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継体大王と地方豪族

カテゴリー:日本史(古代)

(霧山昴)
著者 若狭 徹・埼玉県さきたま史跡の博物館 、 出版 吉川弘文館
 継体大王とは不思議な存在です。「万世一系の天皇」という神話を疑わせる存在でもあります。
 このころ、まだ天皇とは呼ばれず、大王でした。有力豪族集団のなかで、それらに支えられつつも、頭ひとつ飛び抜けた存在だったのです。私はまだ行っていませんが、このさきたま史跡には、ぜひ一度現地に行ってみたいと思っています。埼玉県行田(ぎょうだ)市にある有名な古墳群です。ここの稲荷山古墳からは文字を刻んだ鉄剣が発見されましたが、そこに「ワカタケル大王」という雄略天皇の名前が刻まれていたのでした。
 そして、最大の古墳である二子山(ふたごやま)古墳はレーダン調査によって、継体大王のころにつくられたことが判明したのです。
 継体大王の当時といえば、八女市にある全長132メートルの岩戸山古墳が有名です。ここは、筑紫君(ちくしのきみ)一族の本拠地であり、熊本県南部の八代地域を地盤とする火(肥)君(ひのきみ)一族とともに大和政権に抗して、磐井(いわい)の乱を起こしましたが、あえなく敗れてしまいました。でも、子孫が根絶やしされたのではないようです。
 磐井は、北部九州の有力豪族であったが、王権に反発して新羅(しらぎ)と謀(はか)り、朝鮮半島との交易を担う外港を封鎖した。同じく北部九州の火君とも連合して、新羅征討軍を率いた近江(おろみ)毛野臣(けなのおみ)を阻んだ。
 また、このとき胸肩(むなかた)君一族は、筑紫君一族とは距離を置いたそうです。
 そして、継体大王が死んでまもなく、武蔵国造である笠原直(かさはらのあたえ)一族で反乱が起きたのでした。一族内部で、国造の地位をめぐる抗争が勃発したのです。
 継体大王は5世紀的な手続きにのっとって即位した5世紀的な大王。その前の倭の五王と本質は変わらない。
 政権継承の安定化のため、継体大王は初めて大兄(おおえ)制を敷いた。これは、王位継承者を事前に指定する制度。
継体大王の墓と推定される奈良の今城塚(いましろつか)古墳には、埴輪(はにわ)が大量に樹立されていたとのこと。内側と外側に二重に円筒埴輪列があって、墳丘に2000本、内堤に4000本、あわせて6000本もの円筒埴輪が樹立されたとみられている。しかも、大型品は高さが80~90センチ、超大型品となると、高さ130センチというのです。数といい、高さといい、すごいです。そして、人物から家や鳥や動物など、レパートリーもさまざま。人物埴輪は全身像というのも、すごいです。
継体大王は、地方の有力豪族たちに支えられていたというのを初めて認識しました。ところが、九州の磐井も、武装国造も反乱したのです。結局、どちらも押さえ込むことが出来て、天皇(大王)制は続いていったのでした。
 継体大王のころの日本の状況をさらに深く認識できました。
(2025年2月刊。2300円+税)
 日曜日、庭に出ると、なんとジャーマンアイリスが今にも咲きそうで驚きました。ああ、もう5月が近づいていると感じました。青紫色の華麗な花です。アイリスの黄色い花も咲いています。チューリップはまだ咲いています。今はピンクの花が優勢です。スノードロップの白い花の近くにシャガの白い花びらも見えています。足もとに土筆(つくし)を見つけました。
 夕方6時半まで明るいので、がんばって庭の手入れをしました。

