著者:帚木逢生、出版社:新潮社
ときは天平15年(743年)。鳴くよウグイス、平安京(749年)より50年前。長門周防の工夫が、奈良の大仏建立に駆りだされていくさまが実にこまかく「再現」されている。その迫真の描写力にはホトホト頭が下がる。上下2分冊で合計600頁をこす長編だが、「感涙の大河小説」というオビの文句に嘘はない。山から鉱石を掘り出し、棹銅(銅板)をつくり、平城京へ運ぶ。そして、奈良の大仏像の建立に従事する一人の男の生活があますところなく描かれている。奈良時代の庶民(匠)の生活はこうだったのかと思い至ることができる。じっくり読んで、これぞ小説の醍醐味だ、とつい膝をうってしまった。
国銅
