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南フランスの文化・地域社会と産業

カテゴリー:フランス

(霧山昴)
著者 亀井 克之 、 出版 関西大学出版部
 私は南フランスには少なくとも2回行ったことがあります。夏の南フランスは最高です。まず雨が降らず、夜10時まで明るいのが助かります。傘の心配なんかすることなく自由に動きまわれます。そして何より美食の国ですから、食事がどこで食べても美味しいのです。ワインにしても高くないのに味が良くて、料理にぴったりあいます。
私の1回目の南フランス滞在は41歳のときでした。7月20日に日本を出発して8月31日に帰ってきました。まさしく夏休み、それも40日間です。妻も子どもたちも置いて独身気分で出かけました。南フランスではエクサンプロヴァンスに3週間滞在。学生寮に寝泊まりします。男女混合の部屋(もちろん同室ではなく個室です)で、このほうがフロアーを分けるより、かえって安全だというのです。寮の入口にはコンドームの自動販売機があるのにも驚かされました。そしてお昼は、学生食堂でランチを食べます。ワインの小瓶もついているのです。これにも驚きました。さすがフランスです。ワインは水替わりなのです。
 さて、この本です。なつかしいエクサンプロヴァンスの街並みが写真つきで紹介されています。市街の中心にはミラボー大通りがあり、両側はプラタナスの大木が緑豊かなトンネルとなっています。一角には美術館もあります。静かで落ち着いたローマ時代から今日に至る町並みが残っています。
ここは画家のセザンヌが生まれ育ったところです。といっても、セザンヌは生前はあまり評価されていなかったとのこと。遠くに白い大きな山、サント・ヴィクトワール山を眺めます。セザンヌがよく描いている山です。
市場の紹介があります。フランスの街歩きの楽しみの一つが、この市場、マルシェめぐりです。私は夕食は、広場に面したレストランで何度も食事していたので、マダム(女主人)に顔を覚えられ、昼間すれ違ったときにも「ボンジュール、サヴァ」と声をかけられました。
 私が40日間の夏休みをとったのは弁護士になって15年すぎて、マンネリを脱却するため、フランス語の勉強を弁護士になって以来ずっと続けていたので、ブラッシュ・アップするため、というのが口実でした。人生、たまには決断のときがあるのです。
 今振り返っても、あのとき、本当に良い決断をしたと考えています。
 この本の著者もエクサンプロヴァンスの大学院で経営学を学ぶため、まだ幼い子どもたちを連れて行ったのでした。フランスの小学校に子どもを入れるのも大変だったようですが、子どもはもっと大変だったでしょう。フランス語なんて、もちろん話せないのですから…。でも、そこが子どもです。ぐんぐん吸収してまたたくうちにフランス語ペラペラになっていきます。人間の適応力って、恐るべきものがありますね…。
 私は還暦前祝いと称して、60歳になる前、妻と二人で南フランスを旅行しました。もちろんエクサンプロヴァンスにも行きました。このときは、ニースも、ポン・デュ・ガール(ローマ時代の水道橋)も、そしてカルカッソンヌにも行きました。なかでも印象深いのは、エズです。鷲の巣村とも呼ばれます。敵の攻撃を防ぐため、山の山頂にある小さな集落ですが、細い通りが道路のように入り組んでいます。
 ああ、また南フランスに行きたくなりました。ぜひ、みなさん行ってみてください。本当にいいところです。朝、起きて、さて、今日は何をしようかな。何かいい映画でもやってるかな…。そんな、自由に過ごせる日があってもいいと思いませんか…。
(2025年3月刊。2700円+税)
 男女同権は今やあたりまえのこと。でも、現実にはなかなかそうなってはいません。ですから、男女共同参画を推進してきました。
 ところが、参政党は、真っ向から反対して、そんなものつぶしてしまえと叫んでいます。ひどいです。
 選択的夫婦別姓は、夫婦別姓を選択できるようにしようというものですから、夫婦別姓を強制するものではありません。
 参政党は反対しています。そんなのは共産党のイデオロギーだというのです。多くの人が望んでいることなのですから、参政党の反対はまったく理解できません。

