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2025年4月 の投稿

ルポ軍事優先社会

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 吉田 敏浩 、 出版 岩波新書
 いま、日本は急速に戦争する国、出来る国に向かっています。大軍拡の予算は5年間で43兆円というのですが、実はそれではすみそうもありません。これは、福祉や教育など、私たちの毎日の生活を支える予算を切り捨てていくことに直結しています。
 ところが、この大軍拡予算に賛成しながら「手取りを増やす」という耳ざわりの良いキャッチフレーズで支持を急増させた政党があります。不倫騒動でしばらく活動を制限されていた代表は、今や30代、40代の男性に抜群の人気だそうです。こんなの明らかに間違いです。まさしく誤った「印象操作」そのものです。
 軍事費の増大は、防衛産業と呼ばれる軍需(兵器)産業に莫大な利益をもたらす。業界は、「ミサイル特需」ともいわれるブームに沸き立っている。武器輸出も促進されているので、日本もアメリカと同じく「死の商人」国家に変質しようとしている。
 軍事費の膨張は、アメリカ製兵器の「爆買い」による兵器ローンの増大を伴う。
 右肩上がりの軍事費増のしわよせは、増税や社会保障費の抑制・削減など、国民負担の増大をもたらす。軍事予算大増強のもとでは、憲法が保障する生存権・社会保障は圧迫、侵害されるばかり。
 日本社会、私たち国民は、いま、「ミサイルか、ケアの充実か」の選択を問われている。
 大分に敷戸(しきど)弾薬庫がある。JR大分駅から南6キロで、周囲は住宅街で大学・小学校、病院そして商業施設などもある。ここに大型弾薬庫が増設されようとしている。
 防衛費(軍事費)の弾薬庫整備費は2千億円台だったのが、2023年度は一挙に8千億円をこし、2024年度は9千億円が計上された。
 全国1400棟の弾薬庫を10年間で130棟も増やす。敷戸弾薬庫は、地中トンネル式。長射程距離ミサイルは2000~3000キロの射程なので、中国本土が十分に狙える。なので、この長射程ミサイルは専守防衛に徹する装備ではなく、先制攻撃に使える。
自衛隊は島を守るというけれど、その守る対象は領土・領海であって、住民ではない。
 台湾有事に巻き込まれたとき、自衛隊に住民を避難させる余力はない。これは自衛隊幹部のコメント。自衛隊は、米軍の後方支援を最優する。政府は台湾有事のとき、先島諸島の住民12万人を九州・山口に避難させるという。しかし、それだけの飛行機や船を本当に確保できるのか、病人や要介護の老人はどうするのか、机上の空論ではないのか…。
自衛隊は司令部を地下にするという。住民を放っておいて自衛隊だけ助かろうとしている。
 富古島には、既に多機能型感染患者搬送袋が備蓄されている。遺体収容袋だ。
アメリカ追随の軍事一辺倒では、国の進路を誤る。
 いま、日本の自衛隊は慢性的な人員不足の問題をかかえている。兵士(士)の充足率は68%でしかない。新規模採用は募集計画の50%超にとどまっている。そのうえ、中途退職者が増えている。この十数年間で倍増した。そのため、自衛隊は適齢者情報を地方自治体から得て募集をかけている。
 日本の軍需産業の三大手企業は、三菱重工、三菱重機と、IHI。武器の共同開発といっても、結局のところ、資金力も技術力も武器輸出の実績もまさる巨大なアメリカの軍需産業の主導下に日本企業は組み込まれるだろう。それは、アメリカの軍産業複合体に従属し、その国際的な武器輸出ネットワークに組み込まれることを意味する。そして、防衛省、自衛隊の幹部の定年後の務める先は、三菱重工(20人)、IHI(20人)、三菱重機に38人。そして、三菱重工から自民党へ過去10年間に3億3千万円の政治献金があったという。
 嫌ですよね、軍人が威張っている世の中なんて…。
                        (2025年2月刊。960円+税)

