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2025年8月 の投稿

韓国・国家情報院

カテゴリー:韓国

(霧山昴)
著者 佐藤 大介 、 出版 幻冬舎新書
 韓国にとって、国家情報機関の歴史は、「暗黒の歴史」でもある。国情院の前身は、KCIAと安企部だ。いずれも大統領直属の情報機関であり、秘密警察でもある。
この本のなかに韓国の国情院が裁判官志願者に対して面接し、国家に対する忠誠心、誠実性及び信頼性について思想調査していることが問題になったことが紹介されています。日本では、司法試験の合格者に対して公安調査庁が身辺調査をしていました。私が司法試験に合格したとき、下宿先のおばさんから調査に来た人がいて、「いい人だと言ってやったわよ」と言われたことを思い出しました。市役所に勤めていた人から、市役所で訊いてまわっていたと後で教えられた、と聞きました。
 今でもやっているのか、いつまでやったのか、私は知りませんが、その調査結果は秘密のルートで最高裁に届けられ、また司法研修所の教官の一部に届けられていました。これは私も体験した、間違いのない事実です。
 KCIAは「ミリムチーム」を活用していた。これは、高級ホテルのバーや料亭などを拠点として、そこに働く女性の経営者や従業員を監視員として活用して政治家などの「生」の情報を収集していた。
 今でいうと、国民民主の玉木とか、参政党ナンバー2の議員の不倫などを探知して、「ゆすりたがり」のネタとして活用していたということでしょうね。でも、今や「不倫」くらいでは国民の「支持」は減殺されなくなってしまいました。これって、本当に喜んでいい現象なのか、私としては悩ましいところです。
 ところが、高度の情報収集能力をもつはずの安全部も国情院も、全日成の死も金正日の死も、いずれも北朝鮮政府の公式発表まで気づいていなかった。いやいや、内部情報で気づいていたのだけれど、気がついていなかったふりをしただけ、なのかもしれませんね。
 KCIAを創設した朴正熙は結局、KCIAの部長から私的飲み会の場で至近距離で射殺されてしまいましたよね。
 KCIAの歴代部長のほとんどが軍出身者。つまり、軍が支配していた。
 KCIAの部長は、ほかの大臣よりも地位が高く、実質的な権限は首相よりも強かった。これって、まさに異常ですね。
朴正熙がKCIA部長から射殺されたのは1979(昭和54)年10月26日のこと。このKCIA部長は、翌1980年5月に絞首刑が執行された。
 KCIAが安企部に名称を変更したのは全斗煥大統領のとき。映画「ソウルの春」で、そのあたりの状況が再現されています。ちょうど、光州事件が起きたころのことで、全斗煥は民主化へ進むのを必死で巻き返そうとしたのです。そのおかげで、たくさんの罪なき市民が死傷してしまいました。軍人に政治をまかせたら大変なことになるという典型的な出来事です。
日本でも、自衛隊出身の国会議員や県知事が前から大きな顔をしてモノを言っていますが、私は本当に心配です。もちろん、自衛隊出身だからダメだというのではありません。俺たちだけが国を守っているかのような言い方が許せないのです。
盧武鉉(ノムヒョン)大統領は叩き上げの弁護士として、私も大いに期待していたのですが、残念なことに汚職事件の渦中に自死してしまいました。この盧武鉉大統領は、国情院の院長に民弁(民主社会のための弁護士会)の初代会長を起用したのでした。
 これまた、すごいことです。日本でいうと、自由法曹団の岩田研二郎団長を公安調査庁の長官に任命したということに匹敵します。
 国情院の予算は1000億円(1兆ウォン)。それに対して、日本は1500億円と推計されている。ところが、この1000億円の使途は、すべて秘匿されている。日本も同じです。
 韓国のKCIA、安企部そして国情院のことを少しばかり知って再確認しました。
(2025年5月刊。96円+税)

