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2024年8月 の投稿

明治維新という時代

カテゴリー:日本史(明治)

(霧山昴)
著者 深草 徹 、 出版 花伝社
 明治維新の大立て者の西郷隆盛とは、いったい、いかなる人物だったのか…。大変興味深いテーマです。
 西郷隆盛は一般に征韓論を唱えて、それが敗れて下野したとされています。それが事実だとすると、帝国主義的野望をもった政治家だったことになります。
 本書で、著者は西郷は武力で朝鮮を威嚇し、また屈服させるという征韓論をとっていなかったとしています。朝鮮に行く使節は兵を率いることなく、烏帽子(えぼし)直垂(ひたたれ)の正装を着し、礼を厚くして行くべきだと主張しました。自ら朝鮮に行く使節になると名乗り出たのも、軍事制圧をしようとしている副島種臣を使節にしないための方策だったというのです。つまり、西郷の唱えた使節派遣論は、無用な戦争を防ぐことを目的としたものだとしています。
岩倉具視や伊藤博文らの欧州視察団が出かけていって日本を留守したあいだ、日本政府は西郷や江藤新平(佐賀)が牛耳っていた。その江藤は長洲藩出身者を厳しく追及していた。帰国してきた伊藤博文は長州藩出身者たちの復権を目ざし、江藤そして、それを支えている西郷に対して激しい敵愾(てきがい)心をもって追い落としを図った。その結果、江藤新平は佐賀の乱(佐賀戦争)で敗死し、大久保利通から即座に処刑されてしまいました。
 このとき岩倉具視が江藤や西郷の正論を問答無用と切り捨てたと著者はしています。いったい、なぜ岩倉にそれほどの力があったのか、その背景にはどんな状況があったというのか…、私は疑問を感じました。いずれにしても、明治6年の政変によって、西郷や江藤政権から遂われ、有司専制と言われる大久保政権が確立します。
 そして、この政変からまもなく、日本は朝鮮ではなく台湾に出兵して、そこを支配するのです。それまで大久保や伊藤たちは、「内治優先・戦争回避」を唱えていたはずなのに…。
 そして、著者は、西郷が西南戦争に踏み切ったころ、「護衛」という名の監視下に置かれていた、つまり決起した鹿児島士族の虜囚にしか過ぎなかったとしています。この点は、果たしてどうなのでしょうか…。西南戦争が西郷の真意ではなかったというのは本当なのでしょうか。
 著者は私と同じ団塊世代(私より少し年長)ですが、今から6年も前に早々に弁護士をリタイアして歴史研究にいそしんでいるようです。いかにも刺激的な本でした。
(2024年5月刊。2200円+税)

母、アンナ

カテゴリー:ロシア

(霧山昴)
著者 ヴェーラ・ポリトコフスカヤ 、 出版 NHK出版
 2006年10月7日、ロシアの気骨あるジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤが暗殺された。著者は、その娘で、同じくジャーナリストの道を歩いています。
国内の支持率が80%というプーチン大統領ですが、その権威に反抗して真実を語ろうとするジャーナリストや政治家は次々に凶弾に倒れています。いわば暗黒政治のなかにロシアは置かれています。
 ジャーナリストとしてのアンナは、ペレストロイカの時代に形成された。このゴルバチョフ大統領の下で始められたペレストロイカの時代にはメディアが自由化され、ジャーナリストが伸びのびと活動できた。ソ連(ソビエト連邦)が崩壊したのは1991年夏のこと。そうなんですね、もう33年も昔のことになりました。なので、今の若い人にはソ連と言っても、まったくピンと来ないはずです。
ロシアがウクライナに突然侵攻したのは、2022年2月24日のこと。それからもう2年半も戦争が続いています。大勢の若者が、ロシア側もウクライナ側も亡くなり、また傷ついています。一刻も早く戦争を止めてほしいです。
日本政府はNATOを通じてウクライナに武器を送ろうとしていますが、戦争に加担するのは止めないといけません。それより、真剣に外交交渉で停戦、そして終戦の道を探り、働きがけるべきです。この点でも、日本はアメリカの言いなりにしか動かない(動けない)という岸田政権の姿はまったく情ないことです。
 ロシア国内では、戦争反対の声を上げたら、すぐに犯罪者として検挙され、弾圧されるようです。ロシアのジャーナリストはプーチン政権にがっちり抑え込まれていて、自由な言論はないようです。それでも戦争反対の声を上げたロシア国民はいるわけで、そのため科せられた罰金の総額は2億5千万ルーブルに達しているとのこと。日本円では、いったい、いくらになるのでしょうか…。
 アンナが暗殺されたあと、2009年1月には、モスクワの中心部でスタニスラフ・アルケロフという人権派弁護士も殺害されている。そして、著者が娘を連れてロシアから脱出したあと、2022年5月6日、著者の別荘が放火されて全焼した。
 2023年6月、プーチンに反抗したブリコジンもジェット機墜落で死亡した。
ウクライナはいったん降伏して戦争を止めたらどうかと提案する日本の真面目な弁護士がいます。もちろん、ウクライナが決めることですが、一刻も早く戦争状態を解消することを国際社会はもっと真剣に考え、声を上げ、行動すべきだと痛感しています。前線に武器が足りないから武器をもっと送る。そんなことは少なくとも平和憲法をもつ日本がやるべきことではないと私は確信しています。
(2023年11月刊。1900円+税)

