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2024年9月 の投稿

ザボンよ、たわわに実れ

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 力武 晴紀 、 出版 花伝社
 戦前、1930年代に存在した無産者診療所。そこで活動した若き「女医」、金高(かねたか)満すゑの半生を紹介した本です。
戦前、治安維持法という悪法が人々の自由な言論と行動を厳しく弾圧していたとき、不正を憎み、目覚めた若者は行動を起こしました。
 この本の主人公・満すゑは佐世保に明治41(1908)年に生まれました。私の父は明治42年生まれなので、一つだけ年長になります。
 佐世保は昔も今も「軍港」です。昔は日本海軍の拠点港であり、今は米軍と海上自衛隊が支配しています。母親が急死し、叔父の家へ父親と二人で同居するようになり、やがて父親も病死してしまいます。それでも、養女となって佐世保高等女学校に入学。片道3時間かけて、毎日、徒歩で通学したというのですから、想像を絶します。午前5時に家を出たというのです。
女学校時代は「女傑」と教師から評価されていたといいます。教師から頼まれて女学校内の派閥抗争の仲裁人になったというのです。もはや、並みの女の子の域を超えていますね…。そして、上京して、東京女子医学専門学校に入学します。よほど、学業成績が良かったのでしょう。
 そして、この女子医専に社研(社会科学研究会)があり、満すゑも入って活動を始めます。
 なぜ戦争なんかするのか、生活が苦しくなるばかりなのに…。そんな疑問をもってレーニンの「帝国主義論」を読んで納得するのです。私も大学生のころ、マルクスそしてレーニンの本を必死で読みました。今ではほとんど内容なんて忘れてしまいましたが、ともかく、その緻密な論理展開にはしびれした。そうか、そういうことなのか…。目が覚める思いでした。
 満すゑは1931(昭和6)年の卒業試験の最中、特高警察に検挙されました。学生仲間がかばってくれて試験を受けていたのですが、ついに捕まってしまい、卒業できなくなりました。それでも、学校当局は卒業式のときに、名前を呼んだというのです。
 そして、五反田駅近くに1930年1月に設立された大崎無産者診療所に入って、医師の資格はないまま手伝うようになります。いま全国各地にある民医連の通院・診療所のハシリです。
 1933(昭和8)年8月、満すゑは27歳のとき、治安維持法違反で検挙され、翌年、5月に起訴されます。
 私の父・茂は当時、法政大学法文学部の学生で、我妻栄から民法を教えられ、また高文司法科試験を受験しました(不合格)。まったく同じころ東京にいたわけです。
 そして、満すゑは市ヶ谷刑務所に2年半、囚人として収容されました。出所したときは、すっかり衰弱して、肋骨がゴツゴツ浮き出て、洗濯板みたいな身体になっていたそうです。
 それでも満すゑは1939年4月、女子医専に復学し、翌1940年3月、31歳のとき卒業することができました。
 そして新潟に行き、五泉診療所そして葛塚診療所で医師として働くようになったのです。
戦後は、民医連の病院のいくつかで働き、最後は東京中野区の桜山診療所で働いた。
 すごいですね、三度も検挙されたけど、屈することなく医師として活動を続けたのです。1997年12月、89歳で死亡。その一生を追った労作です。
(2023年11月刊。1800円+税)