昆虫はもっとすごい

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 丸山 宗利・養老 孟司・中瀬 悠太 、 出版 光文社未来ライブラリー
 ミツバチの大量死の有力な原因は、農薬、ネオニコチノイド。EUでは使用禁止になったのに、日本ではまだ。カメムシ対策だったはずが、ミツバチの大量死をもたらしている。
 同じくアキアカネ、いわゆる赤トンボも激減している。たしかにお盆過ぎると、どこからともなくやってきて、我が家の庭をよく飛んでいましたが、すっかり姿を消してしまいました。
 モンシロチョウも減りましたね。三浦半島のキャベツ畑と大根畑でも見ないのは、農薬を徹底させているからだろうとあります。
 失って初めて、その価値に気がつくのが人間。たとえばミツバチは、はちミツをとるだけの存在ではなくて、いろんな農作物の受(送)粉業者なので、いないとたくさんの人が困る。受粉するのをいちいち人の手でやっていたら、とてもじゃないけど、間尺にあわない。
 鳥と同じように、魚もあっという間に性転換する。
 アリは生まれてから時間のたっているアリは、危ない仕事を担う。後世を育てる仕事は、若い衆が担う。スズメバチも同じで、若いうちは巣の中で幼虫の育成などを担って働いているか、年歳(とし)をとるとだんだん外に出ていき、攻撃性も強くなっていく。
 鳥は死んだ昆虫を食べない。だから昆虫はじっと動かず、死んだふりをする。スズメは、冬、越冬するため、日本からインドネシアまで飛んでいって、越冬する。
 同じく、アサギマダラ(蝶)も、日本から台湾まで飛んで往復している。
アフリカのある地域では、プライド保持のために牛を飼っていて、牛は食べない。実用を求めて「ウシを何頭持っているか」こそが、人間の存在価値の何よりの証明。なので、飢饉になっても、決して牛を殺すことはない。食用にするために飼っているのではない。
 森の中にすむヨロイモグラゴキブリは、地中にトンネルをつくって、夫婦で生活している。子どもが生まれたら、自分たちでエサをあげて育てる。地上から落ち葉を引きずってきて、巣穴で一緒に食べる。10年ほど生きる個体もいる。
 集団で暮らすゴキブリが進化したのが、集団で巣をつくるシロアリ。オーストラリアには、マルゴキブリの一種に、子どもにお乳を飲ませるものがいる。
 シロアリの女王には、20年とか30年も生きるのがいる。そして何十年ものあいだ生殖のみに精を出す。
トンボの翅(はね)は、100分の3ミリの薄さなので、どんなに弱い風でもとらえて静止するように飛ぶことができる。
ハネカクシの翅は、何十回も細かく折りたたんだものを一瞬でパッと開くことが出来る。その収納効率は昆虫界でもっとも高く、仕組はもっとも精微。これを人工衛星のソーラー電池パネルのような、宇宙工学や機械工学の展開構造のデザインに生かしている。
小さな昆虫、果たして脳があるのかと思える昆虫なのに、こんなにしっかり生きているのですよね…。
(2023年8月刊。1100円)

