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2025年5月 の投稿

消された水汚染

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 諸永 裕司 、 出版 平凡社新書
 今やPFAS(ピーファス)として有名になった汚染物質を追跡した新書です。
 フライパンにテフロン加工すると、サビつかないというので、大流行しました。防水スプレー、泡消火剤そして半導体で使われました。それが、今では発がん性のある有害・有毒物質として、この世の嫌われものなのです。ところが、当局は、その危険性をずっと覆い隠してきました。
 アメリカ映画「ブラック・ウォーター」は実話にもとづくアメリカ人弁護士が活躍するストーリー展開です。もう20年も前の話ですから、すっかり解決されているかと思うと、おっとどっこい、日本ではまさに現在進行形の怖い話なのです。
 東京は多摩地区で深刻なPFAS濃度が検出され、多くの井戸水が使用禁止とされました。その原因は横田にあるアメリカ軍基地です。大量に使われた泡消火剤にPFASが使用されていたのです。ところが、東京都はそのPFASによる汚染データをもっているのに公表せず、隠していました。著者は、「えげつない」と非難していますが、まったく同感です。汚染データを公表したら人心の動揺(パニック)を生じるからという理由です。とんでもありません。真実はきちんと住民に知らせて、ともに解決法を考えていく必要があります。
 横田基地で、大量のジェット燃料が漏れ出たとき、泡消火剤が大量に使用されたのでした。その量はなんと3千リットルというのですから半端な数字ではありません。東京都はそれを知っても公表せず、またアメリカ軍基地への立ち入り調査もしていないのです。
 日米地位協定によって、アメリカ軍は日本国内で好き勝手なことをし続けています。日本政府は、いつだってへっぴり腰で、アメリカにモノ申すことが出来ません。
 それは沖縄でも同じことです。日本政府は日本国民の生命・健康を守ろうとしていません。そして、アメリカ軍は、日本人のことを何とも思っていません。性犯罪の横行もそれを意味しています。
 日本政府が駐留米軍のために「思いやり予算」を支出しているのは、今ではかなり広く知られています。でも、アメリカ軍が個人を含めて日本側に損害を与えて賠償しなければいけないとき、それを実際にしているのは日本政府なのです。アメリカ軍に分担請求もしません。その金額220億円をアメリカに支払うべきなのに、知らん顔をしたままです。情けない話です。
アメリカに日本は守ってもらっていると信じ込んでいる日本人が今なお、なんと多いことでしょうか。当のアメリカ軍人のトップは、日本を守るのは自分たちの仕事(役目)ではないと、何回も高言しているにもかかわらず…。それにしても、飲み水の安全性をもっと重視したいものです。日本政府も自治体も早くなんとかしてください。
(2022年1月刊。980円+税)

