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2024年9月 の投稿

アリの巣をめぐる冒険

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 丸山 宗利 、 出版 幻冬舎新書
 アリの大群そしてアリの行列をよくよく観察すると、いろんなことが分かるという、面白い新書です。
生き物の発見は、視点がすべて。知識にもとづく独自の視点をもたなければ、新しい発見はできない。確固たる才がなければ、多くの生き物の存在を簡単に見落としてしまうのが野外調査の怖さ。
アリと多少とも共生あるいは依存することを好蟻(こうぎ)性という。
 アリの好む物質を出してアリから口移しに給餌を受けるもの、アリの巣にまぎれこんで餌の残りを食べるもの、アリの巣の周辺に住んで弱ったアリを食べるもの、アリの背中に乗って生活するもの、実にさまざまいる。
 分類学の研究では、写真技術の発達した今でも、絵描きのほうが有用な手段である。重要な部分だけを絵で示したり、強調できるから。
 アリの死骸がまとまって巣から出されるのは、年1回の早春に限られる。そこで、クサアリハネカクシは、この早春に産みつけられた卵は、わずか数日で孵化する。
アリはきわめて排他的で、他種に対しては強い敵対行動をとる。
 ヒメサスライアリは、アリを専門に食べるアリ。ほかのアリの巣を襲って、成虫や幼虫を狩って食べる。2~5ミリの小さなアリだけど、毒針を使って、自分よりはるかに大きなアリを仕留める。しかし、ヒメサスライアリは放浪性のアリなので、見つけるには偶然の出会いを求めるしかない。そして、基本的に毎晩、引っ越す。その引っ越しには、8時間も10時間もかかることがある。
ジャングルでは、ハチもヘビも怖いが、一番怖いのは蚊。マラリアにかかると大変。
 ヒメサスライアリの観察中、怒ったアリに刺されると、毒針なので強烈な痛さ。
 面白い、面白いと著者は書いていますが、なにしろジャングル(密林)の中なので、ともかく大変な現地探求の日々です。いやあ、学者って大変な苦労をするものですよね。とても真似できません。
(2024年4月刊。1040円+税)

フランスの田舎に心ひかれて

カテゴリー:フランス

(霧山昴)
著者 Myna(まいな) 、 出版 食べもの通信社
 フランスの南西部の田舎に住む日本人女性の暮らしが素敵な写真とともに紹介されている、楽しい本です。
 次々に紹介される料理の写真が実に見事なので、フツーの若い日本人女性がここまで出来るのか怪しんでいますと、なんと著者は調理師学校で学んでいたのでした。なるほどと納得できます。
 フランスの地元の食材を使いながら、実に美味しそうな料理のオンパレードです。写真の撮り方も素晴らしいので、ついふるいつきたくなります。
 フランスにも体調が不良なときに食べるごはんがあります。日本だったら、おかゆに梅干し。フランスでは、それが野菜のポタージュ、そしてハムとジャガイモのマッシュポテトです。
 フランスに旅行したとき、マルシェ(市場)で太いホワイトアスパラガスをあちこちで見かけました。わが家の庭にもグリーンアスパラガスが春になると生えてきますが、その何倍も太くて長いのです。いかにも美味しそう…。
フランスの冬の鍋料理は、なんといってもポトフです。肉には牛だけでなく、豚や鶏も使うようです。そして、牛の骨髄(オズ・ア・モワル)がいかにも美味しそうです。
7月になるとエスカルゴ狩りをして、パセリとニンニクソースでいただきます。エスカルゴは直径3センチ以上のものだけ、そして、4月から6月末まではとってはいけないそうです。初めて知りました。それにしても、エスカルゴ狩りなんて出来るのですね…。
 今年は、わが家の梅がまったく不作でしたが、ブルーベリーがかつてなく大豊作でした。
 そして、この本ではブラックベリーが食べ放題だったとのこと。わが家のブルーベリーは岩手県産の岩泉ヨーグルトと一緒に実に美味しくいただきました。
5月はアーティチョークシーズンだそうですが、私はアーティチョークを食べた記憶がありません。残念です。そして、キノコの王様と呼ばれるセップ茸(だけ)も同じく食べたことがありません。
 フランスでは3歳から義務教育が始まるというのにも驚きます。
 いまアメリカでは大統領選挙がさかんですが、アメリカがいかにも野蛮な国だと思うのは医療保険が国民皆保険ではないことです。民間の保険会社がもうかる仕組みになっていて、これを国民皆保険に変えようとすると、トランプ元大統領のような連中が「共産党=アカ」と言って、非難・攻撃するのです。その点、フランスは医療保険制度が進んでいます。トランプからしたら、まさしくフランスは「アカ」の国だということになります。もちろん、マクロンは「アカ」ではなく、どちらかいうとトランプに近い保守の大統領です。
トランプのような、なんでも営利本位のほうが良いという考えは、国の分断をすすめるだけで百害あって一利なしです。でも、トランプを熱狂的に支持するプア・ホワイト(貧乏な白人)が少なくないわけです。世の中はまさしく矛盾だらけです。
フランスの片田舎に2人の幼い娘とフランス人の夫と一緒に暮らしている、この日本人女性が仕事はしているのか、どうやって生活しているのか、不思議でした。「フリーのデザイナー」とのことですが、ネットで仕事をしているということなんでしょうか、気になりました。
(2024年5月刊。1800円+税)