チェ・ゲバラ

カテゴリー:キューバ

(霧山昴)
著者 ジョン・リー・アンダーソン 、 出版 みすず書房
 チェ・ゲバラは1967年10月8日、ボリビア陸軍の大軍に追い詰められ、負傷して捕虜となった。翌日、CIAの立ち会いのもと射殺された。遺体は両手を切り落とされた。本物であることを証明するための指紋が保存され、ホルマリン漬けにして隠された。チェ・ゲバラと6人の同志たちは、滑走路の下に埋められた。1997年7月に遺体が発見され、10月にキューバに運ばれた。30年間、チェ・ゲバラの遺体は行方不明だったのです。キューバでは25万人もの人々がチェ・ゲバラの追悼式に参列したとのこと。
 チェ・ゲバラは、アルゼンチン人で、母はスペイン貴族の血をひき、その父親は法学教授、下院議員、大使だった。チェ・ゲバラの父は母の家族から結婚に反対され、駆け落ちを演出した。
 チェ・ゲバラは幼いときから、ぜん息の持病をもっていたが、それは母親譲りのものだ。ぜん息のため、9歳になるまで学校に通えず、母親が家庭教師のように読み書きを教えた。
 小学校時代は、手に負えない、目立ちたがり屋だった。学校での成績は全体として優良。ブエノスアイレス大学医学部に入学した。
 1950年元旦、22歳のチェ・ゲバラはオートバイで一人旅に出かけた。
 1952年7月、アルゼンチンで、エビータ・ペロンが死んだ。
 1953年7月、医師で筋金入りの放浪者であるチェ・ゲバラは再び旅に出た。ボリビアから中央アメリカ、グアテマラ、ニカラグア…。そして、グアテマラで後に妻となるイルダと出会った。さらに、メキシコに入った。
 1955年7月、チェ・ゲバラはフィデル・カストロと出会った。28歳のカストロは熟練の政治人間で、自信にみちあふれていた。
 チェ・ゲバラは、自己の血筋の自覚からくる社会的自信と特権感覚をもって育った。上流階級の異端ではあるが、その一員だった。フィデル・カストロと共通するところは、大家族で可愛がられ、ひどく甘やかされ、自分の容姿に無頓着で、性的に貪欲。ともに鉄の意思と、思い上がった目的意識をもっていた。二人とも、革命の遂行を望んでいた。
当初、多くのキューバ人の反感を買ったのは、チェ・ゲバラの独善性だった。
 1956年12月、キューバでカストロたちの反乱軍は蜂起したが、たちまち鎮圧された。82人のうち、再結集したのは、わずか15人で、残された武器は9丁のみ。
チェ・ゲバラは山中で恐れ知らずで向こう見ずでさえあるゲリラ兵として頭角を現していた。
 山脈にいる武装戦闘員と平原の都会にいる同志との間で亀裂が生じていた。
 「ニューヨーク・タイムズ」の記者によるフィデル・カストロの会見記事が爆発的な反響を招いた。フィデル・カストロについて、キューバの支配者バティスタが共産主義者だと主張しても、CIAも政策担当者も、それを信用していなかった。
1957年12月、フィデル・カストロは戦争をマエストラ山脈から下界に拡大した。
 チェ・ゲバラが最優先したのは、メディア作戦。機関紙を印刷し、ラジオ放送を始めた。
 世界のマスコミがフィデル・カストロの前に行列をなした。
 フィデル・カストロはチェ・ゲバラ以外のあらゆる部下の判断や意思決定を信用しなかった。チェ・ゲバラは主な相談相手であり、実質的な参謀長であった。
 山中の革命軍(反乱軍)のなかの矛盾をどう処理したのか、考えさせられる状況も紹介されています。チェ・ゲバラの半生をよく知ることの出来る本だと思いました。
(2024年10月刊。5600円+税)

新プロジェクトX④

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 NHK新プロジェクトX制作班 、 出版 NHK出版新書
 電動アシスト自転車には、日頃から大変お世話になっています。私の事務所の下に自転車屋があったとき、その店主から「これはいいですよ。一度、乗ってみんですか」と誘われました。でも、たかが自転車、しかも何十万円もするのが気になって試乗はしませんでした。それから時期がたち、中古の電動アシスト自転車を安く譲ってくれるというので、その好意に甘えてもらい受け、乗ってみました。びっくりしました。裁判所までの坂道を、なんとすいすい軽々と登っていくではありませんか…。一回で気に入りました。なにより自転車なのがいいです。免許が必要ありません(自動車の免許は持っている私ですが、免許の有無を気にしなくていいのはやはり気軽です)。そして、自分でもペダルをこいでいますので、間違いなく自転車です。それに加勢してくれる心地良さが、うれしい。
 今や電動アシスト自転車は、一般の自転車を上回る年間80万台が販売されている。
この電動アシスト自転車を開発したのはオートバイで有名な浜松本社のヤマハ発動機。ちなみに、ライバルのホンダも創業の地は同じ浜松市。なぜ、なんでしょうか…。ヤマハは1位のホンダに続く、いつも2番目。
 ヤマハが秘密のうちに電動アシスト自転車を開発するとき、テスト走行したのは、茶畑の私道だった。ここなら、人目を気にせず自由にテスト走行ができる。しかし、問題がある。原付自転車なら既に存在している。しかし、それは免許が必要なので、誰でも気軽に乗って走行はできない。原付自転車なのか、自転車なのか…。
 人の力とモーターの力が1対1ならどうか…。モーターが先で人力が後ではダメ。人が先。人が力を加えると、モーターも一緒になって動いてお手伝いする。人力がなければモーターは回らない。あくまでも人が主役。
 では、国(運輸省と警察)がそれを認めてくれるのか…。テストがあったのは、1991年6月28日のこと。結果は…。
 「電動アシスト自転車は、自転車ではある」。ヤッターですね。
 ヤマハは特許を独占しないと決めた。これまた、すごいことですよね。
 1993年7月、ヤマハが売り出し、当初1000台を売りだしたら、たちまち3000台が売れた。そして、ヤマハは再び「2位」の座にある。でもでも、いいことをしましたよね、ヤマハって…。
 ほかにも紹介したいプロジェクトがありますが、私が実際利用している電動アシスト自転車の便利さが生まれる過程を紹介してくる話を優先しました。
(2025年3月刊。1155円)