どこからお話ししましょうか

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 柳家 小三治 、 出版 岩波書店
 このごろ落語を聴くことはちっともありませんが、落語はとても好きです。尊敬する山田洋次監督も子どものとき落語大全書を読みふけっていたそうです。映画「男はつらいよ」は落語のペーソスをベースにした展開ですよね。万が一、目が悪くなって本が読めなくなったら、オーディオブックスで落語を聴くつもりです。心をほっこりさせ、豊かな気分に浸ることができるからです。
 落語協会の会長をつとめ人間国宝にもなった著者は40代のころはオートバイに乗って北海道を周遊していたとのこと。また、クラシック音楽を好むそうです。忘れられない映画として「バベットの晩餐(ばんさん)会」が紹介されているのには、我が意を得たりと思いました。私は映画館でこの映画を観ましたし、本も買って読みました。すばらしい映画です。観ていない人はぜひDVDを借りて観て下さい。
人間を理解できなきゃ、落語はできない。落語は、人生の、社会の縮図ですから。
 著者は落語のせりふがなかなか覚えられないそうです。言葉で覚えるというより、了見で覚えていく。登場人物の気持ちになって、その人の発言として覚える。登場人物の気持ちに、すっかり沿えないと、せりふは出てこない。むなしいせりふは言えない。せりふが、ただなま覚えになっちゃったら、それは私としては言えない。せりふを覚えるってことは、私にとって至難のわざ。名人でも、そうなんですね…。
 うまくやろうとしない。でも、それがとても難しい。下手なまんまでいいのかっていうと、そうじゃない。
人間が分かんなきゃ、落語にならない。
落語の面白さは、歌とか声帯模写とは違って、我慢がいる。我慢しながら、歯を食いしばりながら、頑張る。
 落語をくり返しやっていると、慣れて、飽きてきます。それが表に出ると、お客さんもつまらなくなっちゃう。そこで、落語を面白くやるコツ。師匠の柳家小さんは、初めて聞くお客さんにしゃべるつもりで落語をやれと言った。客もよく知ってる。はなし手もよく知ってる。だけど、噺(はなし)の中に出てくる登場人物は、この先どうなるのか、何も知らない。そう気がつくと勇気が出てくる。そう思ってやると、いつもやってる噺ではなくなる、なぞることをしなくなる。しゃべるっていうより、その人にまずなるというわけです。なーるほど、ですね。
 著者は高校生のとき、昼休みにクラスで独演会をやっていたそうです。お弁当はその前、3時間目の休みのときに済ましておきました。クラスのみんなは弁当を食べながらゲラゲラ笑っていたとのこと。さすが、すごいですね。
 そして、高校3年生のときは、ラジオの「しろうと寄席」に出て、15週、勝ち抜いたそうです。いやあ、たいしたものです。さすが、です。
世の中が進んでくればくるほど、人間の本来のおろかしさバカバカしさに気づかされたとき、人はみんな心底、腹がよじれるほど笑いたがるもの…。
 客を飽き飽きさせてはいけない。いくら面白くても…。最初から盛り上げてしまうと、自分もくたびれてくるし、客もくたびれる。そりゃあ、まずい。ふむふむ、なるほど、なるほど。
 落語っていうシンプル芸は、いろんなものを極力おさえて、お客さんを感じさせ、誘導していって、最後にほっと安堵(あんど)感を感じさせる。これは、他の芸能にはないもの。
 いやはや、さすがは人間国宝になるだけの人の言葉です。腹にズシンと響きました。
(2019年12月刊。1650円)

黒風白雨

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 宇都宮 健児 、 出版 花伝社
 日弁連会長をつとめ、東京都知事選挙にも3回挑戦した著者が『週刊金曜日』に連載したコラムを収録した本です。2009年1月からスタートしています。
 2010年4月から2年間は日弁連会長をつとめました。2年目になろうとする寸前、3.11の東日本大震災が起きています。早速、被災地へ視察に出かけ、弁護士会としての取り組みを率先して指導したというのは、さすがです。
 著者は理論派というより、行動する弁護士なのです。私は、クレジット・サラ金被害者救済運動を通じて親しくなりました。アメリカへの視察団として少なくとも2回は一緒したと思います。
 日弁連会長を退任したあと、要請を受けて無党派の知事候補として3回もがんばりました。100万票ほどの得票を得たのですが、今の選挙選はマスコミの知名度が圧倒的に有利なのです。猪瀬直樹、舛添要一そして小池百合子、いずれも都民のことより自分とゼネコン優先の都政をすすめましたし、すすめていますが、ともかく知名度では著者を何度も上まわります。
 立会演説会を拒否して争点を知らせない、ビラは枚数制限で全有権者に届けられない、戸別訪問は禁止する。こんな不公平な選挙制度はすぐに是正すべきだと著者は強調していますが、まったく同感です。選挙に立候補するときの供託金が300万円とあまりに高額なのもおかしなことです。世界各国は供託金ゼロも多いのです。日本だけこんなに高額なのは問題です。
 この本の出だしは、サラ金大手の「武富士」との戦いです。サラ金が超高利でボロもうけしていたときのことです。武富士は敵対する人物をひそかに盗聴までしていたのでした。まるで公安警察です。
 都知事選挙に立候補したのは、日弁連会長を無事つとめあげたことに自信をもっていたからだと書かれています。私も著者にぜひ都知事になってほしかったと思います。のちに自死してしまったソウル市長も人権派弁護士の出身でした。ソウル市を大きく変えていったと著者は高く評価しています。本当にそのとおりです。スキャンダルを起こしたのは残念です。
 都の予算は北欧のスウェーデンの国家予算並みというのです。小池百合子知事はカイロ大学を本当に卒業したのか怪しいと私は疑っていますが、関東大震災のときの朝鮮人大虐殺の慰霊祭に追悼文すら寄せないなど、ひどいものです。
 著者は「年越し派遣村」の村長もつとめました(たしか…)。これまで日本社会にないと思われてきた「貧困」を可視化した取り組みです。
 そして生活保護費の取り下げを国がすすめてきたことに対して、著者は果敢に闘ってきました。あくまで弱者目線での取り組みです。すごいものです。
 今、東大ロースクール生の圧倒的多数は年収1000万円以上が約束されている企業法務の弁護士を目ざしているという悲しむべき現実があります。本当に、あなたの人生はそれで充実したものになりますか…、という呼びかけが今の学生の多くに届いていないようで、私はとても残念です。
 選挙の投票率の低さを著者は繰り返し問題にしています。日本の国政選挙の投票率は5割をやっと超えるくらい。北欧では8割があたりまえというのに…。
 つい先日の北九州市議会選挙では、なんと40%しかありませんでした。身近な市会議員選挙であっても6割の有権者が投票所に足を運ばないのです。悲しすぎます。これでは「悪」はますます栄えるばかりです。
5年間で43兆円という大軍拡予算、安保三文書で「戦争する国」づくりをして、福祉・教育をバッサリ切り捨てる政治を許してはいけません。著者の引き続きの活躍を心から祈念します。
(2025年1月刊。2200円)

