(霧山昴)
著者 須川 邦彦 、 出版 新潮文庫
明治32年4月から12月まで、太平洋の真只中で、日本人船員16人が遭難したあと無人島にたどり着いて全員が無事に日本に帰り着いたという実話です。
明治の日本の男たちは、実にたくましいと驚嘆しました。
私が何より感嘆したのは、16人の男たちが守り通した「四つのきまり」です。
一つ、島で手にはいるもので、暮らしていく。
二つ、出来ない相談を言わない。
三つ、規律正しい生活をする。
四つ、愉快な生活を心がける。
無人島に生活するに当たっての誓いです。最後の四つがいいですね、笑いを忘れないようにしたのです。
そして、勉強もしたというのですから、本当に偉い人たちです。
船の運用術、航海術の授業。数学と作文の授業もある。習字は、砂の上に木を削った細い棒の筆で書く。石板の代わりにシャベルを使い、石筆にはウニの針を使う。漢字と英会話、英作文もある。
一日の仕事がすんで、夕方になると総員の運動が始まる。相撲、綱引き、ぼう押し、水泳、島のまわりを駆け足でまわる。それから海のお風呂に入って、そのあと夕食。規則正しく、毎日これを繰り返す。月夜には、夜になってすもうをとる。そのために立派な土俵をつくった。
夕食後には、唱歌。詩吟も流行した。
雨の日は、みんなほがらかに、にこにこした。雨水は、飲用水になる。午後から茶話会をし、おやつを食べた。米のおかゆを雨水でつくって食べる。実に美味しい。
余興の隠し芸を披露して、おなかの皮をよじって大笑いする。ウミガメ(正覚坊)の卵はうまい。そして、海藻を食べているから、肉も美味しい。
無人島にいるとき、ぽかんと手をあけて、ぶらぶら遊んでいるのが、一番いけないこと。
16人は、順番に、まわりもちに決めた。見張り、炊事、たきぎ集め、まき割り、魚とり、ウミガメ(正覚坊)の牧場当番、塩づくり、宿舎掃除せいとん、万年灯、雑業・・・。
これらの仕事は、どれも自分たちが生き延びるためには、ぜひやらなければいけない仕事だ。みんな熱心に自分の仕事に励んだ。
涙の出てくるほど、美しく、たくましい和装「ロビンソン・クルーソー」集団の話です。
実話なので、感慨深いものがあります。ちょっと疲れ気味だと感じているあなたにご一読をおすすめします。私の生まれる直前、昭和23年6月10日の本が復刊したものです。
(2010年6月刊。430円+税)
無人島に生きる七六人
人間

