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2022年12月 の投稿

「死んだふり」で生きのびる

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 宮竹 貴久 、 出版 岩波科学ライブラリー
 人間が最前線の戦場で死んだふりして助かったという体験記を読んだことがあります。同じことを昆虫など、いろんな生物がしていること、その意味を探求している学者の本です。
「死んだふり」について研究している学者は世界中探しても20人ほど、だそうです。まあ、きっとそうでしょうね…。
 いったい生物の「死んだふり」なんか研究して、何の役に立つのか…。そんな疑問を持つ人に対しては、実は、パーキンソン病の治療に役立つかもしれないと書いてあります。また、果樹の外注防除にも役立つようです。樹木に振動を与えると、害虫が死んだふりをするので、樹木にしがみついていた害虫が落下するというのです。
 死んだふりをする個体にとって、死んだふりが本当に役に立っているのかどうか、統計的に十分な検証でもって定量的に示した研究はなかった。そこに目をつけた学者って、ホント偉いですよね…。
 「腹が減っては死にまねはできない」。これは観察するなかで明らかになった事実です。死に直面している昆虫は、悠長に死んだふりなんてする余裕はない。死んだふりをする生物は、そのことによって生命が助かる確率は高まる。ところが、じっとしているとメスとの出会いがないという二律背反が存在している。
 そして、長く死んだふりを続ける個体はストレスに弱い。
死んだふりをする生物は多い。オポッサムもそう。ニワトリだって死んだふりをする。二ホンアマガエルやサメもする。
 いやあ、すごいです。ダルマさんが転んだ、の世界があるのです。死んだふりではない、フリーズをする種もいるそうです。
 一見すると、なんてバカバカしい研究だと思えても、実は偉大な発見だったこともあります。好奇心をもった学者には、今も憧れがあります。
(2022年9月刊。税込1430円)
 11月に受験した仏検(フランス語検定試験、準1級)の結果を知らせるハガキが届きました。恐る恐るめくってみると、「合格」の文字が目に飛び込んできました。ヤッター、良かったー、と思いました(昨年は不合格だったのです)。合格最低点が62点のところ、66点とって合格することができました。ところが、実は私の自己採点では71点だったのです(120点満点)。いつもは6割が合格点(72点)になります)なのですが、今回は5割が合格点になっていますので、いつもより少し難易度が高かったということです。
 1月末に口頭試問を受けます。3分間スピーチです。難関です。話す訓練に励むことにします。年末年始の課題になりました。ボケ防止のつもりでがんばります。

里見義尭(よしたか)

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 滝川 恒昭 、 出版 吉川弘文館
 曲亭馬琴の「南総里見八犬伝」は、まさしく血湧き、肉踊る武勇伝ですよね。江戸時代にベストセラーになって、今も大人気の物語です。本書は、その里見氏の実像をとことん明らかにしています。
 いやあ、戦国時代を生き抜くって、実に大変なことなんだと、思わず追体験した気分になりました。身もフタもありませんが、結論から紹介すると、里見家は結局、江戸時代初めに没落してしまったのです。
 房総から鳥取の倉吉に3万石に減封のうえ転封された。そして、倉吉の領地も取り上げられ、大名里見家は消滅してしまった(1622年)。
 ところが、里見氏が安房(あわ)を去ったあとも、一族の大半はそのまま安房の地に残って百姓や医者、村の指導者層になった。そして、改めて里見氏の歴史を軍紀ものとしてつくりあげていったというのです。なるほど、その気持ちはよく分かりますよね…。
 この本の主人公は、里見氏のなかでもっとも輝いている義尭に焦点をあてています。
 里見氏は、清和源氏八幡太郎義家の子孫で、里見郷(群馬県高崎市)を名家の地とした。里見家に天文の内乱(1533年)が起きた。これは、北条氏と密かに結んで下剋上をも起こしかねない叔父の里見義尭とそれに与(くみ)する正木氏などの勢力に対し、扇谷(おうぎがやつ)上杉氏と連携していた里見義豊が機先を制して誅伐を加えたというもの。
 里見氏は、強大な実力を有する北条氏と江戸湾をはさんで対峙していたが、それは江戸湾で活動する野中氏や吉原氏のような地元勢を、その配下として握っていたことによる。
 江戸湾岸に暮らす人々は、北条と里見という双方の勢力に対して年貢を納める(半手(はんて)、半済(はんぜい)と呼ぶ)ことで、安全を確保していた。
 上杉謙信が関東侵攻をしていたころ、里見氏は上杉氏と同盟関係を結んで北条氏と対抗していた。上杉氏の関東侵攻に北条氏が対応しているスキを見て、北条氏勢力が手薄になった地域に侵攻することを基本戦略としていた。
 天文の内乱に勝利して、里見家の家督と安房国主の座を得て以来、40年間、里見氏を名だたる東国の諸大名と肩を並べる地位にまで義尭は押し上げた。その義尭は1574(天正2)年6月1日に亡くなった。享年68歳。その後、里見家は秀吉の時代に、安房一国だけの領有を認められた。当主の義康が31歳で亡くなった(1600年)。
 当主が20代や30代でなくなると、配下の武士たちがテンデンバラバラになってしまうというのが、今の私にはよく分かりません。それでも、実は武士の領主も辛い立場にあって、気楽な存在ではないことだけは、よく分かりました。
(2022年8月刊。税込2530円)

