法律相談センター検索 弁護士検索
2024年5月 の投稿

罪を犯した人々を支える

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 藤原 正範 、 出版 岩波新書
 著者は、家裁の調査官を28年間つとめ、大学で教員もしてきた「少年非行の専門家」。
 そして、最近は、ひまを見つけて裁判所に出かけて法廷を傍聴しているのです。著者は、多くの人に刑事裁判の傍聴をすすめています。すすめている傍聴の対象は民事裁判ではありません。民事裁判だと、法廷での証人尋問はあまりありません。書類の交換の場と化している口頭弁論も、今ではインターネット上がほとんどですので、傍聴自体が出来ません。
 刑事裁判だと、公開の法廷で進行しますし、ほとんどの事件では傍聴券が発行されることもなく、自由に傍聴できます。
数多くの裁判を傍聴した著者の感想の一つは、「今の裁判は、関係者が寄ってたかって被告人に恥をかかせ、人格を貶(おとし)めているようにしか見えない」というもの。弁護人として活動することのある私には、少し意外な感想です。
高齢男性に性欲が動機になる犯罪が少なくない。性犯罪を犯した少年より高齢者のほうが「要保護性」が高いように思われる。この指摘は、そうかもしれないと、私も思います。
 刑事司法手続きの中に、人を大切にする気持ちを育(はぐく)む機能は内包されていない。したがって、更生とは、裁判の結果、送り込まれる刑事施設で自分を見つめ直し人間性を回復すること、というのはフィクションだ。この点は、私もまったく同じ考えです。
 刑務所に入ったら、かなりの人が(決してすべてではありません)、悪いことを覚えてしまう危険があります。自覚して人間性を回復するようなことは、現実にはあまり期待できないと私は考えています。なので、実刑より執行猶予の判決のほうが、よほど本人の更生に役に立つことが多いというのが私の考えです。
 「罪を犯す人」は、日本全国で1年間に600万人いる。ええっ、そんなにいるの…、と思ったら、なんと580万人は道路交通法違反です。一時停止違反とかスピード違反が含まれています。警察庁が起訴した人は年間8万人ほど。そして、裁判所で実刑判決を受けた人は1万6千人弱です。執行猶予の判決は3万人が受けています。
 受刑者の罪名は窃盗と詐欺(万引と無銭飲食など)、そして覚せい剤取締法違反の三つで、男性の7割、女性の9割を占めている。
刑務所に収容される人の高齢化が進んでいる。男性で8%、女性で14%を占める。なので、刑務所では介護や認知症への対応に追われている実情にある。
国選弁護人の比率は地裁で85%、簡裁で92%を占める。私は被告人国選弁護士を30年前は月1件ほど受けていましたが、今では年に1.2件です。ただし、被疑者国選は2.3ヶ月に1件の割合で受任しています(今も)。
 罰金が支払えないので、労役場(刑務所)に入る人が年間3千人近くいる。
 弁護士が社会福祉士と連携して、「犯罪を犯した人」の社会での再出発を援助する制度が始まっています。まだ私は体験していませんが、社会福祉士の役割は司法の場でもますます大きくなっていると、最近つくづく実感しています。
(2024年4月刊。920円+税)

数学の苦手が好きに変わるとき

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 芳沢 光雄 、 出版 ちくまプリマー新書
 はて?と不思議だと思うこと、これが科学の芽だというのはノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎博士の名言。
 著者は45年間ものあいだ、10の大学で教え、1万5千人の大学生に対して楽しく数学を教えてきました。このほか小・中・高校生の1万5千人にも数学の話をしてきたそうです。そんな経験をふまえた楽しく役に立つ小話が盛り沢山です。
 私は高校2年生の終わりに理系から文系に志望を変更しました。数学のひらめきが自分には欠けていると自覚したからです。それでも高校3年の数Ⅲまではしっかり勉強しました(すっかり忘れてしまったので、中学数学を勉強しなおしたこともあります)。
 この本では、数学を楽しく学べる話がいくつも紹介されています。
 たとえば、宇宙飛行士の宇宙遊泳の姿は、ネコが高いところから落ちるときの態勢の変化を参考として編み出されたもの。ネコはビルの50階(地上から250メートルの高さ)から落ちても助かることがある。空気抵抗を最大限に利用して、落下速度が一定以上は大きくならないようにしている。
人間の「じゃんけん」は、一般的にはグーが最多で、チョキが最少、パーはその中ごろに…。なので、じゃんけんは、一般論として、パーを出すのが有利だということ。学生たちが自ら実験して得たデータなので、確実です。
1000ミリが入るはずの牛乳パックは底辺が7センチで高さ19.5センチなので体積を計算すると、955.5センチ立法メートルしかない。すると、この差44リットルはどこに消えたのか…。その答えは、なんと、牛乳パックは、横にいくらかふくらんでいるから…。なんと、そういうことなんですね。単純な計算どおりではないというわけですね。
列車速度を腕時計ひとつで測る方法があるといいます。いったい、どうやって…。
路線の長さは1本が25メートル。なので1分間に何回鳴くか、カウントすればその列車の進行スピードを把握することができる。なーるほど、ですね。
好きこそモノの上手なれ、ですよね…。数学が好きになったら、苦手意識を克服したら、新しい世界が目の前に広がることは間違いありません。
(2024年1月刊。880円)

