弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年12月11日

匂いが命を決める

生物

(霧山昴)
著者 ビル・S・ハンソン 、 出版 亜紀書房

 人間は他の生物ほど嗅覚情報に頼っていない。
 あなたも私も、そう思い込んでいるだろう。しかし、実は、人間の生活の重要な場面の多くで嗅覚に頼っている。
 アホウドリなどの海鳥は、プランクトンの豊富な漁業を匂いを手がかりとして探し当てている。植物だって、匂いを感知できていて、匂いのメッセージを送りあっている。
 ええっ、ホントなの...、驚くばかりの記述が続きます。
人の嗅覚受容体が400種ほどもあるからこそ、何百万種類もの異なる匂いを識別して嗅ぎとることができる。
 プラスチックは、海に漂ってるうちに、数ヶ月もすると、DMS(ジメチルナルファイド)を放出するようになる。なので、自然界の生物たちは、これ(プラスチック)を食べられる物質だと錯覚させてしまう。
 人間の遺伝子の1~3%が匂いを嗅いで、それを識別し、反応を引き起こすために働いている。
 犬にとって、匂いを嗅ぐことは知的刺激の源。匂いを嗅ぐことによって、犬は状況を理解し、その場をうまく切り抜ける。犬は嗅覚だけを使って、過去から現在までに何があったかを理解し、未来さえも見通す。人間が500万個の嗅細胞をもっているのに対して、犬の嗅細胞は数億から10億個もある。犬のほしがりそうな情報のすべてはお尻とその付近にある。
長いあいだ、鳥には嗅覚がないとみられてきた。しかし、アホウドリが進路を知るときは、嗅覚が大きな役割を果たしている。
 サケは必ず、「自分の生まれた」流水の川を探しあてて、そこに卵を産む。視覚的情報と電磁的信号、そして鋭い嗅覚を総合的に利用して故郷に帰る道を探しあてている。
 サメもまた、匂いで方向を探知する高い能力をもっている。サメは、ある種の匂いを2500万分の1の濃度で検知できる。
 サメの脳の3分の2は嗅覚器官蚊を誘引するかどうか、人によって明らかな個人差がある。妊娠中の女性は妊娠していない女性より2倍も蚊を引き寄せやすい。ビールを飲んだ男性は、明らかに他の男性より多くの蚊を引き寄せる。
 植物は攻撃されると、被害を訴える合図として、VOC'Sを放出する。
 私は、自慢にもなりませんが、あまり鼻が利きません。水仙の花の匂いどころか、キンモクセイの香りもなかなか楽しめません。コロナ禍のなかでマスクをしていると、そのせいにも出来ますが、マスクをほとんどしない今、なんで匂いが分からないの...、と非難されると、返すコトバはありません。でも、早春の水仙って、そんなに香り(匂い)がするものなのでしょうか...。
 裁判所で調停事件のとき、待たされているあいだに、300頁ある本書を読了してしまいました。今は調停事件を何件も担当しています。
 
(2023年9月刊。2600円+税)

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