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2023年8月 の投稿

モンシロチョウの結婚ゲーム

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 小原 嘉明 、 出版 蒼樹書房
 庭でのキャベツ栽培に私も挑戦したことがあります。春になると、それはそれは大変でした。毎朝、庭に出て青虫を割りバシでつまんで足で踏みつぶさないといけません。青虫がチョウになるのを喜んで待っているわけにはいかないのです。放置していたら、とんでもない虫くいキャベツになってしまいます。ところが、とってもとっても青虫は、それこそ湧くように出てきます。これではキャベツの生産者が農薬を使うのも当然だと実感しました。
 モンシロチョウは、キャベツづくりをやめた今でも、春になると庭をヒラヒラと飛びかっています。著者によると、モンシロチョウの飛び方は、オスとメスとで違うそうです。なにやらジグザグに飛びまわっているのはオス。メスは葉にしがみついてせっせと産卵にはげんでいる。なので、飛び方だけでオスかメスかを言いあてることができる。
 では、オスはなんで、そんなにジグザグに飛びまわっているのか…。もちろん、結婚相手のメス、それも未婚のメスを求めて飛んでいるのです。
メスはオスが近づいてくると、3つのタイプの反応を示す。まず第1に、翅(ハネ)を開いて腹部を押し立てる、逆立ち反応。これはメスのオスへの拒否反応。第2は、メスが小刻みに翅をバタバタ開閉する、はばたき反応。オスはすぐに飛び去っていく。第3は、翅を閉じたまま、ぐっと静止の姿勢を続ける。オスはただちに交尾行動に入り、すぐに交尾が成立する。
それでは、なぜオスはメスをすぐに見分けることができるのか…。オスとメスは形や大きさに違いはなく、大変似ている。しかし、どこかが違うはず。何が違うのか…。
その答えは、紫外線です。紫外線写真をとると、メスは白く、オスは黒くうつるのです。メスの翅は強く紫外線を反射している。つまりメスの翅は紫外色を含んでいる。オスの翅には紫外色はまったくない。なので、オスはひたすら真っ白のメスを探しているというわけです。
ところが、この本では、なんとモンシロチョウの眼にメガネ(黒いサングラス)をかけたらどうなるのか、という実験までしています。まずは、その方法です。透明のビニールに小さなガラス棒をつき立て、出っぱったところをはさみで切り取る。メガネをかけるときは、チョウを冷蔵庫に入れて冷温麻酔しておく。そして、チョウの眼にカプセルをかぶせ、後ろのところを蜜ろうで固定する。そのうえで、メガネに黒ラッカーを塗る。すると、チョウの眼を痛めることはない。この状態のメスは、オスが近寄ってきても逆立ち反応をまったくしない。つまり、逆立ち反応はあくまで視覚的なものであることが裏づけられた。これは、ホルモンの分泌を促すことと関係があるのではないか…。
 いやあ、学者って、モンシロチョウの眼に黒いサングラスをかけてみたらどうなるのか、なんてことまで実験してみるのですね…。驚きます。
実は、この本を読んだのは30年近くも前のことなんです。そのとき受けたショックはとても大きくて、本棚の目立つところにずっと鎮座していました。久しぶりに読んで、ぜひ皆さんにお知らせしたいと思ったのでした。
(1994年5月刊。2300円+税)