陸軍将校たちの戦後史

カテゴリー:日本史(戦後)

(霧山昴)
著者 角田 燎 、 出版 新曜社
 旧陸軍のエリートとして戦争の中枢にあった陸軍将校たちのうち生き残ったものは戦後、政治活動から距離をとって、親睦互助を目的とした偕行社を設立しました。
 本書は、その偕行社が、当初は戦争責任も問い、自己批判もしていたのですが、次第に政治団体となっていき、戦争責任をあいまいにする方向で動いていくのです。本書は、その経過をたどっています。
 陸軍士官学校(陸士)の卒業年次には大きな意味があります。といっても、最後の陸士61期の生徒は5000人を超すとのこと。東条英機は16期、牛島満(沖縄戦の司令官)は20期、硫黄島で戦った栗林忠道は26期、悪名高い辻正信は30期、そして戦後に政界で暗躍した瀬島隆三は44期。
 太平洋戦争の特徴の第一は、大量の餓死者を出したこと、第二は、海没者が多いこと。海軍の軍人・軍属が18万2千人に対して、陸軍もほぼ同数の17万6千人となっている。
 第三は、特攻隊、特攻戦死が登場したこと。第四に、自殺や軍医等による傷病兵の殺害、投降兵士の殺害が多かったこと。
「偕行」とは、「共に軍に加わろう」という意味。偕行社は、1957年に財団法人となった。
 やがて偕行社は、強烈な反共主義的姿勢をもち、軍人恩給などの権利を求める団体として活動していくようになった。
 ビルマ(ミャンマー)でのインパール作戦の指揮官・牟田口廉也(22期)は、戦後なお、「自分のやったことは間違っていなかった」などと堂々と開き直りました。
 偕行社は、会員の老齢化によって、元本の取り崩しが続いて、29億円の資産が13億円となってしまった。そして会員が減少するなか若い人たちを迎え入れるため、自衛官も会員になれることにした。
 私の母の異母姉の夫(中村次喜蔵)は、第一次大戦時の青島(チンタオ)攻略戦において、独軍の要塞を攻略したことで、大正天皇の面前で講和をしたとのことです。この中村中将は、日本の敗戦後、なおソ連軍と戦おうとしていました。そこへ、無駄な抵抗はやめろと言わんばかりの停戦命令が大本営から来たあと、自決したのでした。その自決の前後を知りたくて、偕行社に照会したのです。すると、自決したときの状況や場所など、本当に細かいところまで教えてくれました。本当に助かりました。偕行社が実際に生きた団体であることを実感しました。
(2023年7月刊。2900円+税)

