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2022年11月 の投稿

日本商人の源流、中世の商人たち

カテゴリー:日本史(中世)

(霧山昴)
著者 佐々木 銀弥 、 出版 ちくま学芸文庫
 江戸時代の「士農工商」というコトバが職業の序列としてとらえられ、商売人は最下位に置かれていたというのは、今では間違いだとされています。といっても、そのことを私が知ったのは、それほど昔のことではありません。
 商売人がお金を扱うからといって、最下位の身分に置かれるなんて、考えられないことだと思います。「ヴェニスの商人」に登場するユダヤ人の商人がさげすみの」対象でしかなかったとは、私には信じられません。
 日本の中世商人は、著名な神社に所属し、奉仕するという神人身分であり、神威を背景とする特権をほしいままにしていた。
 これこそが中世当初の現実だったと私も思います。お金の力は今も昔も偉大なのです。
 高野聖(こうやひじり)とは、平安時代中期以降、厭世、隠遁(いんとん)の徒が高野山を修行の地とし、ここを根拠として全国を遊行・勧進して歩いた僧。中世後期からは、背に笈(きゅう)を負い、念仏を唱え、鉦鼓をたたいて布教して歩くかたわら、笈の中に呉服を詰め込んで、それを売り歩くようになった。この行商のため聖身分をふりかざし、声高に宿泊を強制するようになり、人々から「宿借聖」として忌み嫌われるようになった。そこで、高野聖は信仰面における人々の信頼を失い、統一権力者の信長や秀吉からは一種の無頼の徒とみなされた。
 12世紀前半に成立した『今昔(こんじゃく)物語集』には、伊勢に行商する京都の水銀商人たちの話がのっている。水銀は、化粧用白粉(おしろい)製造の原料だった。
 15世紀の商人は為替(かわせ)を振出していた。京都下りの商人は、京都との恒常的往来と取引によって形成された信用関係を背景にして、為替を振出すことによって現金を調達して、手広く仕入れることができた。
 全国各地の特産物を扱った行商は莫大な利潤をもたらした。その反面、常に命をかけた危険な旅でもあった。そのため、座と掟書が生まれた。
 旅の途中で出くわした山賊・海賊とは、話し合いで決着させた。
 鎌倉では、大町・小町・米町など都市化した地域に居住するものを町人といい、それ以外のものを商人と呼んで区別していた。
 室町時代から、店舗を示すコトバには「棚」から「店」に変わった。
 借金を帳消しとする徳政令について、商人の多くは債務破棄を申請しなかった。徳政令のあとの融資の可能性を保持するのを優先したことになる。
 京都では、土倉(どそう)と酒屋は一体とみなされていた。都市において土倉と酒屋は、もっとも富裕な、いわゆる有徳人層を形成していた。
 いつだって、したたかに生きてきた、日本の中世の商人の実像に迫った貴重な本だと思います。
(2022年6月刊。税込1210円)