日本の自然をいただきます

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ウィンフレッド・バード 、 出版 亜紀書房
 アメリカ人の新聞記者、翻訳者そしてライターである著者が日本の地方都市で暮らしながら日本全国の食を求めて歩いた見聞記です。
阿蘇では野菜の天ぷら、タンポポの花、カキドオシ、クレソン、ヨモギ、オオバコ、ユキノシタ。揚げたての天ぷらに、淡い緑色の塩を振りかける。この塩は、ハコベのエキスと塩を煮詰めてつくったもの。飲み物は、松葉サイダー。タンポポ、松葉、ドクダミを自家発酵させてつくったもの。
長野でも野菜の天ぷら。氷温の水と花ころもの天ぷら粉を軽く混ぜ合わせる。野菜は水洗いしなくてもよいが、必要なら、さっと洗う。水気は完全に切らなくてよい。揚げ油は、天かすがゆっくり浮いてくるくらい十分に熱する。まずはギョウジャニンニクの葉を入れ、油に香りづけをする。野菜の天ぷらは衣が薄く、十分に揚がったら、つまみ上げて、よく油を切る。そして、何より大切なのは、熱々の状態で食べること。
 滋賀県高島市朽木(くつき)では、トチ餅(もち)を食べる。トチノミは日本の「原初の食物」だ。飢饉に備える大切な保存食だった。村では、女子が嫁ぐとき、家のトチノキを譲られた。村にある一本のトチノキの実を摘みとる権利を譲される。栃餅ぜんざいは、トチノミの苦みがあるため、小豆が甘すぎず、まろやかに味わえる。
 日本では、4000年も前から、到るところでトチノミが食べられていた。ところが、飢饉がなくなってしまうと、戦後の近代化が急ピッチで進むなかで、ついに不要な食材になってしまった。トチノミを食べられるようにするには2週間かかる。苦みを生み出すサポニンとタンニンを抜くのには、それくらいかかるのだ。
 岩手では、わらび餅。ワラビの祖先のシダ類は、草食恐竜の主要な餌(エサ)の一つ。恐竜は絶滅したけれど、ワラビはしぶとく生き残った。ワラビの根茎からとれる繊維は、江戸城の生け垣を結ぶ。
 飢饉の多かった江戸では、「かてもの」は代用食品となった。
 日本の食文化の源流を探る楽しい旅でもありました。
(2023年3月刊。2200円)

ある裁判の戦記

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 山崎 雅弘 、 出版 かもがわ出版
 竹田恒泰は、「人権侵害常習犯の差別主義者だ」と論評したことから、竹田が原告になって著者を被告として裁判を起こしてきた、その顛末が語られています。
 2020年1月に始まり、裁判は2年以上も続きましたが、地裁、高裁そして最高裁のすべてで著者が完全に勝訴しました。まったくもって当然の結論ですが、それに至るまでには並々ならない努力と苦労がありました。
 竹田恒泰が著者に求めたのは500万円の支払いと謝罪。著者は、名誉棄損の裁判では第一人者の佃(つくだ)克彦弁護士を代理人として選任した。
竹田は、今もユーチューブで自分の差別的な言動をまき散らしているようです。たまりません。ここで引用するのをはばかられるような口汚いコトバで差別的コトバを乱発している竹田のような差別主義者を「差別主義者」と明言して批判する行為が訴訟リスクに陥るなんて、あってはならないことです。それでは差別やヘイトスピーチは良くないといっても実効性がありません。ダメなものはダメだという正論は社会的に守られる必要があります。
日本の社会は差別に甘い。最近ますますそう感じている。著者の嘆きを私も共有します。岸田首相自身が良く言えばあまりに鈍感です。はっきり言って、社会正義を実現しようという気構えがまるで感じられません。だから、竹田のような、お金のある「差別主義者」がユーチューブでのさばったままなのです。若い人たちへの悪影響が本当に心配です。
 アメリカでは、人種差別に抗議しなければ、何も言わなければ人種差別を容認しているとして批判されます。ところが、日本では人種差別を含む差別的言動に対してマスコミが「ノーコメント」、まったく触れないまま黙っている状況が今なお容認されています。ひどい状況です。
 著者が裁判にかかる費用を心配し、インターネットでカンパを募ったところ(今はやりのクラウドファンディング)、2週間で1000万円も集まったとのことです。心ある人が、それほど多いことに救われます。まだまだ日本も捨てたものじゃありません。
 日本人は、世界に類を見ないほど優れた民族である。竹田は口癖のようにいつも言っていますが、これってヒトラーがドイツ民族について同じことを言っていたことを思い起こさせますよね。
 竹田は、自分について、身分はいっしょだけど、血統は違う(旧竹田宮の子孫だということ)と称して、血統による差別を正当化しようとしている。でも、それこそ差別主義者そのもの。いやになりますよね。自分は「宮家」の子孫だから、血統が違うんだと強調しているのです。呆れてしまいます。
 竹田の語る思想を「自国優越思想」と表現するのは、論評の域を逸脱するものではないという判決はまったく当然です。差別主義者の竹田は、自分は明治天皇の「玄孫」にあたると高言しているとのこと。まったくもって嫌になります。そんなのが「自己宣伝のキャッチコピー」になるなんて、時代錯誤もはなはだしいですよね。
 この本のなかで、著者は、竹田について、「この人は本当に、天皇や皇族に深い敬意を抱いているのだろうか」と疑問を抱いたとしています。まさしく当然の疑問です。司法が竹田の主張を排斥したことは、評価できますが、主要なマスコミが、この判決をまったく紹介せず無視したというのに驚き、かつ呆れつつ、心配になりました。日本のメディアは本当に大丈夫なのでしょうか…。
(2023年5月刊。2200円)

