法律相談センター検索 弁護士検索
アーカイブ

商人たちの明治維新

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)

著者 大島 栄子 、 出版 花伝社

 大変面白い本でした。そして幕末という時代情勢のなかで、商人がどのように行動していたのか、とても参考になりました。というのも、私はちょうど幕末の久留米の商人の動きを調べて書いているからです。

何が面白いかというと、有名な島崎藤村の『夜明け前』に出てくる「牛方騒動」の話を、その「強欲(ごうよく)」な荷問屋を主人公とする話だからです。

 藤村の話は、「牛方騒動」の調停者となった馬籠の問屋が書いた日記「大黒屋日記」をもとにしている。それに対して、この本は、「強欲」な荷問屋が書いた「永代日記」を読み解いて、ストーリー展開にしたノンフィクションなのです。あの難解としか言いようのない古文書を読み解くと、こんなに状況・心理が分かるのかと驚嘆しました。

 ところは、中山道(なかせんどう)の中津川宿(岐阜県中津川市)です。主人公は中津川宿では大店(おおだな)だった間(はざま)家に婿入りしました。ところが、この間家は、内情は放漫経営で火の車というか、1100両もの大変な借金をかかえていたのでした。ところが主人公は逃げることなく、店の建て直しを図り、見事に成功するのです。要するに、店の収支状況を数字で明らかにして、儲けを出す商売にしていったのでした。

たとえば、塩商売です。中山道を京都の公家から将軍家へ嫁入りするときは、大変な行列になるので、大量の塩が必要になると聞いて、早速、塩を大量に仕入れて大きく儲けたのでした。なんで大行列だと大量の塩が必要になるかというと、食品の保存用として塩漬けにするためと、調味料としての味噌・醬油に使うためです。そして、荷問屋として、「牛方騒動」に関わるのです。これには、主人公も言い分はあったようですが、牛方(うしかた)たちも字が読めるので、明朗取引を求めてきたということのようです。

調停人も入って、結局、主人公の荷問屋は撤退することになりました。このときの、双方の言い分、そして調停人の意見が詳しく紹介されています。日記に書いてあるのです。

そのあと、主人公は質屋、つまり金融業に力を入れ、そこで儲けていきます。幕末ですから、政治がまさしく激動しています。そこを主人公が乗り越えていく状況も詳しく紹介されていて、状況がよく分かります。

主人公自身は政治に直接関与はしなかったようですが、中津川宿の属する尾張藩からは特別に上納を命じられたりしています。儲けのための必要経費みたいなものでしょうか…。

個人の日記を読み解くと、当時の政治その他の経済を含めた状況がよくつかむことが出来ます。参考になりそうなところに、いつものように赤エンピツでアンダーラインを引きましたら、ほとんど全頁が真っ赤になりました(少しオーバーです)。

(1998年5月刊。1650円)

古代東アジア外交の玄関口・鴻臚館

カテゴリー:日本史(古代)

(霧山昴)

著者 菅波 正人 、 出版 新泉社

 六本松に裁判所が移る前は、城内に裁判所がありました。その隣には平和台球場があり、子どもを連れてナイター見物をしたこともあります。

 その平和台球場は今はありませんが、そこに鴻臚館(こうろかん)がありました。発掘が進み、今は立派な「鴻臚館跡展示館」が出来ています(なんと入場料は無料です)。

 鴻臚館は11世紀まではあったようで、そのころは大宋国商客宿坊と呼ばれていたとのこと。

鴻臚館跡からの出土品のなかに、アッパース朝時代のイスラム陶器がある。中国陶器にはないコバルトブルーです。青緑釉陶器の大型壺の陶器片が見つかっているのです。中国でイスラム商人による交易活動が盛んだったことを物語るものです。

 鴻臚館は全国に一つしかなかったのではなく、平安京・難波津(なにわづ)、筑紫に置かれていた。平安時代の初めから11世紀に焼失するまで、新羅や唐などからの外交使節や遣新羅使や遣唐使そして商人などが行きかう、東アジアと日本の結節点だった。

 鴻臚館跡が発見されたのは、平和台球場の改修工事のすすんでいる1987年12月のこと。最近だというのに驚きました。

朝鮮半島にあった新羅との交流は盛んで、遣新羅使の来朝は、779年までに51回、日本から遣新羅使としての派遣は24回に及ぶ。

この本を読んで驚いたのは、鴻臚館は丘陵の上にあり、その両側は入江となっていたということです。その入り江は水深が深いので、大型船の停泊が可能でした。両側を入り江ではさまれるという立地は、隔離性と防備性にすぐれ、外国からの施設を迎えるのにふさわしい場所だった。

 鴻臚館跡では、トイレ遺構も6基ほど見つかっている。いずれも堀の外側にあった。このトイレ遺構からのお尻をふくための荷札木簡が出土した。これらの木簡には、品物の人名や地名が書かれていた。木簡は用済みになったら、お尻をふくのに使われていたのですね。