地球を掘りすすむと何があるか

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 廣瀬 敬 、 出版 KAWADE夢新書
 地球の地下を実際に掘ったときの最深は12キロ。わずかとしか言いようがありません。だって地球の半径は6400キロもあるのですから、1%にもなりません。
 そして、地球の内部の核、マントルは赤くなければ、ドロドロでもない。
 地球を12キロ以上に掘りすすめないのは、高温になるため。1キロメートル堀りすすむごとに30度上がっていく。ドリルの先端に取りつけたダイヤモンドは、実は熱に弱い。ダイヤモンドを使わない別の方法を考える必要がある。
 ダイヤモンドは、深さ150キロよりも深いところでしか出来ない。ダイヤモンドが出来るには、それだけ高い圧力が必要になる。
 地球の表面は十数枚のプレートで覆われている。プレートとは、堅い板のこと。大陸プレートと海洋プレートの二つがあり、それぞれが別の方向に異なるスピードで動いている。大陸プレートの移動速度は、海洋プレートよりも遅く、年間数センチほど。たとえば大西洋は少しずつ拡大している。毎年2~3センチほど。ヨーロッパとアメリカは遠ざかっている。
 大陸が分裂したのが2億5000万年前。大西洋は、今も拡大中。
 プレートを動かしているのは、自らの重さで沈み込む力。この力でマントルからマグマを引き出している。海があるからプレートが冷やされ、重くなり、沈み込んでいくという循環が生まれる。
 マントルは岩石でできていて、コアは鉄を主体とする金属でできている。
 地球の表面の7割が海に覆われているが、海の深さは平均3キロほど。すると、表面にわずかに水がはりついている程度で、全質量の0.02%にすぎない。地球の1000分の1の隕石ひとつで、海の全水量と同じだけの水がもたらされる。現在の海の全水量を1海水とすると、太陽系の初期に降り注ぐ隕石によって100海水以上の水がもたらされたとしても、不思議ではない。
 コアは地球磁場をつくっている。磁場がなければ、地上にすんでいる生物は、有害な太陽風や宇宙線にさらされてしまう。
 地球に磁場がなければ、海がなかったかもしれない。海だけでなく、大気もなくなっていたかもしれない。
 火星には昔は海が存在した。火星の海がなくなったのは38億年前のこと。火星ができてから7億年後に海は焼失してしまった。磁場がなくなったからだと考えられている。
 磁場が消滅すると、太陽風の影響を受けて大気が剥ぎとられ、海が消滅した。
 この本では、火星はなぜ小さいのか、月はどうして生まれたのか、まだ完全に解明されていないことが示されています。そして、地球のマグネシウムが多い理由も説明が尽くされていないとのこと。世の中は、まだまだ謎だらけなのですね。そのことが分かっただけでも本書を読んだ甲斐があります。
(2022年7月刊。税込990円)

萩尾望都がいる

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 長山 靖生 、 出版 光文社新書
 萩尾望都は、先日、秋の叙勲を受けました。日弁連副会長をつとめた人と同じランクでした。私は国が勝手にランクづけするのはおかしいし、トップに位置づけられている日本の超大企業の社長連中がどれだけ日本社会に貢献したのか、大いに疑問なのです。でも、萩尾望都に関しては、マンガを通じて、大勢の子どもたちをふくめて大人まで、夢と希望と思索を与えてくれた功績は大だと考えています。
 本人だけでなく、父親も大牟田生まれだというのは初めて知りました。三池炭鉱の事務職員だったそうです。バイオリンを学んでいて、プロを目指したこともあるということも知りませんでした。
 母親との葛藤を描いた「イグアナの娘」は、何とも壮絶な母と娘の緊張関係をよくぞあらわしています。実は、私の母は萩尾望都の母親と女学校(福岡女専)の友だちだったので、母親は我が家によく来ていましたので、私は面識があります。なので、写真で見る萩尾望都の顔が母親そっくりなのを実感します。
 萩尾望都は天才だと私は考えていますが、この本によると、2歳のころから幼児離れした絵を描いていたとのこと。なるほど、そうだったのかと思いました。小学3年生からは絵画教室に通って、油絵も学んだとのこと。そして、福岡の服飾デザイン学校にも通っています。天才といっても、それなりに修練したのですね。
 「11人いる!」は、1975年の作品なので、SFブームの前、その先駆けだったのとこと。すごいですよね、この作品は…。
 萩尾望都は、物語の枠組みを、かなり緻密に構築してから描き始めるというタイプ。そうでないとありえないような伏線が冒頭近くから巧みに仕組まれていることが多い。うむむ、これまたすごいことです…。なかなかできることではありません。
 書き始めると、登場人物がひとりでに動き出していくのです。それをどうやってつじつまを合わせるのかに苦労するというのが、私のような凡人モノカキの課題というか、実情です。伏線どころではありません。ましてや冒頭近くに伏線をひそませておくなんて…。
 萩尾マンガにはムダがない。すべての絵、すべてのコトバがテーマにそっていて、意味をもち、ドラマは論理的に構成されている。読んで飽きることがない。繰り返し引き寄せられる。絵に込められた情報が圧倒的に多いからだ。なーるほど、そういうことなんですか…。
 竹宮恵子との確執は両者の本を読みましたが、やはりなんといっても萩尾望都のマンガのほうが上を行っていて、それに気がついた先達(せんだち)の竹宮恵子が嫉妬したということなんでしょうね。芸術家同士の火花が散ってしまったということなんだと思います。でもまあ、こんな裏話はともかく、出来あがって読者に提供された作品を素直に読んで面白いと感じたいと私は考えています。萩尾望都のマンガをまた読んでみたくなりました。
(2022年7月刊。税込1078円)
 日曜日の朝、フランス語検定試験(準1級)を受けました。昨年は自己採点では合格点をとっていたのに、不合格だったのです。とても残念でした。
 今年は雪辱しようと、1ヶ月以上前から朝晩、フランス語を勉強しました。朝はNHKフランス語のラジオ講座の書き取り、夜は30年間の過去問に繰り返し挑戦します。ともかく年齢(とし)とともに単語の忘却度が昴進しています。いつも新鮮なのに困ってしまいます。
 さて、結果は…。120点満点で71点でした。6割が合格ラインなので、ひょっとしたら合格しているかもしれません。
 ペーパーテストの次は口頭試問です。ぜひ受けたいのですが…。
 

