(霧山昴)
著者 針山孝彦 、 出版 科学同人
南極で受けたサバイバル・トレーニングが紹介されています。
なんと実際にクレバスに落っこちる。もちろん、何もなしに落ちるのではありません。40メートルのロープをつけて、氷の割れ目のクレバスに落ちる。すると、ずーんと体が引っ張られて落下が止まる。頭上を見上げると、ほんの少しだけ青空が見える。40メートルもの氷の中にいると、周囲は青い世界。宙づりになってクレバスの下の奥を覗くと、真っ黒の世界。光が届いていない。音もなく、光も少ない世界。
このクレバスから、ロープをたどらず、氷の壁に挑んで自力での脱出を試みる。右手にピッケル、左手にアイスアックスをもち、足にはクランボンの金属が靴先に飛び出していて、氷に張りつける道具を準備して挑戦する。ところが、いくら両手を握り回し、足をバタバタさせても、柔らかい氷の結晶がついた壁は脆く、どうしようもない。大汗をかいたまま、力尽き、自力での脱出をあきらめ、引っ張り上げてもらう。このとき、著者を含めて、実習生会員が脱出に失敗した。
いやあ、たとえ訓練であっても、私には、こんな訓練は受けたくありません。そんな勇気なんかもっていません。トホホ…、です。
南極で小さなタコを見つけ捕まえたので、著者が電子レンジでチンして醤油をちょっとかけて食べようとしたら、基地の人がそれを見て驚き、「毒が入ってるかもしれない」「おお気持ち悪い」「病気になっても医者はいないんだぞ」と、口々に制止しようとするのです。それでも食べたら、美味しかったそうです。ところが、翌朝、「お腹をこわしてないか?」「本当は気持ち悪いんだろ?」と、声をかけられたとのこと。ヨーロッパの人々はタコは食べないんですね。オクトパスって悪魔の食べ物のようです。
カンブリア紀の運動機能上昇を支えたのは、感覚器官の出現だ。1世代に1つの突然変異が起きたとすると、数十万回の世代交代によって、平らな皮膚のような構造からレンズをもったカメラ眼まで形態変化することが、コンピュータ・シミュレーションによって示される。生物の設計原理が共通なのは、設計指針として遺伝子を用いている進化の結果なので、当たり前のこと。
ハエは、色と餌(エサ)を結びつけて学習することができる。ハエは380ナノメートルから650ナノメートルの範囲で色を認識していて、その色弁別は、このスペクトル領域を3つのカテゴリーに分けていて、紫外部域・緑部域・緑よりも長波長域である。ハエの色の弁別は、人間がナノメートルの範囲で色弁別しているのとは違っている。このような記憶行動を達成しているハエの複眼と脳はマッチ棒の頭程度のもの。つまり、ほんの数百マイクロメートルの固まりが、人間の目にもとまらぬ空中追跡で上表を処理し、しかも記憶能力までそなえている。
遊び心を忘れては何も良い仕事は出来ない。遊び心こそが創造力を生み出す源泉だ。
大変面白い、ヒトを含む生き物たちの情報戦略の本(文庫)です。
(2025年8月刊。1320円)


