弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年12月 3日

無人島、研究と冒険、半分半分

生物


(霧山昴)
著者 川上 和人 、 出版 東京書籍

 日本にも無人島がたくさんあるようです。本書の舞台となった南硫黄島は、第二次大戦のときの激戦地、硫黄島ではありません。本州から南に1200キロのところにある絶海の孤島。東京都小笠原村に属しているが、過去に人間が定住したことはない。
 この島は、半径1キロ、標高も同じく1キロで、傾斜角度45度の急勾配の島。島の周囲は数百メートルの高さがある崖で囲まれた天然の要塞。
 なので、この島は人間による人為的な撹乱(かくらん)を受けていない、原生の生態系がそのまま維持されている。だから、研究のために島に上陸した人は、自然排泄は許されず、尿はそのままで許されるけれど、固形物のほうは携帯トイレで持ち帰ることが義務づけられている。うひゃあ、そ、そうなんですね...。
 この島の調査は、1936年と1982年、2007年、2017年に4回あっただけ。今回の2023年の調査は5回目。18人による2週間の調査のため、水は1日1日4リットル、予備をふくめて1104リットルを用意。食事は630食分。個人の持ち込みは1人15キロ以内。それでも総計1.6トンの物資を運び込んだ。
 南硫黄島には平地もなければ川もない。もちろん地下洞窟なんてない。崖の上からは、ボロボロと落石が降り注ぐ。
 この島には、タカやハヤブサなどの猛禽(もうきん)類がいない。なので、オナガミズナギドリが繁殖している。これまでのところ、この島にはネズミも侵入していない。ミズナギドリの仲間は、地下にトンネルを掘って、巣をつくる。控え目な鳥だ。
 島の生態系は、海鳥による八面六臂(ろっぴ)の活躍によって形づくられている。
 南硫黄島のウグイスもメジロも、この島だけでしか生きられない。
絶海の孤島で生活するなんて、私には考えられもしませんが、こんな冒険をしてみたい気持ちは、ほんのちょっぴりだけはあるのです。探検隊の一員にでもなったかのような気分で読みすすめました。面白い本です。
(2023年9月刊。1760円)

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