対馬の海に沈む

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 窪田 新之助 、 出版 集英社
 私も昔からJAを利用していて、共済にも加入しています。
 JA共済連の総資産は57兆6870億円。これは日本の国家予算の半分ほどの額。保有契約高は224兆3355億円で、世界でも指折の規模。新契約高は13兆2383億円で、日本でトップクラス。JA共済の商品は、日本生命に次いで二番手。
 JAの共済事業を扱うライフアドバイザーをLAという。全国のJAの職員は19万人。そのうちLAは2万人。LAには毎年1回、「LAの甲子園」がある。
 この本の主人公(西山)は、LAとしてずっと「優績表彰」を受けてきた。対馬は人口3万人超で、1万5千世帯。ところが、西山1人で、2千超の世帯、4千人の共済契約を結んだという。人口の1割ほどになる。
 それで、西山は、500万円超の基本給のほか、歩合給は3285万円となり、合計すると4千万円近い。これはJA対馬の組合長の年収572万円の8倍近い。
 どうして、そんなことが可能なのか…。西山は、2019年に、44歳の若さで自死。その死後、西山の不正が調査され、22億円超の不正が判明した。どうして小さな島で、そんな巨額の不正が可能だったのか…。
対馬の漁業の産出額は1981年に356億円だったのが、2020年には105億円、3分の1以下になった。同じく林業も1990年の32億円が2021年は14億円と、大幅に減少。対馬を観光する人は増えていて、2011年に4万7千人だったのが、2018年には41万人になった。
 西山の不正の手段の一つが、台風による被害補償。西山のパソコンには罹災した個所を撮影した写真が3万9千枚も保存されていた。実際には、台風で被災していないのに被災したように申請するための証拠写真として使われた。これだけの枚数の写真があれば、被災箇所の証明は簡単だ。建物更生共済(建更)は台風による被災であれば間違いなく保険金が出る。
 実際には被害はないのに、あるようにして申請する。10万円しか出ないはずのものが50万円も出るようにする。これらの内部的な申請書類の作成は、すべて西山がひとりでやる。
 客は西山に通帳もハンコも預けている。西山が共済事業でめざましい実績をあげたのは顧客と一種の共犯環境にあったから。
 西山はJA対馬の支店の中に西山軍団をつくり、日頃から地盤の養成・維持に心を砕いた。福岡まで一緒に飲みにくり出す。1人10万円を「ポケットマネー」で配る。
 漁業、林業が低迷しているなか、経営が安定していると人々がみているのは、市役所と九電そして農協(JA対馬)しかいない。
 西山は台風被災を捏造(ねつぞう)して、多額の共済金を詐取し、それを財源として宝飾品やスーツなどを次々に買い求めていった。高価な時計もかなり買っていた。
 JA対馬のなかでも西山を疑惑の眼で見ていた職員はいた。しかし、そんな人は、取りあってもらえなかった。
西山は新しく造成された土地を5区画も購入した。そこに賃貸住宅を建てるという。賃料だけで160万円の収入が見込まれる。そのほか、コンビニやスポーツジムを開設するつもりでもいた。
 西山はLAとして、人あたりが良く、対応が迅速、悩みごとは何でも聞いてくれるといって評判が高かった。
 JA対馬のなかに西山軍団をつくって、周囲と「共犯関係」のなかで不正な活動をすすめていた。しかし、その結果として西山が全国有数の成果をあげると、組合長も、その恩恵を蒙った。
 ところが、西山の不正に加担したくない人、それを恥じる人が出てきて、今度は西山が追い落とされる番になった。
 JA共済の不正の手口を具体的に明らかにした本です。死んだ西山ひとりでは出来るものではないことも、よくよく理解できました。大変な労作だと思います。
(2025年4月刊。2100円+税)