3つの戦争

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ボブ・ウッドワード 、 出版 日本経済新聞出版
 トランプは絶え間なく演技をしている。トランプは勇ましくて、強い人間に見られることだけを気にしている。トランプは、自分がつきあうのは、ビジネス関連の人たちだけと高言する。トランプは忠誠心をものすごく重んじる。
 トランプの性格は、勝つこと、戦うこと、生き延びることに集中している。弱そうだと見られたら、付け狙われる。すべてがプレゼンテーションなのだ。自分の見せ方になる。
トランプが大統領選挙に敗北した2021年1月6日に、アメリカの国会議事堂に突入した人間は2千人を超える。そのうち5人が亡くなり、警官172人が負傷し、500人以上が逮捕された。トランプが支持者に対して「うちに帰れ」とツイートしたのは、3時間たってから。
 ロシアのプーチン大統領の主な性格は、怒りっぽい、不安感が極めて強い、サディスティックであること。
ロシアは4400発以上の核弾頭を備えている、世界最大の核兵器保有国。
 トランプはプーチンを偶像視していて、そのせいで、プーチンから極度に操られやすくなっている。アメリカの大統領として、これは致命的な欠陥だ。
 2020年のアメリカの大統領選挙において、トランプは7400万票を得た。これに対してバイデンは8100万票を獲得して当選した。
 プーチンのロシアがウクライナに侵攻したとき、ウクライナ全土を支配下に置き、ゼレンスキー大統領を抹殺し、首都キーウを占領するというのが、ロシアの戦争計画だった。
 ウクライナはアメリカのテキサス州とほぼ同じ面積で、ヨーロッパではロシアに次ぐ広さの国。人口は4400万人で、テキサスより1400万人も多い。
 プーチンは不安感と自信とが、コインの表と裏の関係にある。
 トランプは記者に対して、「プーチンは私を尊敬している。私もプーチンを尊敬している。プーチンは私を好きだと思う。私もたぶんプーチンが好きだ」。
 ロシア軍の部隊は、ベラルーシの国境地帯をまっすぐ通過してキーウの奪取を図り、ゼレンスキー大統領の政権を打ち倒して、親ロシア政府を樹立するだろう。
 ウクライナに侵攻してきたロシア軍の車輌部隊は食料と飲料水を3日分しか積んでいなかった。しかも、勝利を祝うパレード用の軍服を持参していた。
 ロシア軍将兵は、ウクライナに侵攻したら、すぐに勝敗がついて、勝利のパレードをする計画だったというのです。ええっ、ま、まさか…。
 ロシア軍はトップダウンで、動く仕組みになっている。佐官級の現場指揮官には自発的に行動する権限がない。ロシア軍は、戦場に順応して即興で行動することはなかった。
2022年当時、ロシアは戦術核兵器をアメリカの10倍、2000発も保有していた。現在の核兵器には、ひとりで使用できるような小型の弾頭もあれば、潜水艦、爆撃機、ICBMで投入しなければならないような大型のものまできわめて種類が多い。
 ウクライナは、1ヶ月間に10万発前後の砲弾を消費した。1日3000発になる。それをまかなうだけの在庫は、さすがのアメリカでも持っていない。2023年6月、ウクライナ軍は、1日に最大1万発の155ミリ砲弾をつかっていた。
 トランプほど、どこの国にとっても危険な人物は、いまだかつていなかった。ホント、まったくそのとおりです。
 10月7日のハマスによるイスラエルへの攻撃は驚きだった。
 アメリカはイスラエルに対して、毎年30億ドル以上の軍事支援をし、国防総省はイスラエルの周辺5.6ヶ所に兵器と弾薬を備蓄している。
 ハマスは概念だ。概念を滅ぼすことはできない。
 トランプは、アメリカを何度も戦争の瀬戸際に押しやった。トランプの主張は、例によってとんでもない誇張、誤った考え、ウソを混ぜあわせたものだった。さかんに相手方を攻撃したが、それは活気があり、堂々としているという印象(イメージ)を与えた。トランプは大統領として不適切な人物であるだけでなく、国を率いるのに適していない。トランプは犯罪者だったニクソン大統領よりもずっとひどい。
 トランプは恐怖と怒りによって統治する。そのうえ、大衆と国益に無関心。トランプはアメリカ史上最悪の無謀で衝撃的な大統領である。
 ああ、それなのに、トランプはアメリカの大統領なんですよね…。
(2025年2月刊。2750円)

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