父の革命日誌

カテゴリー:韓国

(霧山昴)
著者 チョン・ジア 、 出版 河出書房新社
 パルチザンの娘として生きてきた主人公が父の死に直面して回想していくというストーリー展開です。韓国で32万部も売れ、しかも当事者世代というべき70歳代に読まれているというより20代、30代の若い読者が圧倒的だそうで驚きます。
 私は、この小説を初め、著者自身の体験記(ノンフィクション)と思って読んでいましたが、やはり小説は小説のようです。訳者あとがきによると、両親以外の登場人物はおおむね架空の人だといいますから、両親がパルチザンの生き残りであったこと自体は歴史的事実だし、周囲の人々にもモデルがいるそうですから、まったくのフィクションではないわけです。
それにしても心が大いに惹かれるセリフ、文章があふれています。
 「きみは何のために智異山(チリサン)で命を懸けた?」
 「両親は、純粋無垢な社会主義者だった。世間知らずの田舎者だった」
 「父は、いついかなるときも社会主義者だった」
 「父は若いとき、無数の死を目撃した。首をはねられた同志たちの死体がアジトの近くにそこらじゅうに転がっていた」
 「幼い娘が石ころにつまづいて転んでも両親は幼い娘を起こさなかった。そうして育った娘は誰に対しても弱音を吐いたことがない。泣いたこともない。これがまさにパルチザンの娘の本質なのだ」
 「両親は、麗水・順天事件の直後に山に入った旧パルチザンで、そのうち生き残った人は数えるほどしかいない。それだけ運の強い人たちなのだ」
 「私は何も選んでいない。アカになりたいとか、アカの娘に生まれたいと思ったこともない。生まれてきてみたら、貧しいアカの娘だったのだ」
 子どもは親を選べないのですよね…。
父は頭がよくて立派な人。その立派さによってアカになって一族を滅ぼした人でもあった。父は家門の誉(ほま)れであると同時に、家を没落させた元凶なのだ。
 「あの時分は、頭のいい奴はみんなアカだったよ」
 結果の是非はともかくとして、父は命を懸けて何かを守ろうとした。それにひきかえ、自分は現実から目をそむけ、不平不満をこぼしているだけだ…。
 父は言った。「自分の得にならんことには容赦なく背を向けるのが民衆だ。そもそも民衆が背を向けるような革命は間違っているんだが…」。
 この本のなかに、まだ8歳だった弟が党幹部の兄を誇らしく思っていて、それを堂々と告白したために父親が目の前で軍人に殺害されたこと、それ以来、おしゃべりだった弟が極端に話さない無口の男になり、酒浸りになり、兄とケンカばかりしていたという状況が紹介されています。泣けてきました…。
 車中で、そして喫茶店に入って一気に読了しました。ご一読を強くおすすめします。
(2024年2月刊。2310円)

植物観察の事典

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 大場 秀章 、 出版 ヤマケイ文庫
 私の数少ない趣味、というか生き甲斐の一つがガーデニング(庭づくり。つまり、花と野菜の栽培)です。東京そして神奈川に10年間住んでいました。憧れて上京したのですが、自然の四季折々を実感することができないのが本当に寂しく思いました。それで、東京直下型大地震の話が出たとき、これは何としても田舎に帰ろうと思ったのです。今は、広い庭(東京だと建売住宅が少なくとも4軒以上は十分に建つ広さがあります)に、四季折々の花を楽しんでいます。
 3月末から4月にかけては、なんといってもチューリップです。毎年、少なくとも300本は自宅の周囲に球根を植えて、愛(め)でて楽しんでいます。その前後は水仙ですね。チューリップが終わるころにジャーマンアイリス、そして黄ショウブ、それからクレマチスが次々に咲いてくれます。今はアマリリスの大輪の花が魅惑的です。私個人のブログで写真を公開しています。一度のぞいてみて下さい。
 そして、ジャガイモを梅雨に入る前に掘り上げます。タマネギをつくっていたときもありますが、あまりにたくさんとれて、今はつくっていません。ジャガイモより難しいのはサツマイモです。今年も苗を植えましたが、なかなかうまくいきません。小粒で、大きくならないのです。恐らく、土地が肥えすぎているのだと思います。長年にわたって生ゴミを庭に植えこんでいますので、庭の土はふかふか、黒々としています。
 こうやって日曜日の午後を過します。私の最大の楽しみの一つになっています。
 キャベツを植えたこともあります。これは大変でした。毎日毎朝、青虫を割リバシでつまんで取り除くのですが、いつだって取りきれません。これは、農家が農薬を使いたくなるのも当然だと思いました。
 ネギも植えました。これは失敗がありません。薬味として、刻んで、美味しくいただきます。
 ドングリは、たくさんの、実のなる年と、それほどでもない年がある。それは、何年かに一度、たくさんの果実をつくると、急に動物が増えることはないので、ドングリを食べきれず、多くのドングリが生き残る。そうやって子孫を確保している。うむむ、そういうことですか…。
 トリカブトの毒も、少量なら薬になる。人間にとって、アルカロイドは毒であると同時に薬でもある。ソテツの実やヒガンバナの球根は猛毒だけど、人間はすりつぶして水にさらし、リコリンというアルカロイドを抜いて、飢饉(ききん)のときに食べていた。やはり、生きるための知恵ですよね。
ひところ黄金色に輝くセイタカアワダチソウの群落があちこちに見ましたが、今は、それほどでもありません。繁殖力は旺盛なのですが、時間が経過すると、個体の寿命の到来とあわせて自家中毒によって、自らもその場所から追い出されてしまうのです。
 知らない植物の話が盛り沢山の本でした。
(2024年3月刊。1100円)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.