タコの心身問題

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ピーター・ゴドフリー・スミス 、 出版 みすず書房
 この本を読むと、タコは意外なほど賢く、好奇心の旺盛な生き物だということがよく分かります。タコは、食べられないことが明らかなものにさえ関心を示す。
大腸菌は単細胞生物だが、自分にとって好ましい物質とそうでない物質とを区別することができる。好ましい物質であれば、その濃度の高いほうに移動するし、逆に好ましくない物質であれば、濃度の低いほうに移動する。大腸菌の外面には、そうした「感覚器」が並んでいる。この「感覚器」は、正確には、大腸菌の外膜を構成する分子である。
 実験室内でテストを受けさせると、タコはおしなべて良い成績をとり、かなり頭が良いことが分かる。
 タコは見慣れないものを弄(もてあそ)ぶだけでなく、有効に活かすこともある。
 タコは好奇心が強く、順応性もある。冒険心がある一方、日和見主義なところもある。いやあ、これって、人間の若者そっくりですよね。
 タコには5億個のニューロンがある。いったい、どうやって、こんなことを数えられたのでしょうか…。
 タコは捕食者であり、自らが動いて獲物を襲う。
 タコは非常に社会性が高い動物とは言えない。
 タコの心臓は一つではなく、三つ。その心臓が送り出す血液は赤ではなく、青緑色をしている。酸素を運ぶのに鉄ではなく、銅を使うから。
 タコは知覚の能力も、運動能力も非常に優れている。大規模な神経系と、活発に動くことのできる複雑な構造の身体をもった動物である。行動も非常に柔軟で、変幻自在だ。
 タコは方向感覚にも優れている。
 タコは身体の色を変える能力に長(た)けている。
 その皮膚は、重層構造のスクリーンのようになっていて、脳によって直接、制御される。脳内のニューロンは直接、皮膚につながり、筋肉を制御する。皮膚には、ピクセルのように色を発する小胞が何百万とあり、筋肉は脳の指令を受けて、その小胞を制御する。何かを感じると、それに従って、即座に色が変化する。一つの色素胞が発するのは一色のみ。
 イカには、人間に対して有効的なものがいれば、強い敵意を示すイカもいる。それでも、友好的なイカのほうが、ずっと多い。
 頭足類の身体の色変化には、擬態と信号伝達の二つの大きな役割がある。
タコの寿命は1~2年が普通。最大のタコであるミズダコも野生ではせいぜい4年しか生きられない。衰えが始まると、あっという間に健康が損なわれてしまう。好奇心旺盛な知性をもつタコだが、2歳になる前に死んでしまう。
 タコのメスは多数のオスと交尾をするが、産卵の時期には、巣穴に入ったまま動かない。卵を産むと孵化するまで抱いている。一度に産む卵は何千。幼生たちが水の中に出ていくとメスのタコは死ぬ。
 大阪はタコ焼き。そのタコがこんなに知能の高い生物とは…。うかうか食べられませんよ。
(2023年11月刊。3300円)

悪なき殺人

カテゴリー:フランス

(霧山昴)
著者 コラン・ニエル 、 出版 新潮文庫
 フランスの心理サスペンス小説です。
 牧場で生計を立てている夫婦が冷えきった生活をしていて、声もかわしません。夫はずっと一人でインターネットをしているようです。ネタバレのつもりはありませんが、この本にロマンス詐欺にひっかかる、ひっかける男性と若者が出てくるのには驚かされました。
 日本にはナイジェリアの大学生のアルバイトとしてロマンス詐欺をしかけているという本を読んだことがあります。ここでは、国名は明記されていませんが、コート・ジボワールの若者が仕掛けているようです。
 高速接続のパソコンとケータイ1台ずつ、一人ひとりに与えられ、パソコンの前に座って1日7時間、働く。稼いだカネの70%はボスがとる。バッティングマシンみたいに、クライアントのメドを手に入れて、文書を作成し、添付する写真を選んでメッセージを送信する。若者は28歳、独身女性のアマンディーヌになりすます。このグループには、他にもギャンブル詐欺、遺産相続詐欺など、いろいろな形態がある。それぞれ得意分野で攻めていく。
ヨーロッパの連中は愛情に飢えてやがる。出会いがない。真実の愛っていうのが不足している。だから、真実の愛で酔わせる。
ロマンス詐欺は、たった数時間では片がつかない。長い時間と忍耐が必要だ。最初のお金を手に入れるまで数ヵ月かかることもある。我慢すればするほど高額を稼げる。
隣のパソコンでも獲物をゲットした。海外宝くじに当選したけど、莫大な当選金を受けとるには弁護士に手数料を支払う必要がある、こうやって白人をだますのに成功したらしい。
これって、日本でも同じ手口がありますよね・・・。この本で不思議なのは、騙す側の若い男が、被害者の白人を呪いの力でつなぎとめようと真面目に考え、呪い師に頼み込みに行く情景があるということです。
ロマンス詐欺では、途中、相手にとことん優しくするのが鉄則。甘い言葉をいくらでも与えてやる。相手はそれを望んでいる。そして安心させるために、アマンディーヌが実在する証拠を見せる。AV女優の写真を次々に送りつけ、どんどん肌の露出を多くしていく。ぼけている画面は、カメラが古くてピントがあわないからだと弁解する。ケータイに向けて、一日中、愛のことばをささやく。
白人たちは若者の国からいいように収奪してきた。だから、なりすまし詐欺にひっかかった白人は、だました国の借金を少し返済しているだけ。ネット上に騙されやすい無防備な人間がいる限り、なりすまし詐欺は横行しつづけるだろう。
こうやって若者は、アマンディーヌが交通事故にあって、大至急手術をする必要があり、そのための費用を送金するよう相手の男を説得する。そして、うまく送金させた。ところが、ある日突然、警察に踏み込まれた。警察官が相手の男に詐欺にあって騙されているので告訴するかと聞いた。しかし、男性はしないと断った。それで若者は釈放された。
なかなか読ませるストーリー展開でした。
(2023年11月刊。850円+税)

