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2024年2月 の投稿

だれも私たちに「失格の烙印」を押すことはできない

カテゴリー:韓国

(霧山昴)
著者 キム・ウォニョン 、 出版 小学館
 著者はソウル大学出身の障がいを持つ弁護士。骨形成不全症のため、1級身体障害者として車イス生活を送っている。小学校は入学を拒否され、中等部では特別支援学校に入り、一般高校からソウル大学に入学。ロースクールを卒業して司法試験に合格した。ソウルで、作家、パフォーマー、弁護士として活動している。
 この本は、2018年に発刊され、韓国ではベストセラーになった。
 著者は15歳のころから今まで、砂の城だった。軽く触れるだけでさらさらと崩れてしまう。品格には最高と最低があるが、尊厳にはそれはない。
 すべての人類のすべての国民が同等の水準で有するのが尊厳だ。「最高の尊厳」という言葉はおかしい。
 著者は長らく基礎生活受給権者(日本の生活保護受給者)として生きてきた。
 障害を受け入れることは、障害を何か価値のある産物だと信じることとは異なる。
自分の人生の著者という概念は、人々がみな固有の物語と観点をもつ存在であり、自分の物語を主体的に紡ぐ存在であることを強調する。
 どんなにポジティブで強い精神を有する人であっても、横断歩道を渡れず、トイレにも行けないとしたら、人生のモチベーションを上げることなど、不可能だ。
 一日中、排尿を我慢しながら希望をもつことはできない。ある人は、あらゆる権利のなかで、「排尿権」こそ人間にとってもっとも重要な権利だと強調している。
 排尿検と同じく「移動権」は、法曹界はもちろん、一般の人々でも使われていなかった言葉だ。なーるほど、言われてみるまで考えたこともありませんでした。
 2005年1月、交通弱者の移動便宜増進法が制定された。障害者運動は社会権と自由権という伝統的な二分法に亀裂を起こさせながら「移動権」を明らかな法的概念として成立させた。
 障害者に便宜を提供する義務をもつということは、障害者に配慮しなければならないという言葉ではない。身体的または精神的な特性を抱え、長い間、自分なりのやり方で生きてきた人生の物語を尊重してほしいという、こうした障害者の要求に向き合うものである。
 人はみな、お互いの人生が尊重に値し、美しいものであることを証明するために努力しなければならない。しかし、努力するうちに、強靭な闘士の姿でなければ、自分ですら自分を愛することができない孤独な姿を発見するかもしれない。それでもかまわない。
 私たちは尊厳があり、美しく、愛し愛される価値がある存在なのである。だれも、私たちに失格の烙印を押すことはできない。
 身体障害者として育ち生きてきた著者ならではの深い洞察にみちみちた本です。それでも、こんな内容の本が韓国でベストセラーになるとは不思議な気がしました。日本では、残念なことに、こんな真面目に考える本が大いに売れるなんて考えられないように思います。いかがでしょうか…。いろいろ深く考えさせられました。
(2022年12月刊。1800円+税)

国債ビジネスと債務大国日本の危機

カテゴリー:経済

(霧山昴)
著者 山田 博文 、 出版 新日本出版社
 現在、国債などの政府債務残高は1441兆円(2023年度末)で、GDPの2.6倍。これは主要国で最悪の水準。政府債務が対GDP比で2倍をこえる水準というのは、第二次世界大戦の敗戦時と同じ水準。
 戦後の日本では軍事国債の増発はなかったのに、今や戦後70数年間に累積した国債などの政府債務残高は、第二次世界大戦に日本が参戦したときと同じ水準に達している。
 国債発行によって実現したのが大型公共事業であり、これによって巨大企業は蓄財できた。そして、国債ビジネスで蓄財した民間金融機関は莫大な利益をあげている。国債は、潤沢な資金を運用し、利益を追求する大資本にとって、安心して投資できる第1級の金融商品である。
 たとえば、みずほ銀行は、4451億円の業務純益を計上したとき、その内訳として際立つのは、5倍にもなった500億円という国債売却・償還益。
 大手銀行は、中小企業に対する貸出を激減させる一方で、マナーゲームを展開して投機的な経営に精を出している。
 国債を売ってひともうけするという「国債バブル」が生まれた。
 大口取引に適合する国債市場は、株式市場の売買高を1桁ほど上回る1京円(1兆円ではありません)という巨大市場となっている。
 国債は、政府が利子の支払いと元本の償還を保証しているので、投資家にとっては、株式などよりも安心して投資できる、信用力の高い投資物件だ。
 3メガバンク(三菱・三井・みずほ)にとって、国債売買差益は数千億円にもなる。株高の恩恵を最大限に享受したのは海外の投資家と大企業。
その一方で、貯蓄ゼロ世帯の割合は3割を超えている。
日銀(日本銀行)の国債保有高は580兆円、日銀券発高121兆円の4.7倍になっている。日銀の総資産は733兆円にまでふくれあがった。
 大手金融機関20社は、日銀を相手にした国債取引によって、今日までに10兆円前後に達する隠れた補助金を日銀から受け取っている。
 日本には貯蓄ゼロ世帯が3割もいる一方で、5億円以上の純金資産をもつ超富裕層が9万世帯、1億円以上だと140万世帯もいる。タワーマンションが続々建って、すぐ売れるわけなんですよね…。
 そして、大企業の内部留保は511兆円。投資家は、国内の株式配当金で毎年30兆円、海外投資から20兆円もの利子・配当金を受けとっている。
 今や、日本の最大の貿易相手国はアメリカ(14%)ではなく中国(25%)である。
 日本の国債ビジネスの実態と問題点などを分かりやすく解説している本です。一読して経済的認識を深めることができました。ご一読を強くおすすめします。
(2023年11月刊。2100円+税)