ニセコ化するニッポン

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 谷頭 和希 、 出版 KADOKAWA
 私はスキーしませんので、ニセコのパウダースノーの良さが実感できません。ところが、ニセコの近くのペンションに泊まったことがありました。かなり前のことです。
今や人口2万人のニセコ町あたりに外国人観光客が160万人も来ていて、1泊が最低でも10万円とか15万円で、なんと1泊170万円というホテルもあるそうです。ニセコの公用語は英語で、富裕層の外国人観光客によってニセコは占められている。うひゃあ、そうなんですか…。そして、ニセコのコンビニ(北海道ローカルのセイコーマート)には、1万3千円の高級シャンパンが並んでいる。いやはや、こんな町にはとても近づけませんよね…。ニセコは、富裕層以外には敷居の高い観光地になってしまった。しかし、それでいいのだ。誰でも行けるニセコではない。それを求めたら、富裕層は逃げていく。
 今の世の中は「選択と集中」が求められているというのが著者の主張です。なるほどなるほど、そうなんでしょうね…。
 ニセコが成功した秘訣は、「選択と集中」によるテーマパーク化にある。「ニセコ化」に成功するとそこはにぎわう。そして、その陰で「静かな排除」が起きている。
東京の豊洲市場にある「千客万来」では「インバウン丼」(海鮮丼)は、なんと1万5千円もする。うに丼だと1万8千円。大阪の日本橋にある商店街「黒門市場」にも、神戸牛の串焼きは1本4千円、カニの足は4本で3万円という。目の玉が飛び出るほどの高さに呆れます。 
東京・渋谷は、インバウンド観光客の7割近くが訪問するところ。大々的な再開発が進行中で、高級ホテルがなかったのに、つくられつつある。かつて渋谷は学生を含む若者の町だったのですが…。渋谷は、もう若者の街ではない。ターゲットが変わったのだ。
東京の新大久保は、「韓国テーマパーク」化している。「韓流の街」なのだ。
 スタバとは、テーマパークである。私もスタバは利用しますが、他のコーヒーチェーン店よりカフェラテが出てくるのが遅くて、いつも少しだけイラっとしています。
 マック、すき家に次いでスタバの店は日本に多いそうです。かつて鳥取県にはスナバはあってもスタバはなかったのですが、今はあるようですね。
ブレンドコーヒーは、ドトール250円、タリーズ360円、スタバ380円。いやあ、こんなに違うのですね。私は、外に出て本を読むために入りますので、1時間すわれたら、250円であろうと380円であろうと気にしません。タバコをすわないのですから、1日にそれくらいの出費を気にする必要はありません。
 「びっくりドンキー」という日本人向けハンバーグに特化された飲食店チェーンが紹介されていますが、私は入ったことがありません。九州にもあるのでしょうか…。
 そして、丸亀製麺。ここは、「粉から手づくり」をモットーとし、それを客によく見えるようにしています。そして、トッピングをいろいろ選べますので、子どもは大いに喜びます。私も孫と一緒に入ったので、分かるのです。
 失敗したテーマパークとして、日光・鬼怒川にあった「ウェスタン村」、そして夕張市の観光施設が紹介されています。私の住む町にもちゃちなテーマパークがオープンし、わずか4年で倒産・閉園しました。その結果、30億円もの負債をかかえ、10年間、毎年3億円ずつ市は返済していきました。始める前にコンサルタント会社が一致して「赤字化必至」だと警告していたのに、それを市民に隠して市長たちは始めたのです。そして、たちまち赤字になって倒産しました。住民訴訟で市長の責任を追及しましたが、勇気のない裁判官たちは、市長の責任を弾劾しませんでした。今も思い出すたびに怒りがこみ上げてきます。
たまには、こんな本を読んで、世の中の動きを知らないといけないと思ったことでした。
(2025年1月刊。1650円)