原爆(上)(下)

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ディディエ・アルカント(文)、ドゥニ・ロディエ(絵) 、 出版 平凡社
 フランスの真面目なマンガ本です。映画「オッペンハイマー」と同じく、アメリカの原爆開発の過程をマンガによって視覚的に明らかにしています。日本の物理学者である仁科(にしな)芳雄な登場するのは意外感がありました。日本の原爆研究・開発がそれほど進んでいたとは思えないのですが…。
 それより驚いたのは、「森本」という架空の人物が登場し、その息子2人が戦死するという状況も描かれていることです。この「森本」は、今も銀行の階段に黒々とした「影」が残っていますが、その「影」の持ち主、つまり原爆が投下されたときに銀行の階段に腰をおろして休んでいた人物とされていることです。なるほど、そうなんですよね。原爆投下によって一瞬のうちに何万人もの人々が蒸発したように亡くなったわけですが、その人たちはみんなみんな、それぞれの人生を過していたわけです。それが原爆によって一瞬のうちに消滅させられたのです。
 原爆開発にはナチスも取り組んでいました。そして原料となるウランの争奪戦も水面下で激しくたたかわれていました。
 アフリカのベルギー領コンゴがウランの原産地です。ノルウェーの山中にドイツは「重水」の生産工場があるので、連合国軍は特殊部隊を派遣して爆破しようとしましたが、悪天候のせいで見事に失敗してしまいました。
 下巻では、いよいよ原爆の人類初の爆発実験の様子が描かれます。映画でも緊張の瞬間でした。放射能汚染の怖さを誰も知りませんから、ゴーグルで目を保護するくらいで、防護服を着た人は誰もいません。
 実験があったのは1945年7月14日未明のこと。実験が「成功」したとき、アメリカ軍の将校はこう言った。
「我々は戦争に勝つ。日本に1.2発落とせば、終わる。よくやった」
8月6日に広島、そして8月9日に長崎に原爆が落とされ、日本は8月15日に無条件降伏しました。なので、原爆が日本敗戦の決め手になったのは間違いないでしょう。でも、多くの日本人は「新型爆弾」と呼ばれた原爆のことを十分に知らされず、また、広島・長崎の惨状も共有化されませんでした。
それは戦勝国アメリカ人にとっても同じです。原爆の悲惨さ、そのケタ外れの威力について認識を深めることはありませんでした。各戸の地下室に「シェルター」をつくる動きがあらわれたのは、その象徴です。原爆は「シェルター」をつくったくらいで被害を回避できるというものではありません。ところが、政府・当局は、それを知ったうえで、知りながらも「核シェルター」づくりを現在でも推奨するのです。おかしなことです。
映画「オッペンハイマー」には、原爆投下による広島・長崎、悲惨な状況が一切描かれませんでした。しかし、この本には銀行の階段に腰かけていた「森本」をはじめ、都市全部が消滅した状況が視覚化されています。マンガ「はだしのゲン」はとてもよく描けたマンガだと思います。ところが、子どもには残酷すぎると称して読ませないところ(学校)もあるとのこと。信じられません。大判のずっしりしたマンガ2冊です。図書館に備え置いて、誰でも見れる、読めるようにしたいフランス産のマンガ本です。
(2023年7月刊。(3800円+税)×2)

なぜ「政治とカネ」を告発し続けるのか

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 上脇 博之 、 出版 日本機関紙出版センター
 9月初め、福岡県弁護士会は著者による講演会を開催し、私も福岡の会場で視聴しました。著者はWeb出演です。詳細なレジュメと表にもとづいた、熱のこもった講演のあと、参加者との質疑応答も30分近くあり、著者のド迫力に改めて圧倒されました。
 憲法学者である著者は、議会制民主主義の本質を踏まえて、現在の国会の議席構成には問題があると強調しています。
 国民主権主義である以上、直接民主主義の採用も肯定し、かつ直接民主主義に限りなく近い議会制でなければ、議会制民主主義とは言えない。議院内閣制を採用している以上、国会の多数派である内閣の暴走に歯止めをかけるため、与党の過剰多数を許してはならない。そのためには投票価値の平等が必要だし、自由な選挙運動が保障されなければならない。
 私は投票価値の平等を守るため、敬愛する伊藤真弁護士(憲法の伝導師と自称)の求めに応じて裁判の原告の一人になっています。
 また、自由な選挙運動の実現のためには、著者は書いていませんが、戸別訪問解禁が絶対に欠かせません。日本がいつも真似するアメリカもイギリスも、戸別訪問こそ選挙運動の大きな柱です。選挙ポスター公営掲示板の制度も廃止して、もっと選挙運動は自由にして、みんなが楽しくやれるようにしたらいいのです。著者は小選挙区制をやめて、完全比例代表制を提案しています。大賛成です。そして、企業や労働組合の政治献金やパーティー券の購入は法律で全面禁止すべきだと提案します。これまた、まったくそのとおりです。
 かの典型的な反共・労働貴族である芳野・連合会長は労組からの政治献金によっていくつかの政党の懐(ふところ)を握っている自信から、あのようなデタラメ放題を高言し続けています。労働者個人が政治献金できるのは当然ですが、労働組合が政治献金して政治を動かそうなんて、まったく間違っています。
内閣官房機密費は月に1億円、年12億円、まったく使い放題。会計検査院も手が出せない、「治外法権」のお金です。
 このなかから首相には毎月1000万円、自民党の国対委員長には月500万円が現金で手渡され、領収書は不要というのです。裏金どころではありません。要するに、私たちの税金を政府の高官たち、自民党と公明党の幹部連中が飲み食いを含めて私たちの税金を好き勝手に、毎月1億円も使っているのです。許せません。
 いやあ、それにしても、著者が地道な探究作業を長く続けておられることに、心より敬意を表します。
(2023年8月刊。1400円+税)