プーチン(下)

カテゴリー:ロシア

(霧山昴)
著者 フィリップ・ショート 、 出版 白水社
 ロシア経済は原油価格の上昇とルーブル切り下げ(1998年)のおかげで改善した。ルーブル切り下げで、ロシアの製造業者の競争率が上がった。
 プーチンは、赤ん坊のとき、母親が共産党員の父親には内緒で洗礼を受けさせた。これはスターリン政権下ではよくあることだった。ソ連は公式には無神論だったが、母親は、しばしば赤ん坊をこっそりロシア神父のもとに連れて行った。
 プーチンによれば、ソ連の誤りは、アフガニスタンに親ソ政権をつくりあげたこと。アフガニスタンはできるような国ではない。アメリカは同じ間違いを繰り返してはいけない。親米政権をつくっても、平和はもたらせない。
 たしかに、アフガニスタンは今やタリバン政権なんですよね…。アメリカがつぎ込んだ莫大なお金はいったいどこに消えてしまったのでしょうか。アメリカだけでなく、日本も相当の税金をつぎ込みました…。今は亡き中村哲医師のような人道支援こそ、日本のやるべきことだと私は確信しています。
 モスクワは、イラクのフセイン政権について、CIAよりはるかに優れた諜報を得ていた。フセイン政権は核兵器など持っていない。それを入手するつてもないのをプーチンは知っていた。また、イラクがアルカイダと何のつながりもないことも知っていた。
 プーチンは、自分の過ちを、そう簡単に水に流せる人物ではない。これって、かのスターリンにそっくりですよね。スターリンは、自分を批判した人間がいたら、いつか必ずうらみを晴らそうと、しつこく覚えていたのでした。
 プーチンとブッシュ大統領は、本当にウマがあったようだ。「とても信頼できるパートナーで、まともな人間」と評した。オバマもメルケルも、プーチンは嫌っていたそうです。
 プーチンはイデオロギーが嫌いだ。プーチンは実務家なのだ。プーチンにとって、スターリンの専制主義は、ロシアの経済近代化に必要な条件をつくり出したものとされた。
 スターリンは、確かに圧制者で、多くの人は犯罪者とも呼ぶが、ナチではなかった。プーチンは、こう言ってスターリンを擁護する。似たところがあるということなんでしょうね。
 ロシアは、いまだに超官僚化された経済をもち、役人たちがすべてを決める権利を私物化する、超官僚化された国家をもっている。公共部門の雇用は減るどころか、300万人も増え、労働力の4割を占めるようになった。官僚制と汚職との有害な組み合わせは、ロシア経済が潜在力を完全に発揮できない大きな理由。
 プーチンは、朝9時にクレムリンに出勤。会議は午前10時に始まる。テレビのニュース報道はなるべく見る。出退勤の車の中で、ビデオ録画でみる。
 仕事の日は、夜10時か11時に終わるが、ときに午前1時まで続く。
 プーチンは反発する人間を歓迎する。独自の意見を提供できない人間にはすぐ興味を失う。
 プーチンは型にはまらない思考のできる人間だ。
 プーチンは、概要資料を完璧に頭に入れられる。プーチンの記憶力は非凡だ。
 当局は、プーチンの内輪メンバーの運営する企業にもうかる契約を支えて、彼らが国家を犠牲にして不当な利益を得られるようにした。
 プーチン個人は蓄財の必要はない。プーチンの未来を保証するのは、お金ではなく、プーチンの後任による保護だ。
 大統領に就任してからプーチンの暗殺計画は5つあった。
 ロシアの若者の死亡率は高い。アルコール依存、ドラッグ濫用、事故とひどい保険制度のためだ。
 プーチンの政府は、ウクライナに侵攻すると、はじめの10日以内にキーウが陥落し、ゼレンスキー政府が逃亡すると予想していた。そして、親ロシア高官のネットワークによってウクライナに新政権ができるはずだった。ただし、この点はロシアと同じくアメリカも同じことを予想していた。ウクライナの汚職は今もひどいようですが、ロシアへの反攻を支える軍の志気は予想以上に高いということなんでしょう。
 プーチンの計画の大穴は、ロシア軍のプーチンの設定した任務を達成できないこと。アフガニスタンに侵攻したときと同様に、ロシアは目標達成には不十分な規模の軍隊しか集めることができなかった。
 プーチンとロシアの現状を深く知ることのできる本です。
(2023年6月刊。4500円+税)