中国拘束2279日

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 鈴木 英司 、 出版 毎日新聞出版
 公安調査庁のスパイとして中国で逮捕され、6年という実刑判決を受けた著者による体験記です。著者は公安調査庁には中国に内通している大物スパイがいて、今も活動していると推察しています。
 日本の公安調査庁は、オウム真理教のおかげで生きのびている、盲腸のような存在だとみられてきましたので、中国側の認定は誇大視だと思うのですが…。
この本で、中国の刑事司法手続の一端を知ることができました。
 その一が、居住監視。逮捕ではないけれど、拘束されます。その実態は監禁そのもの。3ヶ月間という制限があるが、延長が許されている。そして、この期間は、法律援助(扶助)制度による弁護人は付けられない(付かない)。
著者が居住監視生活に入ったのは2016年7月15日。正式に逮捕されたのは2017年2月。そして、同年5月に起訴され、2020年11月にスパイ罪で懲役6年の実刑判決が確定し、刑務所に収監された。著者が日本に帰国したのは、2022年10月11日。したがって、6年以上、中国で監禁、拘束されたわけです。
 著者に付いた弁護士は、著者からすると、「まったく期待外れだった」。著者が無罪を主張すると言っても、「それはやめよう、罪の軽減をめざしてがんばる」というだけ。著者の主張を否定も肯定もせず、応援することもなかった。「何もありません」「特にありません」としか言わなかった。スパイ罪の裁判だったからでしょうか。裁判は非公開。2回目の公判で判決が下された。
 中国には、「認罪認罰制度」というのがあり、罪を認めて謝罪したら、法律によって刑期が短くなる。しかし、著者はあくまで無罪を主張した。
 ちなみに、弁護士を依頼したら、40万元(820万円)かかるだろうとのこと。これはまた、べらぼうな金額ですね…。
裁判官、しかも最高人民法院の裁判官だった人が著者と拘置所で同室だったそうです。汚職で逮捕された元裁判官です。その元判事によると、中国の「依法治国」は、まったくのインチキ。そんなことは中国では不可能。中国に人権なんてない」とのこと。そして、中国の裁判官は最高人民法院の院長をはじめ、裁判官の全員が賄賂(わいろ)をもらっているとのこと。恐るべきことです。
かなり以前の韓国でも、弁護士が裁判官を接待するのが常識でした。今ではもうそんなことはないでしょうね…。でも、中国では、どうやら、今も、続いているようです。
 アメリカ人(アメリカ国籍を有する人)が中国で逮捕・監禁・拘留されることはないとのことですが、日本人はときどき拘束されています。2015年5月から少なくとも17人の日本人が拘束され、うち5人は起訴されずに帰国した。10人は起訴され懲役3~15年の実刑判決が確定し、3人が服役中、1人は死亡、6人が刑期満了で日本に帰国した。
 日本政府も、大使館、領事館も、日本人保護のためには何もやってくれない。日本人としては寂しい現実です。
(2023年5月刊。1600円+税)