七三一部隊「少年隊」の真実

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 エイミ・ツジモト 、 出版 えにし書房
 日本軍は満州(今の中国東北部)に七三一部隊を置いて、残虐非道の限りを尽くしました。日本軍に反抗したような人々(無実の人々もいました)を逮捕・連行してきて、生体実験し、結局、全員を殺害してしまいました。正式な建物(施設)が出来てからは脱走した人もいません。ナチス・ドイツの絶滅収容所でユダヤ人が何百万人も殺害されましたが、連合軍が解放したときに少なくない生存者がいて救出されたのですが、七三一部隊では、逃亡に成功した人はただの一人もいません。
 そして、ドイツでは殺害されたユダヤ人の遺族に対して政府と企業がそれなりの賠償金を支払っていますが、日本は、殺された人の遺族に対して一切の補償をすることもなく、今日に至っています。
 七三一部隊で殺害された人々の名簿はまったくありません。ナチス・ドイツは詳細な名簿をつくって収容者を管理していましたが、七三一部隊は、収容した時点で、それまでの氏名ではなく、すべて番号でのみで管理していました。
 七三一部隊の存在は日本陸軍のトップも皇族たちも知っていた。東条英機は七三一部隊を数回は訪問しているし、竹田宮も訪問している。
 七三一部隊の建設にあたっては、石田四郎の出身地である千葉県の加茂村や多古地区から多く関わっている。
 七三一部隊で生体実験の対象とされた人々は「マルタ」(丸太)と呼ばれた。人間扱いはされなかった。ただし、実験データをきちんとするため、食事は良く栄養管理はされていた。
 憲兵隊や特務機関などが捕まえた、ロシア人・中国人・モンゴル人そして朝鮮人もアメリカ人捕虜もいた。この本には少年隊にいた人が黒人(それほど真黒ではなく、浅黒い人とされている)もいたと証言しています。アメリカ軍は自分たちの仲間が人体実験の材料とされたうえで殺害されても、七三一部隊の首脳部である石井四郎たちの責任を追及することはなかったのです。それより人体実験の材料の入手を優先させたのでした。
 マルタには女性もいた。ロシア人女性も中国人女子学生もいた。妊娠して出産した女性もいたが、赤ん坊はすぐに殺された。
少年隊は、14歳、高等小学校在学中で、向上心に燃え、知的好奇心が旺盛な者ばかりだった。ここで勉強すれば、医学校に進学できて、医者にもなれるという甘言もあったようです。
アメリカ軍の捕虜は、飛行士で撃墜されて日本で捕虜になって満州に送られてきた。少尉。薄黒く、背丈は大きかったが、やせていた。30歳くらいで、15番と呼ばれた。
ソ連は七三一部隊の関係者を裁判にかけ有罪としました(死刑はなし)が、アメリカ軍は、そもそも東京裁判の対象ともせず、すべてを闇に葬ってしまいました。
戦後の帝銀事件のときも、犯人は七三一部隊の関係者だという有力説がありましたが、そちらのほうは追及されることもなく、うやむやにされました。
 それにしても、七三一部隊の隊員に少年隊員が多数いたとは驚きです。
(2025年3月刊。2750円)
 参政党の公約は「15歳までの子ども1人に10万円」を毎月配るといいます。とても耳ざわりがいいコトバですよね。でも、参政党は医療費の無償化や教育の無償化をなくして、その代わりに月10万円を配るというのです。とんでもないことです。医療費や教育費が全額自己負担になってしまったら、大変です。
 「月10万円」の公約の裏には、こんな危い話が隠されています。参政党の正体を見た思いがします。