政権に忖度するな!NHK

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 NHK裁判原告団・弁護団 、 出版 日本機関紙出版センター
 NHKが自民・公明政権べったりの報道をしているのに我慢できない人々が裁判にたち上がりました。7年あまりの裁判は、一審も二審も、そして最高裁まで行ったけれど、ついに敗訴が確定しました。では、無駄だったのかというと、決してそんなことはなく、大きな成果を上げました。その意義と成果を教えてくれるのが、この本です。
放送法4条には、「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないこと」が明記されています。でも、現実のNHKの報道は、とてもこの条文を守っているとは言えません。自民党の総裁選が始まると、大々的に、しかも好意的にたっぷり時間を割いて最大もらさず紹介します。ある候補者の立候補宣言を他の番組を中断して実況中継までしたのですから、恐れおののきます。
本来、メディアは、権力をきちんと監視する「番犬」の役割を果たすべきです。ところが、実際には、自民・公明政府を支える「パートナー犬」になり下がっています。
実況中継された候補者に対して、自民党の裏金は、いったい何に使われたのか、その裏金処理は違法という認識があるのか、誰が責任をとるべきか、その場にいた記者は「質問」を直球でぶつけるべきでした。残念ながら、そんな質問はしていません。
 ところで、この裁判で訴えられたNHKは、一審でも二審でも、原告らの訴えは、「法律上の争訟」にあたらないと主張しました。そのうえで、NHKの代理人は、証人尋問のとき、一切質問しなかったとのこと。これって、ひどいと思います。充実した審理になるのを恐れた、NHKの果たすべき役割が明らかになるのを避けたということです。許せません。
 放送法4条に定めた内容は、一般的抽象的な義務を定めただけで、具体的な義務を認めさせるものではない。裁判所は、このような判決を書いています。でも、本当にそうでしょうか。視聴者はNHKに対して受信料を支払う義務があるわけで、NHKに受信料を徴収されて支払っている以上、その内容についても文句が言えて当然だと考えられる。つまり、放送法4条に明記されている内容は「契約上の義務」になっている。原告はこう主張しました。
 放送受信料とNHKの提供する放送が一定の対価性を有する以上、放送内容が事実に反していたり、政治的な公平性を著しく欠いていたりする場合など、放送法4条などに明白に違反する内容の報道番組が放送されたときには、財産権を保障する憲法29条の趣旨からしても、視聴者にとって法的権利ないし利益の侵害となりうる。これって、実に、まっとうな論理ではないでしょうか。ところが、なんと裁判所は、これを理屈にあわない、屁理屈で否定したのです。
 原告らの本訴請求はNHKの放送番組編集の自由を著しく制約するものであり、その行使を事実上不可能ならしめることに等しいから、確認の利益がない。この論法は、私には、まるで理解できません。これって、コトバ遊びを喜んでするような人々にしか分からない、少なくとも不親切きわまる論理です。こんな判決を書いた裁判官自身も何が言いたいのかよく分からないまま、ともかく原告の請求を認めるわけにはいかないと決めて起案したとしか思えません。ここで言えることは、良くて司法消極主義の伝統を確実に受け継いでいるということです。
 NHK会長になった三井物産の元副社長(籾井勝人)が、「政府が右と言っているものを、我々が左と言うわけにはいかない」と高言して、世論から猛烈な反発を受けたことは、まだ耳に新しいところです。NHKの内部で働いている人は大変な職場環境のなかで黙々と仕事を遂行していることと思います。そんな真面目に働く人々にも大いに読まれたらいいな、そう感じました。ついでに、NHKの朝ドラ「虎に翼」の原爆判決に至る展開は実に素晴らしいものでした。原爆投下は当時の国際法に照らしても違法である、しかし、司法ではどうしようもない、行政と立法で救済すべきだという判決文が読み上げられるのを聞いて、私が心が震えました。NHKって、すごいことをやることがあるんですね。そんなNHKには心から声援を送ります。でもでも、普段のNHKにはひどすぎます。
 奈良でがんばっている佐藤真理弁護士より贈呈を受けました。ありがとうございます。
(2024年8月刊。1500円+税)

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