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2023年6月 の投稿

ラザルス

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 ジェフ・ホワイト 、 出版 草思社
 多くの国民が食うや食わずで餓死の危険すらあるというのに、北朝鮮は次々にミサイルを打ち上げ、人工衛星まで宇宙空間に飛ばしています。いったい、この貧困そのものの国のどこに、そんなお金があるというのか…。
 北朝鮮の飛ばすミサイルは短距離弾道弾で1発4~7億円。アメリカに届く長距離弾道弾だと、1発30~40億円もかかる。この莫大な費用を北朝鮮は億ドル札やハッカー部隊で稼いでいるのではないか、それが本書のテーマです。
北朝鮮には軍を母体とする超エリートのハッカー集団があるようです。でも、政府機関や軍に属するハッカー組織が存在するのは何も北朝鮮には限らない。世界の多くの国でハッカー集団が組織され、他国政府の情報収集やスパイ活動ないしサイバー攻撃を行っている。
 北朝鮮の異様さが目立つのは、宿敵である韓国政府と軍に対してのサイバー攻撃だけでなく、世界中の暗号資産の収奪をもっぱら標的にしている点。
 ただ、不正に得たデジタル(暗号)資産は、それだけでは利用できず、ドルやポンドなどの現金に換えなければならない。それをどうやって克服するのか…。
 北朝鮮の犯行とされるハッキングで流失した暗号資産の総額は13億ドルにのぼる。
 この本の冒頭は、西インドの人口50万人の都市にキャッシュカードの束を持つ男たちが集まってきて、一斉に何十台ものATMから現金をカードで引き出していったシーンです。2時間あまりのうちに1100万ドルもの現金が引き出されたのでした。
 その犯人のあやつっていたのはラザルスグループ。
 北朝鮮のハッカー集団(ラザルス)は、2015年からは銀行をターゲットに定めている。ハッカー集団(ラザルス)は銀行のインターネットシステムのなかに潜入し、暗証番号の確認なしに現金を入手できるようにした。ハッカーたちは捕まるかもしれないとビクビクしながらネット操作を繰り返している。そして、銀行内のシステムにデジタル記録を削除し、爪痕が残らないようにしている。わずか数文字の変更によって、コンピューターの「ノー」が「イエス」に変わり、10億ドルの預金がしまわれている銀行の金庫室のデジタル扉が開放される。これが、コンピューター社会の怖いところです。
 プリンターを故障と思わせ、緊急メッセージは白紙しか出ないように変えられていた。
北朝鮮は、12歳までの頭の良い子どもたちを「サイバー戦士」に仕立てあげている。「国際数学オリンピック」に参加するほどの天才児たちがいるのです。そして、北朝鮮のハッカーたちの肉親も巻き添えをくってしまうのです。
 今や、銀行までもがハッカー集団に狙われて、ひっかきまわされることが頻繁に起きています。知らなかった、怖い話がオンパレードでした。
(2023年6月刊。2200円+税)

いなべんの哲学(第8、9巻)