イスラエルの自滅

カテゴリー:中近東

(霧山昴)
著者 宮田 律 、 出版 光文社新書
 剣によって立つ者、必ず剣によって倒される。これは聖書(マタイによる福音書)の言葉ですが、アフガニスタンで活動していた中村哲医師がよく紹介していたそうです。
イスラエルのネタニヤフ首相によるガザ地区への軍事侵攻がまだ続いていますが、必ずやこの言葉どおりになるものと私も思います。しかし、ともかく一刻も早く、イスラエルは軍事侵攻をやめて撤退すべきです。
イスラエルの国内も、この軍事侵攻によって経済などは大変なようです。そして、軍事侵攻に反対する声も大きくなっているけれど、まだまだネタニヤフ失脚とはならないようなのが残念です。
 国際刑事裁判所(ICC)はガザでの戦争で多数の罪なき市民を殺害したことによりネタニヤフ首相に対して戦争犯罪として逮捕状を発行している。そして、国際司法裁判所(ICJ)も、イスラエルの占領や占領地での入植地拡大を国際法違反であると判断している。このどちらの裁判所も日本人の裁判官が所長として重要な役割を果たしていますが、肝心の日本政府は知らぬ顔をしたままで、ここでもアメリカ政府に追随するばかりです。本当に情けないです。
 岸田前首相も石破首相も沈黙しています。そして、ウクライナからの避難民は多少受け入れても、ガザからのパレスチナ避難民の受け入れはゼロなのです。ひどすぎます。
 2023年10月7日のハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃について、イスラエルの軍と諜報機関は事前につかんでいたが、ハマスにそんなことは出来るはずがないと判断して、何の対策もとらなかった。ハマスを甘く見過ぎていたということですね。
 この本を読んで残念なのは、イスラエル国内で、ガザへの軍事侵攻に反対する声は強まっているものの、世論は全体として右翼的になっていて、これまで和平を追求してきたイスラエル左翼が「絶滅」状態にあるということです。
 現在のイスラエルでは、「ピース、キャンプ」と呼ばれる平和主義のグループが政治や社会を主導するような可能性はほとんど感じられない。
イスラエルはガザのハマスも、そしてレバノンのヒズボラも軍事力によって根絶することは不可能。
イスラエルは、ガザ戦争によって25万人の国民が避難を余儀なくされ、36万人の予備役兵が召集されたため、イスラエル経済は停滞している。
イスラエルの建設業が不振に陥ったのは、ガザ戦争のためヨルダン川西岸やガザからパレスチナ人労働者を調達できなくなったことが大きい。建設業の低迷によって、経済全体が19%も落ち込んだ。食料自給に関わるイスラエルの農業も危機的状態にある。
 イスラエルを訪問する外国人観光客も大幅に減少している。この分野でもイスラエル経済は打撃を受けている。そして、イスラエル人観光客は世界中で拒否されている。
50万人のイスラエル人が国外に流出し、イスラエルに移住してくるユダヤ人は減少している。
イスラエルの総人口は東京都の人工より少なく、1000万人未満。
日本政府は、アメリカに追随することなく、イスラエルに対してガザ戦争を止めるよう、はっきり求めるべきです。
 (2025年1月刊。940円+税)

ブラック企業戦記

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 ブラック企業被害対策弁護団 、 出版 角川新書
 昔ながらのタコ部屋のようなところに寝泊まりしながら働かされていたという人の訴えを私も聞いたことがあります。なんですぐに逃げなかったのかと尋ねると、ともかく怖かった、自分が逃げたら新兄弟にどんな仕返しされるか分からないし…、という話でした。経営者は本物のヤクザだったようです。
 この本では、一見するとまともな会社なのですが、会社のなかはひどくて、まるで治外法権の無法地帯。社長は、オレが王様なんだから、従業員はみんなオレの言うとおり奴隷になって働け、そんな会社と社長がフツーに登場します。
この本のオビには、こう書かれています。日本中に存在する、驚きの無法地帯。会議で社長がハグを強要。上司が若手社員を丸刈りに。0泊4日の寝させない新人研修。
いやはや、驚くばかりのトンデモ会社(ブラック企業)がこんなにもあるんですね…。
 しかも、弁護士が本人(労働者)と一緒に闘い、それなりの成果をあげて解決したあと、その会社は、今も存続しているというケースがいくつも紹介されています。ということは、今も新しい被害者が生まれているだろうということです。
ともかく、無理なガマンなんかせずに、この最強の弁護団をふくめて、周囲にSOSを発信して、動き出すことが大切だと、つくづく思います。ノイローゼが昂(こう)じてうつ病になり、自殺を図るなんて、最悪の事態は、なんとしても避けましょう。
 ハローワーク、そしてインターネットの求人広告に書かれている労働条件はウソだらけ…。ホント、多いんですよね、この手の話は…。
ブラック企業の経営者には3つのタイプがある。その一は、違法だと自覚したうえで、もうけのためには手段を選ばないという者。その二は、社長は万能だと勘違いしている者。中小企業のワンマン社長に多い。その三は、違法なのかどうか考えない、気にしないノーテンキな者。
労働者がブラック企業と闘うとき、もちろん主張を裏付ける証拠があったら、断然、有利になる。そのとき有効なのは録音。自分の身を守るためなのだから、相手の同意なんか必要ない。しっかり録音しておき、それを文字起こし(録音反訳)する。
事実に反する反省文を書かされることがある。もちろん、書かないほうがよい。でも、書いてしまっても、決して挽回できないわけじゃない。書かされた内容が違うというのをより詳しくして反撃したら、裁判所も「反省文」を無効にしてくれることがある。要は簡単にあきらめてはいけない、ということ。
 「我々の業界では、どこも労働基準法は適用されていない。我が社のような中小企業に労働基準法が適用されたら、我が社はつぶれてしまう」。社長が堂々と、こんなことを言って「反論(弁解)」する。でも、そんなものは適用しないのです。
 不当解雇の話もありますが、なかなか辞めさせてくれないというケースもあります。そこで退職届出を代行する「便利屋」が登場します。しかし、退職条件をめぐって会社と交渉するまで行ったら、それは明らかに弁護士法に違反するものです。
 「うちの会社では、残業は承認制。だから、承認していないので、残業代なんか支払いません」。これは法の無知を告白しているに過ぎません。残業代を請求するときには、会社の黙示の承認があれば十分なのです。「承認」の有無は関係ありません。
このブラック企業被害対策弁護団には福岡の弁護士も入っていて、木戸美保子、前田牧、光永享央、星野圭弁護士も執筆しています。たのもしいです。すばらしいことです。
 本当は、こんな新書なんて必要ない社会でありたいものですが、そんなことは言ってられないのが現実です。今、若い人に広く読まれてほしい新書です。私も心から応援しています。
(2024年12月刊。1060円+税)

