(霧山昴)
著者 ジョナサン・スター 角川書店
アフリカは、あのソマリランドにアメリカ人が学校をつくり、運営し、そこの生徒がアメリカの大学に留学していくという実話を、当のアメリカ人が紹介した本です。
しかも、アメリカの大学というのがハーバードであり、MITだというのですから驚きです。
少し前まで英語もろくに話せなかったソマリの少年少女が学校に入って才能を爆発的に開花させるのですから、素晴らしいです。アメリカも、こんな援助こそ、もっと大々的にすべきですよ。軍事的な侵略ばっかりしているので、嫌われるばかりなんです。
私は、アフガニスタン中村哲ドクターをついつい思い出しました。
アメリカ人である著者が見ず知らずのソマリランドで50万ドルを投入して学校をつくり、運営する苦労の日々が刻銘に紹介されています。
ソマリの部族社会とのあつれきもありましたし、信頼していた人との仲違いによって深刻な状況に再三おいこまれたのですが、そんななかで多くの留学生を送りだしたといのですから、立派なものです。
ソマリランドに何度も行ったことのある日本人・高野秀行氏は、この学校の前を通ったことがあるとのこと。クレイジーなアメリカ人として解説を書いています。
この解説を読んで、なるほどと思ったのは、ソマリア人の若者が「飢え」ているという指摘です。それは、知的な「飢え」です。もっと勉強したいけれど、する環境がない。そんな飢えている若者に適切な食事を与えると驚くほどの勢いで摂取し、爆発的に成長する。それで、わずか数年でハーバードやイエール大学に合格してしまうのだ・・・。
著者のアメリカ人は27歳のときには、アメリカで投資会社を経営していて、もうかっていたのです。ところが、もうけ仕事を続けるより、何か他に意義ある仕事をしたいと思い、ソマリ人の叔父さんのいたソマリランドに学校をつくるのを思い立ったというわけです。
学校の試験はカンニングがあたりまえ、入試だって替え玉受験があるようなところで、基礎からの勉強を積み重ねていくような涙ぐましい努力をしていくのです。生徒たちは、やがて教師にこたえてくれます。ところが、妨害者があらわれ、あの手この手で妨害します。デマをまき散らし、著者を国外へ追い出そうとするのです。
ソマリランドはモガディシオを首都とするソマリ国からは独立した別の国で平和な国なのです。ソマリ国は今もなお内乱状態が続いて危険な国のようでうが・・・。
アメリカ人だって軍事優生ばかりではないことを知って、少しはほっとする思いもしました。
中村ドクターのように用水路をつくって農村を復興したり、この著者のように学校をつくって子どもたちにちゃんとした教育を受けさせる。これこそが必要なことだと痛感させられました。ぜひとも、学校を存続させてほしいものです。
(2017年9月刊。1600円+税)
ソマリランドからアメリカを超える