未来をはじめる

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 宇野 重規 、 出版 東京大学出版会
 東大の政治思想史の教授である著者が東京の女子高生(中学生含む)を相手に5回にわたって政治学を講義したものが再現されています。なので、そもそも難しい政治学の理論が難しいまま展開されることもなく、とても分かりやすい本になっています。
政治思想史が専門ですから、当然にマルクスも社会主義も登場します。
 現在の若者(大学生を含む)には、マルクス主義とか社会主義というと、すぐに「良くないもの」という否定的なイメージがもたれている。しかし、人々の間の不平等を何とかしたい、むしろ不平等はますます拡大しているのが現実ではないか、と著者は指摘します。どうやったら社会における不平等は是正されるかを考えている人が社会主義なのだから、あまりに一面的な社会主義の理解は、この機会に考え直したほうがよいと著者は提案しています。まったく同感です。
つい最近の新聞に、世界の歳富裕層1%は2015年からの10年間に4895兆円(33兆9千億ドル)の富を得たという国際NGOオックスファムの報告書が紹介されていました。
最富裕層1%は、下位95%の人々が持つ富の合計よりも多くの富を保有している。最富裕層が10年間に得た富は、世界の貧困を22回も解消できる規模になっているそうです。トマ・ピケティによると、現在の不平等の水準は、20世紀初頭ほどの水準にまで逆戻りしている。いやはや、資本主義の行き詰まりもまた明らかですね。それをトランプのようなやり方で解消・脱出できるはずもありません。
 日本人のなかに公務員は多すぎる、もっと減らせと声高に言いつのる人が少なくありません。でも、実際には、国際比較でみると、日本は公務員がとても少ない。福祉や教育の現場では、公務員がどんどん減らされて困っているのが現実です。それは司法の分野でも同じです。
 逆に、増えすぎているのは大軍拡予算です。自衛隊員のほうはずっと前から定員を充足していません。
著者は、教育や医療といった基本的なニーズは社会がある程度サポートすべきだとしています。大賛成です。年寄りと若者の対立をあおりたてる政党がありますが、政治の役割を理解していない、根本的に考えが間違っています。高齢者の福祉予算を若者に負担させるべきだというのは、出発的から間違っているのです。世代間でバランスをとる必要なんてありません。
 アメリカでは救急車を気安く呼ぶことは許されない。お金をとられるから。すべて営利企業である保険会社を利用せざるをえない仕組みです。日本の国民皆保険は守るべきなのです。ヨーロッパは日本よりもっと進んでいます。イギリス人は日本に来て、病院の窓口でお金を支払わされるのに驚くのです。
 ジャン・ジャック・ルソーが登場します。弁護士である私からすると、ルソーって、「人間不平等起源論」、「社会契約論」「エミール」といった政治思想の歴史に今も名を残す偉大な思想家なのですが、著者に言わせると、困った人、迷惑な人でもあるというのです。思わずひっくり返るほど驚きました。ルソーのことを何も知りませんでした。恥ずかしい限りです。
 ルソーは女性関係もにぎやかで、たくさんの子どもをつくったものの、みんな孤児に送り込み、自分は一人も育てあげてはいない。ただ、ルソー自身が可哀想な人で、母親は早く死に、父親もどこかへ消えていなくなり、早くから天涯孤独で生活したというのです。
 選挙の意義についても語られています。アメリカでは、アル・ゴアもヒラリー・クリントンも得票数では勝っていたのに大統領にはなれなかった。フランスではルペンが当選する可能性があったけれど、2回制の決戦投票システムだから極右のルペンは当選できなかった。
日本の小選挙区制では民意が本当に反映させているのか疑問だ。それにしても、若者の投票率の低さは問題。あきらめてはいけない。
著者の提起した問題をしっかり受けとめ、しっかり議論に参加している女子高生たちの姿を知ると、日本の若者も捨てたものじゃないと、希望も見えてくる本になっています。こんな大人と若者との対話が、もっともっと今の日本には必要だと思わせる本でもありました。
(2018年12月刊。1760円)