恐竜大陸・中国

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 安田 峰俊 、 出版 角川新書
 世界でもっとも恐竜が見つかった国は、アメリカでもカナダでもなく、中国。これまで322種が発見され、毎年10種もの新種の恐竜が報告されている。いやあ、これは驚きですね…。
 ティラノサウルスやトリケラトプスなどの仲間の起源が中国大陸にあったことも判明した。ということで、中国は、今や世界一の恐竜大国だ。
 中国の恐竜名は「龍」を「ロング」としたり「ロン」としたり混在している。
 中国では年に20体ほど、恐竜の全身化石が見つかっていて、ありふれた現象になっている。
 これまで、中国で恐竜化石発見には、農民が必ず登場していた。ところが、今ではネット社会なので、インフルエンサーが活躍している。
 恐竜の卵の化石を発見したのは、なんと9歳の少年だった。2019年7月、広東省の河源市に住む少年。
恐竜のタマゴ化石は、中国では、すでに1万8千個も発見されている。いやあ、これはすごいですね、1万8千個とは、ケタ外れの数です。
 恐竜の足跡化石もあちこちで発見されていて、家畜のエサ皿として使われていたのもあった。高僧の化石だと思われていたものが、実は恐竜の足跡だったということもあった。
 ちなみに、台湾では恐竜の化石は見つかっておらず、今後も見つからないだろう。つまり、地層が古くなく、新しいからです。
 中国が恐竜大国であることを実感させてくれる新書でした。
(2024年6月刊。960円+税)

思い出せない脳

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 澤田 誠 、 出版 講談社現代新書
 私は名前を思い出せないということが多いです。これは。年齢(とし)とったからというのではなく、若いころからそうです。
 小学校の先生(教員)は、新学期の前に、顔写真と氏名を見比べながら、必死で覚えておき、初めての生徒たちを名前で呼んで安心させるという話を聞いたことがあります。
 年齢(とし)をとって衰えるのは、新しいことを「覚える力」ではなく、「引き出す力」だ。
 加齢によって脳の細胞は減っていく。とくに「海馬」の細胞は、他より減りやすい。その海馬は記憶の「引き出し」にも関係している。海馬の神経細胞は、記憶に関して重要な役割を担っているにもかかわらず、酸素不足やストレスに弱い。
 海馬の一部の場所では新たな細胞が生まれている。神経細胞は入れ替わらなくても、神経細胞を構成している成分は入れ替わっている。
数に限りのある神経細胞でも、組み合わせ次第でほぼ無限に記憶を保管できる。
 神経細胞が加齢で死ぬ主な原因は血流不足。糖尿病にならないように注意するのが重要。糖尿病は認知症のリスクも1.5倍高い。糖は血管を傷つける。
 感情は情動と気分が合わさったもの。名前だけが思い出せないのは、名前が意味記憶で、意味記憶が生存に必須ではない記憶だから、情動が働かず、脳にとって思い出しにくいということ。
 記憶に残るか残らないかは、情動の動きに関係している。睡眠不足は、思い出せない脳をつくる。睡眠は、脳の機能を回復させる、脳の老廃物を排出させる、記憶の整理・編集・定着が行われる。
 起きているときよりも、睡眠時に活動が上がる脳の部位がある。大脳辺縁系。これは情動を司る脳部位。長期記憶を形成するために、睡眠はとても重要。新しい技能をマスターするためには、よく眠ることが重要。睡眠薬では、自然な睡眠周期は現れないため、記憶の形成の面ではデメリットも生じる。
 人の名前がどうしても思い出せないときにどうしたらよいか…。それは、思い出そうとするのをやめること。周辺抑制が働いているので、それを解放したらいい。脳は非情ともいえるほど合理的だ。
 脳の話は、いつ読んでも面白いですね。
(2023年5月刊。980円+税)

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