最高裁判所と憲法

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 泉 徳治 、 出版 岩波書店
 とても常識的で、まともな指摘が満載の本です。最高裁判決の間違いをズバリズバリいくつも指摘しています。ホント、そうなんだよな、つくづくそう思いました。
 たとえば、弁護士にとって、身近な話である、警察署の面会室で、弁護士がアクリル板ごしに被疑者を撮影したからといって、庁舎内の規律・秩序・安全が脅かされ、逃亡、または罪証隠滅の恐れが生じるというようなことはありえない。著者はこのように断言しています。まったくその通りです。
 弁護人が撮影した写真を利用して逃亡や罪証隠滅にあたる行為をする恐れがあると言っているに等しい判決は、憲法で認めている弁護人依頼権、接見交通権それ自体を否定するに等しい議論だ。そのとおりだと私も思います。
 面接室内での弁護人による写真撮影禁止の根拠は法務省矯正局長通達があるだけ。法律ならともかく、行政内部の通達で憲法34条前段で保障された写真撮影権を制限することは、法律の留保原則にも反している。そのとおりです。精一杯、拍手します。
 また、著者は、憲法34条前段の解釈として、逮捕段階から被疑者の国選弁護人選任請求権が認められるとしたうえで、さらに、捜査機関の被疑者取調べに対する弁護人の立会権も認められると解すべきだとしています。
 著者は、このような見解の根拠として国連の自由権規約14条3項には、弁護人立会権も明記されていることをあげています。そして、結論として、社会経済活動におけるグローバル化が進んでいる今日、刑事手続も国際水準に近づけるべきだと強調しています。
 そこで、こんなことを言っている著者はいったい何者なのかというと、すごい経歴なのです。最高裁の調査官、民事・行政局長、人事局長、事務総長を歴任したうえで、最高裁の裁判官を6年2ヶ月つとめています。まさしくミスター最高裁とも言える当局サイドの人なのです。
 しかし、著者の論理展開はあくまで常識的であり、穏当そのものです。
 最高裁判決の誤りとして真っ先にあげられているのは、1978(昭和53)年10月4日のマクリーン判決(大法廷判決)です。この判決では、法務大臣は憲法の拘束を受けずに外国人に対する退去強制関係の処分を行うことが出来るとされているけれども、国の行政は憲法の枠内で執行すべきものなのだから、法務大臣が退去強制関係の処分を行うについても、憲法による拘束を受けるものである。したがってマクリーン判決は明らかに間違っている。まことに論旨明解です。
さらに、入国者収容所長等が入管法に基づき行う身体に対する強制力の行使について、東京地裁は、自由権規約は所長の裁量権を制約しないと判示したが、これはマクリーン判決の誤った判示を、マクリーン判決も触れていない身体に対する強制力の行使にまで及ぼすもので、二重の誤りを犯すものだと厳しく指摘しています。
マクリーン判決の誤りの影響下にある裁判実務を指摘し、それを払拭するには、弁護士も裁判官も、もっと条約のことを勉強する必要があると著者は繰り返し強調するのです。
 ところで、日本でもヨーロッパ人権裁判所の判例を積極的に引用した判決がいくつかあるそうです。都議会議員選挙の定数が人口比例原則に応じていないことについての最高裁令和4年10月31日判決についても著者は誤っていると断じています。定数是正は議会にはまかせられない、それを是正するのは裁判所の果たすべき役割だとしています。これまた、まことにもっともだと思います。
 著者は神田の古本屋街をよく歩いているようですが、そのなかで司法関係者の随筆を埋もれたなかから掘り出して、本書でコラムとして紹介しているのも興味深いものがあります。
一番驚いたのは三ヶ月章の親友で特攻隊員として戦死した人に捧げた追悼本です。数冊しか製本したうちの1冊を入手したのでした。すごいことです。また、最高裁ウィスキー党物語と題するコラムは、かつての古き良き時代を感じました。私の50年前の司法修習生のころにも、裁判官室の机にウィスキー瓶が入っているという話はよく聞いていました。検察修習のときは、夕方の閉庁時間になる前から修習室で検察教官を含めて酒盛りが始まっていました。今では、もちろん考えられません。
 著者からありがたくも贈呈を受けましたので、早速、机の上に置いて読みはじめて、書面作成のあいまに数日かけて読了しました。大変勉強になった刺激的な本です。ありがとうございます。
(2025年4月刊。5800円+税)