狩女のすすめ

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 ジビエ ふじこ 、 出版 緑書房
 いやあ、すごい女性(ひと)です。読んでいると、なんだか愉快になって、笑いとともに元気が出てきます。ユーチューブ「ジビエふじこチャンネル」も一度のぞいてみることにしましょう。
「バツ女、シングルマザー、女猟師」というのは、本人が売り出しているキャッチコピー。40歳にして狩猟そしてジビエの世界に出会い、45歳にしてママになったのです。いやはや、すごーい。
 著者は1回目の離婚のあと、母親(離婚経験者)から「男性を見る目を養いなさい」と言われて、店をもたされてラウンジを始めたとのこと。これまた、すごい母親です。たしかにラウンジで働いたら、男性を見る目は肥えてくることでしょう。
 そして、著者はいくつもの職歴があります。教育教材の営業、喫茶店、革細工教室、ブライダルで司会業もつとめています。だから人前で話すのは苦にならないのでしょう。マスコミの取材にも対応できた(ている)のですから、偉いです。
 2014年に狩猟免許もとりました。「狩女の会」を2016年に立ち上げるとロイター通信から取材を受け、マスコミに登場。やがて、首相官邸にも出かけて会議メンバーとして大胆に発言。並の人にはマネできませんよね…。
 今は猟師ですが、著者も、かつては、虫が苦手で、運動も苦手、魚をさばくのも吐き気がして無理だったとのこと。まさしく、ウッソー、です。
 イノシシ肉を著者は敬遠しています。というのも、豚熱ウィルスが流行したため、その免疫をもたせるため、ワクチン入りの餌(エサ)を野外散布しているため、ワクチンをとったイノシシばかりなので、食べる気がしないそうです。知りませんでしたよね、こんな事情があるなんて…。
 クマの肉は山菜と非常にあう。秋クマは冬眠前に栄養をたくわえるので、赤身より脂のほうが多くなるが、この脂はどんなに食べても胸やけがしない。脂ののったクマ肉は本当に甘くて、日本酒にも白飯にもよく合う。筋肉質のクマ肉はとくに歯ごたえが強いので、なるべく小さく薄切りにする。
 クマ肉は高級品。100グラムで1000円以上もする。そのかわり10日間連続して食べても飽きない味。クマ肉のもっとも美味しい食べ方は、すき焼き。牛肉より極上。
 シカ肉は、たまらない甘みがある。そのためには、じっくり低温調理する。
 猟師はキツネやタヌキは食べない。食べると祟られるから。
 ジビエ肉は、かめばかむほど、甘みがギューとしみ出てくる。
猟師として狩って、解体して、調理して、販売する。そして、ジビエの肉も皮もムダなく利用させてもらう。
 山の中に入って長く待機させられるわけです。すごい辛抱ですよね。私にはとても出来そうもありません。でも牛肉より極上というクマ肉のすき焼きは一度ぜひ味わってみたいと思いました。
(2022年11月刊。税込1870円)

