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すごい人体、やばい人体

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 カラン・ラジャン 、 出版 河出書房新社

 人間は、身体の内部で薬をつくっていると聞いて、私はひっくり返りそうになるほど驚いたことがあります。すごい力を人体はもっているわけです。無意識のうちに人体はやっているわけなので、意議ある身としては、それを妨害せず、むしろ手助けするようにしたいと考えています。

 人は眼で情報を集めて、脳で物を見ている。そうなんですね、眼が見ているというのは不正確なんです。そして、物には色がついていないというのも不思議です。赤いリンゴを見ているとき、そのリンゴが赤いのではなく、リンゴから反射された光の波長にもとづいて電気信号やデータポイントのパターンを形成し、赤い色を知覚している。脳が赤いリンゴの反射する光の波長を、その物体の周りにある他の波長と比較している。見ているのは信号を翻訳したもの。

 糖尿病により血液中の酸素が慢性的に減少すると、網膜は供給量を増やそうと必死に血管を増殖させようとする。血管が網膜の前にあるため、血管の増加は視力をさらに悪化させる。

 ヒトの脳には10億個の神経細胞がある。各神経細胞が他の1000個の神経細胞と接続しているため、1兆個以上の接続ポイントがあることになる。これは、1兆データポイント分の記憶容量があることを意味する。

 ヒトの記憶は、ほぼ作り話、フィクションだ。記憶を呼び起こすことは、本質的に伝言ゲームだ。

脳には、痛みの受容体がない。

ヒトを除く、あらゆる哺乳類は、身体の大きさにかかわらず、一生涯に刻む平均の振動回数は5億回と、ほぼ同じ。これをルブナーの法則という。ヒトにあてはまらないのは、医・科学の迫害によって、振動回数をのばすことができるようになったから。

 肝臓は、脂肪を分解してエネルギーを取り出すと同時に、タンパク質、ホルモン、切り傷からの出血を止める凝固因子などを生成する。肝臓が果たしている機能は少なくとも500はある。これを機械で代替するのは不可能。肝臓の再生能力は驚異的で、70%を誰かに提供しても、わずか2~3ヶ月で正常に戻る。

 適度なストレスは、ヒトにとって良いもの。ストレスは体液の循環を促進し、心拍数を増やし、血液循環を効率化する。

 三交代勤務の人は、さまざまな種類のがんや代謝疾患、精神健康の問題を抱えている。そして心血管疾患のリスクも著しく高くなる。先日、変則三交代勤務の人と話していたら、身体がなかなか慣れないと、こぼしていました。この本によると、それはわずかなお金をもらうのとひき換えに健康を損なっていることになります。

夜10時を過ぎたら、子どもも大人も寝床(布団)に入って眠ったほうがいいのです。ちなみに私は今、夜10時半に寝て、朝は6時前に起きます。もう朝は明るくなっています……。

(2025年9月刊。2860円)

池田屋事件の研究

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)

著者 中村 武生 、 出版 講談社現代新書

 元治(げんじ)1年(1864年)6月5日に起きた池田屋事件の背景と推移を明らかにした新書です。

池田屋事件のきっかけは、古高(ふるたか)俊太郎の逮捕。古高が、その日の朝、新選組に捕らえられたことを知った長州毛利屋敷に集まった人々は実力で古高を奪還しようと考え、池田屋に集合した。古高は、実は、萩毛利家の世子の腹違いの兄の生母の再婚相手の孫。

文久3(1863)年、長州藩は、考えを改めた。外様猪俣は将軍の臣下ではなく、将軍をふくめて天皇の直臣(じきしん)とする。ただし、これは倒幕ではない。徳川政府はあってよいが、朝廷を決めたことを執行するだけの機関とするという考え方。

 8.18政変が起きて、薩摩島津家は、京都守護職の松平容保の協力を得て、長州の勢力を京都から放逐(ほうちく)した。同時に、三条実美ら七卿を西国・大宰府へ追いやった。(七卿落ち)。

 文久4(1864)年1月、天皇は、将軍や徳川譜代大名による合議制の政治をすすめた。そして、2月、長州征討が決められた。ところが、天皇の指示文書は薩摩がつくったことに慶喜が気がついた。天皇と島津久光が接近するなんて、とんでもなく危険なこと。そこで慶喜は、3月に参預諸俣の会議体を解散した。

 新選組は文久3(1863)年3月に創立された、京都守護職松平容保附属の浪士集団。新長州の浪士集団に対抗するためのもの。

長州関係者は、積極的に古高に近づき、有栖川宮家との多くの接触を依頼していた。

 長州は、宮家や堂上へ、スパイを潜入させていた。古高邸は、情報センターのような役割を果たしていた。新選組が古高を捕まえ、その供述によって池田屋襲撃が始まったという通説は間違い。新選組は、この日までに浪士たちの潜伏場所を207カ所もつかんでいた。

