法律相談センター検索 弁護士検索
2025年2月 の投稿

うんこの世界

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 アダム・ハート 、 出版 晶文社
 子どもたちに大人気の「うんこドリル」の類の本ではありません。腸内細菌と健康について真面目に研究成果を紹介している本です。
うんこの固形物の3分の1、最大60%が細菌。
炎症性腸疾患(IBD)は増加傾向にある。
石鹸で手を洗えば下痢性疾患を40%も減らせる可能性がある。
細菌性胃腸炎は、たいてい、感染してから症状が現れるまでに1日ほどかかる。
衛生の観点から最善なのはペーパータオル。
目下の大問題は、最近の進化を通じた抗生物質耐性の獲得。
ピロリ菌は、40~50%の人の胃で見つかる。たいてい、子どものころに獲得している。そして、ピロリ菌の保菌者のうち、潰瘍を発症する人は10~15%ほどにすぎない。
 小腸は科学的消化と吸収を担っている。ここはとくに細菌のたまり場というわけではない。小腸にいる細菌数は1ミリリットルあたり1万個もいない。小腸にいる細菌が増えすぎると、栄養の吸収がうまくいかなくなり、問題を引き起こす。
 大腸は小腸の3倍の幅があり、消化系の最後の部分。大腸の役割は、水分を吸収し、残ったものをきれいに整ったうんこにまとめることにある。
 腸内の最近は消化を助けてくれる。たとえば、人間に吸収できるブドウ糖などの単糖に分解してくれる。また、粘液でよくみられる複雑な分岐構造をもつ炭水化物も分解できる。最終生成物としてブドウ糖ができれば、細胞はすぐにそれを利用できるので、人間にとってはありがたい。
 腸内細菌の消化活動の大部分は、糖分解発酵と呼ばれるプロセスにより、さまざまな種類の炭水化物を短鎖脂肪酸に変換することに関係している。
 ビタミンは、ごく微量でも体の機能に欠かせない働きをする重要な物質。しかし、人間は体内でビタミンを生成することはできない。ところが腸内細菌が、ビタミンをつくってくれる。
細菌は、食物に含まれる重要な金属を吸収しやすくしてくれる。カルシウム、マグネシウム、鉄など…。
 細菌は、食物を消化し、金属吸収を助け、ビタミンをつくるだけでなく、有害な病原性細菌の増殖を抑えるうえでも役に立っている。
腸内細菌の多様性と存在量は、人によって驚くほど異なっている。腸内細菌と免疫系は、かなり密接かつ重要な接触をもっている。腸内細菌は、その生息場所で免疫系と密接にかかわりあっている。
 肥満は1980年に比べて倍増している。世界人口の65%は食料不足より過食のせいで死亡する人のほうが多い国に住んでいる。20歳以上の成人の35%は過体重で、11%は肥満。4000万人をこえる5歳未満の子どもが過体重。子どもの肥満は虐待の一形態。
腸内細菌とヒトの精神状態とは興味深くつながっている。
 妊娠中に長期にわたって高熱を経験した女性の産んだ子どもは、最大7倍の確率で自閉症になる。
高級ヨーグルトを飲んでも、効果はない。その効果は実証されていない。
 要は、細菌の群衆がバランスよく生育し、維持されていることが宿主であるヒトの健康につながる、ということ。この本を読んでスッキリしました。
(2024年10月刊。2300円+税)