女性弁護士のキャリアデザイン

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 菅原 直美 ・ 金塚 彩乃 ・ 佐藤 暁子 、 出版 第一法規
 いま、女性弁護士は8630人で、全体の20%弱(2022年5月末)。女性医師が23%であるのに、近づいてはいる。
 日弁連では、女性会長こそまだ実現していないが、女性副会長クォータ制が導入されているため、年度によっては女性副会長が3分の1近くを占めるようになっている。単位会の女性会長は珍しくないし、女性の日弁連事務総長も実現している。
 日弁連は、地方の裁判所支部に弁護士がいないか、1人だけという状況(「ゼロ・ワン地域」と呼ぶ)を解消しようと努力してきて、一応、その目標は達成した。しかし、支部管内に女性弁護士がいない(ゼロ)ところが63支部もある(2022年1月時点)。
 この本には、16人の女性弁護士が自分の活動状況を報告し、あわせて女性弁護士のかかえる問題点を具体的に指摘しています。
 「弁護士になって本当に良かった。自由に、自分らしく、やり甲斐のある仕事ができる、この仕事が好き」
 私も、これにはまったく同感です。それこそ天職です。
 仕事とプライベートの時間はきちんと分ける。男性の依頼者から食事に誘われるのは断る。信頼関係を築くのが難しそうだと感じたら、初めに断る、途中でも断る勇気を出さなくてはいけない。この点も、同感です。ただ、私にはネイルをする趣味はありません。
 睡眠・食事・運動の三つは大切にしている。仕事をするうえでは、身体的にも精神的にも元気でいることを意識している。そうなんです。元気じゃないと、困っている人の相談に乗るのは難しいし、前向きな解決方法を一緒に考え出すことは無理なのです。
 金塚さんはフランスで育ちましたので、フランス語はペラペラで、フランス弁護士の資格も有しています。私のような、せいぜい日常会話レベルのフランス語を話せるというのと、格段の差があります。すごいと思うのは、週末は乗馬かピアノにいそしんでいるというところです。
 私は週末はボケ防止のフランス語の勉強のほかは、ひたすら本を読み、またモノカキに精進します。
そのほか、金塚さんは自分の好きな服装・アクセサリーを大事にし、メイクとネイルは必須とのこと。そこも私と違うようです。
 人の悩みや紛争と常に直面する仕事なので、できるだけ仕事以外の自分でいられる時間をもつこと、何でも相談できる同期や同僚を大事にするよう勧めています。これもまた、まったく同感で、異議なーし、です。
新聞記者から弁護士になった上谷さんは、「弁護士の仕事の9割は、自分の依頼者を説得すること」だと先輩弁護士から教えられたとのこと。「9割」かどうかはともかくとして、依頼者を説得するというのは大きな比重を占めます。そして、そのとき、日頃の信頼関係がモノを言うのです。
 弁護士の仕事において、争うのは、あくまで手段であり、目的は紛争の解決にある。このことを常に念頭に置くべきだ。この点を強調しているのは、沖縄の林千賀子さん。林さんはマチ弁ですが、この本には企業内弁護士も、大企業を依頼者とする弁護士も、国際分野で働く弁護士など、多彩な顔ぶれです。
 弁護士は、めんこくない(かわいくない)、相手にしたくない、面倒くさいと思われてナンボの存在。いやはや、こんな断言をされると、まあ、そうなんですけど…と、つい言いたくなってしまいます。
 最後あたりに、札幌弁護士会が顔写真つき名簿を会の外にまで配布しているのは問題ではないかという指摘が出てきて驚きました。この名簿は福岡県弁護士会にもあり、私が執行部のときに札幌にならって始めたのですが、福岡では会の外には出さないということになっていて、私の知る限り、会員からのクレームはありません(自分の顔写真を提供したくない人は、昔も今も少なからず存在しています)。
 女性弁護士ならではの困難をかかえながらも、元気ハツラツと活躍している女性弁護士が全国的にどんどん増えているというのは本当にうれしいことです。タイムリーな本として、ご一読をおすすめします。
(2023年5月刊。3740円)