池田屋事件は、長州兵の大挙の京都攻撃=禁門の変を誘発する危険があった。新選組が池田屋を襲撃したとき、桂小五郎は、そこにいたが、すぐさま屋根を伝って逃れて対馬屋敷に入った。狭い池田屋を舞台として2時間あまりの死闘が繰り広げられた。しかし、その結果の戦死者が誰なのか、今なお不明。

 古高逮捕や池田屋襲撃をへて、会津の長州への敵意は頂点に達しようとしていた。先手を打たないと、こちらがやられるという危機意識をもっていた。

6月15日、長州の来島又兵衛が遊撃軍を率いて山口を先発した。ただし、長州勢は合戦のためではなく、嘆願のために京都に向かった。

 元治1年(1864)7月18日、慶喜は長州勢の排除を決め、孝明天皇が長州追討の勅命を下した。一橋慶喜は、孤立していた会津・桑名と手を組んだ。ここに一会桑権力が成立した。同日、禁門の変が始まった。長州は戦いに敗れた。

 一会桑権力の最重要軍事力は新選組だった。150人ほどの兵力というが決して少なくない。軍事的精鋭によって構成されているから。

池田屋事件について、本書は禁門の変の契機となった事件としています。

(2011年10月刊。1320円)

冤罪の深層

カテゴリー:司法

冤罪の深層

(霧山昴)

著者 前澤 猛 、 出版 新聞通信調査会

 再審法の改正が国会にかかろうとしています。法務省は再審決定に対して検察官が異議申立できることを死守しようとしています。でも、検察官は再審が始まってもその手続の中で自らの主張は十分展開できるのですから、現在のように再審が開始されるまで何年・何十年とかかっている状況を変えるべきなのです。この関係で、自民党の稲田朋美議員(弁護士でもあります)が頑張っています。すっかり、見直しました。

 そして、検察官の手持ち証拠の全面開示は当然のことです。証拠は有利・不利を問わず検察官の私物ではありません。そもそも検察官は公僕として社会の負託を受けて行動すべき存在なのです。自分に不利だから証拠を隠すなんて絶対に許されないことです。

著者はジャーナリストです。NHKをはじめとするジャーナリストの事なかれ主義・権力迎合があまりにも目立ちます。高市首相がトランプ大統領に抱きついたり、妙にこびを売っているのに対して、正面からおかしいと批判しないジャーナリストが多すぎます。嫌になります。

 この本によると、「世界報道の自由度ランキング」で、日本は戦界180カ国・地域のうち、なんと70位(2024年5月)です。私は、さもありなんと思います。

いまSNS頼みの若い人たちは活字メディアを「オールドメディア」として信用していないようです。根っからの活字人間である私は、決して「オールドメディア」だからダメ、なんて思いませんが、それでも、もう少し気骨ある報道をしてほしいと心から願っています。

 さて、本編の冤罪です。冤罪なんて昔の話……と決して言えない事件が最近も相次いています。袴田事件、大川原化工機事件、滋賀・日野町事件、福井・中3殺害事件……。

どうして、こんなことになっているのか……。警察の自白偏重の見込み捜査、検察・裁判所での事なかれ主義の横行が原因です。今も続いています。これは、弁護士生活50年をこえる私の実感です。

 なかでも、東京地裁の裁判官たちがガン患者であることを知って保釈を認めなかった大川原化工機事件はあまりにひどすぎると私も思います。遺族が裁判官たちを訴えて国家賠償請求訴訟を提起しましたが、当然のことです。裁判所が身内の裁判官を弾劾できるのか、しっかり監視したいと思います。

 再審裁判で無罪を言い渡した名古屋高裁(小林登一裁判長)は、無罪判決を言い渡した直後、裁判官3人がそろって被告人(「吉田翁」と裁判長は呼びかけました)に対して頭を下げたのでした。せめてそれくらいのことをすべきなのです。

 なお、この本によると、「片手落ち」は差別語ではないとのこと。「片手が落ちた」のではなく、「偏った処理」を言うのです。

著者は最近93歳で亡くなっています。貴重な遺稿なのでした。

 私は、オールドメディアにまだまだ期待しています。SNSにあふれる偏向報道・権力追従が横行していますが、弱い者バッシングに対してメディアもジャーナリストも負けてほしくありません。

 

(2025年3月刊。1650円)

火葬秘史

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 伊藤 博敏 、 出版 小学館

 東京都内23区に火葬場は6つあるが、それは自治体(区)の運営ではなく、東京博善という民間会社による。そして、この会社は「ラオックス」を率いる中国人経営者・羅怡文氏グループの傘下企業。