人類の祖先に会いに行く

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 グイド・バルブイアーニ 、 出版 河出書房新社
 この本の初めにネアンデルタール人などの顔が復元されています。いるよね、今も、こんな顔の人が…、ついそう思ってしまいました。
 しっぽなしに直立して歩くのは人類の専売特許だ。
 でも、チンパンジーが二本足で歩行している映像を見たように思いますが…。
四本足の動物は、脊椎は地面と水平なアーチ状になっていて、そこに内臓や胸部がぶら下がっている。なので、直立姿勢の獲得にともなって、胸部の重みが体の前面にかかるようになる。
お尻の筋肉がしかるべく収まるように、骨盤が変形・収縮したが、そのせいで、人類の出産はゴリラやチンパンジーとくらべて難事業となった。つまり、直立歩行に移行するため、ヒトは高い代償を支払った。
 トゥルカナ湖は、東部アフリカの大地溝帯に位置している。そこで発見されたトゥルカナ・ボーイは頭蓋の容積が880㏄もある(現代人は1400㏄)。脳の容積が拡大し、手を使うようになっている。年齢は11歳前後、骨盤が縮小しているから、半・樹上生活から、完全に地上生活に移行していたとみられる。
女性が毛の少ない男性を好むようになる過程と、より優れた汗腺を発達させるために毛を失う傾向は、同時併行して進んだ。
 ネアンデルタール人の化石には、相当な数の骨折の痕跡が認められる。傷を負うのは日常茶飯事だったということ。ええっ、これは知りませんでした。
中央ヨーロッパと西アジアに生息していたネアンデルタール人は、最多でも7万人は超えなかった。
 ネアンデルタール人が食べていたのは、主として肉、ほとんど肉だけだった。
ネアンデルタール人は、貝殻や鳥の羽で体を飾っていた。
私たちヒトは、アフリカに起源をもつ。化石も、考古学的な発掘物も、みな、そのように伝えている。人類、みな兄弟、というのは、実は本当のことなんですよね。それを知ったら、肌や髪の毛の色で差別するなんて、とんでもないことだということです。
(2024年10月刊。2250円)
 休日、午後から梅の実をもぎとりました。高いところは脚立を立て、それでも手の届かないところは叩いて落とします。今年は豊作でバケツに2杯分とれました。
 昨年は全然でした。波があります。
 今、庭には黄ショウブが一面に咲いて見事です。フェンスには紅白のクレマチスも咲いてくれています。
 今年はアスパラガスはダメでした。ジャガイモが花を咲かしていますので、やがて収穫できるでしょう。ブルーベリーの花も咲いています。五月の青葉を吹く風は心地良いです。

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