ルポ台湾黒社会とトクリュウ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 花田 庚彦 、 出版 幻冬舎新書
 毎日毎日、特殊詐欺の被害にあって大金を盗られてしまったという報道に接して、嫌になります。しかも、このところ多いのは、かつての市役所に代わって、警察と弁護士です。ホンモノの警察署の電話番号が表示されるといいますから、本当に手が込んでいます。
 そして騙すほうは、先日、カンボジアで何百人も捕まったなかに日本の高校生もいたというニュースがありました。うまい話、お金になるアルバイトがあるというエサにつられてカンボジアまで行って、詐欺の電話をかけさせられていたようです。
 この本は、そんなサギ集団の黒幕に台湾黒社会がいることを明らかにしています。この本を読んで初めて国際的な大がかりな犯罪集団なんだということを自覚しました。
月40万円とか50万円の固定給で、これに成果の3~5%という歩合給が加算される。月に100万円、200万円も十分ありうる。
 ネットの求人広告に応募すると、台湾に渡り、朝9時から夜7時まで、目の前の台本(シナリオ)を見ながら電話をかける。週に2日はお休み。週に1回、2時間ほどの反省会がある。初めの3ヶ月間は見習いで、ボーナスはなし。
 部屋は2.3人の相部屋。外出禁止で、ケータイは取りあげられ、電話で週に1回だけ家族と話せるけれど、友人とは話せない。
 「宮崎県警の捜査2課の○○です…」と話しはじめる。
 この本によると、オレオレ詐欺の大体は、台湾の詐欺集団が本土の中国人を騙したことにあるとのこと。そうなんですか…。日本人だけが狙われているのかと思っていました。中国本土から騙しとったお金は1兆円をこすとのこと。
 メールを1000通ほど送って、2~3人ひっかかったら、収支は完全にプラス。黒社会のトップの収入は青天井。本当に怖い世の中です。
 日本人は一般に相手を信じやすく、詐欺に対する警戒心が薄いので、騙しやすい。なーるほど、それはそうなんですよね…。残念ながら、あたっていると思います。
騙す側の台湾黒社会は、日本の暴力団と深い、密接な交流がある。
 日本の若者がうまい金もうけのバイトと思ってとびつくと、実はパスポートを取りあげられ、家族を含めて個人情報を全部握られ、コトバも通じないところで缶詰め。そして、万一発覚したときには、必ず実刑になってしまう。これは100万円でも200万円でも同じこと。命とひきかえの怖い話だと肝に銘じなければいけない。そうなんですよね。
(2025年3月刊。920円+税)

アメリカ・イン・ジャパン

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 吉見 俊哉、 出版 岩波新書
 ハーバード大学にも教養学部があるそうです。その東アジア言語文明学科で著者が2018年に講義した内容が再現されています。この新書のはしがきにおいて、著者は2度目のトランプ大統領について、次のように書いています。
 2024年11月のアメリカ大統領選挙で明らかになったのは、アメリカ人の平衡感覚の喪失が、トランプ自身によるものという以上に、すでにアメリカ社会の内部崩壊が深く進行していることの現れであり、もはやこの内部崩壊は、長期的に回復不可能であろうと思われる。
カマラ・ハリス大統領候補は、彼女なりのベストの戦いぶりを見せていたように思えた。しかし、より多くのアメリカ国民が、おそらくは自己利益だけのためにトランプ大統領の再選を選んだ。
 これは間違いなく、アメリカの「自由」のある本質だ。つまり、アメリカの「自由」の歴史とは、一面で、先住民の徹底した排除と殺戮、所有権の絶対化と金銭万能主義、根本的な人種差別主義と暴力主義と市場主義を「明白なる運命」として、東部諸州から西部へ、さらには太平洋から全世界へと拡張させてきた歴史である。
うむむ、なるほど、なるほど、そうだったんですね。アメリカの「自由」と「民主主義」は、もう一つ別の側面があるというわけです。
 アメリカ人の「西部開拓」は、実は先住民を絶滅に追いやる殺戮の過程だった。それは「開拓」ではなく、まさしく「侵略」だった。しかし、アメリカ人の多くは、今も自分たちの国が「侵略」の産物だということを認めたがらない。
 1848年、カリフォルニアには15万人の先住民が生活していたが、10年後の1860年には3万人にまで減っていた。
 江戸時代の末に日本に来たペリーは、日本について、次のように結論した。
この国では、それぞれの組織が相互監視を徹底させ、失敗を許さない仕組みを発達させており、内部からの変化はきわめて起こりにくい。なーるほど、これって昔も今も変わりませんね。
 日本人はきわめて勤勉かつ器用な民族であり、製造業の中には他国の追随を許さないほど、優れたものがある。
 日本人は外国から持ち込まれた目新しいものを素早く調べて、その製造技術をすぐに自分のものにし、非常に巧みに、また精緻に同じものを作り出す才能を有している。
 いやあ、これまた戦後の日本について語られているかのように感じてしまいます。
 ペリーと交渉した日本側も、いずれも実に大胆な演技を白々と演じていた。すごいですね、見事に日米双方とも演技していたことを見破っています。
当時の日本人の対米認識には、強大な他者に恐れおののく心性と、その他者についてのそれなりに正確な観察が併存していた。
アメリカに留学した内村鑑三が見たものは、アメリカ社会の拝金主義、そして差別だらけの現実と混乱、狂気と刑務所、膨大な貧困層だった。
よくも日本とアメリカの違いを深く掘り下げていると感嘆しながら、ゼミ生になった気分で読みすすめました。
(2025年1月刊。1166円)