神秘なるオクトパスの世界

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 サイ・モンゴメリー 、 出版 日経ナショナル・ジオグラフィック
 タコは賢い生物で、人間を見分け、人間になつくというのです。
 タコは、頭に1つ、足1本につき1つずつ、合計9個の脳がある。そして、心臓も3つある。ただし、その割には短命。8本の足で触り、味わう。そして、化ける。
 タコは洗練された擬態能力を備えている。瞬時に姿を変えることができる。ほかの動物の形や動きを擬態して、カムフラージュの名手もいる。
タコの皮膚の色の変化は、人間が顔をしかめたり、笑ったり、赤面したりする感情表現に似ている。
 タコにも、人間と同じく、個体ごとに違う性格と特質がある。
タコは、短命で、ミズダコの寿命はわずか3年~5年。
 タコには人間の顔を見分ける能力があり、好悪の感情がある。
 一部のタコは、2本の足で歩行する。
タコは、近づく人間が害がないと判断すると、近づくのを許し、手を伸ばして触れようとする。
 タコは信じられないほど、人なつっこい。
タコは人間が瞬(まばた)きするよりも速く、体の色や形を自由自在に変える。ワモンダコは、1時間に最大177回も体色を変え、50種類のボディパターンを身にまとうことができる。5分の1秒で体色を変えられるし、1時間以上も同じ色や模様を安定して維持することもできる。
 タコは、イカよりも6.5平方センチメートルあたりの色素胞の数が多い。500万個以上の色素胞がある。
タコは硬い骨格なしで二足歩行できる唯一の動物。タコの目は色を識別できない。タコは皮膚で光を感じたり、見たりできる。
実験によって、タコには記憶力、学習能力、自制心をもつことが証明された。
 タコにも人間のように2つの異なる睡眠段階があり、目覚めるまでにそれが何度か繰り返される。
タコは好奇心が旺盛で、何か面白いことをするのを楽しむ。つまり、タコは遊ぶ。
 タコは人間の顔を認識し、記憶する。
タコのメスは1度に10万個の卵を産むと、それを平均6ヶ月間守り、清潔に保つ。卵が孵化(ふか)するのを見届けると死んでしまう。
 タコのメスはオスを殺して食べる。
 タコって、こんなにも人間によく似た賢い動物なんですね…。すっかり見直しました。
(2024年4月刊。2300円+税)

フランスの庭、花のたより365日

カテゴリー:フランス

(霧山昴)
著者 西田 啓子 、 出版 青幻舎
 著者はフランスに住んで生活している日本人女性です。パリから60キロ、フランスの北部の小さな村、シェライユに住んでいます。麦畑に囲まれた自然豊かな田舎です。人間より多い野ウサギやキジ、野鳥そして虫が、たくさんの植物とともに息づいています。
 ただし、自然環境は少しばかり厳しいようです。夏は夜10時まで日が暮れない。ところが、冬は日照時間が短く、凍てつく寒さの日々です。
 著者の朝は、愛犬とともに散歩に出るところから始まります。犬は野ウサギが気になり、著者は植物の様子が気になり、それぞれ寄り道をしながらの散歩です。人通りの少ない田舎道を、肺にめいっぱい空気を吸い込みながら、のろのろと歩くのです。
 ところが残念なことに、散歩をともにした愛犬は15年たって寿命が尽きてしまい、今では庭の片隅に静かに眠っているのです。
 広大な花農園をもつ、ファーマーズフローリストとして生きている著者は1日1花、見事な写真で花々を紹介しながら、日記帳のように書きつづっています。
私も日曜日ごとにガーデニングを楽しんでいますので、プロとアマの違いこそありますが、庭の四季折々の花を愛(め)でることは共通しています。
 この本に紹介されているフランスの花で、わが家の庭に咲くのも少なくありません。
 いま、私の家には、朝顔が咲きはじめています。目の覚めるような真紅の朝顔が、私のもっとも好きな朝顔です。それから橙色のノウゼンカズラです。まだ少ないのですが、リコリスが咲きはじめました。そして、ピンクの芙蓉と赤っぽいネムの木の花。
 ようやくブルーベリーが最盛期を過ぎました。今年は大豊作でした。岩泉ヨーグルトと一緒に美味しくいただきました。
 花と木々に囲まれた生活は、本当に心が落ち着きます。
(2024年5月刊。2600円+税)

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