追跡・公安捜査

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 遠藤 浩二 、 出版 毎日新聞出版
 警視庁公安部のとんでもない大失態を二つ紹介した本です。一つは30年前の警察庁長官狙撃事件、もう一つは最近の大川原化工機事件。
 まずは、國松孝次(くにまつたかじ)警察庁長官が銃撃された事件です。高級マンションから出勤しようとしたところを銃撃され、瀕死の重態になったのでした。
 結局、犯人は逮捕されないまま、公訴時効が成立してしまいました。しかし、著者たちは、銃撃した犯人はオウム真理教とは関係のない、中村泰という人物(最近、病死)であることを突きとめ、さらには、犯行を手引・援助した人物まで追跡しています。
 ところが、警視庁公安部は最後まで「オウム犯人説」にしがみつき、時効成立後の記者会見でも、そのことを高言した。そのため、オウムに訴えられて敗訴したという醜態を見せた。奇怪千万としか言いようがありません。
この本で注目されるのは、公安部といつも張りあう関係にある刑事部が特命捜査班をつくって、中村泰を犯人として証拠を固めていたという事実です。
 警視庁公安部は定員1500人で、公安部なるものは東京にしかない。公安部長は多くの県警本部長よりも格上の存在。公安部は家のかたちから「ハム」という隠語がある。
犯行を自白し、その裏付もとれている中村泰は1930年に東京で生まれ、東大を中退している。現金輸送車襲撃事件を起こし、強盗殺人未遂罪で無期懲役となり、2024年5月に94歳で病死した。
 のべ48万人もの捜査員を投入し、警察の威信をかけたはずの捜査は成果をあげられず、失敗に終わった。ところが、2010年3月30日、公訴時効を迎えた日に、青木五郎公安部長は記者会見して、「やっぱりオウムの組織的テロ」と述べた。
 それなら誰かを逮捕できたはずでしょ。それが出来ないのに、こんなことを堂々と発表するなんて、信じられません。案の定、オウムから名誉棄損で訴えられて100万円の賠償を命じられました。とんだ笑い話です。これは米村敏朗という元警視総監の指示とみられています。とんでもない思い込みの警察トップです。
 二つ目の大川原化工機の事件もひどいものです。東京地検はいったん起訴しておきながら、初公判の4日前に起訴を取り消した。私の50年以上の弁護士生活で起訴の取消なるものは経験したことがありません。よほどのことです。
 これは、功をあせった警視庁公安部のとんでもない失態ですが、それをうのみにして起訴した塚部貴子検事のミスでもあります。
 そして、誤った起訴の責任を追及する国家賠償請求裁判において、警視庁公安部の警察官2人が、驚くべきことを証言したのです。
 「まあ、捏造(ねつぞう)ですね」
 「立件したのは捜査員の個人的な欲から」
 「捜査幹部がマイナス証拠をすべて取りあげなかった」
 ここまで法廷で堂々と証言したというのは、よほど、公安部では異論があり、不満が渦巻いていたのでしょう。
大企業だと必ず警察OBがいるのでやりにくい。会社が小さすぎると輸出もしていない、従業員100人ほどの中小企業をターゲットにする。これは公安警察幹部のコトバだそうです。とんでもない、罪つくりの思い込みです。自分の成績をあげ、立身出世に役立つのなら、中小企業の一つや二つなんて、つぶれても平気だというのです。
 それにしても、大川原化工機では、社長らが逮捕されても90人の社員がやめることなく、また取引も続いていて、会社が存続したというのも驚きです。よほど社内の約束が強かったのでしょう。もちろん、みんなが無実を確信していたのでしょう…。すごいことですよね。警察の取り調べのとき、ICレコーダーをひそかに持ち込んでいて、取調状況を社員が録音していたというのにも驚かされます。捜査状況の録音・録画の必要性を改めて実感しました。
(2025年3月刊。1870円+税)

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