 模様の入った軒瓦など、数々の出土品には圧倒されます。

(2025年8月刊。1870円)

ヒトの意識の進化をたどる

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 ジョン・パリングトン 、 出版 丸善出版

 この本のテーマに直接は関わりませんが、紀元前1153年のエジプトで、ピラミッドをつくる作業に従事していた職人たちが報酬の小麦の支払いが遅れていることからストライキをしたこと、長いストライキをうったあと、要求はすべて認められたとのこと。そんな記録があったなんて知りませんでしたし、驚きました。それから3千年後の現代日本ではストライキは完全に死語となっていて(フランスではそうではありませんし、あのアメリカでも、最近、スタバの労働者が全国でストライキを敢行しています)。なんと日本は遅れていることかと嘆くばかりです。

 さらに、この本ではもう一つ、イギリスの炭鉱労働者のストライキがJGBTコミュニティと連帯したことも紹介しています。私も映画をみて知りましたが、1984年のサッチャー首相のときです。日本の高市首相はサッチャーを手本としているようですので、日本でも、そんなストライキを実現したいものです。

狩猟採集社会は、何よりも、協力すること、争いを最小限に抑えること、そして全員の役割を尊重することを保証するのを重視する傾向がある。そこでは、年配者は、技術と経験から愛情と尊敬をもって扱われるが、特権はもっていない。争いを少なくすることが重視されている。

 この本で主張されている主なものは、人のもっとも内なる思考は、「内言」とは、内心のつぶやきのことでしょうか…。内言は発話とは重要な点で異なる。ヒトの内的意識は言語で構成されている。

ヒトは他の動物とどこが違うのかが、この本で一貫して追求されています。生物学的にもっとも近縁な類人猿であっても、人のように周囲の世界を変える能力をもっていない。

ヒトの自己意識は、人にユニークな二つの特徴の結果として生じている。一つは言語能力、二つ目は道具を設計し使用することによって周囲の世界を絶えず変容させる能力。そして、もう一つ。ヒトの脳は、サル類の脳よりはるかに大きいというだけでなく、構造も機能も根本的に異なっている。

人類進化の正しい流れを初めて明らかにしたのはエンゲルスだ。

ヒトの言語は、抽象的表像の相互連絡システムであり、複雑な意味を伝えられるように文法で結びつけられている。ヒト以外のチンパンジーやゴリラには文法の能力がなく、抽象的な表象で概念的に世界を表す能力がない。

地球の生命には、生存と繁殖という2つの原理がある。

ヒトの言語は、単なるコミュニケーションの手段ではない。ヒトの思考過程には言語が中心的な役割を果たしている。

ヒトの脳は、単なるワープロでも電気回路でもない。脳は、ニューロンからなる電気的回路で構成されているだけではなく、グリアが脳機能に基礎的な方法で貢献している。そして、異なる周波数の脳波が脳領域内や脳領域間における重要な相互作用を介在させている。

脳は中央処理装置をもっていない。

脳には興奮性と抑制性のニューロンがある。通常は、興奮性のニューロンは興奮性ニューロンだけでなく、抑制性ニューロンからも入力を受けていて、ニューロンのインパルスが制御できないほど広がることを防いでいる。入力は、興奮と抑制のバランスが絶えず変化する非常にダイナミックのものである。

全部理解できたとは、とても言えませんが、重要な指摘があると思いながら、脳の働き・意識との関係を知りたくて、ともかく読みすすめました。

(2025年7月刊。2750円)

 日曜日、チューリップを植えました。ちょうど近所の子が遊びに来ていたので手伝ってもらいました。チューリップの球根は生協に予約して余るほど買っておいたつもりなのですが、まったく足りません。

 球根を植えるときは、白内障の手術のあとなので、ゴーグルをしています。眼科医によると、あと1ヶ月ほどはメガネをつくらないほうがいいというので、前に使っていたのを引っぱり出して使っています。

 自動車の免許証更新のとき、それで大変な目にあいました。視力検査でひっかかったのです。0.6が見えませんでした。検査官から白内障の手術を受けたのなら裸眼で見えるでしょ、と言われましたが、すっきりは見えますが、視力が良くなったわけではありません。なんとか合格して新しい免許証をもらうことができました。

 車なしでは動けません。ありがたいことです。

本なら売るほど(1)

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 児島 青、 出版 KADOKAWA

 読書好きが高じて古本屋を始めた青年をめぐる話が展開していくマンガです。

マンションの1室を全部本だらけにしてしまう話があります。3千冊くらい収納するとのこと。

 私は、子どもたちが巣立って出ていったあと、子ども部屋を書庫にしました。特注で本棚を設置してもらったのですが、本を並べるのを優先したら、棚のあいだが窮屈になり、どこに何があるのか、一覧性が難しくなりました。自宅だけでなく、事務所にも書棚がありますので、少なくとも蔵書は1万冊以上はあると思います(2万冊といいたいところですが、数えたことはありませんし、数える気もありませんので、真相は藪の中です)。

