(霧山昴)
著者 ナサニエル・フィック 、 出版 KADOKAWA
アメリカ海兵隊の現場リーダーとして、アフガニスタンそしてイラクの最前線で活動した体験を振り返る本です。みすみす部下を死地に追いやるような作戦を最前線で指揮する中隊長に対して、明らさまに反抗した驚くべき経験も紹介されています。
フェランド中佐は傲慢で、部下のことより我が身の出世を考えて部下を任務に行かせている。隊員たちはそう思っていた。中隊長は仕事熱心で人のいい男だが、戦術面では無能。指揮関係は信頼の上に築かれる。中隊長の判断は、あまりにお粗末で、海兵隊員が当然のこととして教えこまれる上官への信頼は、ことごとく打ち砕かれた。中隊長の命令に背いたのは、従えば誰かが何の理由もなく死ぬことになってしまう。戦闘指揮官としては最悪だ。
追撃砲は、標的を観測できる誰かが着弾点の誤差を追撃砲に伝え、砲弾を命中させようとしているものに誘導しないかぎり効果がない。したがって、その観測手を見つけて殺害しなければ、こちらが殺(や)られてしまう。
物資の補給では、燃料と水と弾薬が優先。食料はあとまわし。
歩兵にとって、戦車と一緒に行動するのは、頭上に攻撃機が控えていたり、深い戦闘壕の底に潜っているようなもので、とにかく気分がいい。
100万ドルの負傷とは、命に別条なく、戦線離脱して帰国できる負傷。
1980年代、ソ連軍との戦いでムジャヒディンが消耗していたところに、CIAがスティンガー・ミサイルを供給したことで、戦いの潮目(しおめ)が変わった。スティンガーはロバの背中にのせて運べるほど小さいミサイルで、航空機の排気熱を追尾する。
新参者(新兵)には近づきたくない。自殺行為をやらかすから。
海兵隊でもっともタフな部隊は、偵察部隊だ。
戦場における強さとは、手に負えない状況にも冷静に立ち向かい、穏やかにほほ笑みかけ、とことんプロフェッショナルな誇りをもって敵に打ち勝つ能力だ。
ムスリムの暗殺者たちの多くは、自分の死後、99人の処女と永遠に生きられることを信じている。 「そんなのウソでしょ」という人はいない。
戦闘は一種のめまいだ。どんな訓練をしようと、自分の感覚が信じられなくなる。
著者は大尉になったあと、海兵隊を早期に退職した。戦いを好まない戦士に自分がなったことを認識して、海兵隊を辞めた。著者は裕福な家庭に育ち、アイビーリーグの名門大学を卒業した白人男性で、戦場に出て戦争とは何か、正義とは何か、現実を見聞きするなかで考え、変化していった。海兵隊を去ったあと、ハーバードの大学院でMBAとMPAの学位を取得した。
アメリカの「強さ」の内実は、案外もろいものだとも、本書を読みながら思ったことでした。
(2025年5月刊。38050円)