自民党の統一教会汚染

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 鈴木 エイト 、 出版 小学館
 読めば読むほど腹の立ってくる本です。もう、ホント、つくづく嫌になります。これが日本の政権党の実体かと思うと、恥ずかしいやら、悲しいやら、いえ、はっきり言って、吐き気をもよおします。衆院議長の細田博之は依然としてダンマリを決めこんでいますよね。萩生田光一・政調会長も同じです。逃げきりを許してはいけません。ひどすぎます。
 統一協会(この本は「教会」としていますが、協会が正しいのです)の教義は、日本人について、「人間的に考えれば、許すことのできない民族」と決めつけ、原爆投下も引きあいに出して悔い改めを迫っているのです。
 文鮮明(元教主。故人)は、儀式のなかで日本の天皇を自分の前でひざまづかせました。その妻であり、絶対君主のように君臨している韓鶴子現総裁は、安倍元首相について、自分たちに侍(はべ)るべき存在とみて、「教えてあげ、教育しなければならない」としていました。
 安倍元首相や桜井よしこなどは「美しい国・ニッポン」などと声高に叫んできた(いる)わけですが、日本は韓国に隷従すべき存在であるから、贖罪(しょくざい)するのは当然のこと、莫大な献金をしても、まだ足りないという統一協会の教義とはまったく相反するはずですが、お金と票、そして「反共」の点で醜い手を結んだのです。
 この本は、自民党議員が、いかに統一協会と手を結んでいるのかについて、突撃取材も繰り返しつつ明らかにしています。大変貴重な労作です。発表以来の3週間で4刷というのも当然ですし、もっともっと読まれるべき本です。
 たとえば、自民党の北村経夫参議院議員は統一協会の組織票8万票を上乗せして当選したこと、その裏では、アベやスガが画策したことが明らかにされています。
 統一協会が日本の政治家へ働きかけ、抱き込みを図っている目標は、真(まこと)の父母様(文鮮明と韓鶴子)の主権によって日本という国を自由に動かすこと。人類の使命は、真の父母様の民となること、というのです。実に恐ろしい教義です。
 菅元首相は、首相官邸に統一協会の幹部たちを招待していました。これまた、とんでもないことです。
 そして、安倍内閣のとき、統一協会と関係の深い議員たちが次々に内閣や自民党の要職に抜擢(ばってき)されたのです。これまた驚くべき事実です。これは、今の岸田政権でも同じことです。その典型が萩生田政調会長でしょう。
 統一協会は日本は過去に間違ったことをした、とんでもない民族なので、自分をかえりみることなく(すべてを捨ててでも)、全てを惜しみなく(韓国の人々に)与えなければならないと教えています。もちろん、受けとるのは韓国の民衆ではなく、文鮮明・韓鶴子とそのファミリーです。その利権をめぐって、文鮮明の死後に、母親と息子たちとのあいだで醜い争いがあり、アメリカでは裁判にまでなったのでした。なにしろ、日本から韓国に送金された金額は毎年300億円以上(何十年と続いています)なのです。
 体当たり取材も重ねて自民党と統一協会との深い関係、その闇を明らかにしている大変貴重な労作です。300頁ほどの本ですが、怒りをおさえながら、1時間あまりで読みあげました。
(2022年10月刊。税込1760円)
 博多駅で映画「ザリガニの鳴くところ」をみてきました。原作はアメリカで2019年、2020年に一番売れた小説です。全世界で1500万部突破したというのですから、すごいものです。
 私は昨年読んで、まさしく圧倒されました。なので、もちろんこのコーナーでも紹介しましたし、本好きの人に勧め、感謝されました。
 ともかく自然描写がすごいのです。森の中、沼地で生活する、しかも家族がどんどんいなくなり、少女が一人で生きていくのです。
 ところが、世の中には蔑視するだけではなく、親切な人もいて、やがて学校に行かなくても読み書きが出来るようになり、ついには恋人までもつくれました。しかし、それが裏切られてしまい、ついに殺人の疑いで起訴される…。
 いやあ、原作ほどの感銘はありませんでしたが、すばらしい映像です。必見です。そして原作を読むことを絶対おすすめします。