杉並は止まらない

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 岸本 聡子 、 出版 地平社
 読んでいると、自然に元気になっていく気がしてくる本でした。
杉並区長になった著者は区内のアパートに住み、区庁舎まで電動自転車で通勤しているそうです。もちろん、ヘルメットをかぶって…。オランダで生活していたときも自転車で行動していたそうです。くれぐれも安全には気をつけて下さいね。環境問題に取り組んできた著者の選挙の公約の一つが区長公用車の廃止だったそうです。
 著者の名前は「聡子」。公の心に耳を傾けるということ。つまり、人々の意見に耳を傾けるという意味です。なので、区民との直接対話を重視しています。
 そして、駅前での「一人街宣」も実行しているそうです。プラカードを掲げ、マイクなしで区民に訴えるのです。たいしたものです。
区長選挙で当選したとはいえ、投票率は4割なので、区民の6割は投票に行っていない。そして、対立候補との票差はわずか187票。すれすれで当選したのです。区民の多くは著者に反対あるいは選挙に関心をもっていない。だから著者は、区長に就任したとき、こう言ったのです。
 「私に投票されなかった区民の声、投票に行かなかった区民の声を意識的に聞き、対話と理解を深めてまいります」
 いやあ、すばらしい呼びかけです。区の職員との対話を重視し、その賃金アップにも取り組み、目に見える成果を上げています。月に1回、区長室の隣の応接室に自分の飲み物をもって集まった職員8人ほどと1時間、対話する。
そして、会計年度任用職員という非正規労働者の賃金を年間50万円もアップさせたというのです。いやあ、これは本当にすばらしいことです。大拍手です。やろうと思えば出来るのですね。職員はコストではなく、財産。まさしく、そのとおりです。公務員を減らせ、多すぎるという財界側の音頭とりに多くの人がうまうまと乗せられ、公務員が大幅に減らされてきました。
 杉並区でも全職員の41%が会計年度任用職員であり、そのうち85%が女性。そして、正職は女性のほうが多いのに、管理職には2割しか女性がいない。著者は、この比率を3割に引き上げることを目指している。
 杉並区がすごいのは、女性区長の誕生に続いて、区議会議員も女性が半分を占めていることです。もちろん、それには著者を初めとする市民の運動が盛り上がったからです。まずは投票率を高めなくてはいけません。前回より4.2ポイント上昇、2万人も増えたというのです。なかでも30代女性の投票率が9%近く上昇したというのです。すごいです。48議席のうち新人が15人当選し、女性が24人、50%というのは画期的です。そんな議会が日本には他にあるのでしょうか…。
 ただ、著者が区長になったから、その公約の全部が実現できるわけでもないという現実もあります。児童館や高齢者のための施設の一部は廃止せざるをえなかったようです。そのときも区民とは十分に協議したようですが、やはり何事も一直線にはいかないものです。
 地方自治に多くの住民が参加して、地方の政治は変えられると確信したとき、国の政治も変えられる方向に動いていくのだと思います。
 著者の今後ますますの健闘を心より期待します。とてもいい本でした。
(2024年11月刊。1760円)

決断

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 寺岡 泰博 、 出版 講談社
 池袋にあるそごろ・西武百貨店でストライキがあり、従業員からなる労働組合員300人が堂々とデモ行進をしました。2023年8月31日のことです。百貨店(デパート)のストライキとしては61年ぶりのことでした。
 今の日本ではストライキというのは残念ながら完全に死語と化していますが、50年以上も前の日本では、ヨーロッパやアメリカと同じようにストライキは日本でも身近なものでした。労働組合はなにかといえばストライキをし、デモ行進をしていました。会社が「倒産」して経営者がどこかに雲隠れすると、労組が職場を占拠し、事件屋や労務屋の雇った暴力団と肉弾戦を演じることだって珍しくはありませんでした。
 もちろん、そんなときは労働弁護士が出動します。私自身は経験がありませんが、同期の弁護士たちが何人も職場に一緒に泊まり込んだという話を聞いていました。
 さて、この本に戻ります。
 百貨店の経営が苦しいというのは全国的な現象です。百貨店のそごう・西武を支配下に置いたのは「セブンイレブン」です。ところが、うまくいかないとみるや、ヨドバシカメラに身売りしようとしたのでした。外資ファンドと話しをつけたうえでのことです。
 しかし、労働組合側には、いつも事後報告するだけ。従業員の身分がどうなるのか、まったく誠実な情報提供もないまま、事態が進行していくのです。
 そこで、労組として、従来の顧問弁護士とは別に、依頼したのが、かの有名な河合弘之弁護士。原発裁判でも活躍中です。河合弁護士の現在の仕事は「反原発」で、残り3~4割がビジネス関連。
 セブン&アイの弁護士は五大事務所の一つ、西村あさひ(松浪信也弁護士)。
 さて、引き受けてくれるのか、いったい弁護士費用はどうなるのか…。当然、心配しますよね。このとき、河合弁護士はこう言った。
 「ボクは若いころさんざんカネ儲けして、お金に困っていないんだよ。今は、世のため、人のために動いているんだ。ボクは正義の味方になりたいんだよ。お金の問題じゃない。弁護費用は心配しなくていい」
 いやあ、私なんかにはとても言えないセリフです。しびれてしまいます。
 そして、河合弁護士たちはそごう・西武百貨店の売却を差し止める仮処分命令を申し立てたのです。2月21日に初めて面談してから1週間もたたない2月27日に東京地裁に申立書を提出したというのですから、神業(かみわざ)のスピードというほかありません。さすがです。記者会見場には大勢の記者が集まり、ビッグニュースとなりました。
そして、ストライキについては、旬報法律の棗(なつめ)一郎弁護士に相談した。労働弁護士として第一人者である棗弁護士は、ストライキの当日も現場にいました。
 労組のスト権投票は組合員の93.9%の賛成で承認されました。そして、感動的なのは、ストライキ当日、デモ行進に同じ百貨店労組の委員長が5人も参加してくれたということです。高島屋、クレディセゾン、三越伊勢丹、大丸松坂屋そして阪急阪神です。
 それにつけても、連合の芳野直子会長はこのストライキをまったく無視して、動きませんでした。本当に腹立たしい限りです。自民党にすり寄るばかりの連合の会長って、本当に労組の存在意義を感じさせませんよね。まさしく、昔風に言えば「ダラ幹」そのものです。
 労働組合が存在意義を示すには、ときにストライキをし、デモ行進もするという行動が日本でも必要なんだと、この本を読んで改めて私は痛感しました。
 「103万円の壁」を破ったら「手取り額が増える」なんて安易な発想で他人(ひと)頼りにしているのではダメなんですよね。自ら行動するしかないのです。
当時も今も労組委員長をしている著者がかなり赤裸々に状況・経過を刻明に報告した本ですので、弁護士の私にも大いに勉強になりました。
(2024年7月刊。1980円)

