(霧山昴)
著者 杉本 康士 、 出版 作品社
著者は産経新聞の外信部次長です。だからでしょうか、日本の軍事予算(防衛費)が天井知らずにふくれあがっていることに対する批判的視点はありません。でも、本当にそれでよいのか、果たして防衛費の増大は「日本を守る」ためのものなのか、本書を読んで私はますます疑問を感じました。
集団的自衛権を容認し、アメリカの求めに応じて、自衛隊を海外のどこにでも派遣し、それを「下支え」することが出来るようになりました。安保法制下の安保三文書によって具体化が進どんどんめられています。
バイデン前大統領は、「俺が岸田に言ったから日本の防衛費が増えた」と自慢している。そして、今、トランプ大統領は、さらに軍事費をGDP3%に増額するよう日本に要求している。とんでもない数字です。福祉も教育もますます切り捨てられることになります。年金は減るばっかりです。名目で少し増えても、介護料負担が増えるので、実質減です。そして、大学の授業料はどんどん値上がりしています。その結果、学生はアルバイト漬けになっています。
2018年の中期防では、5年間の総経費は27兆4700億円で、物件費は17兆1700億円だった。それが今や、物件費は43兆5000億円と、2.5倍にはね上がった。ところが、防衛省・自衛隊の人数は今までと変わらない。自衛隊は定員割れだし、新規入隊は減る一方で、途中退官者は増大するばかり、同じ陣容で、これまでの2.5倍の予算を処理しなければいけない。これから、防衛省、自衛隊は予算執行という厳しい戦いを強いられる。
「予算が増えて喜んでいる奴が多いが、何も分かっていない。正直言って、これから予算を使うのは、本当に大変だ」
これが、自衛隊制服部門トップの本音だそうです。
増田和夫・元防衛政策局長は、「今の人員配置は、予算獲得と執行が9対1になっているが、これを逆転させて1対9にする。防衛省は、もう予算獲得に全力をあげる必要はないから」と語った。そこで、著者は疑問を投げかけるのです。
膨大な額の予算を執行できる体制を防衛省、自衛隊が十分に整えているかは疑わしい。現に、2023年度の決算では、防衛費に1300億円の使い残しがあった。
要するに、「日本を守る」ためには何が必要なのか、その新「兵器」を運用・操作・補修していくだけのスキルを身につけた人員を養成・確保できるのか、そのためにはいくら必要なのか。このような、下から積み上げられた結果としての軍事予算ではないのです。
バイデンそしてトランプというアメリカの大統領からアメリカの最新兵器(オスプレイやF35のような欠陥機を含む)を買わされ、その購入を前提として、必要人員の養成・確保のあてもなく、次々に天井知らずに増額されているのが実際なのです。
政府が設置した有識者会議のメンバーには三菱重工学の役員も含まれています。財界、需要産業は今でもひとり勝ちなのを、さらに上乗せしようとしています。そんなことで庶民の生活は「守られる」でしょうか…。高市政権は大軍拡をさらに進めるという号令をかけています。おー、こわ、こわ…。
知りたくないけれど、知らなくてはいけない日本の現実です。
(2025年6月刊。2970円+税)