カタニア先生は、キモい生きものに夢中!

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ケネス・カタニア 、 出版 化学同人
  鋭い感覚の奇妙な鼻をもつホシバナモグラが真っ先に登場します。
なに、何、このイソギンチャクみたいな鼻が、いったい何のために地中を掘って生活するモグラにあるのかな…。こんなヒラヒラするものが鼻の先について、地中を掘り進むのに、いったい邪魔にならないのかしらん。うむむ、どう考えても不思議だ、フシギ。
ホシバナモグラは、モグラの一種なのに泳ぎが得意。北アメリカのもっとも寒い地域で、冬眠もせずに生活している。
ホシバナモグラの鼻の「星」は嗅覚器官ではなく、触覚受容器。ホシバナモグラの鼻の先の星には、ヒトの手の触覚神経線維の6倍が集中している。
ホシバナモグラは、恐らく、地球上でもっとも高感度であり、高解像度の触覚系だ…。
ホシバナモグラは、世界一食べるのが速い哺乳類。これはギネス世界記録として認められている。ホシバナモグラは、小さくしてじっとしている獲物を、瞬時に見つけて食べる。しかし、高速移動する相手を追いかけて捕まえるのは、まるで下手。
魚は「見たものを信じる」のではなく、「聞いたものを信じる」。魚の聴覚は実に速い。
平原にすむミミズを捕獲する。そのためには、鉄の棒を地中20センチまで打ち込む。それから、杭の頂上を鉄の棒でこすりはじめた。低い振動音が土のなかに反響し、森中に広がる。すると、まもなく巨大なミミズが地面にはいあがってくる。モグラが掘りすすんで近づくと、ミミズは地表に逃げている。
次は獲物を麻痺(まひ)させてしまうデンキウナギ。強力な電気を、いったいどうやって発生させ、自分の身は損なうことなく獲物だけをしびれさせるなんて、まさしく神業(かみわざ)…。
デンキウナギは、全魚の体の動きのすべてをわずか3秒以内に一時停止させる。
エメラルドゴキブリバチは、ゴキブリを殺さず、一時的に麻痺すらさせなかった。このハチは、獲物となったゴキブリを何も考えずに従順に従うだけの奴隷にさせる。ゴキブリの胸部にハチは毒針を挿入する。毒針にあるセンサーを使い正確無比な第1弾をお見舞いする。ゴキブリは、生きたまま、ハチの幼虫に食べられる。ゴキブリは反撃もせず、ハチの幼虫に生きたまま食べられる。
不思議、ふしぎ、フシギ…。世界は本当に不思議に満ち充ちています。
フシギをそのまま放置せず、不思議なものとして追跡を始めようと呼びかけている本でもあります。
(2022年8月刊。税込2530円)

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