獄中日記

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 河井 克行 、 出版 飛鳥新社
 日本史上初めて、法務大臣が刑務所に入って3年あまりを刑務所の中で過ごしました。
 その体験記というので、早速、読んでみました。この本のもとになったのは右翼の月刊誌に連載されていたものです。なので、今なお手放しの安倍礼賛が満載で、嫌になってしまいます。日本社会の底辺の現実に目を向けようとしない姿勢は刑務所に入っても変わらないようです。残念です。刑務所に入っている人々からじっくり話を聞く機会があったら少しは変わったと思いますが、刑務所のなかでは収容所同士の「交談」(雑談)は一切禁止されているのです。
 たとえば、昼、工場内で作業中にトイレに行きたくなったとき、どうしたらよいか…。右手を耳にくっつけてまっすぐに上げ、「担当前、願います」と言って移動の許可を得てから刑務官の前に行き、脱帽、礼をして自分の番号と氏名(苗字)を言ったあと「用便に行っていいですか?」と訊く。全身を触って検査を受けたあと、「移動願います」と言って、「よし」と言われてから歩き出す。途中を省略し、「用便終わりました」と言うと身体検査を受け、「移動願います」と発して「よし」と言われて自席に戻る。トイレに行って帰るまで、17回も挙手し、大声で許可を求めなければいけない。
 同じ工場内の収容者と仕事上に必要な会話をするにしても手を上げて刑務官から「河井、用件は?」と声がかかるまで待ち、「○○さんと交談願います」と言う。相手も同じく、「よし」と言われないと会話は始められない。そこまでの必要があるんでしょうかね…。
 著者が従事していたのは図書計算工場での図書係と報奨金の計算係。
平成20年に出所した受刑者のうち、5年以内に再び塀の中に入った人(再犯率)は4割近い。平成29年も37.2%と、ほとんど減っていない。10年以内の再犯率だと平成20年には40%なので、半数近い。なぜか…。懲らしめただけで反省する人はいない。人間らしく、尊厳をもって扱われたときに初めて人は更生しようという意欲を抱く。
 著者は、刑務官の処遇改善も訴えていますが、まったく同感です。受刑者いじめという、あってはならないことが横行したのは、やはり刑務官の待遇が劣悪なことも大いに影響していると思います。
著者は2021年10月21日から、2023年11月29日まで、3年2ヶ月間、「塀の中」で生活しました。判決では未決勾留日数408日間が、1日も刑期に算入させていません。懲役3年の実刑で、控訴したものの取り下げ、服役したのです。
 入ったのは喜連川(きつれがわ)社会復帰促進センターという名前の刑務所。ここは民間委託もしていたようですが、今は国営直轄に戻っています。私の知人(大学同期)の元弁護士(故人)も、ここにしばらく入っていました。
著者は1億5000万円の使途について、あくまで広報・宣伝費だと強弁し、選挙運動の買収費ではないと主張しつつ、被買収側が処罰されていないのは不公平だ、だから検察の起訴は公訴権の乱用だと主張しています。
 福岡で諌山博弁護士(故人)と一緒に私も公訴権乱用だと裁判で主張したことがあります。演説会告知ビラを柳川市内の商店街に配布したのが戸別訪問にあたるとして起訴されたのでした(松石事件)。一審の柳川支部(平湯真人裁判官、故人)は公選法こそ憲法違反だとして無罪判決を出してくれました。
 国会議員しかも法務大臣の経験者が刑務所に入って、その問題点を具体的に指摘することによって、少しでも刑務所内の処遇が人道的見地から改善されることを私も願っています。
(2024年10月刊。1727円+税)