10年先の憲法へ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 太田 啓子 、 出版 太郎次郎社エディダス
 申し訳ありませんが、私はテレビを見ませんので、NHKの朝ドラ『虎に翼』も『あんぱん』も見ていません。ところが、弁護士である著者は子育てしながらも朝と昼、2回も見ていたそうです。そして、「とても幸福な朝ドラ体験だった」といいます。
 朝ドラが終了した翌日、主人公のモデル・三淵嘉子夫妻が過ごしていた小田原市にある別荘・甘柑(かんかん)荘保存会から声がかかって、「憲法カフェ」の講師として話したのでした。この本は、その時の講演をベースにしていますので、とても分かりやすいものになっています。
 この本の後半に「ホモソーシャル」という私の知らない用語が登場します。女性を排除した男性どうしの絆(きずな)を指します。女性は、あくまで男性同士の関係性を構築するための「ネタ」であって、その関係性からは排除されてしまっている。そもそもホモソーシャルとは女性軽視(ミソジニー)と同性愛嫌悪(ホモフォビア)をベースにした男性同士の強固な結びつき、および男たちによる社会の占有をいう。つまり、女性を自分たちと同じように社会を担う一員とは考えず、また同じように物事を考え、同じようにさまざまなことを感じながら生きている存在だとは見ない。ふむふむ、そう言われたら、自分のことを棚上げして言うと、そんな男集団ってありますよね…。
男らしさの三つの要素は、優越志向、権力志向、所有志向。
 一種の権力志向に「嫌知らず」があるそうです。「嫌知らず」というのは、女性や子どもが「それは嫌だ」「やめてほしい」と言っているのに、それが伝わらず、同じことを繰り返す男性の行動を指す。
 『虎に翼』に登場した「優三」について、著者はケア力の高い男性だとみています。他の人のニーズを汲(く)み、理解して、自分ができることで、それに応えようとする、そんな行動をナチュラルに出来る人。
寅子のモデルの三淵嘉子は、家庭裁判所で少年事件を担当するとき、「もっと聞かせて」と少年によく言っていたそうです。長く弁護士をしている私は、この言葉を聞いて、ガーンと頭を一つ殴られてしまった気がしました。
 というのも、弁護士として、いかに書面を書いて、主張を展開し、まとめることばかり気をとられ、目の前の依頼者や相談者に対して、「もっと聞かせて」なんて頼むことはほとんどありません。目の前の裁判官が「もっと聞かせて」と言いながら身を乗りてきたとき、少なくない少年たちが心を開いて、自分のみに起きたことを話し始めるのではないでしょうか…。
 出涸(でが)らし、という言葉も出てきます。弁護士生活50年以上、パソコンを扱えず、判例献策をインターネット上ですることもできない(なので、すぐ身近な若手弁護士に頼みます)私なんど、この出涸らしの典型でしょう。でも、出涸らしには出涸らしによる良さもあると確信しています。
 「おかしい、と声を上げた人の声は決して消えない。その声が、いつか誰かの力になる日が、きっと来る。私の声だって、みんなの声だって、決して消えない」
 いやあ、いいセリフですよね。今日の少数意見が明日は多数意見になることを信じて歩いていくのです。
この本のタイトルって、どんな意味なのかな…と思っていると、最後にネタ明かしがありました。『虎に翼』の主題歌の歌詞に「100年先も」というフレーズがあるのですね。
 三淵嘉子は日本で初めて司法試験(高等文官司法科試験)に合格した3人の女性のうちの1人です。私の父は、その3年前に同じく司法科試験を受験しましたが、残念ながら不合格。1回であきらめて郷里に戻りました。法政大学出身で、「大学は出たけれど…」という映画がつくられるほど、当時の日本は不景気でした。父は合格したら検察官になるつもりだったと言いました。ええっ。と私は驚きました。
 でも、当時は、治安維持法違反で特高警察に捕まった被告人を法廷で弁護したら、それ自体が目的遂行罪なる、訳の分からない罪名で弁護士までも逮捕されて刑務所に追いやられていました。そのうえ、「赤化判事」として、現職の裁判官が自主的に勉強会をしたとか、共産党にカンパしたくらいで逮捕されたのです。このあたりの詳しい状況を知りたい人は、ぜひ、『まだ見たきものあり』(花伝社、1650円)を読んでください。
 憲法13条は、「すべて国民は個人として尊重される」と定めています。そして、憲法12条は、国は不断の努力によって、自由と権利を保持しなければならないとしています。このとき、国民とは、日本に住む外国人も当然に含まれます。健康で文化的な生活を営む権利は、日本に住むすべての人のもっとも基本的な権利なのです。いい本でした。
(2025年4月刊。1540円)
 日曜日、少し厚さもやわらいだ夕方から庭に出ました。熱中症にならないよう、日陰での作業から始めます。ひんぱんに小休止して水分を補給しました。
 今、庭一面に黄色い花(名前が分かりません)が咲き誇っています。3月ころ、白い花を咲かせていました。
 ブルーベリーが色づいていましたので、指でもぎりました。小さなカップ一杯とれたので、夕食のデザートにします。
 目が覚めるような真紅の朝顔が咲いています。夏に朝顔は欠かせません。
 外国人排斥を叫び、明治憲法に戻れという参政党が支持を伸ばしているといいます。信じられません。まるで戦前の亡霊です。
 若い人や女性が支持しているというのですが、ヘイトスピーチは、いずれ自分にはね返ってきます。ぜひ考え直してほしいです。みんな同じ人間なんですから…。