兵士の革命、1918年ドイツ

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 木村 靖三 、 出版 ちくま学芸文庫
 1915年から始まった食糧配給制は、二重の意味で戦時体制の維持に打撃を与えた。一つは、不十分な量に対する不満。第二に、食糧統制が、巨大なヤミ市場の存在(生産量の3分の1がヤミに流れた)によって制度の実効性に疑義が出され、高額なヤミ価格に手の出せない労働者や低所得者層の反発は一層つのった。すなわち、「平等な」制度が、かえって社会の不平等を他の統制制度の不備を際立たせる目安として作用した。社会対立は、飢えた者と飢えざる者の対立として現れた。
 重工業の大企業には黄色組合(御用組合)が多かった。経営側と、その御用組織は、末端の労働者にとって、いずれも敵だった。
 1918年以降、ドイツ軍の兵士たちが集団的に前線への移動を拒否した。
 事実上の叛乱だが、軍当局は叛乱とすると、兵を逮捕し、それによって前線行きを免れさせることになるのを懸念して、ともかく部隊を前線に送り出すことに全力をあげた。そのため護送部隊が付いていった。
 ドイツでは、将校の権威が急速に低下していった。高級将校が街頭で脅迫的野次をあびせられ、列車内の軍人用と民間人用の仕切りが無視され、軍人用の席が民間人によって占められるようになった。
 ドイツには、もともと海軍力の伝統はなかった。陸軍の将官が海軍の指令官の地位にあった。軍の主力は圧倒的に陸軍だった。
 海軍将校団は、ブルジョワ層出身者が多数を占めた。主力艦では、比較的高齢の将校が若く未経験の将校が多くなり、乗組員がベテラン化するのと対照的に艦内の士気は低下していった。
 食事は将校用、下士官用、一般兵士用と、別立て。6月初め、戦艦「ルイトポルト」の乗組員が乾燥野菜の昼食を拒否して、ハンガーストライキに突入し、代わりの食事を要求した。そして、叛乱実行の罪で5人が死刑を宣告され、うち2名が銃殺された。
 兵士たちの内情は、乗組員の半数は無関心で、4分の1が憤激し、気の毒な連中に心から同情し、4分の1が即時行動と償いへの覚悟をもっている。死刑という厳罰に震えあがったのは、ごく少数だけ。
 海軍の兵士の不満の根拠は艦内生活への不満であり、将校への増悪だった。
 海軍の水兵は蜂起という行動に気力を見いだし、行動の正当性に確信をもった。緊張感にみちた態度と、それに蜂起鎮圧部隊は圧倒され、解体していった。11月5日、もはや水兵の蜂起に対する組織的抵抗はなかった。市内のゼネストは予定どおり実施された。将校は武装を解かれた。蜂起後の将校団の無抵抗と退却の姿勢はあとあと大きな影響を及ぼした。
 兵士評議会のメンバーは次々に交代した。そして活動的兵士の多くが、早くに軍を離れた。革命を開始し、数日で成功へと導いた海軍水平の大部分は、クリスマス前にはその家族のもとにいた。そして、兵士運動の特徴の一つに外部からの指導・監督を嫌う傾向がある。部隊構成員の意思のみを唯一の行動基準とし、それ以外の権威を認めなかった。領域的自律を志向する陸軍兵士と、横断的に行動する海軍水平は日常的に対立していた。兵士評議会が軍事的な領域から排除して、兵士の苦情処理機関に限定されていった。
 労働者評議会メンバー200人のうち、あとでナチ党のメンバーになったのは2人しか確認できていない。兵士評議会300人のうち48人(16%)がナチ党員が関連組織のメンバー6人が存在していた。
 ドイツ陸海軍兵士による1918年の革命の実際を丹念に詳しく究明していった貴重な労作だと思いました。
(2022年8月刊。税込1650円)

東アジアからみた「大化改新」

カテゴリー:日本史(古代史)

(霧山昴)
著者 仁藤 敦史 、 出版 吉川弘文館
 大化改新なるものが本当にあったのか最近まで疑問視されていましたが、今ではやはりあったということになっているようです。
 曽我入鹿(いるか)と父の蝦夷(えみし)が殺害され、また自死して曽我大臣家は滅んだ(645年)。これは乙己(いつし)の変と呼ばれる。大化改新は、その後に続く政治改革のこと。
 公地公民の原則、班田収授法、統一的な税制がその内容。
 この本は、日本の動きを、東アジア諸国における、随・唐帝国の動き、高句麗の泉蓋(せんがい)蘇文(そぶん)へ、新羅(しらぎ)の義慈(ぎじ)王への権力集中といった動きのなかで、位置づけてみようという本です。
 皇極(斉明)と中大兄は、百済との交渉を継続し、国土防衛を重視して飛鳥遷都(653年)や大律遷都を行い、不本意なままの強制退位に抵抗すべく斉明女帝として復位(重祚、ちょうそ)する。ところが、倭国は白村江(はくすきのえ)で大敗し、唐・新羅の侵攻軍に備えて山城や水城を築いて守りをかためた。
 唐は、隋の滅亡が高句麗遠征の失敗を名分に成立した王朝であったから、内政へ波及するのを恐れ、当初は高句麗への軍事行動に慎重だった。それでも644年、ついに唐の太宋は高句麗征討を決意した。
 新羅では、唐依存派と自立派の対立が激化した。このころ、日本(倭国)における大王の即位適齢期は40歳とされていた。
百済からの先進文物の安定的供給と豪族らへの再分配が蘇我氏政権の権威の源泉だった。大化期は、それまでの親百済色が強かった曽我氏政権に比較して、親唐・新羅的政策が強まった。
大化のころは、唐・新羅と結んで国力を強化しようと考え、孝徳擁立を画策した右大臣の蘇我石川麻呂・中臣鎌足らのグループと、皇極(百済)・中大兄と白雉期の左大臣巨勢須太臣らの反新羅・親百済・高句麗路線が対立していたと考えられる。
大化期には、親唐・新羅派が優勢だった。その後、両者の勢力は拮抗していた。新羅との交流再開を前提として、金春秋氏の仲介により唐との断絶状態は解消され、白雉(はくち)4年と5年という、連年の遣唐使派遣につながっていく。これは、大化の新政権の新たな外交立場として新唐・新羅政策が採用されたということ。
その後、親百済派の台頭により政権内の対立が顕在化し、対外的に明確な新百済や新新羅という外交族を示すことができなくなった。
日本における大化改新を考えるうえでも、日本の外にある随・唐の大帝国の存在、朝鮮半島内の政権(統治者)の動向をきちんとみる必要があるようです。考えさせられました。
(2022年9月刊。税込1870円)

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