 古本をネットで買うこともありますし、東京・神田の古本屋買いを探訪したこともあります。毎月、40冊以上は本を買いますし、少なくとも月に30冊以上は本を読みます。この20年以上、毎日1冊の書評をアップしてきましたが、読んだ本の7割から8割ほどを紹介していることになります。

私が読んだ本は古本屋に持ち込めません。だって、読んだら年月日を書き込み、サインしますし、本文の評価できるところは赤い傍線を引いているからです。自分の本なのです。それでも、近頃は、かなり捨てましたし、身近な人に引き取ってもらって減らしました。でも、どんどん買って、また読みますので、全体としては相変わらず増えていくばかりです。

このマンガにも、本に囲まれた生活をしたいという人が登場しますが、私もその一人です。あとは、庭でのガーデニングです。朝起きて、雨戸を開けると、緑々した山並みを眺めることが出来ます。稲づくりの田んぼは減ってしまいましたが、それでも畑はまだ残っています。庭で花と少しばかりの野菜を育てながら、夢中になって本を読みふけるのです。なので、テレビは見ません。インターネットを見るのは事務所だけです。

古本屋にからむ人生もいろいろあることを思い起こさせてくれるマンガ本です。1月に発刊して、すでに8刷というのは、すごいです。

(2025年9月刊。792円)

甦れ!神の鳥ライチョウ

カテゴリー:生物・鳥

(霧山昴)

著者 中村 浩志 、 出版 山と渓谷社

 中央アルプスに野生のライチョウを復活させるプロジェクトの実情を一貫してリードした鳥類学者の著者が明らかにした本です。私が欠かさず視聴しているNHKの「ダーウィンが来た」でも紹介されましたので、その一端は知っていましたが、その苦難の取り組みの全体像を初めて知りました。

 環境庁の新しい課長は、業務を監督することしか念頭になく、ライチョウ復活に手を貸そうという気はさらさらなかったという、官僚行政に対する手厳しい批判もなされています。つまり、ライチョウ復活は自然との闘いだけでなく、官僚行政とも戦う必要があったのです。

 ところで、日本のライチョウは、神の鳥として古来より大切にされてきた山の鳥なので、人間を恐れることがないという貴重な特性をもつ鳥だそうです。たしかに、珍しいですよね。その特性を生かして復活作戦はすすんでいきます。

 ライチョウは基本的に一夫一妻のつがいとなって繁殖するが、雌の数より雄の数は常に多い。日本のライチョウは、北アルプス、南アルプスそして御嶽(おんたけ)の3地域はそれぞれDNAを調べてみると、違うグループをつくっている。2万年前から3万年前の最終氷河期、まだ大陸と日本列島が陸続きだった時代にライチョウの祖先は日本列島に入ってきた。

ライチョウの巣を探すときは、巣から出た抱卵中の雌は、20分ほど外で採食したら巣に戻る。急いで餌(えさ)を食べようとするため、1分間に100回ほどもついばむ。採食を終えた雌がどこに戻るかを見て巣を発見する。

 ライチョウの捕食獣としてキツネとテンがいる。なので、ライチョウを守るためにキツネやテンの駆除を申請し、認められた。さらに高山にまでサルが群れをなして上ってくる。サルは集団になって高山までやってきて、子育て中のライチョウを脅かす。

 ライチョウをケージに入れて保護しようとするとき、決してライチョウをおどしてはいけない。ライチョウに対して、危害を与えない安全な存在と思わせる必要がある。ケージに収容するとき、雛(ひな)を人の手で捕まえ、ケージに入れるのではない。そんなことをしたら、雌親は警戒の声を発して偽傷行動を始め、それを見た雛は、人を怖い存在だと自らに刷り込んでしまう。ケージ保護が可能なのは、人を恐れない日本のライチョウだけ。

 ライチョウの親鳥は、弱った雛を見捨ててしまう。元気な雛だけ世話をする。そのほうが、結局、多くの雛を残すことができるから。

ライチョウの雛は、母ライチョウの盲腸糞を食べて、自らの腸内細菌を育てて生きていく。

ライチョウが日本アルプスなどに生き残ったのは、強風と多雪のなか、ハイマツが安全な営巣かつ隠れ家となったことによる。そして、ライチョウは神の鳥なので、狩猟の対象になってこなかったから。

 いろんな奇跡と、並々ならぬ苦労のおかげでライチョウが復活したことを知って、元気が出てきました。

(2025年9月刊。1980円)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.