉強しないし、親も子どもに勉強をさせない。
白人労働者階級の平均寿命は低下している。料理はほとんどしない。朝はシナモンロール、昼はタコベル、夜はマクドナルド。
ミドルタウンではショッピングセンターもさびれている。営業している店はとても少ない。
1970年に白人の子どもの25%が貧困率10%以上の地域に住んでいた。これが2000年には40%に増加した。移動できるだけの経済的余裕のある人々は去っていくので、最貧層の人々だけが取り残される。
ミドルタウンの市街地再生の取り組みは、いつだって失敗した。それは、消費者を雇用するだけの仕事がないからだ。
ミドルタウンでは、公立高校に入学した生徒の20%は中退する。大学を卒業する人はほとんどいない。彼らは将来に対して期待をもてない世界に住んでいる。自分ではどうしようもないという感覚を深く植えつけられてきた。これは学習性無力感と呼ばれている。
著者は優しい祖父母と海兵隊のおかげで、やがて自分に自信をもち、ついにはイエール大学のロースクールに入り、弁護士になりました。そして、そこで、アメリカの上流知識階層と自分の育った階層との違いを深く自覚するのでした。
すさまじい親子の葛藤が詳細に紹介されていて、そこから脱却していく過程にも興味深いものがあります。今日のアメリカ社会の真実を知るために大いに役に立つ本だと思いました。
(2017年5月刊。1800円+税)

108年の幸せな孤独

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 中野 健太 、 出版 KADOKAWA
前から気になっていた、この本を読んだのは、富山の鍛冶富夫弁護士のキューバ旅行記を読んだ直後、まさにその日でした。まったくの偶然の一致なのですが、そんなことも世の中にはあるのですよね・・・。
私は残念ながらキューバには行っていませんし、遠すぎるし、フランス語圏でもないので、恐らく行くことはないと思うのですが、カストロ、ゲバラそしてマルケル・ムーア監督の映画『シッコ』をみていますので、あっ、もうひとつ、例のキューバ危機ですね、キューバには強い関心をもっています。
この本は、キューバへの移民一世の島津三一郎氏が108歳の誕生日を迎えるまでをたどっています。島津氏は、やがて亡くなられましたが、キューバへの日本人移民の実際を知るうえで、貴重な生き証人でした。表紙の顔写真をみると、いかにも誇り高い男性だったようです。
キューバは人口1100万人。そこに108歳の日本生まれの男性が暮らしていた。20歳のとき、農業移民としてキューバに渡り、以来、日本に帰ったことは一度もない。
キューバ移民のあいだでは、1万ドルを日本へもち帰ることが成功の目安とされていた。
しかし、それを達成したのは、128人の日本人移民のうち1割もいなかった。
キューバを訪問する外国人は年間350万人。ハバナの民泊料金は、安くても1ヶ月に6万円ほどかかる。
島津氏が入居している老人ホームの入居費は月に200円。月に1000円の年金が支給されるので、生活費のすべてが年金でまかなえる。島津氏は108歳まで長生きできたのは、お金をもっていないからだと胸をはって説明する。
「お金のために争いが起こり、騙したり、やましくなったり、不安になったり、そして死んでしまう。長生きできない」
キューバでは、お金の心配をすることなく生きられる。人を騙さず、自分を騙さずに生きてきたと島津氏は胸をはる。
第二次大戦中、350人もの日系人が1943年2月に刑務所に強制収容された。そして1946年1月から3月にかけて釈放された。その厳しい差別的扱いを日系人一世は子どもたちに話すことはなかった。話せば、国(キューバ)を批判することになるからだ・・・。
キューバの老人ホームは要介護度によって入居者を選択していない。
キューバの老人ホームは、すべて国が運営していて、介護ビジネスは存在しない。老人ホームには専属医師が常駐している。老人ホームでは、3度の食事のほか、おやつも一日3回出る。島津は、全部食べる。食欲旺盛だ。
キューバには7万6506人の医師がいる。人口1000人あたりで6.7人。日本は2.3人、アメリカ2.5人と比べて、2倍以上。医師の4割の3万人がホームドクターとして活動している。
キューバでは、医師も製薬会社も民間ではない。つまり、医療で金もうけを競うライバルは存在しない。人工透析治療によって利益を得る人も会社もいない。
キューバは、国の財政難が深刻になっていくなかで、それまで以上に地区住民の予防医療に力を入れた。その結果、患者の重症化を未然に防ぎ、結果として医療財政の全体を抑制することができた。新生児や乳幼児の死亡率はアメリカより低い。
フィデル・カストロは、どんなに国内経済が疲弊しても、国民の命を守ることは国の最大の使命であると考えた。
これこそ、ホンモノの政治ですよね。老後を個人の貯えではなく、国が安心して暮らせるように保障するキューバの考え方を日本でも一刻も早く取りいれるべきだと痛感しました。
いい本です。元気が出てきます。
(2017年1月刊。1700円+税)
 フランス語検定試験(仏検)が近づいてきましたので、過去問にあたり始めました。朝と夜ねる前に1年分ずつやります。仏検一級を受けはじめたのは、なんと1995年からです。ですから、もう20年以上になります。3級から受験していますので、恐らく30年になると思います。
 肝心の成績ですが、準一級には合格していますが、一級は歯が立ちません。前置詞も動詞と名詞の書き替え、成句どれをとっても私にとっては超難問ばかり。あきらめることなく挑戦しているだけが取り柄の私です。

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