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 千田 實 、 出版 (株)MJM
 80歳になった著者が50年間の弁護士生活を振り返った、含蓄あふれる小冊子シリーズです。著者は「生涯100冊発刊」の目標を立てて、なんと、それを達成し、ついに140冊になったとのこと。すごいです。
 読むと、今すぐに始めたほうが良いことがいくつも指摘されています。たとえば…、明日から徹底してやるより、少しでもよいから今すぐにやることが大切。気がついたらすぐやるほうが実行しやすいし、効果があがる。
失敗のない人生は、目的を果たそうとしなかった人生だったということ。失敗のない人生なんて、それこそ失敗だ。つまり、何か目的をもって生きようとしなかった人生なんてつまらない、ということ。これまた、激しく同感です。
 著者の哲学の根本は、人生は楽しめばよい、つまり面白く生きるということ。
 著者は弁護士として生きているうちに、「人生は、刑に服しているのではないか」と思うようになったとのこと。いや、それではいかん。60歳を過ぎたころから、「人生を刑務所からパラダイス(楽園)に変えてやると決心したとのこと。つまらないことにこだわり、すったもんだを繰り返してきた60年間は、身も心もすり減らしてしまった。これからは、ものごとにこだわらず、青空道中を生き(生き)たいと考えた。
 煩悩(ぼんのう)は、生きるためのエネルギー源。
 離婚問題を弁護士として扱い、解決するうえで一番気をつかうのは、困る人が出ないようにすること。もっとも困る人が出るのは戦争。戦争は絶対にしてはならない。戦争こそ紛争の代表。紛争は避けるのが利口。
 たとえ正義でも戦争は大嫌い。正義のための戦争より、不正義でも平和がいい。
 正義のための戦争なんかしてはいけない。戦争とは、人殺し。
 戦争に勝つために巨額のお金を費やし、戦争を増強するより、戦争にならないように知恵を出したほうがいい。
 戦争をしなければ、戦力は不要。不要な戦力に巨額の予算を投じる国や政治家には、もっとよい気づかいをしてほしい。
 ステルス戦闘機やミサイルにお金をつかう前に、原発(原子力発電所)の安全を確保することに、もっと気をつかうべき。
 まったくもって、著者の指摘するとおりです。本当に、自民・公明そして維新は根本的に間違っています。
ミンミンと泣く総理蝉(ぜみ)、
民を忘れ 飴(アメ)にすり寄る
兵隊 蟻(アリ)にす
国民を苦しめ、アメリカにすり寄るばかりの小泉そしてアベ首相を皮肉っています。憲法9条と日本の平和を守らなければいけません。
「経済力向上」「戦力増強」「富国強兵」をスローガンにかかげて欲望の衝空を激化させる政治家はより、欲望の衝空を避ける工夫をしてほしい。
 著者は、その経験上、持てる欲は少なくても、捨てることの効果は絶大だと強調しています。これまた、まったく同感です。
 著者は今、80歳。これだけの著書を書けるだけ元気一杯。でも、60代で大病をし、入院して臨死経験もしているし、厳しい食事制限(カロリー制限、塩分制限)も長らくしています。だから、著者は、人生には明日の保障はないのだから、人生は、今の一瞬を、まわりの人と一緒に楽しみ尽くすのみだと強調するのです。
 教えられることの多い冊子2冊をまとめて紹介させていただきました。
(2022年4月刊。1100円)

王朝貴族と外交

カテゴリー:日本史(平安)

(霧山昴)
著者 渡辺 誠 、 出版 吉川弘文館
 平安時代の貴族たちって、短歌を読むほかは政争に明け暮れていたというイメージがありますが、そんな貴族たちも国際的な外交のことはちゃんと考えていたという歴史書です。うひゃあ、そ、そうだったんですか…、知りませんでした。
 たとえば菅原道真は、宇多天皇のとき、遣唐大使に命じられ、遣唐使として唐に行くはずでした。しかし、唐の国内状況が怪しいので、止めたらどうかという親書を出し、現実にも行っていません。なので、日本史の教科書では、遣唐使が廃止されたと書かれていました(今は違います)。
菅原道真は唐に行きませんでしたが、その後も天皇によって遣唐使を送ろうという動きはあったのです。ですから、菅原道真の提案で遣唐使の制度が廃止されたというのは歴史的事実に反することになるというわけです。
 11世紀に「刀伊(とい)の入寇」という事件が起きました(1019年)。壱岐、対馬が襲われ、博多や糸島にも上陸してきたのです。
「刀伊」とは、ツングース系の「女真族」のこと。このころ、まだ菅原道長が存命で、子の頼通(28歳)が摂政でした。この当時の平安貴族たちは「刀伊」(女真族)のことを知らず、高麗を恐れていたそうです。
 平安時代の日本は、国家的な軍隊をもたない国だった。防人(さきもり)は全国的な制度としては廃止されていたのです。
 対外的常備軍をもっていないわけですから、外敵の脅威に直面するたびに、心理的不安は大きく、日本は「神国」として神々に加護を祈るだけ、神国しそうとなってあらわれていた。
 平安時代の武士は少数精鋭で、国内の治安維持だけなら、それで良かった。しかし、外敵が大挙して襲来してきたときには多勢に無勢となってしまう。
 997年10月に「高麗国人」が対馬、壱岐を襲い、大変な被害をもたらした。しかし現実には賊徒の正体は奄美島人だった。
 高麗から国王の病気(中国)を治療するために役に立つ医師を派遣してほしいという書面が届き、その対応に苦労したというのです。このとき、派遣した医師が効果を上げられなかったときは一体どうするのか、を心配する貴族もいた。
 天皇は貴族たちに衆議を尽くさせた。
陣定とは、天皇が必要なときに招集して開催される諮問会議のこと。陣定では意見統一はなされず、多数決で決めることもない。決定権をもつのは天皇と関白。議定での決定が天皇を束縛することはない。そもそも、この当時、多数決というルールはない。ええっ、そうなんですか…。
 平安時代の貴族が担っていた政務について、その遂行過程を知ることができました。
(2023年3月刊。800円+税)