老いの思考法

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 山極 寿一 、 出版 文芸春秋
 長くアフリカ現地でゴリラと向きあい探究してきた著者の話は、どの本を読んでも参考になり、考えさせられます。
人間だけが長い時間をかけて老いと向きあう。うへー、そうなんですか…。他の動物には老いて長く過ごすというのがないのでしょうか。
 動物は基本的に繁殖能力がなくなったら死ぬので、長い老年期というのはない。
 人間社会は離乳期と思春期と老年期という三つの固有の要素から成り立っている。
介護はサルや類人猿にはない、人間に特異な行動。
人間の赤ちゃんは、ゴリラの4倍のスピードで脳が成長する。
 ゴリラの赤ちゃんは基本的に泣かない。チンパンジーもそう。というのは、ゴリラの母親は生後1年間は子どもを片時も離さず、一体化しているから。
 ゴリラの世界では、老いたオスもメスも群れを追い出されることなく、若い世代から敬われて暮らす。ゴリラの子育てはオスの役目。思春期を過ぎても、子どもたちはオスのシルバーバックに頼り続ける。この親密な関係が老いたシルバーバックを敬い従うことにつながっている。
 ゴリラのオスは、子育てすると、ものすごく優しくなり、体つきも変わる。優しさと威厳が同居している構えになる。重要なことは子どもに頼られること。子どもに頼られるようになって、ゴリラは初めて父親らしくなる。乳離した子どもたちの安全を守り、子どもたちを仲良くさせて社会勉強させるのは父親の仕事。
 ゴリラのメスは、子どもの世話や保護のできないオスには見向きもしない。オスがメスに気に入られる大きな条件は、子どもを守り、世話をすること。
 父親に育てられた息子たちは、成長して力が強くなっても、決して父親を粗末に邪険に扱うことはなく、見捨てることもしない。なるほど、これは人間の子育てにも言えますよね。
 高齢者が本領を発揮できる美徳は仲裁力にある。
 ゴリラは非常に優しい動物だ。ゴリラは獰猛(どうもう)どころか、戦いを避けようとする。胸を叩くドラミンゴは宣戦布告ではなく、自分は対等な存在だという自己主張。
ゴリラは「負けない」。負けるというポーズがない。双方ともメンツを保ったまま、対等な関係を維持する。
人間は1~2年で離乳するけれど、ゴリラは3~4年、チンパンジーは4~5年、オランウータンは7~8年も授乳する。人間の赤ちゃんが泣くのは、面倒をみてほしいという自己主張。
 ボケには効用がある。自由な遊び心は老人の特権。
進化の過程のうち、ほとんどの時期は言葉を使っていない。言葉は脳を大きくした原因ではなく、結果なのだ。
 動物園のゴリラは、うつになることがある。人目にさらされすぎるからだ。
 サルに猿真似(サルマネ)はできない。学習して真似る、まねぶことが出来るのは人間だけ。
 ゴリラはお腹で笑う。ゲタゲタゲタと豪快に笑う。
 ゴリラは、みんなで分かちあった食べ物を、お互いにちょっと離れて、仲間で一緒に食べているときが一番満足しているとき。このとき、幸せそうに、ハミングを奏(かな)でる。
 人と人との直のつきあいのなかに自ら入っていくことが、人間の根源的な安心感につながる。いくつになっても家にひきこもらず、毎日5人に会うこと。毎週15人に会おう。もちろんスマホ(インターネット)ではなく、対面コミュニケーションで…。そうなんですよね。スマホを持たない私も共感するばかりです。
 後期高齢者の私にも大変勉強になりました。
(2025年3月刊。1650円)

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