土の声を

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 信濃毎日新聞編集局 、 出版 岩波書店
 リニア新幹線って、税金の莫大なムダづかいの典型です。そんなお金は教育分野にまわすべきですよ。大学の学費を公立も私立も無償にする。学生食堂で学生はタダでランチが食べられるようにする。すでにヨーロッパで実現していることです。日本でもやれないはずがありません。日本政府、自民・公明の両党の税金のつかい方は間違っています。
 国はリニア新幹線をすすめるJR東海に3兆円を融資している。つまり、リニア新幹線はJRの事業というより国策事業なのです。だから、私たちも文句を言えるし、言うべきです。
東京・品川と名古屋を結ぶリニア新幹線の総工事費は7兆400億円。
 長野県内のトンネルや橋、駅などの工事の大半は県外の大手ゼネコンの共同企業体(JV)が受注し、県内の企業は2社だけが、その下請に入ったのみ。
 東京・品川と名古屋間の86%がトンネル区間。掘削工事によって出た残土には、自然由来のヒ素やホウ素などを基準値以上に含む、汚染対策が必要な「要対策土」が含まれている。これは、どこにでも捨てていいというものではない。
トンネル掘削作業に従事する作業員の月収は100~150万円。長野県内だけで330人あまりの作業員が掘削に従事している。
 そして、トンネル工事現場で労災事故が相次いで発生し、作業員1人が死亡し、7人が重軽傷を負った(2022年6月現在)。JR東海は、労災事故は原則として公開していない。それどころか、作業員宿舎の出入口には、こんな大看板が立っている。
 「秘密情報に関して、人に話さない、写真を渡さない、資料を持ち帰らない」
いったい、この「秘密情報」とは何をさしているのか…。いやはや、JR東海とは、どんなブラック企業なのでしょうか…。
いま、九州新幹線にはプラットホームに駅員がいません。まさかの事故に対応することはできません。そして、JR九州では駅員の常駐しない無人駅がどんどん増えています。災害にあった辺地の路線は廃止するばかり…。そして、在来の特急列車を極端に減らしました。いまJR九州が金もうけのためすすめているのは、在東線を減らす一方で、ホテル事業への投資拡大です。公共交通機関という使命はとっくに忘れ去られています。JR東海も同じ穴のムジナです。
 それもこれも、かの国鉄分割・民営化のなれの果てです。「国鉄の分割・民営化」を強引にすすめ、国労を徹底的に弾圧したあげくが、利用者不在の「ゼネコンのためのJR」になってしまったというわけです。ひどい話です。
 リニアの工事をめぐる各地の説明会は非公開ばかり。本当にひどいものです。よほどリニアには隠さなければいけないものばかりのようです。今からでも遅くありません。リニア新幹線工事は直ちにストップすべきです。ゼネコンと一部の政治家だけがもうかる工事なんて許せません。
(2023年4月刊。2400円+税)

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