セブン元オーナーはなぜ闘ったのか

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 村上 恭介 、 出版 旬報社
 コンビニは24時間営業があたりまえ。この「常識」に果敢に抵抗し、裁判で闘ったセブンの元オーナーの取り組みを紹介した本です。元オーナーの挑戦がきっかけとなり、今や「常識」は崩れつつあります。いいことです。
 主要6社のコンビニ・チェーンで、24時間営業をしていない時短店舗が6400店ある。全体の1割超を占める。ローソンに100店、セブンにも200店ある。
私は以前から、全店舗が24時間営業である必要はないと考えてきました。三交代で働いている工場の近くなど、それが必要なところでの24時間営業を禁止するまでのことはないとは思いますが、それでも一般にはセブン・イレブン、つまり午前7時から夜11時までの営業を基本(原則)としたらいいと考えています。同じことは、元日営業の廃止です。一部のデパートが元日営業を廃止しましたが、コンビニだって元日営業をやめて当然です。
 実は、私の実家は小売酒屋でしたので、正月も雨戸を少し開けて酒類を販売していました。自宅のお酒が切れたと言って買いに来る人がいたのです。その日暮らしをしている家庭が少なくなかったので、酒を買い置きする余裕がなかったのでしょう。でも、子どもながら正月くらいは完全に店を閉めてほしいと思っていました。やはり気が休まらないからです。
 コンビニは気が休まらない仕事のようです。というのは、客のなかにとんでもないことを言い出したり、自宅のゴミを持ち込んだり、トイレを汚したり…、そんな客の対応・扱いで神経をすり減らすようです。そして、店員の確保が大変で、確保できないときにはオーナーが責任をとってレジに立つしかありません。
 オーナーの身内に不幸があったとしても閉店してはいけないというのもひどい仕打ちです。
 この事件で裁判を闘った元オーナー(松本実敏さん)は妻が病死したあと、なんとかセブン本部に時短を認めさせようとしましたが、セブン側は他への波及を恐れ、頑として応じませんでした。応じないどころか、1700万円という高額の違約金を請求するというのです。
 そこで、松本さんは裁判に踏み切りました。すると、セブン側は時短の是非が争点となり、世間の注目を集めるのを恐れて、争点そらしに狂奔しました。コンビニの客への松本さんの対応がひどい、こんなにたくさんの苦情が寄せられているというのをずらり並べ立てたのです。
 たしかに、悪質なコンビニ客とのいささかはいくつかあったのですが、それはどこでもあるものだし、松本さんが時短要求する前はセブン側は問題にもしていなかったのに、急にこんなに苦情が来ていると言い出したのです。裁判では、松本さん側の弁護士たちはセブン側のこの主張を一つひとつ反論してつぶしていきました。
 ところが、裁判所は「不意打ち判決」を出したのです。セブン側が主張していない、別の「顧客トラブル」を27件も選び出して、顧客対応が異常だったと認定したのです。
 いやあ、これはひどいです。横田冒紀裁判長と、岡野哲郎・織川逸平裁判官です。
 そして、大阪高裁に控訴しても証人調べもせずに1回結審して控訴棄却の判決でした。証人調べもされていないセブン側の提出した陳述書をそのまま証拠として採用して「顧客対応に問題があったことを裏付けるもの」としたのです。これまた、ひどいです。
 結局、松本さんは、1日あたり11万円の損害賠償金の支払いを命じられました。その総額はなんと1億6000万円になるというのですから、驚きます。
裁判所というところは超大企業にはとても弱いところだというのは弁護士生活50年になる私の実感ですが、やっぱり司法は頼りにならないのか…。そう思わせる裁判官たちでした。
 裁判には負けたけれど、世論を動かし、コンビニの時短営業に道を拓いた松本さんの社会に対する功績・貢献度はきわめて大きいものがあります。
 弁護団長をつとめた大川真郎弁護士より贈呈を受けました。いつもありがとうございます。
(2024年12月刊。1870円)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.