マンガ認知症

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 ニコ・ニコルソン、佐藤 眞一 、 出版 ちくま新書
 ずいぶん前のことですが、叔母が認知症になりました。子どものいない叔母でしたので、イトコが養子になって同居して面倒をみるようになりました。ところが、叔母は、イトコが「お金を盗った」と騒ぎ始めたのです。イトコが叔母のお金を盗るはずはありませんし、盗る必要なんかないのです。そうか、認知症の物盗られ妄想って、こんな状況を言うんだなと思い当たりました。
 弁護士として、遺産相続のときに、故人の物盗られ妄想を信じている相続人が真顔で主張するというケースを扱いました。身近な人は真実が分かっても、遠くの人には妄想が真実に見えてしまうという厄介な状況でした。
 いったい、認知症の人の物盗られ妄想はなぜ起きるのか、不思議でした。
そもそも認知症とは、①なんらかの脳の疾患によって、①認知機能が障害され、②それによって生活機能が障害されているという三つがそろったときの症状だ。認知症は症状であって、そんな病気があるわけではない。
認知症の予備軍をふくめると、今の日本には1000万人いるとみられている。
認知症の診断はとても難しい。老化による物忘れは認知症ではない。
記憶検査のとき、ヒントを与えられて答えることが出来たら、認知症ではないので運転免許の更新は認められる。
 さて、物盗られ妄想は、なぜ起きる…。自分がお金を置いた場所を忘れてしまう。でも、自分のせいだとは認めたくない。その結果、自分を納得させるための虚偽の記憶をつくってしまう。事実と創造の区別が出来なくなり、身近な人に疑いをかけてしまう。
 人間は、自分が忘れたとか失敗したとか、自己否定につながることは、素直に認められないもの。自己防衛で、嘘の記憶をつくってしまう。「作話(さくわ)」だ。
認知症の人は、基本的に孤独の中で生きている。周囲の人と心を通わせるのが難しくなっていくので、不安や恐怖で一杯になった結果、自己防衛でするしかないと思うようになってしまう。
その対策3ヶ条。①「お金は大事だよね」と同意しつつ、探すように促す。②介護者が疑われないよう、本人に見つけてもらう。③あまりに興奮しているときは声をかけず、鎮まるまで距離をとる。いやあ、これって実に難しいですよね…。
認知症になると、他人(ひと)の心を察する力も失われていくので、なかなか真心は伝わらない。
 認知症の人が同じことを何度も訊いてくるのは…。覚えられず、分からないままで不安だから。訊いたら、教えてもらって安心できるから…。「さっきも訊いたでは」と返すのは避けたほうがよい。
アルツハイマー型認知症だと、もっとも覚えにくいのは、数分から10分ほど前の記憶。
 私は毎朝フランス語の聞き取りをしていますが、わずか1分半ほどの文章を暗記できません。本当に困っています。中学2年生のとき、英語の教科書を1章丸ごと暗記して教師にほめられたことを今でも覚えていますが、そんな芸当は今や無理なんです。
 認知症の人は、本来の展望ができなくなっている。計画を覚え、思い出すことが難しい。認知症の人が同じものを大量に買ってしまうのは、「あれ買ったかな?」という不安感から、買っておいたほうがいいとの判断にもとづく行動と考えられる。
認知症の人が突然に怒り出すのは、脳の前頭葉が委縮するという脳機能の問題と、自分のプライドを守るために他者を攻撃してしまう、という心理的な問題から生じている。
 夕暮れ症候群。夕方になると、「家に帰りたい」という人がいる。これは朝から活動してきた脳が疲れてしまうことによるもの。
 認知症の人は昔の記憶はよく覚えているので、そこから会話を始める。自慢を聞いたり、懐かしい童謡を一緒に歌ったりする。
認知症の人は、子どもと同じように、その場その場しか考えていない。今にしか生きていない。
 認知症の人は、鏡にうつっているのが自分だと分からず、他人だと思って話しかける。
 体験にもとづいた展開ですし、マンガもあって、とても分かりやすい本でした。あなたに一読を強くおすすめします。
(2022年3月刊。880円+税)

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