弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年12月 2日

不便なコンビニ

韓国


(霧山昴)
著者 キム・ホヨン 、 出版 小学館

 今では、さすがの私もコンビニを日常的に利用しています。まだ辛うじて小さな商店が町のあちこちにあったときは、意地でもコンビニを利用しないようにしていました。でも、町の商店がほとんどなくなってしまった今では、選択する余地なくコンビニを利用せざるをえません。
 日曜日のお昼、いつも行く小さな喫茶店が貸し切りになっていて利用できないときには、隣のコンビニでチヂミやサラダを買って、事務所の電子レンジでチンして食べています。弁当やおにぎりを買うことはありません。それでも、多彩な品ぞろえがあって、目についたものを手にとり、買って帰ります。
 東京や福岡だと、コンビニのレジには外国人が目立ちます。もちろん、日本語でやりとりしますし、できます。といっても、どんどん機械化がすすんでいて、会話する必要がなくなりつつあります。そのうち無人化してしまうのでしょうか、味気ないですよね...。
 この本には韓国のコンビニが登場し、そこが主要な舞台となるのですが、韓国のコンビニは日本のように大手系列下に入らないでもやっていけているのでしょうか。つまり、コンビニのオーナに、いくらかの商品選択権があるのか...という疑問です。
たくさんの商品を仕入れすぎて困っているという話も出てきます。日本でも同じことはきっと起きているのでしょう。そして、期限切れで廃棄する弁当の話も出てきます。これが日本のコンビニでも大問題となっていました。コンビニ本部はその厳守を求めるくせに、そのロスは本部ではなく、オーナー側に責任を押しつけるというのです。これでは「経営者」(オーナー)は、たまったものではありません。
コンビニはどこでも集中出店戦略をとります。つまり、近くにコンビニが次々に乱立して苛酷な競争を強(し)いられるのです。
また、コンビニで深夜に働く店員の確保には韓国でも苦労しているようです。
一律「24時間営業」なんて、やめたらいいと思うのですが、本部は絶対に許しません。まったく現代版の奴隷労働です。
この本は、ソウルの片隅でひっそり息づく不便なコンビニ。そこで働く、元ホームレスの店員とそこに来る客やオーナーたちとのあいだの涙と笑いの物語です。
韓国で150万部の大ベストセラーになったというのは読めばよく分かります。身近な存在のコンビニをめぐって、どこの家庭でも日常的に起きるような話がいくつも同時進行していって、実は、それが全部からまってくるのです。作者の読ませる力には感服しました。
題材にヒラメキがなく、書くことに行き詰っている女性作家がストーリーに登場します。どうやら作者の分身のようです。そんな狂言廻しもいて、記憶を失った元ホームレスの店員の働きかたが、周囲の人の凍った心を溶かし、逆に、周囲の人々の反応によって記憶を少しずつ取り戻していくというストーリー展開です。いったい、この元ホームレスの正体は...。
ぜひ、あなたも手にとって読んでみて下さい。
(2023年月6刊。1600円+税)

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