弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年12月13日

肥料争奪戦の時代

社会


(霧山昴)
著者 ダン・イ―ガン 、 出版 原書房

 三大肥料要素のリンについて深刻な状況にあることを初めて知りました。
 リンは植物の生長に欠かせないし、人類にとっても必要不可欠。
リンは、人間が食べたものを筋肉を動かす化学エネルギーへ変換してくれる。人間の骨も歯もリンから出来ている。リンは人間のDNAにも含まれている。いや、リンこそDNAそのものと言ってよい。
 リンは生命の輪を完成させる根本的な結び目だ。貴重な資源であるリンの埋蔵量が減少しているのに、人類は無駄に消費したうえ、事態をますます悪化させている。
 世界のリン埋蔵量の8割近くがモロッコなどの西サハラ地域に偏在している。
 リンは悪魔の元素と呼ばれる。1815年6月、ナポレオンが敗退したワーテルローの戦場で何千もの兵士が亡くなった。戦場では死んだ兵士からの略奪が横行していた。着ていたもの、ポケットに入っていたもの、人間の頭髪(かつら製造業者へ)、歯(義歯をつくる歯医者)、そして遺体は肥料となってイングランドの農業振興に役立たされた。知りませんでした。
 1950年代のアメリカで、洗剤にリンが使われた。泡立ちが良いというので主婦から大歓迎された。ところが、河川も海も、いつまでも消えない泡に悩まされることになった。しかも、緑藻が水面にはびこり、湖は死んでしまった。
 1990年代に入って、アメリカの洗剤業界は自主的に家庭用洗剤からリンを取り除いた。
 しかし、牧畜場から排出される汚水のなかにリンは含まれている。シカゴの五大湖は3000万人もの人々にとって飲料水の水源である。そこの汚染が止まらない。
 農場主が何十年にもわたって肥料を大量にまき続けた時代のリンが、農地の土壌に大量に蓄積されている。この農地から、過剰なリンがしみ出していくことになる。
 人糞のなかにもリンが含まれている。なのでトイレの流水からリン・窒素・カリウムを取り出し、安全な肥料に変換する技術の開発が進められている。
 地球の温暖化も心配ですが、リンをめぐる環境悪化からも目を離せないことがよく分かりました。知らない、恐い話がたくさんありました。
(2023年7月刊。2800円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー