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2023年9月 の投稿

見直そう!再審のルール

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 安部 翔太 ・ 鴨志田 祐美 ほか 、 出版 現代人文社
 大崎事件で再審開始決定を取り消した最高裁はひどかったですね。許せないと私も思いました。担当していた鴨志田弁護士は、一時は責任をとって自死することまで考えたそうです。早まらなくて本当に良かったです。今や日弁連あげて再審法改正に向かって全力をあげていますが、本当にいいことだと思います。
 この本で、またまた、いくつか発見しました。
 その一は、道路交通法違反事件で、441人について再審開始が決定されたこと。これは自動速度違反取締装置の誤操作があったとして、検察官が再審請求し、それが認められたというものです。そんなことがあったなんて、私はまったく知りませんでした。
 2017年から2021年までの5年間に再審事件の手続を終えた人が13人いて、この全員が無罪になっています。有名な松橋事件、湖東事件といった殺人事件があります。そして、商標法違反事件まであります。
 その二は、再審には2つの型があり、ファルト型再審は偽証拠型再審。ここでは、証拠の偽造・変造などが確定判決によって証明されていなければならなかった。このハードルは、きわめて高い。もう一つは、ノヴァ型再審で、こちらは「新証拠」を必要とする。でも、現実には、こちらのノヴァ型再審が大部分を占めている。新証拠は「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」でなければならない。
 その三は、韓国で現職の女性検察官が果敢に内部告発したこと、それは、検察幹部の告発でもありましたので、その地位が危いところでした。
 再審開始決定に検察官の異議申立を認めるわけにはいきません。開始決定は、あくまで審理を開始するだけのことなのです。始まった再審で検察官は自分の主張を述べる機会が十分に確保されているのですから…。
(2023年7月刊。2400円+税)

年間4万人を銃で殺す国、アメリカ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 矢部 武 、 出版 花伝社
日本では銃による死者は2021年は1人、多い年(2019、2020年)で4人です。負傷者数も多くて8人。100人あたりの銃所有率は0.3丁、10万人あたりの銃による殺人発生率は0.02人。
イギリスは、100人あたり4.6丁、10万人あたりの殺人事件は0.04。これに対して、アメリカは、100人あたり120.5丁、10万人あたりの殺人事件は4.12。
イギリスの警察官は銃を所持していない。日本の警察官は銃を持っていますし、毎年のように拳銃を使った警察官の自殺が報道されていますよね…。
アメリカの総人口は3億3千万人超。もっている銃は4億3千万丁と、1億も多い。こんな国はアメリカだけ銃によって死んだ人は、殺人、自殺、誤射をふくめて4万5千人をこえる(2020年)。2005年に年3万人をこえ、2015年から急増して、2019年に4万人近くとなって、さらに飛躍的に増えた。
ベトナム戦争によって死亡したアメリカ人兵士は5万5千人で、アフガニスタンとイラク戦争で死亡したアメリカ人の7千人をはるかに上回っている。まるで、内戦が起きているような状況。ウクライナでロシアとの戦争で死んだ兵士に匹敵する。
アメリカでは国民の銃所持の権利を優先させ、銃規制の強化を怠ったことから、銃による暴力がまん延し、人々は安心して外出したり、楽しく暮らす自由を失ってしまった。
 市民が助けを必要としているときに警察官はすぐに来てくれない。だから、自分の身は自分で守るしかない。そのためには銃が必要だ。そう考えているアメリカ人が少なくない。しかし、家に銃を置くと、安全にならないだけでなく、本人や家族が銃で命を失うリスクを大きく高めてしまう。
 アメリカ人が護身用に銃を持とうとするのは、心の中に強い不安や恐怖をかかえている人が多いから。銃を持っていると、「自分は強くなった」と勘違いしてしまう人が出てくる。
 そして、巨大ビジネスとしての銃産業がある。コルト、スミス&ウェッソン、ウィンチェスター、レミントンなど…。
 アメリカで銃規制を反対しているのは、全米ライフル協会(NRA)。500万人の会員をもち、強力なロビー活動をし、銃規制を強化しようとする議員については激しい落選運動を展開する。
 銃規制を強化しようとする政治家はバイデン・民主党の政治家に多く、有権者もそれを望んでいる。ところが、トランプ前大統領の支持者は銃規制の緩和を求め、規制強化を妨げようとする。民主党と共和党の支持者は、規制強化と緩和に直結している。
 銃撃戦のとばっちりから半身不随になった若者の話も紹介されていますが、なぜカナダやイギリスで銃が厳しく規制されているのにアメリカで出来ないのか、不思議でなりません。
(2023年6月刊。1650円)

世に資する、信号電材株式会社の50年

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 糸永 康平 、 出版 石風社
 福岡県の南端・大牟田市にある会社が日本全国至るところにある信号機の関係で全国50%のシェアもっている。交通信号機をつくるメーカーだ。遠くドバイやドイツ、アメリカをふくめて世界にも目を向けている。なぜ、どうやって…、その疑問にこたえる本。
 信号電材株式会社の設立は1972年10月のこと。創始者の糸永嶢(たかし)48歳、従業員5人、売上高2千万円の極小企業としてスタートした。
 まずは交通信号用鋼管柱を考案し、鋼管内に入線することで、外部配管材をなくした。鋼管柱は軽量化し、施工性の良いものにしたことで、いくつかの県警本部から採用され、売上高が1億円をこえた(1976年)。
次に、1987年、日本初のアルミ製車両灯器の量産に成功した。
そして、「西日(にしび)対策灯器」という難題に挑戦する。西日があたると、信号灯が乱反射して、全点灯状態に見えてしまい、どれが点灯しているか分からなくなるという問題だ。これは交通事故発生の原因となっていた。
 これを克服するため、多眠レンズ式の疑似点灯防止機能付ランプユニットを開発し、外部からの太陽光を遮断し、灯器内部光を通過させるという画期的なレンズを開発した。
 1992年、東京でのテストで最優秀と評価され、1993年、警視庁が「西日対策灯器」として採用した。
1995年、昼間は明るく、夜は減光する自動調光機能付きのLED矢印灯器を製品化し、京都府警が採用した。
2003、2004年ころ、業界で談合疑惑問題が発覚し、利益率が低下した。
2009年には売上高が50億円台となった。そして、2009年に経理課長を解任するという不祥事が発覚し、2010年には国税局の調査を受ける。
2014年、低コスト型信号灯器を開発。全面アルミ製で軽量化、省力化もすすんでコストダウンを達成。西日による表面反射をおさえ、強風にも積雪にも強くなった。
県警ごとに信号灯は仕様が異なっているというのには驚きました。全国統一ではなく、500種類もあるそうです。LED素子を192個から108個へ減らし、消費電力は10VA以下。より西日に強い歩行者用LED灯器も開発した。
信号電材の社員は、今や150人(年商60億円)。この本には書かれていませんが、従業員はかなり国際色も豊かだと聞いています。これからも発展してほしい会社です。
(2023年7月刊。2500円+税)

護られなかった者たちへ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 中山 七里 、 出版 宝島社文庫
 福岡のタワーマンションを全室1億円以上で売りだしたら、まもなく完売。高級ブドーは1房160万円、1粒4万8千円…。福岡・天神に新装オープンした超高級ホテル(リッツ・カールトン)は素泊まりで最低10万円。目の玉が飛び出るような話です。そして、天下の日立では年棒1億円以上の取締役が20人もいるとのこと。いやはや、持てる者はますます富み栄える世の中です。
 その反対に、生活保護の受給者はどんどん増えています。月4万円ほどの国民年金しかもらえないという人の話を聞くと、いったいどうやって生活しているのか、不思議でなりません。
 60代の男性が公営団地で生活保護を受けながら一人で生活していて、電気代が心配なので、エアコンつけてないと聞いて、せめて昼間はショッピングモールに避難することをすぐに勧めました。すると、クルマを持っていないからバスで行くしかないけれど、足が弱って歩けないというのです。本当に深刻な状況です。
この本は、生活保護の現場の問題点を鋭くえぐっています。映画化されていますが、私はみていません。
 保護課の受付の人はこう言う。
 「生活保護は最終的なセーフティネットという位置ですから、少しでも余裕があるのなら、生活保護は受けない方向でがんばってほしいんです」
 「広い意味での不正受給が圧倒的に多い。低賃金であくせくするよりは、働かずに生活保護を受けたほうが楽だとか、生活保護を受けながら闇の商売をするとか、社会制度を食い物にしている連中が少なからず存在している。ところが、その一方で、本当に生活が困窮してぎりぎりの生活を送っているのに、他人に迷惑をかけるのは嫌だ、恥ずかしいという理由だけで、申請をためらう人たちがいる」
 「ここは感情ではなく、現状をよく見て生活保護を支給するところですから、あまり国に甘えないでください」
 肉体的にも精神的にも追いつめられた申請者が窓口で、さらに追い詰められている状況は、見ていて楽しいものではない。
 生活保護を申請する人は、ひどく追い詰められた精神状態にある人がほとんどなので、受給を妨害しようとするケースワーカーは、いわば天敵みたいなもの。不正受給の取り締まりの端緒はほとんど市民からの通報による。
 貧困の臭い。生活費を切り詰め、風呂も隔日になり、最後は食費も節約していくと、こんな臭いがし出す。
福祉事務所や保護課は、社会的弱者を救うための機関のはず。ところが、実際にやっているのは弱者の切り捨て。
そんな現場で働く、生真面目一本の公務員が狙われ、強制的に餓死させられて殺される事件が相次いで発生した。いったいどういうことなのか…。
 いやあ、本当によく出来た、考えさせられるストーリー展開でした。北九州で、「おにぎり食べたい」と書き残して餓死してしまった男性を、つい思い出してしまいました。こんな不公平・不平等な現実を一刻も早くなくしたいものです。
(2021年9月刊。858円)

