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2022年9月 の投稿

マンガ最強の教科書

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 石井 徹 、 出版 幻冬舎
 今の私はマンガを読むことはほとんどありません。マンガ週刊誌は読みませんし、アニメもみることはありません。それでも大学生のころは、寮でまわってくるマンガ週刊誌を楽しみにして、熱心に読んでいました。この本で、『あしたのジョー』の敵(かたき)役の力石徹のモデルがナポレオンだというのには、あっと驚かされました。
 ちばてつやは、顔に存在感、味をもたせるため、世界史の教科書にあったナポレオンの顔を思い出したというのです。そう言えば、力石徹の顔は、なんだか西洋人みたいですよね。エラが張っていて、やや鷲鼻(わしばな)で、顎(あご)が突き出ている。目が大きく、彫りも深く、髪は巻き髪。私も、なんだか変な日本人だなとは思っていました。でも、まさかまさか、ナポレオンの顔だったとは…。
 マンガを電子(ネット)で読む読者と、紙のマンガ雑誌の読者とは、まったく層が違っている。 ええっ、そ、そうなんですか…。そんな違いがあるのですか。よく分かりませんね、どんな違いがあるのでしょうか…。
 ネット上には、無料で読めるマンガが大量にあるとのこと。これまた、私には無縁の世界がるようです。
 ネットのソフト性能が飛躍的に向上して、斤ペンで描いたのと同じタッチでマンガが描けるようになったとのこと。すごいですね…。ただし、絵が平面的で、奥行きがない。
 マンガは2次元。2次元の一枚絵のなかに、肌の質感や奥行き、そして動きまでださなくてはいけない。この技術は訓練しないとムリ。
 マンガで絵がうまいというのは、デッサン力があるというのではなく、感情表現ができる人のこと。「いい表情」を描ける人が、「うまい人」だ。
 マンガづくりには、根気と情熱がいる。
 日本のマンガは、今や世界中に通用している。
 日本のマンガは、編集者がマンガ家と一緒につくっている、共同作業の産物。
マンガに必要なモチーフとは、素材や題材ではない。それは、作者の感動・情動のこと。
マンガの人気作品は、読者の喜怒哀楽を揺り動かす作品だ。
キャラクターの初期設定はとても大切。顔がいちばん大事。そして、いちばん大事なのは目。目で9割方、決まる。目に力がなければ、その人物を壊してしまう。目には、そのマンガ家の美的センスそのものが表れる。主人公の目は大きい。目が大きいのが二枚目。目がパッチリして白い歯が美しい人の特徴。
イチローとか武豊という天才をドラマの主人公にしたマンガは難しい。あまりに天才すぎると、読者に敬遠される。どこかで失敗や悩みがないと面白みがない。読者が見たいのは、感情であり、心理の動き。
なるほど、なーるほど、売れるマンガの編集者として苦労した人のマンガ必勝法です。売れないモノカキの私にとっても、大切なノウハウがぎっしり詰まった教科書でもありました。
(2022年6月刊。税込1870円)

料理道具屋にようこそ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 上野 歩 、 出版 小学館文庫
 東京にはアメ屋横丁と同じように有名な、カッパ橋道具街があります。残念ながら、「アメ横」には行ったことがありますが、「かっぱ橋」にはまだ行ったことがありません。巣鴨のおじいさん、おばあさん銀座も、まだ話で聞くだけです。ぜひ一度行ってみようと思います。
 おろし金(がね)もいろいろ。ふわふわとした柔らかい食感が出るおろし金、シャキシャキした粗い食感になるおろし金、少しの力で大根がおろせるおろし金、金属アレルギーの人用のおろし金、一人暮らし用、一度に20人前の大根おろしをつくるための業務用、生姜(しょうが)用、チーズ用、ワサビ用、山芋用、柑橘系の皮用…料理人によって求める味わいも、使い勝手も、用途も違う。全ての人の希望をかなえる道具はない。
 でも、それに応じようとする料理道具屋があってもいい。効率を無視し、在庫回転率も無視する。ええっ、そんなんで商売人として生き残れるのでしょうか…。
 店が繁盛するのは、その店がどれだけ多くの客から愛されているかによる。うーん、分かりますけれど…。インターネット万能時代に、対面営業で、果たして生き残れるのか…。
 時代を変革するのは、いつだって、若者、バカ者、そしてよそ者だ。
 これは、弁護士の世界、そして法曹の世界にもあてはまる法則なのではないかと思います。
 和食の料理人なら、刺身などの切り身を薄く切る柳刃、野菜用薄刀、魚をさばくための出刃、それぞれ大小。こう数えると、少くとも6本の包丁を使い分ける。ともかく、日本料理にとって、包丁は、とても大事なことは明らか。
 ファミリー・レストランのショーウィンドーに飾ってある料理サンプルは日本独特のものだそうです。いかにも美味しそうに、よくできていますよね。一品料理をアラカルトで注文するときには、必須ですが、コースで注文すると不要。だけど、注文するまでのドキドキ感を味わうためには、食品サンプルも必要ですよね。
 そんなドキドキ感が伝わってくる文庫本でもあり、読みながら心の満ち足りた思いを楽しむことができました。
(2022年4月刊。税込814円)