カティンの森のヤニナ

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 小林 文乃 、 出版 河出書房新社
 カティンの森事件とは、第二次世界大戦中に、ソ連軍の捕虜となっていたポーランド人将校2万5千人が大量虐殺され、埋められてしまった事件。これは、スターリンがポーランドという国を完全支配するため、ポーランド軍の幹部である将校たちを抹殺しようとしたもの。大量虐殺が発覚すると、スターリンは、その犯人をヒトラー・ナチスだと言い逃れようとした。
 そして、第二次世界大戦で苦労していたイギリスなどは、ソ連を味方にひきつけようとして、ヒトラー・ナチスが犯人ではなく、スターリンのソ連が犯人だと分かっていながら、「黙して語らず」の姿勢を貫いたのでした。
この2万5千人のポーランド人将校のなかに、たった1人だけ女性の犠牲者がいたのです。それが、本書の主人公である女性パイロットだったヤニナ・レヴァンドフスカ。ちなみに、ポーランド映画の巨匠アンジェイ・ワイダ監督の父親も、この事件で殺されている。
ヤニナは殺されたとき、32歳だった。ヤニナは、ポーランド空軍の中尉だった。
 ポーランドは、第二次世界大戦のなかで、3千万人の国民のうち、6百万人が殺害された。まさしく、国の存亡をかけていたのですね。
 それにしても、スターリンの責任は重大です。犠牲者はドイツ製の弾丸で頭を撃ち抜かれていたが、遺体の手を結んでいた縄は、ソ連製だった。
 天文学者のコペルニクス、科学者のキュリー夫人、ショパンもみなポーランド人。ナチス統治下のポーランドではショパンの曲は禁止されていた。うひゃあ、これまた、あまりにも野蛮そのものですよね。
 ポーランドがソ連の衛星国だったときは、「カティンの森事件」それ自体が「なかったこと」にされていた。
 ヒトラー・ナチスのユダヤ人などの大量虐殺も決して忘れることのできないほどひどいものですが、スターリン・ソ連のポーランド人大量虐殺(「カティンの森事件」)も忘れてはいけないことです。
戦争は狂気の連鎖を生むといいますが、現代の日本も、「戦前」にあるようで、岸田政権は空前の大軍拡予算を組み、また、ヘイトスピーチが公然と横行しているのを見て、空恐ろしくなってしまいます。
(2023年3月刊。2320円)

宇宙検閲官仮説

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 真貝 寿明 、 出版 講談社ブルーバックス新書
 宇宙のなりたちに関心のある私ですから、さっぱり理解できないながらも、どこか分かりあえるところがないかと手探りですすみながら、ともかく読みすすめてみました。
 アインシュタインの一般相対性理論は、「質量があると時空が歪(ゆが)み、歪んだ時空が重力の源である」と説明するもの。こんなこと言われても、まるで理解できませんよね…。
 ブラックホールが宇宙に存在するのは確実です。このブラックホールは、一般相対性理論が予言した天体。一般相対性理論の根幹をなすアインシュタイン方程式の解は、ブラックホールの内側に特異点が存在することを示している。特異点は、時空の対称性などの仮定によらず、一般的に存在することが、特異点定理によって数学的に証明されている。
 宇宙検閲官仮説とは、この特異点が発生しても、ブラックホールの中に閉じ込められているから心配しなくてもよいだろうとする仮説。すなわち、ブラックホールなしに「裸の特異点」が出現すると、それは自然界の検閲に引っかかって隠されるはずということ。いやはや、これまた私の理解をこえてしまいます。
 裸の特異点とは…。巨大な星が重力崩壊して、電子の反発力で支えられず(白色矮星となれず)、中性子の反発力で支えられず(中性子星となれず)、さらにつぶれ続けるならば、支えるものがなく、一点に無限大の質量が蓄積する時空特異点が出現する時空になってしまう。でも、時空特異点が生じても、それがブラックホール地平面の内側のことなら、外側の世界には影響が出ない。
 ブラックホールは発生できるが、消滅できない。
 ブラックホールは合体できるが、分裂できない。
皆既日食のとき、太陽の近くに見られる星の位置が通常とは異なるという観測データによって、太陽の質量によって空間が歪み、その歪んだ空間を光が進むため、皆既日食以外のときとは光の進む方向がずれてしまう。
 遠くの銀河にある変光星ほど、赤っぽく見えている。これは、宇宙全体が膨張していることの証拠。つまり、ドップラー効果によるもの。
 分からないながらも、宇宙について考えると、自分の死後、宇宙はどうなるんだろうか…というのが、実にちっぽけな、とるに足らない心配だと、いつのまにか雲散霧消してしまうのです。
(2023年2月刊。1100円+税)

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