本の夢、本のちから

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 椎名 誠 、 出版 新日本出版社
 著者は世界中を駆け巡っていることがよく分かる本です。体力に自信がなく、しかもコトバの通じないところには本能的に拒否感をもつ私は、行った人の体験記を読んで追体験したつもりになって、それで良しとしています。そりゃあ、私だって、ピラミッドを見てみたいし、マチュピチュにのぼってみたいし、イースター島やガラパゴス島にも出かけてみたいという気持ちは、気持ちだけはもっています。でも、そこに至るまでの道中の苦難を考えたら、写真を手にとって眺め、苦労話をエアコンの利いたところで、熱いお茶を飲みながらじっくり味わってすますことで満足します。
 日本人は、世界でも相当に旅行好きな国民と言われている。私も、たしかにそうだと思います。江戸時代にも日本人はどんどん旅行に出かけています。しかも、無銭旅行も大流行していました。その典型が伊勢参りです。そして、戦前までの日本は旅人を止めてくれる家が日本全国至るところに余りました。
 ところが、今や、寺の境内の隅にキャンプを張ろうとしても寺は拒否するは、近所の人が文句を言いに来るわで、泊まるのも容易ではないそうです。すっかり寛容さが失われてしまったようで、悲しい限りですね。
 世界を自転車で一周しているスイス人は、日本人を皮肉って、こう言った。
 「日本はアウトドアライフの盛んな国だと聞いていたけれど、キャンプできる場所は限られていて、テントが張れる森や野原がない。しかも、海岸はゴミだらけで、川の水はどこも飲めない。ところが、不思議なことに、アウトドア用品を売る店は全国どこにもある。それを買った人は、いったい、どこで、何をしているのか。もしかすると、アウトドアが盛んだというのは間違いで、本当は日本はアウトドア用品を買うのが盛んな国ではないのか・・・」
いやあ痛烈な皮肉ですが、半分あたっている気がしますよね・・・。
 相手と話すとき、もっとも相手の目を見ない、見ないようにするのは日本人。その反対に、もっとも強烈に、終始、相手の目をにらみつけるように話すのはアラブ系の人々。たしかに、そうなんですよね。弁護士の仕事として相談に乗っているとき、相手の人の目を見るのは、ときどきだけです。じっとじっと見ているなんてことはありません。むしろ、書類を指し示したりしながら話すほうが多いです。でも、ここ一番、ここは説得の切所、ヤマだと思うときは、じじっと、目を見つめながら、声を低めて話しかけることにしています。
 それにしても、コロナ禍のせいで、マスクをしている人への対応は困りました。顔色、表情が読みとれないのです。目だけでは困るのです。口元そして全体の表情も大事なんです。
 この本で紹介されている旅行記を早速、10冊、ネットで注文して読むことにしました。
(2018年10月刊。1800円+税)

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