寅さんの「日本」を歩く

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 岡村 直樹 、 出版 天夢人
 私の周囲にいる若い人たちの中に映画「男はつらいよ」をみたことのない人が多いので、驚くと同時に悲しいです。
 私は大学生のころから映画をみはじめ、司法試験受験勉強では、「寅さん」映画の笑いに救われていました。弁護士になり、子どもたちが少し大きくなってからは、家族みんなで見に行くのが楽しみでした。
 そんな「寅さん」役の渥美清が亡くなったのは1996年8月4日。68歳でした。もう26年も前のことなんですね。でも、映画「お帰り、寅さん」は2019年12月に公開でした。すごいことですよね、主人公はとっくに亡くなって新しい演技はないのに、ついそこにいるかのようにして、映画をつくりあげるのですからね。まことに山田洋次監督の天才的な技(わざ)には心から感服します。
 そして、50作も続いたギネスブック級のシリーズものをよく見ると、日本社会の移り変わりがよくよく見えてくるのですよね。その一つの例が、列車です。
 いま、国鉄が分割民営化されてJRとなり、地方の不採算線が次々に廃止されて、地元の人々が困っています。大都会のもうけを地方の不採算線にまわして何が悪いのでしょうか…。なんでも効率至上主義が日本を住みにくくしてしまっています。
 そして、寅さんも若いし、女優さんたちもピチピチ輝いていますよね。ああ、もう一度、こんな若いころに戻りたい。そんな白昼夢にふけることもできるのが「寅さん」の映画です。
 日本全国のちょっとひなびた観光地が次々に登場しているのも魅力です。そして、それが今と違って、本当にうるおいの感じられる風景なんです…。よく出来た、カラー写真が満載の「寅さん」本です。
(2022年6月刊。税込1980円)

検察審査会

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 デイビッド・T・ジョンソン ・ 平山 真理 ・ 福来 寛 、 出版 岩波新書
 日本の検察審査会は世界でも類を見ない独特な機関である。GHQが提案した検察官公選制に対して日本政府が強く抵抗し、「半年のあいだ、もみにもんで文字どおりでっち上げてつくった」のが検察審査会だった。GHQは、日本側の強い反対にあって、アメリカ式の大陪審ではなく、この検察審査会制度に同意せざるをえなかった。
 この記述を読んで、GHQより当時の日本政府、つまり法務省側が強かったかのような評価には強い違和感がありました。いったい、どういうことでしょうか…。
 今では、アメリカの大陪審は、市民と政府の間の盾(たて)というよりも、検察官が刑事訴追を正当化するための道具となってしまった。アメリカでは検察官が大陪審のすべての手続をコントロールしている。大陪審の審理には、裁判官も弁護人も出席できない。大陪審は国の権力機関の一部と言われている。
 大陪審は国家の訴追権限を抑制するために設計されたもの。検察審査会は、より多くの刑事訴追を生み出すために設計された。ここに、もっとも基本的な違いがある。
 検察審査会は全国165ヶ所にある。地方裁判所と主な支部に設置されている。管内の選挙人名簿から無作為に選ばれた11人で構成され、任期は6ヶ月。半数が3ヶ月毎に入れ替わる。
 2000年代に入ってから、年間平均40件を審査しているが、これは、その前の12年間に比べると3分の1に減少している。
検察審査会は検察官の不起訴処分を審査し、その不起訴が相当なのか、起訴すべきだったのか(起訴相当)を判断し、意見を述べる。起訴を促すことを「検察バック」と呼び、検察は4分の1の割合で起訴に変更する。
 しかも、検察審査会は検察官の不起訴が不当であり、起訴すべきだと2回も判断したときには、強制的に起訴するよう改められた(2009年に施行)。ただし、その結果、過去に12年間で強制起訴されたのは、わずか10件であり、そのほとんどが無罪となった。しかしながら、無罪判決が出たからといって、検察審査会による起訴すべきだという判断が間違っていたことにはならない。
 検察審査会制度は、刑罰を決定するにあたって、市民の選択は、どのような役割を果たすべきなのかという問いかけでもある。なーるほど、そういうことでもあるのですね…。
 実は、私も検察審査会の審査補助員として登録しているのですが、残念なことにお呼びがかかりません。でも、東電トップの刑事責任を問う裁判は、結論として無罪にはなりましたが、民事裁判で13兆円の賠償が命じられた判決につながったと考えていますので、決してムダだったとは思えません。大変勉強になる本でした。
(2022年4月刊。税込946円)

世界パンデミックの記録

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 マリエル・ウード 、 出版 西村書店
 AFP通信(世界三大通信社)が変わりゆく世界をとらえた500点の写真がオールカラー愛蔵版として一冊にまとめられました。貴重な記録写真になっています。
 今、日本はコロナ禍第七波の猛威の下にあります。でも、政府は人々に対して何ら行動制限をしていません。病院はパンク状態になっているというのに、医療面でも何ら特別の手だてを講じていません。政府が今やっているのは、コロナ陽性患者の統計をとらないようにしようということ、そして、GoToトラベルの再開を延期したことくらいです。
 アベノマスクに始まった自公政権の無為・無策はひどすぎます。それでいて、「国土」防衛のための軍事予算は青天井で倍増するというのですから、呆れはてて、怒りの声も出なくなってしまいます。
 世界中、コロナ禍は至るところで無数の死者をうみ出しました。そして、死者との別れさえ困難にしてしまったのです。
ブラジルでは、霊柩車が墓地で渋滞し、墓地はあっというまに満杯になっていく。中国では、たちまちのうちに野戦病院がつくられた。 そして都市が封鎖され、町はすぐにゴーストタウンと化した。 完全防護服に身に固めた人々が町を消毒していく。ソーシャルディスタンスが常識となった。
そして、医療従事者はエッセンシャル・ワーカーとして社会から感謝される存在。しかし、過労のため、医師や看護師のなかにだって倒れる人が相次いだ。
いったい、いつになったら、このコロナ禍は終息するのでしょうか…。
身近な人々が次々に陽性となり、また濃厚接触となって、仕事を休み、自宅に閉じこもる。いやあ、本当に大変な世の中です。ロシアのウクライナへの侵略戦争と同じで、まったく明るい見通しをもてないというのは本当に辛いです。
  (2022年3月刊。税込3850円)

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