平和に生きる権利は国境を超える

カテゴリー:中近東

(霧山昴)
著者 猫塚 義夫 ・ 清本 愛砂 、 出版 あけび書房
 まずもって、ハマス(この本では「ハマース」)によるイスラエルの人々に対する急襲行為が許されないものであることは言うまでもありません。しかし、現在、私たちの目の前で進行しているのは、それに対するイスラエルの「反撃・報復」というにはあまりに大規模な軍事作戦です。それはまさしくジェノサイドレベルのもので、絶対に容認できません。直ちに停戦し、和平交渉に入るべきです。もちろんハマスの人質返還は当然です。
 イスラエルはガザ地区に対して事前警告なしに空爆していて、病院や国連の施設までも爆撃しています。ひどいです。ひどすぎます。
 これまでガザ地区へは中大規模の軍事攻撃が4回あり、今回が5回目。16歳以下の子どもたちは、生まれたときから戦争しか知らない。
 失業率は50%。15~28歳の若者については、失業率は60~70%もの高率。
 イスラエル軍はハマスの攻撃に加担した者の家族の家まで破壊している。連座制の適用。ハマスとイスラエルの軍事力の違いは、中学生の野球部とメジャーリーガーが試合をしているようなもの。格段すぎる格差が明らか。
 イスラエルのガザ地区への空爆で投下された爆弾は、8日間で6000トン。これは戦前の東京大空襲のときに投下爆弾が2200トンだったので、その3倍に近い。しかも、ガザ地区は東京23区の3分の1でしかない。
 ガザの人口の40%以上が18歳未満。ガザ地区は、縦50キロ、横5~8キロ、面積360キロ。ここに220万人が暮らしてきた。うち7割以上が難民。
ガザには小規模の大学が5校。医学部のある大規模の大学が2校ある。すでに死者2万5千人、1日に200人以上が死亡しているという悲惨な現実に、私の心は恐れ、おののいてしまいます。
 日本政府は憲法9条を有する国として、平和善隣外交を強力に展開すべきです。
 やってるポーズだけの岸田首相ですが、ともかく性根を入れてホンモノの平和外交をすすめてほしいものです。万一、それが出来ないというのなら、首相をやめてもらうしかありません。
(2023年11月刊。1760円)

カブトムシの謎をとく

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 小島 渉 、 出版 ちくまプリマー新書
 カブトムシは、私たち日本人には、とても身近な存在です。街の中の公園にフツーに生息していますが、これは世界的には珍しいことだそうです。
カブトムシはペットだが、害虫でも益虫でもない。カブトムシを研究した学術論文は多くない。
 カブトムシは、コガネムシ科。カブトムシ亜科は世界に1500種類。似ているクワガタムシはコガネムシ科ではない。カブトムシのオスの武器である角(つの)は頭部(および胸部)の表皮が変形したもので、クワガタムシのオスの武器は大顎(あご)が発達したもの。
カブトムシは青森県を北限とし、南は沖縄県まで分布している。国外では、台湾、韓国、中国など東アジアに広く分布している。
メスは生涯に100~200個の卵を産む。1年で、ちょうど1世代が回る。成虫は短命で、1~2週間ほどで死ぬ。カブトムシはオスのほうがメスよりも大きな体をもつが、これは昆虫界では例外的。メスは、生涯に1度しか交尾しない。ただし、これは日本のカブトムシだけの例外的なもの。これって、珍しいことですよね、きっと。
カブトムシの天敵はハシブトガラスとタヌキ。それからノネコとハクビシン。
カブトムシは体重の2~4割を脂肪が占めている。そして、動きが鈍いため、捕まえるのに苦労しない。
カブトムシがクヌギの樹皮の樹液をなめているところへオオスズメバチがやって来ると、カブトムシを力ずくで追い出してしまう。著者は、その理由について、クヌギの樹皮を削って樹液を出させているのは、実はオオスズメバチで、せっかく苦労してつくりあげたエサ場(樹液場)をカブトムシが占領しているのを見つけたとき、怒りに燃えて排除しているのではないか、そう考えています。なーるほど、です。  
どこでも同じように見えるカブトムシが、実は、それぞれの他の歴史を背負った固有の存在だということを著者は一つ一つ実証していきました。
それにしても、小学生(柴田亮さん)が、自宅の庭のシマトネリコの木にやって来るカブトムシをじっくり観察して、夜間に行動するはずのカブトムシが昼間もそのまま残っていることを実証したというのです。ものすごく根気のいる作業だったと思います。
その観察をもとに著者は、樹液が少ないからではないかと考えました。このように、推測かもしれないのを科学的に実証していくというのは大変な作業だったと思います。
カブトムシの知らなかった一生を学ぶことが出来る面白い新書です。
(2023年8月刊。880円+税)

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