 東京博善は売上高90億円、営業利益は40億円という高収益の超優良企業。ひところ、政商として名高い小佐野賢治が支配していたが、身内の死が相次いだことから縁起悪いとして売り出されて、羅氏グループが取得した。私は中国人が経営する企業だからといって、それを問題にするつもりはまったくありません。排外主義に立つのではなく、現実を直視すべきだと言いたいのです。

 東京博善は、薩摩藩の出入り商人である木村荘平が初代の警視総監の川路利良の招きで上京し、まずは「食肉利権」で財を築き、そのあと火葬場で蓄財したもの。

木村荘平は「妾」20人に、実子が30人。その子どもたちには有名人がズラリ……。作家の木村壮太、画家の木村荘八、直木賞作家の木村荘十、映画監督の木村荘二など……。

 古代の日本人の庶民は風葬。つまり、山や河原に遺体を放置するというもの。墓をもつという発想がなかった。今、チベットの60年前の探検記を読んでいますが、チベットでも火葬したあとの骨を拾うことはなく、そのまま河原などに放置していたそうです。墓はありませんでした。今はどうなっているのでしょうか……。

 鎌倉時代から火葬が一般化しはじめた。ところが、明治になってから、神道を国教化するなかで、火葬が禁止された(明治6年)。しかし、天皇家でも火葬してきたこともあり、火葬禁止令は2年後に解除された。

 かつて日本は土葬社会だった。1940年代までは土葬が主で、墓地までの「野辺送り」を経験した人が今でもいる。その後は火葬が増えてきて、今では100%に近い。

「骨をきれいに残す」という習俗は日本特有のものだが、それも最近のものでしかない。東北地方の葬儀業者の9割は戦後に創業している。

現在の火葬場は無煙無臭。主燃焼室の直上に再燃焼室を設置している。火葬場の象徴であった高い煙空がなくなり、外観の工夫で排気筒が見えなくなった。

 本来、仏教にケガレという観念はない。墓石を立てて戒名を刻む一般墓は150万円で、その時代は終わった。納骨堂なら77万円、樹木葬は67万円。お墓は引継ぎたくないし、引き継がせたくない。樹木葬でも合葬墓タイプなら4~15万円。海洋散骨も業者まかせなら、2~3万円ですむ。

 火葬の今昔について、深く知ることが出来ました。

(2026年1月刊。1980円)

フェートン号事件

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)

著者 大井 昇 、 出版 長崎文献社

 幕末の長崎にイギリス船がオランダの旗を掲げて入港してきた。長崎奉行は焼き討ちを命じたが、警備担当の佐賀藩は当番でありながら出動が遅れ、結局、水や食糧を得てイギリス船は退去していった。直後に、長崎奉行は切腹した。そして佐賀藩主鍋島直正(閑叟)は逼塞(ひっそく)処分になった。これが有名なフェートン号事件のあらまし。

 ときは文化5(1808)年8月15日のこと。ヨーロッパではフランスのナポレオン皇帝が全盛期で、オランダはフランスが支配していた。

 フェートン号はイギリス海軍のフリゲート艦で乗組員350人。入港して出港するまで80時間。一発の銃声もなく、双方に物的な被害も発生していない。当時、日本側はロシア船の来襲を心配していた。とはいうものの、大砲(石火矢)の設置もされていなかった。

 出島のオランダ商館長(カピタン)はドゥーフで、長崎奉行がイギリス船を焼き討ちしようとするのを必死で制止した。フェートン号は風頼みの帆走軍艦。それでも大砲50門を備えていた。

 佐賀藩は当番でありながら、奉行所から減番を認められていて、兵士はほとんど佐賀に帰っており、番所に少数の兵しか残っていなかった。

日本側は、フェートン号に対して、4頭の良質な去勢雄牛(出島の牛舎にいた)、10頭ほどの山羊、鶏10羽、梨100個、野菜とサツマイモ、そして薪と水を提供した。イギリス側は対価を支払おうとしたが、受け取ったら交易したことになるので、日本側は受け取らなかった。

「水はとても清潔な大樽に容れられ」ていたとイギリス側の航海日誌に書かれている。

 大村・諫早の兵士800人、そして福岡藩から45隻の船に750人の兵士が到着したときには、フェートン号は出港していた。当番の佐賀藩がもっとも出遅れた。

 長崎奉行は、イギリス船が出港したあとの夜、庭で切腹した。誰も予想していなかった。41歳だった。

フェートン号の目的はオランダ船の拿捕(だほ)にあった。それで利益を得ようとした。ところが、当時、オランダ船は長崎にいなかったので、目的をとげることはできなかった。

 このフェートン号事件のあと、佐賀藩は苦しい藩財政にもかかわらず、軍備の近代化・西洋化を強力に推進し、最新式の大砲を製造できるようになっていきました。

 フェートン号事件の詳細を知ることのできる貴重な本です。

(2026年1月刊。1980円)

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